左利き肝臓専門医ブログ

2016.12.26更新

ホルモンなどの情報伝達物質と その受容体に関する解説シリーズの最後に
オーファン受容体の話題を紹介します

多くの読み手の皆さんは 初めて耳にする単語かもしれませんが

オーファン受容体とは
その受容体に結合して活性化するリガンドが
未だ同定されていない受容体です

パートナーがわからない婚約者 のような存在?(笑)

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どうして そんな可哀そうな婚約者(?)が見つかったかというと

これまでの受容体の研究は
既知のリガンドに特異的に結合する未知の受容体を検索する
という方法がとられていました

しかし近年の分子生物学的研究法の進歩により 受容体は

*発現する部位(細胞膜や核内)
*機能
*リガンドの種類

などによって分類され
上記の条件が同じ受容体は
その遺伝子配列に共通性があることが明らかになってきました

そして

既知の受容体(Gタンパク質共役型核内受容体)と
類似のアミノ酸配列を持ったタンパク質が
受容体として同定されるようになってきたのです

これが オーファン受容体です

リガンドもわからないし 機能もわからないけれど
受容体であることは間違いない

orph3



そんなオーファン受容体が 世の中にはたくさん存在しています

orph2

そして さまざまなオーファン受容体が同定され
その研究が進むにつれ

これまで詳しい作用が明らかにされていなかった物質が
オーファン受容体のリガンドだった

既知のリガンドが オーファン受容体に結合し
既知の受容体に結合するときとは
異なる情報伝達を行っている

そんな予想外の新発見が 次々と発表されました

orph3a


ということで
 
医薬品開発の世界では
ヒトのオーファン受容体の同定や 
そのリガンド探しが 活発化しています

全く未知の作用機序を持つ新しい薬がでてきたり
既知の物質が 突然 新薬に生まれ変わる可能性があるわけですから

オーファン受容体とそのリガンドは まさに宝の山です

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オーファン受容体の多くは

*核内受容体
*細胞膜貫通型のGタンパク質共役受容体

のグループに存在しています

これまでに同定されている核内受容体の半数以上が
リガンドも機能もわかっていないオーファン受容体ですし

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Gタンパク質共役受容体に関していえば
ヒトゲノムには
約350種類のGタンパク質共役受容体の遺伝子が存在していますが
そのうちの約150種類がオーファン受容体です

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宝の山は かなり大きいのです



さて オーファン受容体として同定され
その後の研究でリガンドが同定されたものを

Adopted Orphan Receptorと呼びます


核内受容体のFXR LXR PPAR RXRなどが代表例で

これらは オーファン受容体として同定されたのちに

脂肪酸 胆汁酸 コレステロール代謝物 レチノイン酸などの
代謝に関連する化合物をリガンドとすることが明らかになり


orph5a
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今では脂質センサーとして注目されていて
肥満 糖尿病 脂質異常症との関連も脚光を浴びています


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このように 胆汁酸でも解説したように

これまでは単なる代謝産物と思われていた物質が
突然 受容体を活性化させるリガンドとして
生体内でさまざまな機能を発揮させる役割が判明する

オーファン受容体がとても魅力的なのは そうした意外性にあります


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但し 前回も説明しましたが

Adopted Orphan Receptorのリガンドは
他の受容体とリガンドの関係に比し 特異性や親和力が低く
異なるオーファン受容体とも結合できたりする

つまり オーファン受容体は
より多くの種類の代謝産物と反応できるということで

余計に複雑になってよくわからん という面もあるのです、、、


やっと探し当てた婚約者は
意外に浮気者だったりするわけですよ(笑)

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宝の山の オーファン受容体

今後の研究が進んで 思ってもいなかった物質が
オーファン受容体の新たなリガンドとして脚光を浴びる場面を
これから何回も楽しめることを期待したいと思います

そして そうして発見されたリガンドや関連物質が
生活習慣病などの新たな治療薬として開発される期待もあります

未知のパートナー探し とても面白そうです!(笑)



さて 今年のお勉強ブログは 今日が最終回です

ときどき 今日のような趣味に走ったオタクな内容となり恐縮でしたが(苦笑)

来年も ダイエット 老化 食欲 脂質異常症 咳や腹痛 などなど 
さまざまなテーマについて説明していく予定ですので
懲りずにお付き合いいただけると幸いです

ojigineko

 

 

 

2016.12.22更新

細胞膜を自由に通過できる脂溶性の情報伝達物質は
核に到達して 核内受容体に結合し それを活性化します

<核内受容体とは?>

核内受容体は ホルモンなどのリガンドが結合すると
核内で標的遺伝子のDNA転写を調節することが 大きな特徴です

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転写が誘導された遺伝子が翻訳するタンパク質
その機能を発揮し これがリガンドの作用となって
さまざまな細胞・生体反応が生じます


nhr1a


こうした核内受容体は ヒトでは50種類ほど存在し
発生 恒常性 代謝など 生命維持の根幹に係わる遺伝子の
転写に関与しています


代表的な核内受容体と そのリガンドには

*甲状腺ホルモン受容体 : リガンドは 甲状腺ホルモン 
*PPARα β γ : リガンドは 脂肪酸 プロスタグランジン
*ビタミンD受容体 : リガンドは ビタミンD
*レチノイドX受容体 : リガンドは レチノイド
*ステロイド受容体 : リガンドは ステロイドホルモン
*エストロゲン受容体 : リガンドは 女性ホルモンのエストロゲン

などがあります

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核内受容体の大きな特徴のひとつに

異なる種類の核内受容体どうしが 
二量体を形成して機能することがある点があります

だから ひとつの核内受容体が 
複数の異なるリガンドにより活性化され得る

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たとえば

ビタミンDに応答する標的遺伝子に結合する核内受容体は

ビタミンD受容体(VDR)とレチノイド受容体(RXR)が
二量体を形成して出来ていますから

ビタミンD レチノイドの双方により活性化されます

こうした現象が 核内受容体の働きを
より多彩に そして より複雑にしている
原因のひとつです


<核内受容体により発揮される機能>

リガンドが結合した核内受容体により発揮される機能は 
とても多彩で

*糖質・脂質代謝
*細胞回転・増殖
*胆汁酸代謝
*解毒

などに関わります

また 核内受容体が発現調節する遺伝子は 病気に関与するものが多く
医薬品の10%程度は 核内受容体をターゲットとした薬剤です


<標的遺伝子の転写制御>

核内受容体が どのようにして標的遺伝子の転写に関わるかというと

核内受容体は
標的遺伝子のプロモーター エンハンサー領域に存在する
結合領域に結合して 標的遺伝子の発現を制御します

nhr4

ただし 核内受容体と結合領域の結合の特異性は比較的弱いので
ひとつの核内受容体は複数の標的遺伝子に結合することが出来ます

そのため 核内受容体のリガンドは 複数の遺伝子の転写を制御し
複数のタンパク質がそれぞれの機能を発揮するために
多彩な機能を発揮し得るのです

ここが 核内受容体とそのリガンドが有する とても興味深い特徴です


<構造>

核内受容体は 5つのパーツから構成され

*リガンド結合ドメイン
*DNA結合ドメイン

を含みます

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リガンド結合ドメインは 
リガンドと結合する部位で
リガンドが結合すると 受容体の立体構造が変動し
コアクチベーター・コリプレッサーが 受容体と結合できるようになります

DNA結合ドメイン
標的遺伝子に結合する部位で
標的遺伝子のプロモーター上に存在する結合領域である
ホルモン応答領域(HRE)に結合します


コアクチベーター コリプレッサーとは 転写共役因子と呼ばれるもので

核内受容体と複合体を形成し
核内受容体の標的遺伝子の結合領域への結合を制御します

リガンドが核内受容体に結合していない状態では
核内受容体にはコリプレッサーが結合していて 
標的遺伝子とは結合できませんが

核内受容体にリガンドが結合すると コリプレッサーが解離して
代わりにコアクチベーターが結合するので 
標的遺伝子と結合できるようになります

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重要なことは
コアクチベーター・コリプレッサーの発現には 臓器特異性があり

たとえリガンドが核内受容体結合しても
臓器によって
リガンドの機能が発現される場合と発現されない場合があります

つまり ホルモンなどが特定の臓器にだけ影響を及ぼすのは
こうした
臓器特有のコアクチベーター・コリプレッサーの発現によるのです


毎度のことですが ヒトの体はうまくできています!

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ということで 少しオタクっぽいお話になり恐縮ですが(苦笑)

ホルモンなどが 臓器特異的に多彩な機能を発揮できるのは

*核内受容体に結合して それを活性化する

*核内受容体が発現制御する標的遺伝子は複数存在するので
 多くのタンパク質が翻訳され
 その結果として さまざまな機能が発揮される

*核内受容体と標的遺伝子の結合を制御する
 コアクチベーター・コリプレッサーの発現パターンには
 臓器特異性がある

といった理由によることを ご理解いただけたでしょうか?

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核内受容体は 生命現象に非常に重要な役割を果たしているし
治療薬の開発とも密に関連してくるので とても大切なのですが

絡んでくる因子も多いし 機能も多彩なので
勉強していて いつもこんがらがってしまいます(苦笑)



2016.12.21更新

前回ご説明したように
ペプチドホルモンなどの水溶性情報伝達物質
細胞膜に存在する細胞膜貫通型受容体に結合します

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情報伝達物質が結合した細胞膜貫通型受容体は
活性化されて 細胞内に情報を伝えますが
どのようにして情報を伝えるかによって 以下の3グループに大別されます

*Gタンパク質共役型受容体

*酵素共役型受容体

*イオンチャネル内蔵型受容体

それぞれについて 簡単に説明します


<Gタンパク質共役型受容体>

受容体を構成する分子が 細胞膜を7回貫通しているのが特徴です

rec21

針と糸を使って 細胞膜にお裁縫をしているような感じです(笑)

この受容体に リガンドである情報伝達物質が結合すると

受容体が立体構造を変えて
細胞の内部にあるGタンパク質と結合して活性化します


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活性化されたGタンパク質が
細胞内に情報を伝達するセカンドメッセンジャーを合成する酵素
活性化あるいは不活性化して 細胞内に情報が伝わります


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*アドレナリン グルカゴン アンギオテンシンなどのホルモン
*ドーパミン GABAなどの神経伝達

などの受容体が このグループに属しています


Gタンパク質共役型受容体は  多くの病気に関与しているため
薬剤の多くはこの受容体を標的としたものです



<酵素共役型受容体>

細胞膜に存在する受容体分子の
細胞質に伸びた部分 あるいはその部分と会合する別の分子内に
チロシンキナーゼ グアニル酸シクラーゼなどの酵素活性部位を有していて


rec25

情報伝達物質の結合によって受容体が活性化されると
それらの酵素が活性化して

その酵素の働きにより
細胞内にシグナルを伝達するシステム(シグナル伝達系)
を構成する分子の 
チロシン残基がリン酸化される

といった作用により
シグナル伝達経路が連続して活性化されていきます

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活性化されたシグナル伝達経路の最終分子は核に至り
遺伝子発現制御を行い
特定のタンパク質が作られ リガンドの作用が発揮されます


*インスリンなどのホルモンや 
*細胞増殖因子

などの受容体が このグループに含まれます

rec23


糖尿病の原因のひとつのインスリン抵抗性

インスリン受容体にインスリンが結合して活性化される細胞内情報伝達系が
TNFαなどによって障害されるために
インスリンの機能が発揮できなって起こってくる病態です



<イオンチャネル内蔵型受容体>

受容体分子内に 
ナトリウム(Na)カリウム(K)カルシウム(Ca)塩素イオン(Cl)などの
イオンを透過させるチャネル部位をもち

アゴニストの結合によってその開口が制御され
イオンチャネルとして機能する受容体です

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情報伝達物質の結合によって 受容体の立体的構造が変化して

特定のイオンが通り抜けられるようになって

膜電位が変化することで
細胞の機能に変化が認められるようになります


骨格筋の細胞膜に存在するニコチン型アセチルコリン受容体等がこのタイプで

アセチルコリンが結合するとチャネルが開口して
細胞外からNaイオンが流入して 細胞膜を脱分極させ
アセチルコリンの機能が発現します

rec27

ということで

*細胞膜に存在する受容体がリガンドに結合すると

*どのようにしてリガンドの刺激が細胞内に伝わり

*リガンドの機能が発揮されるに至るか 


を イメージすることができましたか?


私達の細胞の中の情報伝達現象は こうした分子機序よって生じています

そして 病気の多くは 
こうした情報伝達系の異常により生じます


たとえば 糖尿病の患者さんに

インスリン抵抗性により糖尿病が悪くなっている可能性が高いので
それを改善するお薬を処方しますね

などと説明しますが

そのインスリン抵抗性は
上述したような インスリン受容体の情報伝達系の異常により
生じてきているのです

このお薬は
細胞内のインスリン情報伝達系のどこどこの異常を改善して

なんてところまで説明はしませんが

病気の治療や お薬が効くメカニズムを
こうした分子・遺伝子レベルで理解しておくのは
ちょっと気障な言い方で恐縮ですが 専門医の嗜みです

いや 単なる自己満足でしょうか?(苦笑)

 

2016.12.20更新

胆汁酸が色々な受容体に結合して ホルモンのように働いて
脂質や糖質の代謝に影響を及ぼすことを紹介しましたが

よい機会ですから 受容体 について解説しましょう


受容体は

細胞が外界からの物質に反応するときに重要な働きを示しますが

病気の治療薬の標的分子としても大きく注目されています

ですから 受容体について理解することは
さまざまな生体反応を理解するうえで大切ですし
いろいろな病気の治療について理解するために とても重要です


<情報伝達物質と受容体>

生体内には 甲状腺や副腎などの内分泌臓器があり
そこから分泌されるホルモン

そのホルモンが特異的に結合する受容体を発現する細胞に働きかけて
さまざまな作用を発揮します

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また 生体内にはホルモン以外にも
神経伝達物質 細胞増殖因子など
特異的受容体に結合して作用を発揮する液性因子がたくさん存在します

そのような液性因子を 情報伝達物質 と呼びます

既にご紹介した
*脂肪細胞が分泌するアディポカイン 
*筋肉細胞が分泌するマイトカイン
*免疫細胞が分泌するサイトカイン も 
全て情報伝達物質です


さらに最近は
短鎖脂肪酸や胆汁酸などの代謝産物も 情報伝達物質として働くことが
明らかになってきたわけです

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このように 生体内では膨大な種類の情報伝達物質が駆け巡り
色々な細胞に働きかけ さまざまな作用を発揮しているわけですが

情報伝達物質が作用を発揮する過程の第1歩が 受容体との結合です


<受容体とは?>

受容体は 情報伝達物質(リガンド)と結合し
細胞内に情報を伝えるカスケード(情報伝達系)をスタートさせる物質です

受容体は 特定のリガンドとしか結合しません

こうした現象は 科学的には特異性と呼ばれ
よく 鍵(リガンド)と鍵穴(受容体)にたとえられます

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リガンドが結合して 受容体が活性化されることにより
細胞内の情報伝達系が動き始め

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最終的に核のDNAに伝えられ 特定の遺伝子が発現し
遺伝子からタンパク質が翻訳されて

そのタンパク質の働きにより さまざまな機能が現れるようになります

そして この機能が 情報伝達物質の作用になります


ということで 受容体との結合がなければ 情報伝達物質は働けません


また ある情報伝達物質の作用が 特定の病気に関連している場合は
その情報伝達物質受容体の受容体をブロックする化合物を作れば
それが病気を治せる薬になります

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臨床の場で使われている薬剤の 実に45%は
受容体を標的として作用して 効果を発揮する薬剤です

抗アレルギー薬も コレステロールを下げる薬も
血圧を下げる薬の一部も
全て情報伝達物質と受容体の結合をブロックする薬なのです


受容体の重要性を ご理解いただけたでしょうか?



<受容体の種類>

受容体は 細胞のどの部位に存在するかで 大きくふたつに分類されます

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@細胞膜貫通型受容体

細胞膜の表面に存在するのが 細胞膜貫通型受容体 

リガンドが ペプチドホルモン 神経伝達物質 増殖因子といった
細胞膜を通過できない水溶性の情報伝達物質の場合
リガンドを膜表面で受容します

細胞膜はリン脂質の海原のようなもの とお話ししましたが
細胞膜貫通型受容体は 細胞膜の脂質二重層に埋もれて存在していて

リガンドで活性化されると


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細胞膜の近傍に存在する
Gタンパク質やチロシンキナーゼなどの酵素を活性化し
それを途端にして 細胞内情報伝達経路が活性化されます

この情報が 最終的には核に至り 遺伝子発現が起こってきます



@核内受容体

一方 ビタミンA ビタミンD ステロイドホルモン 甲状腺ホルモンなどの
細胞膜を自由に通過できる脂溶性(疎水性)の情報伝達物質
細胞質または核内に存在する受容体に結合します


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細胞質でホルモンと結合した受容体や
核内でホルモンとした受容体は

それぞれホルモン(リガンド)により活性化され
核内のDNAの特定配列に結合して
遺伝子の転写を開始させます

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こうした機序により
情報伝達物質がリガンドとして受容体に結合すると
最終的にさまざまなタンパク質が産生されて
色々な生体反応が起こってくるわけです


情報伝達物質と受容体は 鍵と鍵穴の特異的な関係

鍵により鍵穴が開かれると
 その作用 情報は核に到達


最終的に遺伝子が発現してタンパク質が作られ
 そのタンパク質により 鍵の作用が発現する

イメージできましたか?


rec9


次回は 細胞膜貫通型受容体について もう少し詳しく説明します



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