太っていることの弊害
これまでにもたくさんご紹介して
注意を喚起してきましたが

今日は
「肥満だと慢性腎臓病にもなってしまうという」
という怖いお話です

高血圧の解説で
腎臓が何回か話題になりましたが

腎臓の病気は糖尿病や高血圧に比べると 
あまり馴染みがないと思います

進行すると人工透析を受けなくてはならなくなる
という認識がある程度かもしれませんね

しかし腎臓病の患者さんの数は意外に多いのです

2011年の厚労省の統計では
日本全国で外来通院して治療されている患者さんの数は
高血圧63.4万人 
糖尿病20.9万人 
脂質異常症14.9万人に対し

腎臓病の患者さんは26.6万人

なんと糖尿病の患者さんより多い!

最近は
慢性腎臓病 Chronic Kidney Disease(CKD)
という概念が提唱され

自覚症状が少ない腎臓病を早期発見して
透析に至らせないようにしよう
という動きが盛んです


<肥満だとCKDになりやすい・肥満関連腎症>

驚いたことに
メタボリックシンドロームや肥満の人は
CKDになるリスクが高い!

メタボの人はそうでない人に比べ
CKDの発症率は1.24倍高い

しかもメタボの病気
(肥満 高血圧 高血糖 脂質異常)の数が
多いほどリスクが上がる

BMIが25以下の正常な人に比べ
BMIが25~30の軽度肥満の人は1.4倍
30を越える高度肥満の人は1.8倍も
CKD発症率が上がり

20歳のときに肥満な人は
肥満でない人に比し
その後のCKD発症率は3倍高い

生活習慣病とCKDの関連

近年はCKDの患者さん数が増加していますが
それは肥満者の数が増えているから?
と推定されています


またCKDの病態が進行すると
末期腎不全となり透析になりますが

末期腎不全の患者さん数も最近は増加傾向にあり
この動きも肥満者数の増加と一致しています


肥満の人と末期腎不全の患者さんの一致した増加傾向を示すグラフ

さらに驚くべきことに
肥満は高血圧や糖尿病とは独立した
末期腎不全の危険因子である

つまり
肥満だと高血圧や糖尿病でなくても
末期腎不全に成りやすいことも
証明されています


また末期腎不全の患者さんには
腎移植が行われますが

健康な肥満の人から移植した腎臓と
やせた人から移植した腎臓を比べると
太った人から移植した腎臓は
機能しないことが多い

肥満な人の腎臓は
移植してもうまく働いてくれないのです!

この成績には驚きました
どうしてこんなことが起こるのでしょう?


このような肥満の人がなる腎臓病を
肥満関連腎症と呼び

日本肥満学会は2011年に
肥満関連腎症を肥満に伴う必須の合併症のひとつと
認定しています

肥満に伴う必須の合併症

<肥満関連腎症が生ずる機序>

どうして肥満だと
腎臓が悪くなるのでしょう?肥満のインスリン抵抗性のために過剰分泌したインスリンが
 ろ過装置の糸球体を肥大させて機能を落とす
肥満だと交感神経が活性化されて
 難治性高血圧になり腎臓が悪くなる
腎臓周囲の腹部脂肪が腎臓を圧迫して機能を落とす
腎臓内に蓄積した脂肪が
 腎臓の細胞の障害を引き起こす

・脂肪が分泌する成分が悪さする

といった原因が推測されています


肥満で腎臓が悪くなる機序


減量による改善は期待されますが

尿にタンパクが漏れ出る状態は改善することは
確認されているものの

低下した腎機能そのものが
減量により元に戻るかどうかは
はっきりとした結論が出ていないのが現状です


肥満が
高血圧 糖尿病 脂質異常症などを引き起こすことは
広く認識されていますが

腎臓まで悪くしてしまうという認識は
あまりありませんでした

肥満 生活習慣とCKDの間に形成される悪循環

今後は肥満の患者さんを外来で診ていく過程で
血圧 心電図 血液検査等を定期的に行うだけでなく
尿検査も年に1~2回行い
肥満関連腎症の早期発見に備えなければなりません

こんなこと
書き手が医学生や研修医だった頃は
習いませんでしたし
こんな病気の概念すらありませんでした

それにしても 肥満 おそるべし、、、


高橋医院