左利き肝臓専門医ブログ

2015.11.24更新

どうしてこんな病気になったのでしょう?
それは体質によるものですよ

診察室で患者さんとそうした会話をすることが よくありますが
体質というのは 実はわかったようでわからない代物で

症状や検査値の異常が説明できない時 原因がわからない時に
表現は悪いですが “逃げ言葉” のようなニュアンスで使うこともあります

シニカルな見方をすると
現代医学をもってしても なぜ病気になるかを厳密にロジカルに説明できず
体質という言葉で片付けてしまうことが多い ということです

ちなみに 体質という言葉は 東洋医学ではよく使われますが
病気を細胞 分子 遺伝子レベルで考える西洋医学では 
あまり使われることはありません

ですから 東洋医学的な概念もある程度理解できる文化的背景があり
西洋医学を学んで実践している日本人のお医者さんにとっては
実は重宝する概念でもあります?


なんて つまらない冗談はさておき(苦笑)

最近の研究の進歩により 
その曖昧な概念である体質を 遺伝子レベルで語ることが 
段々できるようになってきました

そのキーポイントになるのが 
これまで解説してきたエピジェネティクス
春頃の遺伝子診断の解説シリーズで解説した遺伝子多型です


糖尿病 高血圧などの生活習慣病や 花粉症などのアレルギー疾患は
多因子疾患と呼ばれ
その病態形成には 遺伝的要因環境要因の両方が関与しますが

rdk

ここで言う遺伝的要因を体質と理解しても良いと思います

言葉を換えると 体質は遺伝子が関与する個性なのです

そして その関与の中心的機序が 遺伝子多型やエピジェネティクス


体質という個性は 
細胞の機能をつかさどるタンパク質の発現量や働きにより規定されますが

これまで説明してきたように
タンパク質の発現量や働きには 遺伝子多型やエピジェネティクスが関与します

それぞれの詳細については 各シリーズを読み直していただきたいのですが


重要なことは 
遺伝子多型は 持って生まれた遺伝子の変化であり

snp


エピジェネティクス
は 遺伝子そのものの変化はないけれど
生まれたあとに環境要因により 遺伝子の発現パターンが変化する

epi

このように全く機序が異なる
遺伝子多型 エピジェネティクス のそれぞれが

タンパク質の発現量や働きの変化を誘導することで
体質という個性が現れてくるということ

つまり 体質は
*遺伝子多型により あらかじめ遺伝的に決まっている部分だけではなく
*食事 運動 生活習慣などの環境因子によって 
 エピジェネティクスが変化したため 現れてくる部分もあるということ

kankyoepi

環境因子によって体質が変化する

そういうこともあるよね と漠然と理解されていた現象が
まさに遺伝子レベル 分子レベルで語れるようになってきたのです


episnpenvir

この図に示されているように 中心に示されている体質(Phenotype)
左の青丸で示された遺伝子多型(SNP)
右の赤丸で示されたエピジェネティクス(Epigenetisc)
それぞれに影響を及ぼす下の緑丸で示された環境因子(Environment)
まさに3つの重なりによって規定されているというわけです



今の時点では 特定の病気に罹りやすい体質 
つまり病気に特異的に見られる遺伝子多型やエピジェネティクスが
はっきりと同定されたわけではありません

今まさに 研究の最前線で
多くの遺伝子多型やエピジェネティクス動態を
それぞれ網羅的に解析する手法を駆使して
さまざまな病気に特異的な遺伝子多型やエピジェネティクス動態を
明らかにする試みがなされています

そして
病気に特異的なタンパク質の発現量や働きの変化が明らかにされることで
ある病気に罹りやすい体質が 分子 遺伝子レベルで判明し
その結果は 新たな治療法の開発にも 寄与することでしょう


但し ある病気に罹りやすい体質には
多数の遺伝子多型やエピジェネティクス変化が関与していると推定され
それらがどのように相互作用しあうか
どれが一番根本的な原因なのか 
を明らかにすることが難しい

この問題の解決には 非常に大きな困難が伴うと予想されます

今の科学の方法は 
詳細に分析することには長けていますが
得られた結果を統合していくことは どちらかというと不得意で
分析とは別の難しさがあります

複雑系に関する研究手法を導入することで うまく処理できるか、、、


このように まだまだ解決すべき問題は山積していますが
体質を遺伝子で語る環境は 着実にできつつあります

こうした研究の将来の更なる発展を 楽しみにしたいと思います



 

2015.11.20更新

これまで説明してきたエピジェネティクス修飾とさまざまな病気との関連
まさに日進月歩で解明されています

現在主に行われている研究は 
EWAS(Epigenome Wide Association Study)という手法によるものです

遺伝子の1塩基変異(SNP)と病気との関わりの研究で
GWAS(Genome Wide Association Study)という手法が
用いられていることを紹介しましたが

それと同じように チップを用いて
DNAメチル化ヒストン修飾の動態を 
全ゲノムレベルで網羅的に解析
病気の人と健康な人を比べて どこが違うかを明らかにする試みです

ewas0


何番目の染色体のどこの位置に DNAメチル化が認められるか?

ewas1


何番目の染色体のどこの位置に どんなヒストン修飾が認められるか?

ewas2


こんな風に 一度に全ての染色体を 網羅的に解析することができます
昔では考えられないことです


では こうした解析により 何がわかってくるのか?

たとえば 肥満の人に特徴的に認められる
DNAメチル化パターンやヒストン修飾パターンが明らかにされつつあります

さらに 肥満の治療効果とエピジェネティクスの関連についても
研究されています

それによると 治療により減量できた人とできなかった人では
DNAメチル化パターンに違いがあることがわかりました
また 治療後のリバウンドの有無でもDNAメチル化パターンに違いがあります

このように 
肥満に特異的なエピジェネティクス動態が明らかにされつつあります


一方で エピジェネティクスをターゲットにした治療 も開発されていています

エピジェネティクスは 
環境因子によりDNAの発現パターンが変化する現象ですから

epi0
病気では発現しなくなっている遺伝子や発現させ 
逆に発現しすぎの遺伝子の発現を抑制して
病気で偏っているエピジェネティクス動態を元に戻してやれば
病気も発症しなくなるだろう というアイデアです

骨髄異形成症候群悪性リンパ腫などの血液のがんでは
実際に治療薬として実用化されているものもあります

がん細胞では がん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の不活性化が生じていて
これらの遺伝子のオン・オフにエピジェネティクスが関与することから
そこを修正すれば良いだろうという戦略です

具体的には
*DNAメチル化に関わる DNAメチル基転移酵素
*ヒストン修飾に関わる
 ヒストンメチル基転移酵素 脱アセチル化酵素 脱メチル化酵素
などの酵素の阻害剤が治療薬として用いられています

therapy

さらに最近では 
特定のがん細胞で働いているクラスおよびサブユニット特異的な
ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤が 新たな治療薬として注目されています


しかし 肥満や糖尿病などの生活習慣病では
こうしたエピジェネティクス関連酵素を標的とした治療は 未だ未知の領域です

上述したように肥満や生活習慣病では 
病気に特徴的なエピゲノム変化がみられますが

それが 原因なのか結果なのか?

残念なことに その点が明らかにされていません

ですから 病気に特異的なエピゲノムの変化は
*病気を診断するときのマーカー
*予後や治療反応性を推定できるマーカー
としての意義はありますが 現在のところその域を出ていない

まず動物実験などで 
*病気に特異的なエピゲノムの変化を人為的に起こしたら病気が起こるか?
*それを修復したら病気が治るか?
そうしたことを明らかにしないと 病気の原因なのか結果なのかはわかりません


研究解析で得られた結果が 原因なのか結果なのかは 
常に研究者の頭を悩ます問題ですが
そこを明確にしていけば 
新たな病気の原因 新たな治療法の開発も可能になります

まだゴールは遠いですが 
エピゲノム研究の成果が 臨床の場で応用されることを期待したいものです



2015.11.19更新

エピジェネティクスのもうひとつの柱 ヒストン修飾 の解説をします

個人向け遺伝子検査の話題で 遺伝子の解説をしたときに
全長2mもの長さの遺伝子が 
どのようにして直径10μmの小さな細胞核の中に納められるのか?
という疑問を呈しましたが 今日 ようやくその解答をお示しします
(実はそのときにエピジェネティクスの予告もしてあります:笑)


細胞の核の中で 遺伝子はクロマチンという構造をとっています

このクロマチン構造をとることで 
2mの遺伝子を直径10μmの核に納めることができます

まず長いひも状の遺伝子は 
ヒストンと呼ばれる球のようなタンパク質に巻きつきます

histon


ひとつのヒストンには 147塩基対の長さの遺伝子が
1.65回巻きついて 次のヒストンにまた巻きついて 
それを繰返してヌクレオソームと呼ばれる構造になります

このヌクレオソームが数珠状のつながり さらに折り畳まれたものが 
クロマチン構造です

kuromatin

長い糸が小さなビーズに絡まり 数珠状のビーズが規則正しく折り畳まれて 
小さな箱に収納されている

そんなイメージです


さて あるDNAがRNAに転写されるためには 
前回説明したように
プロモーター領域に転写を促進する転写因子が結合しなくてはなりません

しかし クロマチン構造が強く折り畳まれて密に凝集していると
転写因子はDNAに結合することができません

このようなクロマチンの状態を ヘテロクロマチンと呼びます
ヘテロクロマチン構造のなかのDNAは転写が抑制されます


一方 クロマチン構造がゆるく 空間的なスペースに余裕があると
転写因子は目的とするDNAに結合することができます

このようなクロマチンの状態を ユークロマチンと呼びます
ユークロマチン構造のなかのDNAは転写が活発に促進されます

hetroyuro1

こうしたヘテロクロマチン ユークロマチンなどの構造変化には
ヒストンの化学修飾が関与します

勘の良い方は もう気がつかれましたね?(笑)

はい このクロマチンの構造変化を規定するヒストン修飾こそが 
エピジェネティクスのもうひとつの柱になります

hetroyuro2


遺伝子が巻きつくヒストンの外側に突き出たテイルと呼ばれる部分
アセチル化・メチル化・リン酸化・ユビキチン・ADPリボース化・SUMO化
といった さまざまな種類の修飾が成されます

この修飾は DNAのメチル化と同じように 
それぞれの修飾に特異的な酵素により生じます

histon

そして ヒストンがメチル化されると ヘテロクロマチン構造になり 
絡みついているDNAは転写されにくくなる

ヒストンがアセチル化されると ユークロマチン構造となり 
絡みついているDNAは転写されやすくなる

メチル化されるとDNAが転写されにくくなるのは DNAもヒストンも同じです


ヒストンにはH2A H2B H3 H4の4種類がありますが
このうちH3 H4の修飾が特に重要とされています


ヒストン修飾によるエピジェネティクス制御 イメージができたでしょうか?

ちなみに 全ゲノムにわたるヒストン修飾の状態ヒストンコードと呼びます
それが今日のブログのタイトルです

ダヴィンチコードとは 関係がありません


つまらない冗談はさておき

さて ヒストン修飾と前回説明したDNAメチル化は 相互関係しています

ヒストンH3がメチル化されると 
そこにDNAメチル基転移酵素が呼び寄せられ DNAのメチル化が誘導されます

このように エピジェネティクスを担う主たるメカニズムである
DNAメチル化とヒストン修飾は 
相互に協調し複雑にクロマチン構造変化の制御を行っているわけです

dnahiston


また 前回 DNAメチル化で説明したように
ヒストンのメチル化には 栄養状態が影響を及ぼしますし
アセチル化 リン酸化にも栄養素が関与します



ということで
エピジェネティクス制御 に主に関わる
DNAのメチル化 ヒストン修飾 について説明してきましたが

繰り返しになりますが エピジェネティクスの重要な点は


たとえ同じDNAを有していても
どのDNA どのヒストンがメチル化されているかによって
転写されるDNAのパターンが異なり 

それにより各臓器の細胞の個性が現れ 
個々のヒトの個性的な遺伝的体質も現れてくる

そしてエピジェネティクス制御は
後天的な要因 生活習慣 栄養状態 環境因子などによって誘導され
それが がんや生活習慣病の発症に関与している可能性もある

epikankyo


ですから 
病気の人と健康な人で
DNAやヒストンのエピジェネティクス動態がどのように異なるのか?
そうしたことを解明しようとする研究が最前線でなされています

次回はこのシリーズの最後に 
エピジェネティクスと病気の診断・治療の関連について紹介します



2015.11.18更新

遺伝子発現のエピジェネティクス制御は 大きく分けて
*DNAのメチル化
*ヒストンの化学修飾
のふたつの機序により遂行されます

epiaim


今回は DNAのメチル化 について説明します

DNAは以前にも説明したように 
アデニン(A) シトシン(C) グアニン(G) チミン(T)という
4種類の塩基が結合してできています

dna

DNAの塩基配列でよくみられる 
5'- CG -3' (CpG)配列の C(シトシン)を構成する炭素原子に
DNAメチル基転移酵素(トランスフェラーゼ)という酵素の働きにより
メチル基が付加される修飾反応DNAのメチル化 と言います

dnamethyl

このDNAのメチル化は 
細胞分裂でDNAが複製されるときも受け継がれるので 
ヒトが生きている限り ずっと維持されます

methyliji


DNAメチル化は とても重要な反応で 細胞の分化や癌化に深く関与します

dnamethyl2



メチル化が生じたDNAでは RNAへの転写が抑制されます
下図に示されるように DNAが使えなくなるのです


この転写抑制が DNAメチル化の非常に重要な生物学的意義です

dnamethyl3


ヒトのDNAに存在するCpG配列の
60~90%はメチル化されていて 
転写が抑制されています

このようにCpG配列の多くにメチル化が生じている状態を 
高メチル化と言います

cpg

一方 転写を活性化させる働きを持つプロモーター領域にある
CpG配列が豊富に存在する領域(CpGアイランド)では 
多くの場合メチル化を受けていません

こうしたCpG配列のメチル化が少ない状態を 低メチル化と言います


プロモーターがメチル化されると 
その遺伝子は転写されなくなってしまいますから
プロモーター領域のCpGアイランドがメチル化されていないのは好都合です

ちなみに 発がんを抑制するがん抑制遺伝子の一部は
CpGアイランドが高度にメチル化されていることが明らかにされており
そのため がん抑制遺伝子の転写が抑制されて がん抑制タンパクが発現しない
これが発がん機序のひとつと考えられています



では なぜDNAがメチル化されると 転写が抑制されるのでしょうか?

そこには 直接的な機序と 間接的な機序が関与しています

*直接的な機序

DNAのRNAへの転写には 転写因子というタンパク質が関与します

転写因子は 
転写が行われるDNA配列の直前に位置するプロモーター部位に結合し
この結合により 転写が促進されます

tenshya


転写因子はプロモーター部位のCpG配列のCを認識して結合しますが
Cがメチル化していると認識目標が消えてしまうので 
転写因子がDNA結合できない

だから転写が進まない  これが直接的な機序です


*間接的な機序

メチル化したDNAに特異的に結合するタンパク質があります

メチル化CpG結合ドメインタンパク質 (MBD)がその代表ですが
MBDがメチル化DNAに結合すると
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC) クロマチン再構築タンパク質
などをその場に呼び寄せ

DNAの周囲の構造がぎっしり詰まって 転写因子が容易に近づけないような
不活性化されたクロマチン(サイレントクロマチン)を形成させます
(クロマチンについては 次回詳しく説明します)

下の図で 
緑の転写因子(TF)が結合したいDNA結合部位が
赤丸で示されるようにメチル化されると
黒い菱形のMBDが結合して
それに青い楕円のHDAC複合体がさらに結合して 
転写因子が結合できないようにブロックしてしまうイメージです

mbd

これが間接的な機序


このような機序により メチル化したDNAの転写は抑制されます

ですから DNAのなかのどの遺伝子がメチル化されているかにより
遺伝子の発現パターンが異なり
RNAに転写され作られるタンパク質のパターンも異なってくる

DNAのメチル化 は 
このようにして遺伝子発現のエピジェネティクス制御に関わります


注目したいことは DNAのメチル化
DNAメチル基転移酵素(トランスフェラーゼ)により生じますが
この酵素はS-アデノシルメチオニン(SAM)から供給されたメチル基
DNAに付加します

そして SAMの合成には 
アミノ酸のメチオニン・葉酸・コリン・ビタミンB12などの
栄養素が関与しています

次回に詳しく説明しますが
DNAメチル化と並んで遺伝子発現のエピジェネティクス制御に関わる
ヒストンの化学修飾においても
*メチル化を起こすメチル基
 メチオニン・葉酸・コリン・ビタミンB12などが合成に関わる
 SAMから メチル基転移酵素により供給され
*アセチル化を起こすアセチル基は 
 糖や脂肪酸のアセチルCoAから アセチル化酵素により供与され
*リン酸化を起こすリン酸基は 
 エネルギー物質のATPから リン酸化化酵素により供与されます

epieiyou

このように
栄養状態やエネルギー代謝動態が 
エピジェネティクス動態に影響を及ぼすわけです

栄養状態などの後天的要因により エピジェネティクス制御が生ずるのには
こうしたメカニズムによると推測されています

遺伝子発現のエピジェネティクス制御の大きな柱の一つである 
DNAのメチル化
なんとなくイメージしていただくことができたでしょうか?

次回はもう一つの柱である ヒストンの化学修飾について説明します



 

2015.11.11更新

エピジェネティクスとは

DNAの塩基配列の変化はない けれど

ゲノムが後天的に修飾される ことで
遺伝子発現パターン(どの遺伝子が読まれ 読まれないか)が決まり

*それにより作られるタンパク質の種類や量が違ってくるので 
 体質が規定される

という現象であることを前回説明しました

しつこいようですが ポイントは 

DNAの塩基配列には変化がないのに
後天的な環境因子の刺激により 
作られるタンパク質の種類や量が違ってくること です

ここは大切な点ですので しっかりと理解されてください


また 後天的な環境因子には 
栄養素・代謝物・化学物質などが含まれていることも重要です

kankyo

だから胎児のときの栄養状態などにより 遺伝子発現のパターンが変化して 
それが遺伝子に記憶として維持され まさに体質となるわけです

ここも大切な点ですので しっかりと理解されてください


で 遺伝子が読まれる ということは
DNAからRNAに転写されて RNAからタンパク質が作られることです
(ここの詳細は「ネコでもわかる遺伝子のお話」で説明しましたので 
 忘れてしまった方 興味がある方は復習されてください)

centraldogma


逆に 遺伝子が読まれない ということは 
DNAからRNAに転写されないことです

つまり エピジェネティクス制御 が行っているのは 
DNAからRNAに転写されやすくする または されにくくする ことです

再度 ここも大切な点ですのでしっかりと理解されてください


では DNAからRNAへの転写は
どのような機序で 規定されているのでしょう?


その詳細を理解するために有用な例として
前回説明した細胞が分化する仕組みについて もう一度詳しく解説します

脳や心臓の細胞は ともに同じ受精卵から分化してきます
つまり受精卵も脳細胞も心臓細胞も 核には同じ遺伝子を持っています

それなのに 性質の異なる脳細胞や心臓細胞が分化してくるのはなぜか?


それは 脳細胞や心臓細胞では 
読まれている遺伝子の種類(パターン)が異なるからです

下図では 
皮膚の細胞 神経の細胞の遺伝子発現パターンの差異が例示されていますが
皮膚では 遺伝子A B Cのすべてが読まれているのに
神経では 遺伝子A Bは読まれず 遺伝子Cだけ読まれている

aaepi

で 皮膚や神経の細胞だけでなく 脳細胞も心臓細胞も 
それぞれ核にあるDNAの20%ほどしか読まれていません

あとの80%のDNAは読まれていない 
つまりRNAに転写されていない

そして 読まれている遺伝子のパターンが異なるので
同じ受精卵から それぞれ異なる働きを持った細胞に分化してくる


どうしてそんなことが起きるのか?

それは 脳や心臓の細胞を分化させるために重要な働きを有する
組織特異的・発生段階特異的な転写因子群の作用によります

転写因子とは DNAのプロモーター エンハンサーなどの特定の部位に結合して
DNAからRNAへの転写を促進したり 逆に抑制したりするタンパク質です

tensha

脳細胞や心臓細胞の分化を規定する組織特異的・発生段階特異的な転写因子が
結合できるDNAの部位は決まっていますから
その部位に転写因子がきちんと結合できるように 
DNAの状態を整えておかないといけない

このように 
特定の転写因子が目的の部位にきちんと結合できるように 
DNAの状態を整えることが 
エピジェネティクス制御の本質 
と言えるかもしれません

こうしたエピジェネティクス制御があるからこそ
脳細胞や心臓細胞に特異的な組織特異的・発生段階特異的な転写因子群が
目的のDNAに結合できて RNAに転写され 
各細胞に特異的なタンパク質が作られるので
脳細胞や心臓細胞が分化することができる

そんなふうに理解して良いと思います


では どのようにしてDNAは読まれやすくなるか?
転写因子がDNAのプロモーターやエンハンサ―に結合しやすくなるか?

それには 
*DNAのメチル化
*ヒストン修飾
という現象が関与します

次回から それらについて説明します



2015.11.10更新

ヒトの体質を知らぬ間に決めているという エピジェネティクス 

いったい 何なの?

実はエピジェネティクスは 
お母さんのお腹のなかにいるときのメタボリック・メモリー形成だけでなく
さまざまな重要な生命現象や 病気の発症に関わっている遺伝子の修飾です

たとえば 発生や細胞の分化

お父さんの精子とお母さんの卵子が誘導してできた ひとつの受精卵から
どうやってヒトの体 
つまり脳とか心臓とか肝臓とか手とか足ができてくるのか?

この根幹的な生命現象に エピジェネティクスは深く関与しています

最近注目されている再生の現象は 
まさに細胞の分化と深い関わりがありますから
当然 再生にもエピジェネティクスは深く関わります

それから 老化にも 
エピジェネティクスは関与していると考えられています

epi11


また 毎日の生活習慣 食事・運動・ストレスなどの環境因子によって 
その発症が大きく影響されている がん 生活習慣病などの病気の原因にも
エピジェネティクスは深く関与しています

さらに病気以外の 
後天的な環境により影響される 学習や記憶 ストレス反応
こうした現象の成立にも 
エピジェネティクスは関与していると推測されています


もっと具体的な例では
同じ遺伝子を持っているふたご 一卵性双生児が 
どうして大人になって性格が違ってきて 罹る病気が異なるのか?
その理由がエピジェネティクスで説明できると考えられているのです


エピジェネティクスのイメージ 少しできましたか?


ダラダラと思わせぶりに 
エピジェネティクスが関与する現象について書き並べましたが
これらのなかで注目すべき重要なポイントは 
細胞分化双子の成長後の差異です

まず 細胞の分化についてですが

体の色々な臓器を形成する細胞
例えば 心臓の細胞も 脳の細胞も
それぞれ同じ受精卵から 分化して出来てきます

ですから
心臓の細胞も脳の細胞も 核には受精卵と同じ遺伝子が存在していますが
それぞれの細胞は 核に存在する全ての遺伝子を
利用しているわけではありません

細胞の種類によって 
働いて(利用されて)いる遺伝子・働いていない(利用されていない)遺伝子
のパターンが異なります

このパターンの違いにより
心臓の細胞や脳の細胞が それぞれ分化してくるのです
(分化した細胞が使っている遺伝子は 実は全遺伝子の20%以下です)

diffepi

こうした細胞による遺伝子の利用され方のパターンを規定するのが
エピジェネティクスです


一方 一卵性双生児は 
2人とも全く同じ遺伝子を有していますが

仮にある病気の発症に関わる遺伝子を2人とも持っていても
その遺伝子が発現しているかいないかは 個人により異なる可能性がある

そして その遺伝子発現の制御に環境因子が関与している可能性がある

だから 双子だからといって 
2人が大人になって同じ病気に罹るわけではなく
この違いを規定しているのが エピジェネティクな遺伝子修飾です

twinepi



イメージすることができるでしょうか?

つまり エピジェネティクスとは
*DNAの塩基配列の変化をともなわない
*後天的修飾によって引き起こされる染色体の変化
あって
*これにより遺伝子発現パターンが制御され
*そのために細胞の性質(表現型)が規定される
ことで

エピジェネティクスにより
*DNAの情報は変わらないのに 
*細胞の性質(表現型)が変化し

*これが個体の生涯において 細胞分裂を越えて保存され 記憶され継承される
のです

そして このような後天的なDNAの変化エピゲノムと言います


ゲノムの全遺伝子配列が明らかになり 
ゲノム解析によりDNAそのものの変化による先天的な異常
明らかにすることができるようになりましたが

次のステップとして非常に重要なのが

生活習慣の変化などの後天的な影響によって
DNAの発現パターンがどのように変化しているか明らかにすることで

そのためには エピジェネティクス動態の解析
すなわちエピゲノム解析が非常に重要になります


epiepi


まさにこれからの生命科学 医科学 医療のホットなトピックのひとつです


では エピジェネティクな遺伝子の修飾においては
具体的にどのようなことが起こっているのでしょうか?

次回はその点について説明します

 

2015.11.06更新

「成人病の胎児起源説」という説があります

ある人が 将来 太りやすい 生活習慣病になりやすいかどうかは
お母さんのお腹にいる間に決まる という考え方です

dohad1

この説を裏付ける有名な研究が 第二次大戦中にオランダで行われました

当時オランダは食糧不足で 妊婦さんたちの栄養状態がとても悪かった
そして そうした低栄養のお母さんから生まれた子供たちは
成長してから高率に肥満・糖尿病・高血圧になったというのです

一方で マウスを用いた実験では
お母さんが肥満だと 生まれてきた子供が
将来 肥満になる確率が高いことも明らかにされています

つまり お母さんが赤ちゃんをお腹で育てているときの栄養状態が
生まれてくる子供が 将来 肥満や成人病になるリスクに影響している

えっ そうなの?


では どうして そんな現象が起こるのでしょう?

お母さんの栄養状態が悪いと お腹のなかの赤ん坊は 
倹約型 つまり食べた栄養素を体内に貯めこむので太りやすい
そのような体質を獲得すると考えられています

そして そうした体質を持って生まれてきた子供が 
大人になって飽食な状況で生活すると
栄養分を体内に溜めこんでしまうので 肥満や生活習慣病になってしまう

dohad2


以前 日本人は先祖が飢餓状態で生活していた時期が長かったので 
欧米人に比べ倹約型の体質を獲得し糖尿病になりやすいことを説明しました

それは民族としての集団が持つ遺伝的な特徴
そのような体質を有する日本人が現代の飽食の時代に生活しているので
糖尿病が増えてしまう

これに似たようなことが 個人レベルでも 起こり得る

胎内環境により 
栄養素の代謝に関わる個人の体質が決定されるということです 

このような体質を メタボリック・メモリー と呼びます

mm

以前に説明したように
体質には 遺伝子多型などの遺伝子の変化が関わることが多いのですが
このメタボリック・メモリーの獲得にも
あるタイプの遺伝子変化が関与していると考えられています

それが エピジェネティクス です

ちょっと難しい言い方をすると
「太りやすい 生活習慣病になりやすい体質は 
胎児期の栄養環境による代謝関連遺伝子のエピジェネティクス修飾により
獲得される」

ことになります

獲得された代謝関連遺伝子のエピジェネティクス修飾が
生まれたあとも長期間にわたり維持・記憶されるため 
大人になってから肥満になりやすい


エピジェネティクス? 

なんだか舌を噛みそうだけど いったいそれは何だ?

epi

エピジェネティクスについては 次回から詳しく説明しますが
簡単に言うと 遺伝子のメチル化 という現象が大きく関わっています

お母さんのお腹にいるときに栄養が足りなかった赤ん坊は
栄養素の代謝に重要な
IGF2のDNAのメチル化が減少している
レチノイドX受容体のDNAのメチル化が増加している
これらの変化が大人になるまで維持されていて 肥満に関わっている

また 肥満マウスのお母さんから生まれた子供は
PLGL1 レプチンといった代謝に深く関与するタンパク質の
DNAのメチル化が変化している

これらの事実が
胎児期の栄養環境による代謝関連遺伝子のエピジェネティクス修飾により
太りやすい 生活習慣病になりやすい体質が獲得される
ことを示唆しているわけです


自分がまだお母さんのお腹のなかにいるときに
お母さんの栄養状態によって自分の遺伝子が修飾されて それで体質となって 
自分が大人になったときに生活習慣病になりやすいか決まってしまう?

ちょっとショッキングなお話ではありませんか?

書き手はこの話を最初に知ったとき ちょっと興奮しました(笑)


では 遺伝子のエピジェネテイクス制御って いったい何なのでしょう?

次回以降 詳しく説明していきますので 興味がある方はお楽しみに!



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