左利き肝臓専門医ブログ

2016.08.11更新

4週間にわたって続けてきたミトコンドリアシリーズも
いよいよおしまいですが

最後は 男性にはちょっと切ない話題を提供します


ミトコンドリア・イブ という名前を聞いたことがあるでしょうか?


ミトコンドリアは独自のDNAを有していることを説明しましたが

現代に生きる できるだけ多くの民族を含む女性の
ミトコンドリアDNAの塩基配列を解析し さかのぼって系統樹を作製すると

miteve1

全人類に共通の祖先となる女性にたどり着くことができ
その女性は 約16万年前にアフリカに存在していたことが推測されました

その名も ミトコンドリア・イブ


特定の女性の存在を示唆しているのではなく
その頃にアフリカで生息していたであろう女性のミトコンドリアDNAが
現在 世界各地に生きている女性のミトコンドリアDNAの
起源になっている ということです

ミトコンドリアイブが有していたミトコンドリアDNAが
長い年月の中で少しずつ変化して

そうしたミトコンドリアDNAを有する女性が
世界各地に広がって行って 現在に至っている

miteve2


でも どうしてそんなことがわかるのでしょう?

それは ミトコンドリアDNAは 母性遺伝するからです

親から子どもにミトコンドリアDNAが受け継がれるとき
母親のミトコンドリアDNAは受け継ぎますが
父親のミトコンドリアDNAは受け継がない


miteve3

核のDNAは ミトコンドリアDNAと異なり
受精卵で母親の核DNA父親の核DNAが一緒になって
それぞれを半分ずつ受け継ぎ 新たな核のDNAが作られます


しかし ミトコンドリアDNAは
受精卵で父親のミトコンドリアDNAが排除されてしまうので
男の子も女の子も 母親のミトコンドリアDNAだけが100%引き継がれ

しかも父親のミトコンドリアDNAと交差して
新たなミトコンドリアDNAを作るわけではないので
突然変異以外の変化は生じず 比較的安定に保たれています


男の子も母親のミトコンドリアDNAを引継ぎますが
結婚して子どもを作ると
自分のミトコンドリアDNAは受け継がれず
奥さんのミトコンドリアDNAが 子どもに受け継がれる

つまり 男はお母さんのミトコンドリアDNAを世に残せない

ご先祖様のミトコンドリアDNAをつないでいけるのは
女子だけなのです


miteve4

ですから 女性のミトコンドリアDNAの塩基配列の解析により
現代の女性から女系の先祖をさかのぼっていき
ミトコンドリアイブに到達することが可能だったわけです



ということで 悲しいことに
男性のミトコンドリアDNAは子どもに全く引き継がれない

miteve5

どうして このような現象がおこるのでしょう?


そもそも 精子のミトコンドリアの遺伝子数は 卵子の0.01%と少なく
分裂 融合 増殖能も卵子より格段に低いそうで

遺伝子の量も増殖能も 精子のミトコンドリアは卵子よりかなり劣る

精子のミトコンドリアの増殖能が低いのは
卵子にたどりつくまでにエネルギーを使いきって疲弊しているからとも言われ

うーん 男は切ないですね(苦笑)


で こんな遺伝子は次世代につなげてもしょうがないから
精子のミトコンドリア遺伝子は排除される という説や

細胞にとって寄生者のミトコンドリア
無秩序に増殖 進化するのは好ましくないので
オス由来のミトコンドリアを破壊して
進化の原動力となる有性生殖をさせないようにするという説がありますが

いずれも推測の域を出ておらず
なぜ父親のミトコンドリアが排除されるかは 正確にはわかっていません



しかし どのようにして排除されるかは かなり解ってきていて

オートファジーと呼ばれる現象が
少なくとも線虫C.elegansでは関与していることが明らかにされています

オートファジーは
細胞が自らの細胞質で 自分自身のタンパク質や細胞内小器官を
オートファゴソームという膜を作って包み込み
リソソームという消化器官と融合させることで 分解するシステム

自分で自分の成分を食べて壊してしまう 自食作用 などと呼ばれていますが

日本の大隅先生や水島先生が このオートファジーの現象や機序を明らかにされ
近い将来 ノーベル賞をとられるのではないかと期待されています


このオートファジーは
飢餓の際に細胞の一部を非選択的に分解し再利用することで
栄養源を確保するシステムとして発見されたのですが

最近は さまざまな生体反応にオートファジーが関与していることが
明らかになっています

オートファジーは脂質等の代謝にも関与していることが
最近 明らかにされ 注目されていますので
そのあたりは また別の機会に詳しく説明したいと思います


さて 受精直後の受精卵においては
侵入した精子の周囲に局所的にオートファゴソームが形成され
オートファジーにより分解されますが

卵子のミトコンドリアの周囲には オートファゴソームが形成されず
精子のミトコンドリアを選択的に取り囲むように
オートファゴソームが形成される

どうしてそうなるかというと
精子のミトコンドリアの成分がユビキチンという目印をつけられるために
オートファゴソームが形成されると推測されています

miteve6


で 精子のミトコンドリアは 分解されて排除されてしまい

子どもには受け継がれない

再度 一体 どうしてこんなことが起きるのでしょう?

ヒトの体というのは 本当に不思議です



さて ヒトはなぜ食べて なぜ呼吸するのか? という根源的な問いから
ミトコンドリアにおけるエネルギー産生について 詳しく説明してきましたが

次のシリーズでは
ミトコンドリが持つ負の側面ともいえる酸化ストレスについて
解説していきます


ちなみに 女性の祖先には ミトコンドリアDNAの解析でたどりつけますが
男性の祖先にはたどりつけないのでしょうか?

それが 出来るのですよ


miteve7

そのときのツールになるのが 性染色体のY染色体です
このあたりは また別の機会に詳しく解説しますので お楽しみに!



2016.08.10更新

ミトコンドリアでは 脱共役 という興味深い現象も起こります


ヒトの体内では
エネルギーの摂取と消費が  連動して自律的に調節されています

食べる量が増えて栄養素がたくさん摂取され エネルギーが溜まってくると

それに対応するように エネルギー消費が増加して 
エネルギーの過剰が解消されますし

絶食下では エネルギー消費が減少して 栄養を備蓄する

この自律反応的なエネルギー消費の増加は
ミトコンドリアでおこる 脱共役 という現象に担われています


脱共役は ミトコンドリア内膜に存在する
脱共役タンパク質(UCP)によりなされます


ucp0



UCP? 

あれ どこかで読んだことがあるぞ 
と思われる読み手の方がおられたら 
あなたはつまらないブログの読み過ぎです?(笑)

そう 去年3月 倹約遺伝子の話題を紹介したときに
UCP1に特定の遺伝子多型があると 太りやすくなることを解説しましたが

あのUCP1です


UCPは ミトコンドリアの電子伝達系で出来るプロトン濃度勾配を
瞬時にあっという間に解消させてしまいます

UCP が活性化されると
プロトンはATP合成酵素を通らず 直接マトリックスへ戻されます

ucp1


上図右側の赤で示された矢印が 脱共役・uncouplingです

ですから ATPは当然作られず
プロトン濃度勾配にためられた膨大な電子的エネルギーは

直接 熱へと変換されて 散逸し消費されます

熱の一部は 体温の保持にも利用されます


UCPの代表選手であるUCP1
褐色脂肪細胞に大量に存在するミトコンドリアに特異的に発現しており

褐色脂肪細胞は 
このUCP1の脱共役作用により大量のエネルギーを熱として放出し
それにより 肥満の解消に貢献しています

いわば エネルギーを瞬時に多量に放電しているわけですね

ucp2


そして このUCP1による放電が上手くいかないと デブになります

肥満動物では UCP1 の機能が低下していますし
多食しても肥満しない動物ではUCP1 が増加しています 

また 以前に解説したように
日本人の25%は UCP1の倹約型の遺伝子多型を有していて

そうしたヒトはUCP1の働きが悪いので 脱共役による熱放出が抑制され
皮下脂肪がたまりやすくなり
下半身デブの洋ナシ型肥満体型になりやすい

ucp3


UCP1は 
βアドレナリン受容体の刺激や 交感神経の活動亢進により活性化されます

寒さや多食で交感神経の活動が亢進するとUCP1が活性化されるので
体内でミトコンドリアから熱が放出されて 体が暖かくなるのです

また UCP1の活性化により 細胞内の中性脂肪から脂肪酸が遊離し
エネルギー源として使用されるので 肥満が解消されるわけです



体内にどうしてこうした熱放出機構が備わっているかというと 
おそらく 寒さ対策のためだったのではないでしょうか?

昔の環境は 今よりずっと寒かったから
エネルギーを節約して飢餓に備えるのと同じくらい

体内に熱を放出して体温を維持することが
ヒトにとって重要なことだったと思われます


でも今の世は 飽食だし 温暖化であまり寒くもない

だから 昔の体質を保持していると

食物からのエネルギーは溜まる一方だし
熱の放散によるエネルギー放出は減る一方で

ホントに 太りやすい 厄介な外部環境です、、、


さて UCP1遺伝子は βアドレナリン受容体の刺激のみならず
甲状腺ホルモン ビタミンA代謝物のレチノイン酸でも発現増強しますが

この段階に関与しているのが PGC-1という転写補助因子で

PGC-1の働きにより 
UCP1の遺伝子発現増強のみならず
ミトコンドリアの増生や 褐色脂肪細胞の増加も誘導されます


ucp4

PGC-1は 
運動により骨格筋内でミトコンドリアが増える話題のときにも登場しました


このようにミトコンドリアは ATPを作るだけでなく

栄養素が過剰の場合には
UCPの働きにより脱共役で瞬時にエネルギーを放出して

結果的に エネルギー過剰が解消され 肥満が抑制されるという
重要な働きも兼ね備えています

ucp5


水力発電のダムも 
通常は高いところに溜めた水を落下させてエネルギーを作りますが
水位が過剰になると エネルギーを作らず放水して 安定性を保ちます

そういう意味では ミトコンドリアは
ホントに水力発電ダムのような存在に思えてきます

ヒトの体というのは 実にうまくできているもので 感心してしまいます



2016.08.09更新

ミトコンドリアの内膜にある電子伝達系
電子が5種類の酵素複合体を次々と流れていく間に

内膜をはさんだプロトンによる電位差勾配が形成され

その電位差の解消により ATPが産生されることを説明してきましたが


酵素複合体のどれかの調子が悪くなって
電子の流れが滞ってしまったら どうなってしまうのでしょう?

酵素複合体の調子が悪くならなくても

栄養素の過剰摂取により 電子が大量に入りこんで速く流れるときや
電子の最終的な受け取り手の酸素が不足するときも

電子伝達系のなかで 電子の流れの滞りが生じてきます


そうなると 電子が伝達系から漏れて 
ミトコンドリア内の酸素と 不適切な形で結合してしまいます

mtfr1


通常は 電子と酸素は伝達系の最終段階で結合して水になりますが

電子が伝達系の途中で漏れると 
非生理的な電子と酸素の結合が起きて

その結果 出来てくるのが 活性酸素・フリーラジカルです


活性酸素・フリーラジカル

よくテレビや雑誌などで 老化の原因とか 動脈硬化の原因とか
さんざん悪者扱いされている 有名なアレです

mtfr4


活性酸素・フリーラジカルの正体は
電子伝達系での電子の渋滞により生じてくる 有害な副産物なのです

mtfr3



呼吸で取り込まれる酸素の90%以上は ミトコンドリアで使われますが

そのうちの0.1~2%が活性酸素・フリーラジカルに変わり
1年間で2Kg以上作られるとされています

mtfr2


活性酸素・フリーラジカルが 具体的に体にどのような悪さをするかは
長くなりますから また別の機会に詳しく解説しますが

生命活動に必要なエネルギーのATPが産生されるミトコンドリアで
しかも そのエネルギー産生過程で

健康を害する悪者の活性酸素・フリーラジカルが産生されてしまうなんて
ずいぶんと皮肉なものです

やはり世の中というものは
細胞内器官のレベルでも 不条理にあふれているのですよ?(笑)


以前に説明しましたが ミトコンドリアの祖先

エネルギーを産生するけれど 
活性酸素・フリーラジカルも産生してしまうという
そんな悲しい宿命を有しているが故に

ヒトの細胞に寄生して 
自らのDNAの多くを核というシェルターに移行したと
考えられています


キリスト教的に解釈すると 
活性酸素・フリーラジカルの産生は
ヒトがもって生まれた原罪のようなものでしょうか?


さて 
活性酸素・フリーラジカルが できるだけ産生されないようにするためには

電子伝達系内で 電子の流れが滞らないようにすることが大切

そのためには

*必要量を上回る多量の栄養素を摂取して
 
ミトコンドリアに大量の電子を供給することにより
 負担をかけないようにする


*食後の運動でATPを消費して
 電子伝達系内での電子の流れが滞らないようにする

*急激な運動などで ミトコンドリアが酸素不足に陥らないようにする

といった注意が必要になります


食べ過ぎや運動不足は ミトコンドリアでの電子の流れの滞りを招き
活性酸素・フリーラジカルの産生を誘導してしまう

mtkashoku



そんなことをイメージされたことがあるでしょうか?


ミトコンドリアの不条理を克服するためにも 不摂生には気をつけましょう!

というのが 今日のオチです(笑)



2016.08.04更新

これまで何回にもわたり
ヒトが摂取した栄養素から 生命活動に必要なエネルギーが産生される過程
詳しく説明してきましたが

いよいよ その最終段階
エネルギーの本体であるATPが実際に作られる電子伝達系の解説です


ミトコンドリアは 
外膜・内膜という 脂質で出来た二枚の膜に囲まれていますが

内膜には ミトコンドリアの機能に重要な酵素群が規則的に存在しています

電子伝達系に関わる酵素群も 内膜に存在し ここでATPが産生されます

mtnaimaku



内膜は ミトコンドリアの内側・マトリックス(TCA回路が存在する空間)
へ向かって陥入して クリステと呼ばれる突起のような構造をつくり

criste

このクリステにより内膜の表面積が増大するので
ATP産生のスペースが増え より多くのATPが産生できるわけです

ATPをたくさん作る肝細胞や筋肉細胞は 他の細胞に比べて
クリステがより複雑に入り組んでいて 内膜表面積が大きいとされています



さて 電子伝達系 は 何が起こっているかというと

これまで説明してきたように 栄養素に蓄えられていた化学エネルギー

*細胞質に存在する解糖系 
*ミトコンドリアのマトリックスに存在するTCA回路

により電気エネルギーに変換され 電子によって移動していきますが

電子伝達系では 
この電気エネルギーが 再度 化学エネルギーのATPに変換されます
(この過程の最終段階で酸素が必要になることは既に説明しました)


この過程では エネルギー産生の効率が非常に良い

解糖系では 1分子のグルコースから2分子のATPしか得られませんが
電子伝達系では 1分子のグルコースから38分子のATPが得られる

この効率の良さが 電子伝達という仕組みによって担われているのです



ミトコンドリア内膜には

電子伝達系を構成する5種類の酵素複合体 が並んで存在しています

*NADH脱水素酵素
*コハク酸脱水素酵素
*シトクロムc還元酵素
*チトクロムc酸化酵素
*ATP合成酵素

dentatsusa1


これらの酵素複合体が
電子の伝達を行いながら 連続して連鎖的に反応を行います

NADHからNAD+への変換で放出された電子(e)が 
 CoQ → シトクロムb → シトクロムc の順に伝達され


dentatsusa2


*電子の移動と同時に 各反応で水素イオン(プロトン・H+)
 内膜と外膜の間の空間(膜間腔)へ汲み出され

 内膜をはさんで膜間腔とマトリックスの間に 
 プロトン(H+)濃度差(電気化学的勾配) が形成されます


dentatsusa3



こうして内膜の内外で作られたプロトン勾配には 膨大なエネルギーが蓄えられ

このエネルギーが 
最終段階のATP合成酵素で ATPが作られる原動力となります


つまり 内膜の外の膜間腔には 
汲み出されたプロトンがたくさん溜まるので 電位が高くなり

内膜の内側のマトリックスは プロトンが少ないので 電位は低い

この内膜をはさんで形成される電位差の存在により 
プロトンは膜間腔からマトリックスへと流れ込みます


dentatsusa5



ダムで 水が高いところから低いところに流れ落ちるイメージです

dentatsusa4


ダムでは 水車を回転させて電力を作り出しますが

電子伝達系では 
プロトンがATP合成酵素のなかを通ってマトリックスへ戻り
(下図の上から下に向う赤い矢印

このときのプロトンの勢い良い流れにより
ATP合成酵素の 膜部分にあるパーツが回転して
物理的エネルギーが生じます

まさに 膜の中で 水車が回転するイメージです

そして 膜の水車に結合している ATP合成酵素のマトリックス部分で 
回転で得られたエネルギーを利用して
ADPと無機リン酸が縮合されて ATPが産生されるのです

atpgouseikouso


プロトン3個の通過で 1分子のATPが得られます


その一方で
電子を運搬したプロトン・水素イオンは
呼吸で取り込んだ酸素と結合して水になり

こうして 電子伝達系の反応が完遂します

dentatsusa6


こうして産生されたATPは すぐに核などに移動します

ATPはマイナス荷電を有し ミトコンドリア内部もマイナス荷電なので 
マイナス同士が反発して ATPはミトコンドリアから押し出され

核はプラス荷電を有しているので 
ATPは引き寄せられるように移動して

核で遺伝子複製などの重要な生命現象に利用されるわけです




電子伝達系における 連続した酸化的リン酸化反応の最終段階で

電子伝達の過程で形成されたプロトン勾配を利用して
最終的にATPが産生されるメカニズムが 
イメージできたでしょうか?


化学エネルギーを いったん電気エネルギーに変えて増幅して

最後にそれを再び化学エネルギーに変換することで
効率よくATPを大量に産生する

こんな巧みな仕組みを開発したミトコンドリアは なかなかの知恵者です!


こうした知恵者ミトコンドリアが 
進化の過程で細胞内に入ってきてくれたことは
人類にとって大きな益となりましたが

しかし 万事良いことづくめにはならないのが世の常で
そのあたりを このシリーズの最後に解説します



2016.08.03更新

ヒトが 食物を食べて栄養素を摂り
呼吸をして酸素を取り入れることにより

日々の活動や生命活動を維持していくためのエネルギーが作られることを
説明していますが

その途中から 電子がどうとかこうとか 言われはじめて

どうも頭の中がこんがらがってきて 
閉口されているのではないでしょうか?


そこで どうして食物からエネルギーが得られるのか?

その基本概念を解説したいと思います


最もプリミティブな疑問ですが
なぜ 栄養素にはエネルギーが含まれているのでしょう?

それは 栄養素は化合物だからです


栄養素が化学合成される際には エネルギーが必要とされ
作られた栄養素には そのエネルギーが貯めこまれて

栄養素が分解されるとき
貯めこまれていたエネルギーが放出されるのです


このあたりは専門外なので 
もしかしたら間違っているかもしれませんが

グルコース分子を形成する 炭素 水素 酸素の間の化学結合に
エネルギーが貯めこまれていて

代謝反応により分子が分解されていく過程で

下図の左下に示されている
C-O(炭素-酸素) C-H(炭素-水素)などの
それぞれの原子間の化学結合に貯めこまれているエネルギーが放出される

そんなイメージでしょうか?



glucosemolecleenergy


たとえば グルコースが分解されるとき

解糖系を経てピルビン酸を経てアセチルCoAになるまでに
グルコースが有するエネルギーの15~30%が放出され

アセチルCoAがTCA回路によって完全に分解されると
70~80%のエネルギーが放出され

glucose molecule stepdown

それらの放出されたエネルギーが 
電子伝達系で 最終的にATPに変換されます



さて 栄養素に貯めこまれたエネルギーを放出する分解反応

酸化還元反応です


sankakangen1


酸化還元反応とは 物質間の化学反応の過程において
電子(e)の授受がある反応のことで

生体内には200種類以上の酸化還元酵素があり
これらがさまざまな反応で電子の移動を行い 生命活動を維持しています


つまり

エネルギーは酸化還元反応で作られ
その酸化還元反応は 物質間の電子の授受により行われているので

電子(e) がキープレーヤーとして登場してくるのです

食物からエネルギーを得る過程で なぜ電子が登場してくるのか
イメージできたでしょうか?

sankakangen2



栄養素の代謝過程においては

酸化反応により 化合物が分子に分解され 
結合エネルギーが放出されます

このとき エネルギーはどのように化合物から放出されるかというと
電子の放出によってなされます


そして 多くの場合 電子は単独では存在できないので
水素原子電子の運搬役として機能します


denshisuiso


ですから 水素が栄養素のエネルギーを担っているとも言えるわけで
食物は水素を多く含むほど 高カロリーということになります

栄養素の解説の際に また言及しますが

脂質が糖質より高いエネルギーを有しているのは
糖質より水素の含有量が高いからです



そして 電子を運搬する役目を終えた水素は 酸素と結合してになります

下図は 次回詳しく説明する 電子伝達系の概略ですが

右から2番目の複合体Ⅳでみられるように
電子伝達系の最後の段階で 水素酸素と結合してになり 

安定した状態になります

denshidenatsusansomizu


呼吸で体内に取り込んだ酸素は ここで必要になってくるわけです

もしヒトが呼吸できなくなって 酸素を取り込めなくなると

水素が電子を伝搬することで 
栄養素から放出したエネルギーを用いてATPを作る工程を
完遂できなくなるので 

ヒトはエネルギーを得ることが出来なくなり 
さまざまな生命活動が維持できません

これが 呼吸が止まると命が途絶えてしまう理由です


だいぶ こんがらがってきたかもしれませんから ここまでの話を整理すると

*食物は それを構成する原子間の化学結合によるエネルギーを内包していて
*食物が分解されてエネルギーが放出される過程は 酸化還元反応で

*酸化還元反応は 電子の受け渡しが行われる反応で
*電子の受け渡しには 水素が関与していて
*電子を運搬し終えた水素は 呼吸で得た酸素と結合して水になる

ということです

少し頭の中が整理されてきたでしょうか?



もう少し説明させてください


TCA回路電子伝達系では

水素とともに 電子を受け取ったり供給したりして
酸化・還元反応を仲介している物質があります

それが NAD+/NADH です


NAD+は 
ニコチンアミド リボース(五単糖) ピロリン酸 アデノシンから構成され

ニコチンアミドの原料は ビタミンBの1種のニコチン酸です

生体にもっとも広く分布する 電子の伝達体
さまざまな酸化還元反応や脱水素反応に関与しています


nadnadh


NAD+
は酸化型 NADHは還元型

相互の型を可逆的に行き来して 電子の授受を行い

*解糖系でのグルコースのリン酸化反応
*TCA回路でのアセチルCoAから水素を取り出す反応

などの種々の反応で 脱水素酵素の補酵素として働いています


グルコースの分解過程では 
解糖系とTCA回路で中間代謝物が何度か酸化され
NAD+からNADHが生成されます

生成されたNADHは 電子伝達系に入り
その反応過程で次々とNAD+との間で電子の受け渡しを行い

この一連の酸化還元反応
つまり電子の流れ(=電流)で得られたエネルギーを利用して
最終的にATPが合成されます


栄養素に蓄えられていたエネルギーが
分解されて放出され
生体が利用できるエネルギーのATPが作られますが

その本体は 酸化還元反応 であること


酸化還元反応の実態は

NAD+/NADHの間の電子(e)の授受 であ
ること

が 
イメージできたでしょうか?


最後におまけですが

このように生命活動の本質を担っている電子の伝達に
欠かせないキープレーヤーであるNAD+の構成分子のひとつが

ビタミンB(ニコチンアミド)であることに注目してください

nadnicotinamide


ビタミンBが ヒトに欠かせない微量栄養素である理由が 
理解できると思います


それから 最近NADHは
老化制御に関連する物質として注目されていますが
そのあたりは また稿を改めて説明します


さて 次回はいよいよ
ATPが産生される現場である電子伝達系の解説をします



2016.08.02更新

いよいよ 酸素を利用してエネルギーを産生する
ミトコンドリアの酸化的リン酸化反応の説明を始めますが

この反応は 前半・後半のふたつのパートからなります


前半部は TCA回路 と呼ばれ

解糖系で出来たピルビン酸を材料とした 連続した循環反応が生じて
電子運搬体であるNADHが産生されます

そして そのNADHが材料となり
後半部の電子伝達系の連続反応が起こって

最終的に エネルギー分子のATPが産生されます

今日は 前半部のTCA回路の説明をします


前回ご説明した解糖系で産生されたピルビン酸は
 
ミトコンドリアに入り 
そのマトリックスと呼ばれる内部空間で

mtmatrix
 
ピルビン酸脱水素酵素複合体の働きにより
二酸化炭素(CO2)が除去されて アセチル基となり
これに補酵素のCoAが結合して

アセチルCoAという化合物に変換されます

tca1

これが酸化的リン酸化反応の第1ステップです


アセチルCoAは TCA回路の循環反応系に入ります

TCA回路は 
10種類の反応の連鎖からなる 循環型のサークル反応で

まず アセチルCoAのアセチル基が 
オキサロ酢酸に取り込まれてクエン酸になります

ついで

クエン酸→cisアコニット酸→イソクエン酸→αケトグルタル酸
→スクシニルCoA→コハク酸→フマル酸→リンゴ酸→オキサロ酢酸 

と 連続した酵素反応が生じて

最後に オキサロ酢酸がクエン酸に変換されて

回路が1周して振出しに戻り 
再び同じ回路の反応が繰り返されます

tcacycle


それぞれの反応は 
イソクエン酸脱水素酵素 αケトグルタル酸脱水素酵素などの
特異的な酵素が媒介します

そして TCA回路が1周する過程で

電子伝達体NADHが3分子産生されて

それらが次の 電子伝達系 に 材料として送り込まれます

具体的には
*イソクエン酸→αケトグルタル酸
*αケトグルタル酸→スクシニルCoA
*リンゴ酸→オキサロ酢酸
の各反応過程でNADHが産生されます


tcadenshi


また クエン酸が持つアセチル基の炭素が2個 
*イソクエン酸→αケトグルタル酸 
*αケトグルタル酸→スクシニルCoA
の過程で除去され 二酸化炭素(CO2)として放出されます

つまり クエン酸~イソクエン酸の炭素数は6個だったのが

イソクエン酸→αケトグルタル酸の反応で二酸化炭素ができるので
αケトグルタル酸の炭素数は5個になり

αケトグルタル酸→スクシニルCoAの反応で二酸化炭素ができるので
スクシニルCoAの炭素数は4個になります

以後 オキサロ酢酸までずっと炭素数は4個で

オキサロ酢酸に炭素を2個含むアセチルCoAのアセチル基が加わり
炭素数6個のクエン酸になり 再び回路が回るわけです



tcatanso


このように
炭素を6個持つアセチルCoAのアセチル基が 
連続した酵素反応で修飾されてゆき

その過程で2分子の二酸化炭素が放出され 
化合物の炭素数が減り4個となり

同時にNADHが3分子産生され

最後に再びアセチルCoAのアセチル基が加わり 
振りだしに戻る


これが TCA回路です


ねっ 何が何だか よくわからないでしょう?(苦笑)


書き手は医学生の頃 生化学は好きな科目でしたが 
このTCA回路は苦手でした

ところが 糖尿病専門医さんは医学生の頃
上記のTCA回路の反応中間物を 教科書を見ずに 
全部スラスラと順番に言えたそうです!

えっ!!

世の中には 奇特な方がおられるものです?(笑)


でも 栄養素からエネルギーができるプロセスで
どうして電子がどうのこうの という話になるわけ?

と 首をひねられている方が多いと思います


そこで次回は そうした疑問を整理します


tcamatome



最後にもうひとつ

これまで説明してきたように TCA回路は
エネルギーを産生する酸化的リン酸化反応の前半部として機能しますが
もうひとつ重要な働きがあります

それは 三大栄養素と呼ばれる 糖質 脂質 アミノ酸

それぞれの分解と生合成が
この循環型サークル反応を経て行われることで

TCA回路は いわば三大栄養素の代謝をリンクさせる回路でもあるのです

この点については また稿を改めて説明します



2016.07.28更新

食物から得られた糖質グルコース

ミトコンドリアのエネルギー産生プラントに入る前に 
まず解糖系で処理されます

ktk0


ヒトの細胞の祖先がミトコンドリアと共生したことを説明しましたが

解糖系は 

地球上に酸素がない環境で生きていたヒトの細胞の祖先が
ミトコンドリアと共生する以前から使用しているシステムで

嫌気性エネルギー産生システムと呼ばれます

しかし 酸素を利用しないため エネルギー産生効率が悪い

ヒトの細胞の祖先は この自らの低エネルギー産生性を克服するため
ミトコンドリアとの共生の道を選んだと考えられています



さて 細胞の内部の細胞質と呼ばれる空間

ミトコンドリアや小胞体などの細胞内小器官が存在している空間ですが
そこで 解糖系は働いています


ktk1


食物中の炭水化物が消化され吸収されたグルコース
細胞の中に取り込まれて

細胞質で 
解糖系の連続した酵素反応により 処理されてゆきます

10数種類の酵素が関与する連続反応により
グルコースに含まれる結合エネルギーが ATPに変換され

最終的には 1分子のグルコースから

*2つのピルビン酸

*2つのNADH(電子の運搬体)
*2つのATP(エネルギー)

が産生されます

ktk2

この反応系で 1分子のグルコースから得られるATPは わずか2分子

確かに効率は良くありません


しかし 解糖系で産生されるピルビン酸が重要で

ピルビン酸が 次のステップの
ミトコンドリア酸素を用いて行われるTCA回路
の材料となります

また NADHも TCA回路に連続する 
酸化的リン酸化反応である電子伝達系において
電子の運搬体として重要な役割を果たします

ktk3


つまり 解糖系の働きがなければ
ミトコンドリアのエネルギー産生プラントは働かないわけで

エネルギー産生プラントで利用される材料を作る前段階として 
重要な働きをしています




また 酸素を利用せずにエネルギーを作れるということは

ヒトの細胞が 急にエネルギーが必要になったとき
無酸素の状況下でも 瞬時にエネルギーを作り得るということで 
即時系のATP合成系として役立つのです

さらに 解糖系でのATP合成は 
ミトコンドリアでのATP 合成の約100倍の速度を持つため

そうした理由からも 瞬時のエネルギー供給が可能になります


ktk4


但し 解糖系で作られたエネルギーは 
短距離走などの無酸素運動では使えますが

エネルギー産生量が少ないので 
長距離走などの有酸素運動には 貢献できません



さて 解糖系でピルビン酸ができて

酸素が充分に存在すれば 
ピルビン酸はミトコンドリアのTCA回路に入っていきますが

酸素が充分に存在しないと
ピルビン酸は 乳酸に変換されます

ktk5


また 酸素が充分に存在していても 
過剰な運動などにより
ミトコンドリアのエネルギー産生能力を超えたエネルギーが
必要になった場合は

解糖系によるエネルギー合成が過剰に活発になり

ミトコンドリアで処理しきれないほどの量のピルビン酸が生成され
その場合も 
ピルビン酸は乳酸に変換されます

過激な運動が続いたり 無酸素運動が続いた場合は
このような機序で筋肉内に乳酸がたまるので 疲労を感じるわけです


しかし 乳酸は血中に出て肝臓に運ばれ
再びピルビン酸に変換され グルコースが作られます

ktk6


この反応系は コリ回路と呼ばれ 
体内で糖質・グルコースが作られる糖新生という現象です

また詳しく説明しますが 
体内では 糖は分解されるだけでなく 必要に応じて作られてもいます



ちなみに ちょっと話が脱線して恐縮ですが
左利きの書き手としては 
この文脈でのコメントを忘れてはならないことがありまして

解糖系でピルビン酸ができて そこに酸素がないと
ヒトの細胞では乳酸ができますが

そこに酵母が存在していたら アルコール発酵が起きて
お酒(エタノール)が出来てくるのですよ

ブドウや麦やお米から 
酵母の力で 
ワインやビールや日本酒ができてくる過程は
 

まさに解糖系なのです!


ktk7


あ どうも失礼しました
つい 左利きの血が騒いでしまい、、、(苦笑)


ということで 栄養素の代謝によるエネルギー産生は
まず細胞質で行われる 酸素を使わない解糖系によって開始され

次のステップである 
ミトコンドリアでの酸素を使った反応に引き継がれていきます


次回は 
ミトコンドリアでの反応の第1段階である TCA回路の説明をします



2016.07.27更新

ミトコンドリアが独自のDNAを有していることを紹介しましたが

そうした事実から

ミトコンドリアは かつては独立した生物で 
進化の過程で 核を有するヒトの細胞の祖先と共生するようになった

と考えられています

いわば ミトコンドリアは ヒトの細胞のパートナーなのです


細胞の中に核を有する生物を 真核生物
核を有さない生物を 原核生物

と呼びますが


shinkakugenkaku


ミトコンドリアの祖先は 
原核生物の大腸菌やヘリコバクタなどの仲間の真正細菌
アルファプロテオバクテリアという細菌と考えられています

このアルファプロテオバクテリアが生きていた頃に
地球上には木々が生い茂るようになり
木々の葉緑素が炭酸ガスを酸素に変えることで
地球上に酸素が豊富に存在する環境ができてきました

やがてアルファプロテオバクテリアは
現在のヒトの細胞の中にあるミトコンドリアと同じように

酸素と栄養素を利用して
エネルギーのATPを作るシステムを持つようになりました

mt O2 eiyou



この酸素を用いるエネルギー産生システム
それまで主流として生きてきた原核生物が有していた
酸素を使わないエネルギー産生システムに比べて

はるかに効率よくエネルギーを産生できるため

ミトコンドリアを有する原核生物が どんどん繁殖するようになりました



しかし ミトコンドリアを有する細菌は 大きな問題を抱えていました

それは 酸素を利用すると どうしても活性酸素が生まれてきて
それによりDNAが傷つけられてしまうのです


mtkattseisanso1


どうして酸素を利用したエネルギー産生過程で活性酸素が生じるか
活性酸素がどうしてDNAなどを傷つけるか
については 稿を改めて詳しく説明しますが

ポイントは 
せっかく効率よいエネルギー産生システムを得た真正細菌も

エネルギー産生過程で 自らのなかに活性酸素が生まれてしまい
遺伝情報のDNAが傷つけられるという 
致命的な欠陥を有していた ということです

kattseisannsodamage


そこで 酸素を使ってエネルギー産生する細菌

ヒトの細胞の祖先と考えられている
核を有する 酸素を使わない生物(真核細胞)に 
共生するようになった

考えられています


mtkyousei1


この共生は 
核は有するがミトコンドリアを有さない生物にとっても
ミトコンドリアは有するが核は有さない細菌にとっても
まことに好都合です

なぜなら

真核細胞は ミトコンドリアとの共生で 
酸素を利用した効率良いエネルギー産生システムを得ることができます

一方 ミトコンドリアは 真核細胞との共生で
自らのDNAの多くを核に移動させることにより
DNAが活性酸素により傷つけられるのを防ぐことができます

mtkyousei2


つまり 核とミトコンドリアは 
共生により 見事に役割分担をするようになったのです

は DNAの保持 複製に特化した役割に専念
 エネルギー産生機能は捨て 
 活性酸素からDNAを守り 保持・複製に専念します

ミトコンドリアは エネルギー産生に特化した役割に専念し
 活性酸素の危険にさらされる遺伝情報の保持・複製は 核にまかせて
 自らはエネルギー産生に専念する


こうして ヒトの細胞の祖先は 
核とミトコンドリアの共生により
遺伝情報の保持・複製も エネルギー産生も
どちらも安全に効率よく行えるシステムを手に入れ 進化したわけです


こうした現象は 細胞内共生説 と呼ばれていますが

現代ビジネスの最先端を行くM&Aを
ヒトの細胞の祖先は はるか昔に見事に行っていたということです

ミトコンドリアは M&Aの先駆者!

さすが 先見の明ありです?(笑)


ミトコンドリアが 身内であって身内でないような存在で
いわばパートナーである

というニュアンスを イメージできたでしょうか?


さて 少し回り道をしましたが

次回からは いよいよ 
ミトコンドリアがどのようにしてエネルギーを産生するか
その機序の説明をしていきます



2016.07.26更新

エネルギー産生工場としてのミトコンドリア について紹介しましたが

書き手がミトコンドリアと聞いて思いだすのが
「パラサイト・イブ」という小説と映画です

paraciteeve



愛する奥さんを事故で亡くした主人公の科学者が
その遺体の肝臓の一部から細胞を培養して育てていくうちに
彼女のミトコンドリアが自立し反乱するというSFホラーで

映画版では 当時 魔性の女と呼ばれ大人気だった
葉月里緒菜さんがヒロインを演じていましたが

hazukireona

彼女 最近全く見ることがありませんが どうしているのかな?
(別に里緒菜さんのファンだったというわけではありませんよ:笑)


で 映画では 自律増殖したミトコンドリアが
それこそ酸素を吸って莫大なエネルギーを放出して 街を破壊するのですが

ミトコンドリアが酸素を利用してエネルギーを産生するのは
前回ご紹介した通りですから
決して荒唐無稽なストーリーではありません


そして ミトコンドリアが自立するというアイデア
荒唐無稽なものではないのです

というのも 

ミトコンドリアは 
現在の形のヒトの細胞が出来上がる過程で
ヒトの細胞に侵入して寄生というか 
共存関係を作ったと考えられているからです

いわば 自分の中の他人 のような性質が 
ミトコンドリアにはあるのです


ミトコンドリアは 細胞の中に存在する細胞内小器官のひとつです


mt shoukikan

ちなみに 
ミトコンドリアなどの細胞内小器官を研究する分野が細胞生物学
書き手は医学生の頃 細胞生物学は好みの科目でした(笑)


で ミトコンドリアは 
外膜と内膜の二重の生体膜からなる構造をしています

mt kouzou


ひとつの細胞あたり 数百~数千個存在していて
エネルギーをたくさん使う細胞では ミトコンドリアの量が多い
骨格筋や心筋では 特に多いと言われています

細胞内を絶えずダイナミックに動き回り 
それぞれのミトコンドリアが くっついたり離れたりを繰り返していて
*活動期には 丸い粒がいくつかつながり 糸のようになって活動している
*休止期には ひとつひとつの粒がバラバラなこともある



mtbunretsu


ミトコンドリアは 
自らが産生する活性酸素によりダメージを受けているので

健常な他のミトコンドリアとくっついて 
成分を交換して回復を図っているようです

活性酸素は 老化などにも関与するとても興味深い物質で
ミトコンドリアとは切っても切り離せませんが
また別の機会に詳しく説明します



ミトコンドリアが 他の細胞内小器官と異なる最大の特徴は
自らの独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を有していることです

はるか昔 ミトコンドリアが自立していたことの証左でもあります

mtdna


ミトコンドリアDNAは ヒトの核に存在するDNAと比べると
はるかに規模が小さく 20万分の1程度で

エネルギー産生に関わる電子伝達系やATP合成酵素などの
ミトコンドリア独自の機能に関わるごく少数のタンパク質の鋳型となる
限られた遺伝子を有しているに過ぎません

核のDNAが23000種類ほどのタンパク質を作るのに対し
ミトコンドリアDNAは たった13種類のタンパク質を作るだけです

それでも 核のDNAとは異なる 独自のDNAを有しているのは
とても特徴的なことです


ちなみに このミトコンドリアDNAの解析により 
人類の祖先がアフリカから発生してきたことなどが解明されました

mtdna jinrui


独自のDNAを持ち 独自の働きで利用するタンパク質を作っている 
ミトコンドリア

そんなミトコンドリアが 
どうしてヒトの細胞のなかに存在するに至ったかを
次回 説明したいと思います



2016.07.21更新

前回ご説明したように ATPはエネルギー源として
体内で起こるあらゆる生命活動に使われますが

ヒトの細胞のなかで 栄養素からエネルギーのATPを作り出すのが
ミトコンドリアです



mt1



ミトコンドリア

どこかで聞いたことがあると思いますが
(多分 中学の生物の授業で出てきたはず)

ミトコンドリは 細胞内のエネルギー産生工場です

mt2



食べた食物が胃腸で消化吸収され

炭水化物は グルコース(ブドウ糖)にまで分解され
脂質は 脂肪酸にまで分解され

それぞれ血流に運ばれて細胞にたどり着くと
ミトコンドリア工場に取り込まれて そこでATPが産生されます


このエネルギー産生過程は 次の2段階に分かれています

@第1段階: 解糖系

@第2段階: 酸化的リン酸化反応(TCAサイクル と 電子伝達系)

kaitoukei


それぞれについては 稿を改めて詳しく説明しますが
大まかにはしょって概説すると

*解糖系により グルコースがピルビン酸に代謝され
*得られたピルビン酸が アセチルCoAになり

*アセチルCoAが TCA回路の材料として用いられ
*TCA回路で NADH FADH2という電子キャリアーがつくられ

*NADH FADH2と 電子 水素イオンが 電子伝達系に入り
*電子伝達系でエネルギー:ATPと水が産生される

という流れになっています

mt3


*栄養素の分子構造に蓄えられている化学エネルギー
 
細胞質解糖系によりピルビン酸に形を変え

ミトコンドリアに入り 酸化的リン酸化反応により
 いったん電子エネルギーに変換され

*最後に電子伝達系で 再び化学エネルギーのATPに変換され 

それが生命活動に利用される という段取りですが


ピルビン酸とかアセチルCoAとか電子とか 
聞いたことがない物質名や

化学エネルギーとか酸化的リン酸化とか電子エネルギーとか
馴染みのない単語がたくさんでてきて

もう うんざり ギブアップ! と思われる方も少なくないでしょう(笑)


でも ミトコンドリアで行われているこのプロセスこそが
ヒトの生命活動の根本をなすもので

ミトコンドリアが これを四六時中行ってくれているおかげで
ヒトは生きていられるのです


そして 呼吸でとりいれた酸素は 
電子伝達系での連続反応の最後の方 
ATPが産生される直前で働きます

そこで 電子が酸素に渡されることにより
ATPを生み出すエネルギーが形成されるわけで

繰り返しになりますが 酸素がなければ ATPは産生されないのです



ヒトがなぜ食べて なぜ呼吸するか?

その目的であるエネルギー産生に 
ミトコンドリアがどう関与しているか?

なんとなく イメージできたでしょうか?


次回は ミトコンドリアの素顔について もう少し詳しく説明します



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