痛風発作がいかに痛いか脅かす前に
(ドクハラ?:苦笑)
高尿酸血症のタイプについて説明します

<高尿酸血症のタイプ>

高尿酸血症は 
成因別に以下に示す3タイプに分かれます

@尿酸産生過剰型

食事からのプリン体が多く 
尿酸が作られ過ぎるタイプで
痛風患者全体の10%程度を占めています

@尿酸排泄低下型

腎臓の尿酸排泄能力が弱くなったため
尿酸値が上がるタイプで
もっとも多く全体の50~70%を占めています

既に説明した 
尿細管での尿酸の排泄・再吸収に関わる
尿酸排泄輸送体(トランスポーター)遺伝子多型
関与していると考えられています

具体的には

*ABCG2遺伝子多型による機能低下

*GLUT9遺伝子多型

の関与が報告されています

@両方のタイプの混合型

20~30%ほどいます

高尿酸血症の3つのタイプの図説

食事が直接絡む
産生過剰型が意外に少ないので
びっくりされたかもしれませんが

プリン体の過剰摂取は
尿酸排泄低下型の病態にも
悪影響を及ぼしますから
食事に気を配ることが重要なのは変わりません


さて いよいよ
イタイイタイ 痛風発作 
の話を始めます

<痛風発作とは?>

痛風発作は

血中の過剰な尿酸が析出して
それが針状結晶になって
関節や皮下組織に沈着して 
激しい炎症を引き起こす病気です

尿酸結晶ができる機序


通常は 足の親指のつけ根などが
赤く腫れあがり 局所に熱をもち
少しでも動かしたりすると 
局所に激痛が走る

赤く腫れた尿酸結節

患者さんのお話を聞くと

本当に痛くて
涙を流しながら 局所がどこにも触れないように
はって移動するほどだそうです

放置すると激しい関節の痛みを繰り返したり
体のあちこちに結節が出来たり 

さらにひどくなると
腎臓が悪くなったりします

尿酸結節ができやすい部位

発作そのものは
鎮痛薬などで治療すれば1~2週間で治りますが

もともとの原因である高尿酸血症を治療しないと
やがて合併症がおこってきますから
たとえ発作の痛みが良くなっても
継続的な治療が重要です


@痛風発作に襲われやすい条件 があって

*大量の飲酒(とくにビール)をしたあと
*飽食をしたあと

*サウナに長く入ったあとなど
 汗をたくさんかいて脱水状態になったあと

*マラソンやウォーキングのように
 長い距離を歩いたり走ったりしたあと

*テニスやマシン・トレーニングなどの
 激しいスポーツをして疲労したあと

*忙しい仕事が続いたあと
 精神的なストレスのたまったあと

*きつい靴を履いて歩いたあと

*尿酸値を下げる治療を始めた直後

*利尿剤を飲んだあと

などが危険です

皆さん 充分にお気をつけください!


<どうして尿酸の結晶が沈着すると炎症が起こるか?>

@白血球が尿酸結節を異物として認識して
 炎症反応が起きる

ストレス 激しい運動 急激な尿酸値の変動などで
この結晶がはがれ落ちると

白血球がこれを異物として認識して動員され 
炎症が起きて痛みが生じる 
と考えられています

白血球は尿酸結晶を貪食したあとに 
蛋白質分解酵素や炎症メディエーターを放出するので 
局所に炎症が起きてしまいます

だから 激痛も生じる

尿酸結節で炎症ができる機序


@インフラマソーム

さて ここで少しオタクな話をしますが

この白血球が尿酸結晶を認識する際には
インフラマソームというタンパク質複合体が
関与することが明らかにされています

ヒトの白血球
いくつかの種類のセンサー(受容体)を利用して
生体にとって危険な因子を認識して 
それを排除するために炎症反応を起こしますが

ここ15年余りで
異物を認識するセンサーが次々と同定されました

細菌やウイルスなどの微生物の成分を
 細胞の表面で認識するセンサーがTLRs

*微生物成分に加え
 傷害を受けた細胞から放出される危険因子DAMPs 
 細胞の中で認識するセンサーがNLRs

TLRとNLR


つまり 白血球は 
体外から侵入してくる微生物だけでなく 

体内の成分をも危険分子として認識して 
炎症を起こすことがあるのです


インフラマソームNLRsのメンバーの代表選手

尿酸だけでなく
さまざまな分子を危険分子として認識し

シグナル伝達分子を介して
カスパーゼという酵素を活性化して

カスパーゼにより 
IL-1 IL-18などの炎症を起こすサイトカインの
前駆体が活性型に変換されて
炎症反応が誘導されます


インフラマソームが
危険分子として認識する体内成分には

*尿酸結晶 

*コレステロール結晶 

*遊離脂肪酸 

*βアミロイド 

*ATP

などがあります

そして 
インフラマソームがそれぞれを認識して炎症が起こると

*尿酸結晶は 痛風

*コレステロール結晶は 動脈硬化

*遊離脂肪酸は 糖尿病

といった
さまざまな病気の病態形成に深く関わってきます

NLR3と炎症形成

たとえ体内の成分であっても 
過剰になれば 
生体にとって不利益な炎症を起こしてしまう

こうした事実は 
痛風の病態を考えるうえではもちろん
自己免疫疾患などの病態を考えるうえでも
非常に重要かつ示唆に富むものです

このあたりについては
いずれ稿を改めて詳しく解説しようと思います

ということで
最後はオタクな話になり恐縮ですが

イタイイタイ痛風の裏話
堪能していただけたでしょうか?


高橋医院