前回に引き続き
高尿酸血症と生活習慣病との関わり
について説明します


<肥満との関連>

血清尿酸値と肥満度は正の相関を示し

肥満度が高いほど
高尿酸血症や痛風の発症頻度が上昇

体重減少は痛風発症の予防因子であることが
明らかにされています

肥満は 糖尿病や高血圧のみならず
尿酸値の上昇にも関与するのです

悪役としての肥満の一面が
また増えてしまいました

BMI増加に伴って上昇する血中尿酸値

肥満には
皮下脂肪型と内臓脂肪型があることを説明しましたが

高尿酸血症の合併率は
皮下脂肪型肥満群で71%
内臓脂肪型肥満群で73%
と同程度ですが

興味深いことに

皮下脂肪型肥満では
尿酸排泄低下型が大部分

内臓脂肪型肥満では
尿酸産生過剰型が主体で

両者に違いが認められます


メタボリックシンドロームをきたす
内臓脂肪型肥満では

脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインの
分泌パターンの異常により
インスリン抵抗性が惹起されますが

インスリン抵抗性があると
種々の代謝経路に異常が生じ
その結果として
体内での尿酸産生が過剰になると想定されています

肥満が高尿酸血症を誘導する原因のひとつと考えられます

<糖尿病との関連>

@高尿酸血症・痛風→糖尿病

痛風患者さんの糖尿病合併率は
0.8~9.0%とそれほど高くありませんが

耐糖能異常合併率は40~60%と高率で
特に肥満者における合併が多くみられます

また 高尿酸血症患者さんにおいては
23.5%が耐糖能異常を合併しているとの報告や
約63%にインスリン抵抗性を認めるとの報告があります

高尿酸血症の患者さんは
糖尿病になりやすい傾向があるようです

@糖尿病→高尿酸血症・痛風

一方 糖尿病患者さんは
「かくれ高尿酸血症」とも言われています

というのも
糖尿病の病期により血清尿酸値は変化するのです

*耐糖能異常の段階では
 インスリン抵抗性のために高インスリン血症となり
 インスリンの作用により
 尿酸排泄量が減って尿酸値が上昇しますが

糖尿病が発症してくると
 高血糖に伴う浸透圧利尿 糸球体濾過量の増加
 尿細管機能の低下に伴う尿酸再吸収の低下
 などにより
 血清尿酸値は低下します(逆U字現象と呼ばれています)

下図のグラフのように
HbA1cや血糖値(横軸)が増加してくると
尿酸値(縦軸)は下がってきます

HbA1c 血糖値と尿酸値との関係を示すグラフ

そのため 糖尿病患者さんは
見かけ上は尿酸値を正常を保っている「かくれ高尿酸血症」
であることが少なくありません

糖尿病性腎症の発症段階になると
 糸球体濾過量の減少により尿酸の排泄が低下し
 再び血清尿酸値は上昇してきます

どうして「かくれ」と呼ばれているかわからないけれど
尿酸値が低下しているのだから
結果オーライじゃないの?
と思われるかもしれませんが 
そうは問屋が卸さないのです

糖尿病患者さんが有する
過食やメタボが下地となった
高尿酸血症発現体質が改善されないまま

糖尿病の薬物治療を行い血糖値が改善してくると
高血糖による”見かけ上の”尿酸値降下作用が
なくなってしまいますから
尿酸値は上昇してきてしまいます

これが「かくれ」と呼ばれる所以です

初診時に
HbA1cが10%を越えている患者さんでは 
糖尿病の治療を開始したあとの
尿酸値の増加はほぼ必発

とされていますから
糖尿病の初診時に
尿酸値が基準範囲内にあっても安心できません

ましてや 軽度でも尿酸値の上昇が認められたら
さらに要注意です

ということで
糖尿病治療を開始してから半年以内には
必ず尿酸値の再検査が必要です

このことは意外に医者の間でも知られていませんから
不安な方は主治医によく相談されてください

専門医の ちょっとした腕の見せ所です


また ちょっとオタクな話ですが

糖尿病の傾向があり
インスリン抵抗性が存在すると

糖の主たる代謝経路である解糖系(下図左側)が障害されて
その脇道であるペントースリン酸経路が
活性化されます

このペントースリン酸経路では
プリン体の原料となる
核酸(DNAやRNA)を形成するペントースが産生されるので
(下図の中段に示されているように
 プリン体(プリンヌクレオチド)の合成が進み
 核酸が合成されます)
核酸の代謝産物である尿酸値が上がります

糖尿病におけるペントースリン酸経路の活性化と尿酸値増加の関連

この機序も
糖尿病での尿酸値上昇に関与していると考えられます

なお
尿酸値を下げる薬による
血糖値への影響はありませんから
糖尿病と高尿酸血症は
安心して同時に両方の治療を行えます

<脂質異常症との関連>

高尿酸血症の患者さんの44.6%が
高トリグリセライド(TG:中性脂肪)血症を
合併しているとの報告があり

逆に高TG血症の患者さんの82%に
高尿酸血症がみられるとの報告もあります

このように
高尿酸血症は脂質異常症との関連もあります

高TG血症では
TGの分解や再エステル化にともなって
ATPの代謝回転が促進されますから
尿酸の原料のプリン体が増えて
高尿酸血症をきたすわけです

中性脂肪増加による尿酸値上昇の機序の説明図

また 上で説明した
糖尿病傾向の患者さんで活性化される
ペントースリン酸経路では
脂肪酸の合成を促進する補酵素NADPH合成され
その結果としてTGなどの脂質の合成も促進するので(下図・右下)

上記のようにTGの分解からますますプリン体が増えて
尿酸値が上がります

糖尿病による中性脂肪増加

このように
*糖尿病傾向
*高尿酸血症
*高TG血症
の3者が サイクルを形成して
それぞれの状態をさらに悪化させてしまいます

生活習慣病は
まさに互いに悪影響を及ぼし合うのです

また
高尿酸血症に高TG血症を合併している場合の治療には
フェノフィブラートのような
尿酸値低下作用を併せ持つ薬の使用が有用です

以上 2回にわけて
高尿酸血症と生活習慣病の関連について解説しましたが

高尿酸血症は
他の生活習慣病の病態に大きな影響を与えますし

他の生活習慣病の治療により
尿酸値の変動が見られることもあります

このあたりのマネージメントは
専門医の腕の見せ所でもありますから
心配な方は 是非 相談にいらしてください





高橋医院