左利き肝臓専門医ブログ

2016.12.16更新

前回 ご説明したように

胆汁酸の役割は脂質の吸収を助けることと ずっと考えられてきましたが

最近は いくつかの受容体に結合し ホルモンのような働きをして
脂質代謝 糖質代謝 肥満等に影響を及ぼしていることが明らかにされ

胆汁酸の新たな顔が注目されています

新しもの好きのミーハーな書き手としては
是非ここで紹介しないと!(苦笑)


<胆汁酸は さまざまな受容体のリガンドである>

胆汁酸は さまざまな種類の核内受容体 細胞膜受容体
リガンドとして結合することが明らかになり

それらの受容体の活性化を介して
さまざまな生理活性作用を発揮することが注目されています

また 胆汁酸の種類により
各種の受容体への親和性が異なることも明らかにされています

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特に 糖尿病 脂質異常症 肥満との関連で注目されているのが

*核内受容体 FXR
*Gタンパク質共役受容体 TGR5

のリガンドとしての胆汁酸の働きです



<核内受容体FXRのリガンドとしての作用>

胆汁酸は核内受容体のFXRに結合して 種々の遺伝子の発現を制御し
細胞内で複数のシグナル伝達経路を作働させ
様々な細胞応答を惹起します

FXRは 肝臓 小腸で高発現していて 腎臓 副腎などにも発現しています

@脂質代謝への影響

中性脂肪の合成抑制 異化促進作用により 血中の中性脂肪値を低下させ
脂肪酸のβ酸化を亢進させて 脂肪量を減らします

これらの作用により
中性脂肪値が改善するとともに 肥満も改善します


@糖代謝への影響

*肝臓 筋肉 脂肪組織でのインスリン抵抗性の改善
*肝臓でのグリコーゲン合成促進 分解抑制

これらの作用により 糖代謝の改善が見られます

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@FGF19を介したエネルギー代謝への影響

FGF19は FXRにより発現が増強されるホルモン様タンパクです

胆汁酸はFXR-FGF19の経路を介して

体重増加 炎症 などの抑制
*肝臓での 糖新生の抑制 脂肪酸β酸化の亢進
白色脂肪細胞の熱産生増強と 褐色脂肪細胞化の促進

といった作用を発揮して エネルギー代謝を改善
脂肪肝の改善効果も期待されています

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<Gタンパク質共役受容体TGR5のリガンドとしての作用>

TGR5
は 肝臓や小腸だけでなく さまざまな組織で発現が認められ

胆汁酸がリガンドとして結合すると
さまざまな遺伝子の発現を亢進させて 色々な作用を発揮します


@甲状腺ホルモンの活性化

甲状腺ホルモンの活性化酵素の発現が誘導され
局所での熱産生を亢進させ エネルギー代謝を高めます


@エネルギー消費関連遺伝子の発現亢進

既にご紹介した
 
*エネルギー代謝を亢進するPGC-1α
*脱共役により熱産生を亢進するUCP-1

といった遺伝子の発現を増強させて
エネルギーを消費させるとともに

白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化も促進します


@脂質代謝への影響

中性脂肪を低下させるので

動物実験では 脂肪肝の改善 肝内線維化の抑制が観察され
脂肪性肝炎の治療効果が期待されています


@糖代謝への影響

胆汁酸が 腸管L細胞に存在するTGR5に結合すると
インクレチン:GLP-1の分泌が亢進します

インクレチンについては 既にご説明しましたが


GLP-1製剤は 糖尿病治療薬として 現在 多用されていますから
胆汁酸のTGR5結合を介した糖尿病改善効果が期待されています


@抗炎症作用

TGR5は 
炎症を起こすサイトカインの産生を制御して炎症を抑制する ので
動脈硬化への治療効果が期待されています

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<FXR TGR5リガンド作用を持つ胆汁酸アナログによる治療>

このように 胆汁酸FXR TGR5のリガンドとして機能し
脂質代謝 糖代謝 エネルギー代謝に影響を及ぼすため

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FXR TGR5へのリガンド作用を有した胆汁酸アナログによる
肥満 糖尿病 脂肪性肝炎(NASH)動脈硬化などの
病態改善効果が期待されています

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実際に 胆汁酸に構造が似ている誘導体で

FXRを活性化するINT-747(オペチコール酸)という物質は
NASHの治療薬として有望視されていますし

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やはり胆汁酸の合成誘導体で
TGR5を活性化するINT-777
GLP-1分泌促進作用により 血糖値が改善すると報告されています


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一方 腸管内で機能が低下した古い胆汁酸を吸着して 
新たな胆汁酸の合成を促す胆汁酸吸着レジン治療
肥満 糖尿病 脂質異常症などの治療に試みられ
良好な成績が得られつつあります


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書き手が肝臓の勉強を始めたころは
胆汁酸は 脂質の吸収を助ける単なる消化液というイメージでしたが

今や 多くの遺伝子の発現調節作用を有する
核内受容体やGタンパク質共役受容体といった特殊な受容体の
リガンドとして機能して 
肥満 糖尿病 脂肪性肝炎の病態改善に関わることが判明し

さらに胆汁酸の誘導体が
それらの疾患の治療薬として注目されているのです

こんな展開になるなんて びっくりポンです!

こうした進展が見られた背景として
核内受容体 Gタンパク質共役受容体などの
基礎的な細胞分子生物学の解明が進んだことがあります


そして 最近では
胆汁酸のような代謝産物が 生理活性物質としての顔を持つ現象
色々な代謝産物に見られることが明らかにされ 注目されています

例えば 腸内細菌叢の解説で登場しましたが
短鎖脂肪酸は その受容体のGPR41・GPR43に結合して
エネルギー消費を促進したり
インクレチンの分泌を促進したりします


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代謝産物がリガンドとして機能し
自らの産生に関わる代謝系や 他の代謝系に影響を及ぼす

代謝を見る視点が 大きく変わろうとしています
 

さらに  生体内には
リガンドが同定されていないオーファン受容体
まだまだたくさんありますから

今後も さまざまな代謝産物が 
未知の受容体のリガンドとして機能して
予想外の作用を発揮していることが明らかになるかもしれません


代謝産物がリガンドとして機能するというアイデアは
とても面白くて魅力的です

ましてや 代謝産物が代謝に影響を与えるなんて
ヒトの体の制御機構は奥が深い!


この分野は 最近どんどん興味ある研究が行われていますので
いずれ稿を改めて 詳しく解説したいと思いますが


それにしても 
書き手は 初めて胆汁酸のこの話題を読んだとき
とても興奮してしまいました(笑)



2016.12.15更新

今日は 胆汁酸のお話をします


胆汁酸

読み手の多くの方は 耳にしたことがないかもしれませんが

これまで続けてきた脂質の解説で
コレステロールから胆汁酸が作られることを解説しましたので


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ちょっと 胆汁酸 について語ることにします


胆汁酸
肝臓で作られて 胆のうに貯められて
脂ものを食べたときに消化管に分泌される胆汁の主成分です

ですから 肝臓病学で勉強する領域ですが

肝臓専門医の書き手は
学生時代や研修医のときに  胆汁酸について詳しく勉強したことはなく
肝臓専門医の試験を受験するときに  必死に勉強しました(苦笑)

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というのも

肝臓は それこそ脂質や糖質の代謝に関わったり
体の働きに欠かせない多くの種類のタンパク質を作ったり
薬物やアルコールを代謝したりで
その働きは多岐にわたり

また 病気としては
A型~E型に至るウイルス性肝炎や
肝硬変や肝細胞がんなどがあったりして

勉強するべきことは多岐にわたるので
その中ではそれほど主流ではない胆汁酸は
医学生の時の内科学の勉強では どうしても手が及ばなくなる

でも 肝臓専門医の試験のときは
胆汁酸も重要なポイントのひとつになるので
そこで初めて本格的に勉強することになったわけです(苦笑)


さて 前置きが長くなって恐縮ですが 胆汁酸について解説します


<胆汁酸の働き>

既に説明しましたように
胆汁酸は 肝細胞から分泌される胆汁の主成分で
肝細胞内でコレステロールから合成されて 胆のうに溜められています

脂質を多く含んだ食べ物を食べると
それを分解して吸収するために
胆のうから十二指腸 小腸に胆汁が分泌されます


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胆汁の主成分である胆汁酸が持つ界面活性作用 油を溶かす力により
食物中の脂溶性成分とミセルを形成して
脂質を水に溶けやすくして 吸収を促進させるのです

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<胆汁酸の合成と腸肝循環>

このように重要な働きを有する胆汁酸ですが
体内で腸肝循環と呼ばれる ユニークな動態を示します


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まず コレステロールからCyp7a1という酵素により

*コール酸
*ケノデオキシコール酸

という 2種類の一次胆汁酸ができます


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一次胆汁酸の大部分は タウリン グリシンにより抱合され
胆のうを経て腸管に分泌されますが

その95%は小腸の末端の回腸で再吸収されて 肝臓に戻ります

これが腸肝循環という現象で 1日に4~12回繰り返されます


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肝臓と小腸の間を グルグルとリサイクルされているイメージですね


で 再吸収されなかった5%の胆汁酸は
腸内細菌の作用により 抱合型から非抱合型に変換され

*デオキシコール酸
*リトコール酸
*ケトリトコール酸
*ウルソデオキシコール酸

といった 二次胆汁酸となります

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このあたりの名前が複雑なので 
学生時代 とても憶えづらかったのですよ(苦笑)


二次胆汁酸の一部は大腸で再吸収され 残りは便中に排泄されます


<二次胆汁酸は ワルモノ?>

さて 腸内細菌の作用により誘導される二次胆汁酸

*活性酸素産生 ミトコンドリア障害といった細胞障害作用
細胞内シグナル伝達を活性化する作用

一次胆汁酸よりも強いのが特徴です


たとえば 細胞毒性は
リトコール酸(LCA)デオキシコール酸(DCA)などの二次胆汁酸で強く
一次胆汁酸のコール酸(CA)では低い


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但し 二次胆汁酸のなかでも
ウルソデオキシコール酸(UDCA)は例外
逆に細胞保護作用を有しています


また デオキシコール酸は
大腸がんの発がんに関連することが報告されていますし


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動物実験では
肥満により二次胆汁酸に変換させるタイプの腸内細菌が増え
それにより肝細胞がんの発がんが誘導されることも報告されています


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ということで 二次胆汁酸はワルモノ という認識がなされています


しかし 全ての二次胆汁酸が生体にとって有害なわけではなく
ウルソデオキシコール酸は他の二次胆汁酸に比べて
有害作用が少ないことが明らかにされています

ですから 二次胆汁酸の組成を調節することが重要で

そのために
有害作用の強いリトコール酸 デオキシコール酸などの比率を減らし
逆に有害作用が弱いウルソデオキシコール酸の比率を高める目的で

ウルソデオキシコール酸は
肝疾患の治療薬として 実際に患者さんに投与されています


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また 有害な作用を有する二次胆汁酸を誘導する腸内細菌の同定や

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そうしたタイプの腸内細菌を増やさないプロバイオティクスの研究も
盛んに行われています



ということで 駆け足で胆汁酸について説明してきましたが

最近 胆汁酸は
単に脂質の吸収に関わるだけでなく

糖 脂質 エネルギーなどの代謝に影響を及ぼす
重要な生理活性物質としての働きも有していることが
明らかになってきました

この大変興味深い点について 次回 詳しく説明します



2016.12.14更新

これまで 脂質に関する説明をしてきましたが

脂質は
脂肪として蓄積されたり エネルギーとして使われたりするだけでなく
体の働きにとって重要な生理活性物質の原料になる

というお話をしていきます


今日の主役は エイコサノイド です

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なんだそれ? と思われる方が圧倒的に多いと思いますが

健康関連の話題でよく見聞きするEPADHAも エイコサノイドの仲間です


<エイコサノイド って何だ?>

脂肪酸からは 

炎症 血管の収縮 血小板の凝集といった
炎症・アレルギーや心筋梗塞等の心血管病変などの病態に深く関与する
エイコサノイド という生理活性物質が産生されます

*炎症が起こると 臓器は傷つきますし

*血管が収縮すると 血管の内腔が狭くなり

*血小板は血を固まらせる細胞なので
 それが凝集すると血栓という血の塊ができやすくなります

出来た血栓が 傷ついて狭くなった血管を通ると
血管の中で滞って 血流の流れを塞いでしまい
心筋梗塞や脳梗塞が起こってしまいます

ですから ヒトの体は
炎症・血管収縮・血小板凝集に関わるエイコサノイドの動態を
巧妙に調節しています



<エイコサノイドは どのようにして作られるか?>

エイコサノイドがどのように作られるかというと

細胞膜に存在する 多価不飽和脂肪酸が その原料になります

特定の刺激により ホスホリパーゼという酵素が活性化されると
アラキドン酸が細胞膜のリン脂質から切り出されて
それが材料になるのです

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生体膜から分離されたアラキドン酸から
複数の酵素の働きにより いくつかの種類のエイコサノイドが
作られます

まず シクロオキシゲナーゼという酵素の働きで
*プロスタグランジン(PG)
が産生され

さらにプロスタグランジンから
*さまざまなプロスタグランジンのサブタイプ
*トロンボキサン(TX)

が産生されます


また リポキシゲナーゼという酵素の働きで
*ロイコトリエン(LT)
が産生されます

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ちなみに PGは炎症や痛みを促進しますが
アスピリンやNSAIDなどの消炎鎮痛剤
PGを作るシクロオキシゲナーゼを抑制してPG産生を抑え
消炎鎮痛作用を発揮します

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PG TX LTは それぞれ多くの種類がありますが

種類によって
炎症 血管の収縮 血小板の凝集を促進したり抑制したり
正反対の作用を示します

このような作用の違いは

材料が 
*n-3系不飽和脂肪酸由来 
*n-6系不飽和脂肪酸由来 か
によって生じてきます

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不飽和脂肪酸に特徴的な二重結合が 端から数えて
*3番目にあり 魚やエゴマ油に多いn-3系
*6番目にあり 植物油に多いn-6系
思いだしてください(笑)


<n-3系不飽和脂肪酸由来>

αリノレン酸から エイコサペンタエン酸(EPA)が合成され
EPAから さまざまなエイコサノイドが合成され

また ドコサヘキサエン酸(DHA)合成されます

このDHAは脳神経系で重要な働きをし
アルツハイマー病の予防にも有効と言われています


EPAから合成されるエイコサノイドは 次の4種類です

*プロスタグランジン PGE3

*プロスタサイクリン PGI3

*トロンボキサン TXA3

*ロイコトリエン LTB3

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TXA3は 血管収縮 血小板凝集を促進し 体には不都合ですが
幸いなことにTXA3の作用は弱いので

n-3系エイコサノイドは 
全体として炎症を抑え 血管収縮 血小板凝集を抑制します


ですから 青魚に多いEPAをたくさん摂取していると
血液がサラサラになり
心筋梗塞などを起こしにくくなるわけです

このように
n-3系エイコサノイドは いわば善玉エイコサノイドです


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<n-6系不飽和脂肪酸由来>

リノール酸から アラキドン酸が合成され
アラキドン酸から種々のエイコサノイドが産生されます

アラキドン酸から造られるエイコサノイドは 次の4種類です

*プロスタグランジン PGE1 E2

*プロスタサイクリン PGI2

*トロンボキサン TXA2

*ロイコトリエン LTB4


アラキドン酸由来のエイコサノイドは
n-3系のエイコサノイドと異なり作用が強く

PGE2は 強い炎症惹起作用を有し
TXA2は 血管収縮・血小板凝集作用が強いので

n-3系エイコサノイドのように
血液をサラサラにする効果は期待できません

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このように n-6系エイコサノイドは 
全体として炎症を促進し 血管収縮 血小板凝集を増強するので
悪玉エイコサノイドと見做されています


n-3系不飽和脂肪酸の摂取は積極的に勧められるのに
n-6系不飽和脂肪酸の摂取はそれほど勧められないのは
こうした理由にもよります


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書き手が医学生の頃
薬理学の授業で  プロスタグランジンの話を聞いて

生体膜を構成している脂肪酸から
こんなに多彩な作用を持つ生理活性物質が
何種類も産生されるなんて すごい!

と びっくりしたのを憶えています


しかも 日常的によく処方される
アスピリンやNSAIDといった消炎鎮痛薬が
このエイコサノイドの産生系の一部を抑制することで
作用を発揮していることを知り

なんとなく別世界のことのようなエイコサノイドの世界が
とても身近に感じられたものです


それにしても ヒトの体は
どうしてこんな摩訶不思議なシステムを 持っているのでしょう?

脂質の世界は 本当に奥が深いです!



2016.12.08更新

消化管から吸収された 水に溶けない脂質が
肝臓や脂肪組織などの全身臓器に血流にのってたどりつけるのは

リポタンパク という粒子にパッケージされて運ばれるから


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という説明をしましたが

リポタンパク粒子を構成する重要な因子のひとつが
アポタンパクというタンパク質です

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今日は少しオタクな話題で恐縮ですが このアポタンパクの説明をします


実は書き手は医学生時代に 
このあたりのことは 何度教科書を読んでも理解しきれず
いまひとつぼんやりとしていたので 再度勉強し直しました

それで少しすっきりしたので 説明したくなった次第で
申し訳ありませんが 付き合ってください(苦笑)



さて リポタンパク粒子には

カイロミクロン VLDLという 主に中性脂肪を運ぶ粒子
LDL HDLという 主にコレステロールを運ぶ粒子

が存在することを解説しましたが

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それぞれのリポタンパク粒子は
異なる種類のアポタンパクを表面に有していて

そのアポタンパクが
各リポタンパクの働きや代謝に深く関与しています


<アポタンパクの働き>

アポタンパクは リポタンパク粒子のいちばん外側に位置しますから

リポタンパクが血液の流れに乗って目的の臓器にたどり着くと
そこで目的臓器とさまざまな反応を行います

たとえば
血流にのって目的の肝臓や脂肪組織などにたどり着いたとき
リポタンパクは アポタンパクを使って組織中に取り込まれます

また ある種のアポタンパクは
リポタンパク粒子が運んでいる中性脂肪を分解する酵素を活性化します

このように アポタンパクは
脂質代謝に非常に重要な役割をはたしているのです


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<カイロミクロン VLDLのアポタンパク>

カイロミクロン
は 数種類のアポタンパクを有していますが

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小腸からの脂質吸収にはApo B48が関わります


また カイロミクロンが運ぶ中性脂肪は 目的の臓器に達すると
その臓器の血管に存在するリポタンパクリパーゼ(LPL)という酵素により
脂肪酸に分解されて 利用されたり蓄積されたりします

このとき LPLを活性化するのにApo C-II というアポタンパクが必要になり
カイロミクロンHDLからApo C-IIを借りてきます

LPLが活性化されて無事に中性脂肪が分解されると
カイロミクロンはHDLにApo C-IIを返します


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またカイロミクロンは HDLからApo Eというアポタンパクも借りてきます

Apo Eは
カイロミクロンが中性脂肪を失った形のカイロミクロンレムナントが
肝臓に取り込まれるとき
肝臓のカイロミクロン受容体と一緒になり 取り込みを効果的に補助します

このようにApo Eはカイロミクロンに必要な分子ですから
カイロミクロンはHDLに Apo C-IIを返しても Apo Eは返しません


カイロミクロンとHDLの間で アポタンパクの貸し借りがあり
しかも借りたものの一部は返して 一部は返さない

ヒトの体というのは 実に巧みにできていて面白いものです



VLDLも カイロミクロンと同様に
目的の臓器にたどり着いて 中性脂肪を分解して脂肪酸を受け渡すとき
HDLからApo C-IIを借りてLPLを活性化し 終了後には返します

さらに VLDLの代謝物のVLDLレムナントが肝臓に取り込まれるときも
HDLから借りたApo Eが 効率よく取込まれるようにします

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<VLDL LDLのアポタンパク>

VLDL LDLに特徴的なアポタンパクは Apo B-100

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コレステロールを運ぶLDLが 肝臓や脂肪組織などに取り込まれるときに
LDL受容体Apo B-100の共同作業により 効率よく取込まれます

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<HDLのアポタンパク>

HDLに特有のアポタンパクはApo A-1です

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Apo A-1は
末梢組織から遊離コレステロールをHDLに取り込む働きをする酵素の
LCATを活性化します


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Apo A-1LCATの作用により
血管壁などの末梢組織に存在するコレステロールは
リポタンパク粒子HDLに取り込まれていきます

こうして内部にコレステロールを貯めこんだHDLは 肝臓に運ばれますが

肝臓に存在するHDL受容体Apo A-1の共同作業により
HDLは肝臓に効率よく取込まれ
内部のコレステロールが 肝臓内で利用されます

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このように Apo A-1はHDLの働きに必須のアポタンパクと言えます



今日説明したアポタンパクのメンバーをまとめた表です


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個々のリポタンパク粒子が有するアポタンパクが
リポタンパクの機能や代謝に深く関わっていることを

イメージしていただくことができたでしょうか?

こうしたアポタンパクの遺伝的欠損などは 遺伝性の脂質異常症の原因にもなります

脂質代謝は 奥が深いです


今日は オタクな話にお付き合いさせてしまい恐縮でしたが

体内で脂質を運搬しているリポタンパクの構成因子のアポタンパクが
脂質代謝に関わる酵素を活性化する現象は とても興味深く

毎度のことながら
ヒトの体は よくできているものだと痛感します



2016.12.07更新

コレステロールは悪いものだから なるべく控えた方が良い!

というのが 世間一般の“常識”で
多くの皆さんが そのように認識しておられることと思います

実際に当院でも 脂質異常症の患者さんには
「お肉ばかり食べないように 脂っこいものばかりは避けてください」 
とお話ししています


しかし

「健康な人は コレステロール摂取量にそれほど神経質になる必要はない」

というのが最近のトレンドになってきています


そもそも問題なのは

総コレステロールが高いことではなく
動脈硬化を促進する悪玉・LDLコレステロールが増加していること

日本の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでも 2007年の診断基準から 
*総コレステロール値の制限は削除され
*LDLコレステロール管理が重要視されています


そして最近の研究により

日々の食事でコレステロール摂取量を減らしても
LDLコレステロール値は下がらないこと が明らかにされたのです

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正確に言うと 

コレステロールの摂取制限で
血中LDLコレステロールが低下する人と低下しにくい人がいて
個体差がかなり大きいようです


前回ご説明したように
食事から摂取されるコレステロール量は 全体の20%に過ぎず
残りの80%は体内で合成されるので

こうした結果は 別に驚くに値しないかもしれません

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そのため
 
アメリカの一般国民向けに発表された最新のガイドラインでは
これまで推奨していたコレステロール摂取制限が削除され
かなりの反響を呼びました

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日本の「2015年日本人の食事摂取基準」でも
健常者ではコレステロール制限は推奨されておらず


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日本動脈硬化学会も 
健常者の脂質摂取に関わるこの記載に賛同しています


つまり 健康な方は
日々の食事でのコレステロール摂取量に 過度に神経質になる必要はない


国内外の学会から
こうした食事のコレステロール制限に関する方針変更が発表されたので
一時はマスコミが大騒ぎしましたが

しかし これはあくまで健常者のお話で
脂質異常症の患者さんは別ですので 勘違いされないでください!



ということで

重要なのは 摂取するコレステロールの 量ではなく質 なのです

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でも いきなりコレステロールの質と言われても よくわかりませんよね


日本の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012には

脂質異常症(高LDLコレステロール血症)の患者さんが
食事療法を行う注意点として

*飽和脂肪酸 4.5%以上7%未満

*トランス脂肪酸の摂取を減らす

*コレステロール 200mg/日以下


と記載されています

既にご説明したように 動物の肉に多く含まれる飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸に比べLDLコレステロールを上げやすいので
たくさん摂らないほうが良い

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フライドチキンやケーキ・ドーナツなどに多く含まれるトランス脂肪酸
LDLコレステロールを上げやすいので 摂らないほうが良い

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そして 健常人と異なり患者さんが対象なので
コレステロール摂取量の制限も入っています

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また これらの脂肪酸やコレステロールの摂取量は
超過してはいけない値ではなく 目安となる平均摂取量で

時にはたくさん摂取しても 常日頃は抑えておこうとするのが大切

血中コレステロール値を下げることが明らかにされている
食物繊維を多く含む 大豆製品 海藻 野菜類を増やすことが大切 

とも記載されています

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ということで 今日のポイントは

*健康な方は
 食事からのコレステロール摂取に 過度に神経質になる必要はないが

*高LDLコレステロール血症の方は
 飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量に充分に注意する必要がある


肉ばかり食べていてはダメで 魚の方をたくさん食べましょう!

という 以前から言われていることに落ち着くのですが


やみくもにコレステロールをワルモノ扱いして制限するのではなく
量より質に注意して摂取しましょう!

というのが 大きなメッセージになります


どんな食物に どんな種類の脂質が含まれているのか?

日々の食事の中で そうしたことに気を配る習慣を
脂質異常症の患者さんはもちろん 健康な方にも つけていただきたいです



2016.12.06更新

脂質は色々な種類のリポタンパク質にパッケージされて
血液の流れに乗って 体内を移動することを説明しました

少し繰り返しになりますが 大切なことなので
ヒトが摂取した食物に含まれる脂質が どのように臓器に運ばれるかを
もう一度 具体的に解説しましょう


<中性脂肪の流れ>

@食物から得た中性脂肪の流れ

食物に含まれる脂質の大部分は中性脂肪ですが

中性脂肪は リパーゼにより脂肪酸グリセロールに分解されて
小腸から吸収され 小腸上皮細胞内で中性脂肪に再合成されたあと

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キャリアーのカイロミクロンに取り込まれて 全身に運ばれます

臓器にたどり着いたカイロミクロンは 中性脂肪を放出して
各組織に存在するリポタンパクリパーゼにより
中性脂肪が取り込まれ分解され 脂肪酸が細胞内に取り込まれます

各臓器に中性脂肪を供給したカイロミクロンは 小さくなり
カイロミクロンレムナントとなり 肝臓に取り込まれて処理されます

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@肝臓で合成された中性脂肪の流れ

一方 肝臓では 過剰のグルコースから中性脂肪が合成され
VLDLに取り込まれて 肝臓から放出されて全身を循環し

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VLDLの中性脂肪は カイロミクロンのときと同様に
脂肪酸として脂肪組織に取り込まれます


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VLDLは中性脂肪を放出して 小さくなってVLDLレムナントになり
肝臓に戻って処理されますが

一部はLDLになり 末梢組織 血管壁に取り込まれます


@各臓器に取り込まれた中性脂肪の動態

以上が中性脂肪の体内での流れですが

脂肪組織 筋肉などでは
カイロミクロン VLDLから供給された中性脂肪が取り込まれて
リポタンパクリパーゼが中性脂肪を分解し脂肪酸が生じます

*脂肪細胞に取り込まれた脂肪酸は
 中性脂肪に再合成され 皮下脂肪・内臓脂肪として貯蔵され

*筋肉に取り込まれた脂肪酸は β酸化を経て 
 ミトコンドリアでのTCA回路・電子伝達系でのATP産生の原料になります


中性脂肪 脂肪酸の体内での動態を 
イメージしていただくことができましたか?


<インスリンとリパーゼ>

上述のリポタンパクリパーゼ
さまざまな組織の血管内皮細胞の表面に存在し

リポタンパク質を構成するアポタンパクCⅡにより活性化され
カイロミクロンやVLDL中の中性脂肪を分解しますが


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リパーゼには
脂肪細胞内に存在し ホルモンにより活性化されるタイプもあります

これが ホルモン感受性リパーゼ

空腹時には
血糖上昇ホルモン(グルカゴン アドレナリン)により活性化され
脂肪組織の中性脂肪を 脂肪酸とグリセロールに分解します

*グリセロールは 糖新生の材料として使われ
*脂肪酸は 遊離脂肪酸となり血中を移動し
 各臓器でβ酸化を受けてATPの材料となります

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少し話がそれて恐縮ですが

唯一の血糖低下ホルモンであるインスリン

脂肪組織のリポタンパクリパーゼを活性化
脂肪酸の脂肪組織内への取込みを促進するので
結果的に 脂肪が溜まりやすくなります

一方 脂肪細胞内のホルモン感受性リパーゼは抑制するので
脂肪組織の中性脂肪は分解されにくくなり
またしても結果的に 脂肪が溜まりやすくなります

こうした各種リパーゼに対するトリッキーな性質により
インスリンは肥満を誘導するホルモン と見做されています



<コレステロールの流れ>

コレステロール

*食物から 1日に0.5g摂取され 0.05~0.2gほどが吸収されます

*また 肝臓で 
 アセチルCoAを原料として HMG-CoA還元酵素により合成されますが
 その量は 食事から摂取する量よりはるかに多い1.5~2.0gです

実は 食べ物から得られるコレステロールより
体内で合成されるコレステロールの方が
量的にはかなり多いのです



stng8

コレステロールが
肝臓から血管壁などの臓器に運ばれるか 
臓器から血液に取り出され肝臓に戻るかは

LDL・HDLの働きによることは 前回 説明した通りです


でも ちょっと待ってよ

食事から摂る量より 体内で合成される量の方が多いのなら

stng7


食事のコレステロールについて
そんなに厳しく言われる必要はないのでは?

そんな疑問を持たれた読み手の方は するどい!

次回は そのあたりについて説明します



2016.12.01更新

脂質に関する解説を続けていますが
読み手の皆さんにとって いちばん身近な脂質といえば

健康診断の結果表にでてくるコレステロールではないでしょうか?

しかも コレステロールには HDLLDLがあって
なんだかよくわからない 

と困られている方は多いと思います

azc1


ざっくり言うと HDLは善玉 LDLは悪玉 ですが

azc2


なぜHDLが善玉で LDLが悪玉かを知るためには

脂質が体のなかでどのように移動しているか?

を理解することが必要になります


ちよっと面倒くさいですが お付き合いください(笑)



さて 脂質は水に溶けませんから

血液の流れに乗って体内を移動するために
リポタンパク質というキャリアーに取り込まれて 運ばれます

lipopro0


リポタンパク質は
水に親和性のあるリン脂質と タンパク質(アポタンパク
でできたカプセル

その内部に脂質(中性脂肪やコレステロール)を入れて 
血液のなかを移動します



lipopro1



リポタンパク質は なかに含まれている脂質の種類や その割合によって

*カイロミクロン
*VLDL
*LDL
*HDL

の4種類に分けられます

lipopro3


@カイロミクロン

いちばん大きなリポタンパク質で
カプセルはアポB CⅡというアポタンパクを中心に出来ています

km1

小腸上皮細胞で造られ
中身の組成は 中性脂肪が85% コレステロールが7%

小腸で吸収した食事由来の中性脂肪を 全身の組織へ輸送します


組織に中性脂肪が運ばれると
各組織でLPL(リポタンパクリパーゼ)という酵素が働いて
中性脂肪を分解して脂肪酸に変え 脂肪酸が各組織に蓄積されます

カイロミクロンは
このようにして 中身の中性脂肪が次第に減少して小さくなり
カイロミクロンレムナントという遺残物となって
肝臓に取り込まれます


@VLDL

肝臓で作られるリポタンパク質で
カプセルはカイロミクロンと同じアポB CⅡを中心に出来ています

中身の組成は 中性脂肪が55% コレステロールが19%
カイロミクロンと同様に中性脂肪がメインですが その割合は減っています


肝臓で合成された中性脂肪やコレステロールを 全身へ輸送します


vldl1


カイロミクロンの時と同じで
組織に中性脂肪が運ばれると 各組織でLPLが働いて
中性脂肪を分解して脂肪酸に変え 脂肪酸が各組織に蓄積されます

VLDLも 中身の中性脂肪が次第に減少して小さくなり
VLDLレムナントという遺残物となって 肝臓に取り込まれます


これら カイロミクロンとVLDLが
主に中性脂肪を運搬するキャリアーです 

vldl2


@LDL

VLDLから中性脂肪がなくなった遺残物のVLDLレムナントは
肝臓に取り込まれて そこからLDLができてきます 

中身の組成は 中性脂肪が10% コレステロールが47%
カイロミクロンやVLDLと比べるとコレステロールの割合が多い

ldl1


LDLはコレステロールを 全身の臓器に輸送します

これこそが 世にいう 悪玉コレステロールLDLの正体です

ldl2


血中にLDLが多量に長時間存在すると
活性酸素の作用により 酸化(変性)LDLになり
酸化LDLは血管の壁に沈着します

それをマクロファージという 異物を掃除する細胞が食べて
お腹いっぱいのマクロファージが血管壁に蓄積して 
動脈硬化が起きてしまいます

ですから LDLが高い状態は
高LDLコレステロール血症という病気と見做されています


また近年は LDLよりさらに小さい小粒子LDL(sdLDL)
血管壁に入り込みやすく そこで酸化されて酸化LDLになりやすいので
悪玉コレステロールのまさに張本人である 

と言われています

この点は重要なので あとでまた詳しく解説します


@HDL

肝臓で作られる いちばん小さいリポタンパク質で

脂質含有量がいちばん少なく
中身の組成は 中性脂肪5% コレステロール24% アポタンパク42%

タンパク質が多いので 高比重・高密度な粒子です


hdl2



HDLは コレステロールを全身の臓器から回収して 肝臓に運びます



ldlhdl1



LCATという酵素の働きで
HDLの表面に存在するコレステロールが HDL粒子の内部に移動して
粒子の表面に隙間ができます

HDLは 全身の臓器にあるコレステロールを引き抜いて
この表面の隙間に埋め込んで それがLCATにより内部に移動する

hdl3

こうした過程の繰り返しにより 
HDLは組織からコレステロールを剥ぎ取り
自らの内部に溜め込んで肝臓に運びます

肝臓に戻されたコレステロールは 胆汁酸などの合成に利用されます


これが 世にいう 善玉コレステロールHDLの正体で

悪玉LDLにより血管壁に運ばれたコレステロールを取り去って
肝臓に戻してくれるので

動脈硬化を予防する作用があり

逆に血中のHDLが低いと 動脈硬化になりやすいので
低HDLコレステロール血症は 病気と見做されています

HDLは 喫煙で低下し 持久的な運動で増加します



このように リポタンパク質は

最初は カイロミクロンやVLDLとして
食事から摂取された中性脂肪を内部に取り込んで全身の組織に運び

その役目が終わると
LDLとして 肝臓で作られたコレステロールを全身の組織に運び

HDLとして全身の組織からコレステロールを引き抜き 肝臓に戻す


lipopro5

大きさや密度・比重を変えながら
中性脂肪やコレステロールの体内移動に携わっているのです


LDL HDLコレステロールと動脈硬化との関連を
ご理解いただけたでしょうか?



2016.11.30更新

前回ご紹介した 善玉の不飽和脂肪酸ですが
沢山の種類があって 全体的に把握することがなかなか困難で面倒くさい

そこで 二重結合の数 により分類します


不飽和脂肪酸は 炭素同士の結合に二重結合があるのが特徴ですが

その二重結合が1個しかないか たくさんあるかで

*1個だけのものを 一価不飽和脂肪酸 

*複数あるものを 多価不飽和脂肪酸

に分けます

fhfa1



<一価不飽和脂肪酸>

一価不飽和脂肪酸は
端から数えて9番目の炭素だけが 二重結合しているので
n-9系(ω9)不飽和脂肪酸とも呼ばれます

fhfa2


オレイン酸が代表選手で
サラダ油 オリーブ油などの植物油や
アーモンド アボガドなどの食物中に多く含まれています

一世を風靡した 地中海ダイエット の主人公です!


過剰に摂取すると肥満になりますが 動脈硬化は引き起こしません

悪玉コレステロールのLDLを低下させますが
善玉コレステロールのHDLは低下させない 
からです

また 酸化されにくいので 体に害を及ぼす過酸化脂質は作りません



一方 多価不飽和脂肪酸は
最初の二重結合の位置により さらにふたつに分かれます


<n-3系(ω3)多価不飽和脂肪酸>

n-3系(ω3)多価不飽和脂肪酸は
端から数えて3番目の炭素に最初の二重結合があり
とても折れ曲がった構造をしています

fhfa4

魚油や エゴマ油などの植物油に多く含まれ

αリノレン酸
エイコサペンタエン酸(EPA) ドコサヘキサエン酸(DHA)

が代表選手です


αリノレン酸は  食物油に多く含まれ 体内でEPA DHAに変換されます

EPA DHAは 青魚 アザラシ 鯨に多く含まれます


血圧を低下させる  血栓の形成を抑える  動脈硬化を抑える
といった作用を有しているので
心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の予防効果があります

エスキモーに虚血性心疾患が少ないのは
彼等がアザラシや鯨を食べて EPAやDHAをたくさん摂っているからです

青魚をたくさん食べて 血液をサラサラにしましょう と言われる所以です


fhfa5


但し 体には良いのですが
折れ曲がった構造をしているので 酸素が結合して酸化変性を受けやすく
体に害がある過酸化脂質を作ってしまうのが問題です


<n-6系(ω6)多価不飽和脂肪酸>

n-6系(ω6)多価不飽和脂肪酸は
端から数えて6番目の炭素に最初の二重結合があり
やはり とても折れ曲がった構造をしています

fhfa6

ゴマ油 サフラワー油 ヒマワリ油 ベニハナ油 コーン油などの
植物油に多く含まれ

98%がリノール酸で 残りの2%がアラキドン酸です


リノール酸は 体内で合成できない必須脂肪酸
ヒトが生きていくために 食物から必ず摂取しなければならない脂質です


またアラキドン酸からは 生理活性物質のエイコサノイドが合成されます
(エイコサノイドは 稿を改めて説明します)

fhfa7


n-3系と同様にコレステロールを下げますが
n-3系と異なり 悪玉のLDLのみならず 善玉のHDLも低下させてしまうので
HDLを減らさないために 摂りすぎには注意する必要があります

また 血圧も低下させます


しかし n-3系と同様 酸化変性を受けやすく 
体に害がある過酸化脂質を作ってしまうのが問題

カロリーも高いことから 過度の摂取は良くないとされ
摂取上限値が設けられています



不飽和脂肪酸の全体像を つかんでいただけたでしょうか?


fhfa3


善玉と称されるだけあって
不飽和脂肪酸は 飽和脂肪酸に比べ 体に良い作用が多い

fhfa8

特に 動脈硬化を進展させるLDLコレステロール値を下げるので
質の良い脂肪と考えられています


fhfa9


また 動脈硬化の予防以外にも さまざまな良い効果があります

fhfa10



<バランスよく さまざまな脂肪酸を摂取する>

このように 脂肪酸には多くの種類がありますが

健康のためには 
色々な種類の脂肪酸をバランスよく食べることが大切です

脂肪そのものは 高カロリーなので
体に良いからといって 
食物油を大量に摂ると肥満になるので要注意ですが


脂質を摂取するときは

*n-3系多価不飽和脂肪酸は 特に積極的に摂る

*飽和脂肪酸やコレステロールは 控えめにして

*他はほどほどに 


のバランスが良いようです


具体的には

*飽和:1価不飽和:多価不飽和の比率を 3:4:3 にし

*多価不飽和は n3:n6 の比率を 1:4 にすることが

推奨されています

fhfa11


ふーっ それにしても 脂肪酸
種類がたくさんあって面倒くさかったですね!(苦笑)


でも これから説明していきますが
最新の栄養学では 脂質は 量より質 の時代になっています

体に良い脂質をどれだけ効率よく摂取するか

がポイントになりますので

そういう意味では
今日お話しした不飽和脂肪酸の質の問題は とても重要です

興味がある方は もう一度読み直してみてください 



2016.11.29更新

引き続き 脂肪酸の分類 について説明します

前回は 炭素の数 により分類しましたが
今日は 炭素の飽和度 によって分類します

さて 炭素の飽和度 とは いったい何でしょう?


<飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸>

脂肪酸は 炭素が横1列に並んだ基本構造をしていますが

炭素分子は 他の分子と結合するための4本の腕を持っています

そして となりの炭素分子との結合に
2本の腕を使う場合と 1本の腕を使う場合があります

2本使う場合は 二重結合 といいます

fahf1


そして

*二重結合がない脂肪酸を 飽和脂肪酸

*二重結合がある脂肪酸を 不飽和脂肪酸

と呼びます

fahf2
fahf3

<飽和と不飽和の 安定性の差異>

*二重結合がない場合は
 炭素分子は4本の全ての腕を 水素や隣の炭素との結合に使っていて
 反応が飽和状態にあるので 飽和脂肪酸

*二重結合がある場合は 
 隣の炭素との結合に使っている2本の腕の1本は 水素との結合に使えて
 反応が飽和していないので 不飽和脂肪酸


つまり 不飽和脂肪酸の方が 飽和脂肪酸よりも
水素分子などの他の分子と反応しやすい

fahf4


お~ 有機化学を勉強していた頃を思いだします!(笑)


また 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸は 構造上も違いがあります

*飽和脂肪酸は 直線状の構造をしていて化学的に安定しています


fahf5




平面的な構造なので 酸素が入り込みにくいし
炭素の腕は全て水素で満たされているので 酸素がつけず酸化されにくい


不飽和脂肪酸

fahf6

二重結合の部位で折れ曲がり 分子間の隙間ができるので流動性が増し
化学的に不安定です

fahf14



その隙間に酸素が入り込み得て
しかも二重結合の腕の1本に酸素がつき得るので 酸化されやすい

酸化されると 他の脂肪の酸化や正常細胞の傷害が起こってしまい
体にとっては色々と不都合です

fahf7


このように 二重結合の有無により 化学的安定性が規定されます

再度 大学の教養課程の有機化学で
分子模型で分子を作りながら 勉強したのを思いだします!(笑)

fahf8


若き日の思い出に浸るのはさておき(苦笑)

これから説明するように
不飽和脂肪酸は 体に良い脂肪酸なのですが

世の常で 善なるものは 弱い!

体に良い不飽和脂肪酸は 簡単に酸化されて機能を失ってしまいます

ご多聞にもれず 脂肪酸の世界も 不条理に満ち溢れています(笑)


<飽和脂肪酸が多い食材 不飽和脂肪酸が多い食材>

飽和脂肪酸

肉 バター クリーム チーズなどの動物性脂肪に多く 
常温で固っています(脂)

霜降り肉の まさに白い脂の部分が 飽和脂肪酸です

パルミチン酸(炭素数16) ステアリン酸(炭素数18)などが代表例

fahf9


不飽和脂肪酸
植物油や魚油に多く 融点が低いので 常温で液体です(油)

オレイン酸 リノレン酸 リノール酸 EPA DHAなどが代表例です

fahf11


脂(飽和脂肪酸)と油(不飽和脂肪酸)の違い 
イメージできましたか?

fahf10



<飽和は悪玉 不飽和は善玉>

さて 例によって短絡的に(笑)脂肪酸も善玉と悪玉にわけましょう!


@不飽和脂肪酸
は 善玉脂肪酸 

コレステロールを上昇させないので 動脈硬化は引き起こさず
血栓ができるのを予防したり 血圧を下げたり
体に良い作用をたくさん持っています!


@飽和脂肪酸は 悪玉脂肪酸

過剰摂取によりLDLなどのコレステロール値が上昇するので
動脈硬化を引き起こしてしまいます

fahf13



肉やバターは なるべく控え目にしましょう というわけは
悪玉の飽和脂肪酸が多いから

魚や植物油は たくさん食べましょう というのは
善玉の不飽和脂肪酸が多いから

納得していただけましたか?(笑)

fahf12


次回は 善玉の不飽和脂肪酸の種類について解説します



2016.11.24更新

今日は 脂肪酸 について説明します

脂肪酸は 脂質の構造や機能を理解する上で とても重要な分子です


脂肪酸
脂質の基本構成単位

中性脂肪 コレステロール リン脂質等は
脂肪酸を中心に構成されています

体内の脂肪酸のほとんどは 中性脂肪の構成成分として存在していて
血中ではアルブミンと結合し遊離脂肪酸として移動しますが
その量はごくわずかです


<構造>

脂肪酸の基本構造は
炭素(C)が 1列に横並びに連結した鎖状のもの
その炭素に 水素(H)酸素(O)が 結合しています


fa1



<役割>

脂肪酸の役割は 大きく分けて3つあります

@エネルギー源になる

脂肪酸は ミトコンドリアβ酸化されてアセチルCoAになり
TCA回路から電子伝達系に入り エネルギーのATPが産生されます

fa2


ちなみに 脂質は糖質と比べて 水素の含有量が多いので
エネルギー産生量が高くなることは 以前ご説明した通りです
(1gのエネルギー産生量は 糖質4kcal 脂質9kcal)


@熱を放散して 体温維持に関わる

ミトコンドリアの脱共役について 以前に説明しましたが

褐色脂肪細胞のミトコンドリアでの
UCP-1遺伝子活性化による熱変換においても
脂肪酸が原料として用いられます


@エイコサノイドと呼ばれる 生理活性物質の原料となる

細胞膜のリン脂質に含まれる多価不飽和脂肪酸から
さまざまな生理作用を有するエイコサノイドが産生されます

eicosa


エイコサノイドについては 稿を改めて解説します


<分類>

脂肪酸は

炭素の数
炭素の飽和度

の2種類の尺度により分類されます


まず 炭素の数による分類について説明します

横並びに連結している炭素の数により
短鎖 中鎖 長鎖 に分かれます


tccfa1


@短鎖脂肪酸
  炭素数が4個 6個

酢酸 酪酸 プロピオン酸 が代表例で

tccfa2

*腸内細菌による食物繊維の分解で産生され

*食欲を抑制するホルモンの分泌 脂質代謝の制御 抗炎症作用などの機能を有します


tccfa3

酪酸と腸内細菌叢の関連は 以前 ご紹介しましたが

短鎖脂肪酸は
リガンドとして生理活性作用を有するのが とても興味深い点です


@中鎖脂肪酸  炭素数が8個 10個

*母乳 ココナツ油 ヤシ油 パーム油に多く存在し

*消化吸収が速いので すぐに肝臓に運ばれて分解されます

tccfa4

*エネルギーになりやすく 中性脂肪として蓄えられにくいのが特徴で

*適度に水溶性なので 胆汁酸なしで消化されます


@長鎖脂肪酸  炭素数が12個以上

*天然に存在するほとんどの脂肪酸
 :調理油 DHA EPA

*炭素数が多いので水に溶けにくいので
 消化には胆汁酸が不可欠で 吸収されにくく

*肝臓のみならず 脂肪組織や筋肉にも運ばれ
 過剰な長鎖脂肪酸は 中性脂肪として蓄えられます

*必要に応じて分解され エネルギーとなり
 中鎖脂肪酸よりも 多くのATPを合成できます


tccfa5



さて 読み手の皆さん 大丈夫ですか~? 

こんがらがってきたり 飽きたりしていませんか?(笑)


ここでさらに解説を進めて ギブアップされるといけないので
今日はこのあたりで終わりにして

炭素の飽和度による分類は次回にしましょう



今日は

脂肪酸は 

脂質の構成単位

エネルギー源として使われるが 生理活性物質の原料にもなり
 

炭素数の違いにより 短鎖・中鎖・長鎖の3種類に分けられ

短鎖は 生理活性物質として働き

中鎖は 主たるエネルギー源となり

長鎖は 過剰分は体内に蓄積され エネルギー源としても使われる

ということを 理解していただけると幸いです



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