左利き肝臓専門医ブログ

2017.11.10更新

そろそろ不眠症の解説に移ろうと思いますが

睡眠のメカニズムの解説シリーズの最後に 夢の話 をします

drm00


既にご説明したように 夢は レム睡眠のときに見ます

slp25


睡眠が佳境に入り
徐々にノンレム睡眠が減り レム睡眠が増えてくると
ヒトは夢を見始めます

そして レム睡眠の比率が高くなる明け方にかけて
夢を見る確率もどんどん上がってくる

夢が終わった途端に目覚めた
という経験をされた方もおられるでしょう



夢というものは 奇妙なものです

論理的 物理的におかしな内容で
不安 心配 恐怖などと密接に関連していることが多い

そんな夢を見る理由は
レム睡眠中に脳内で 活動している部位 抑制されている部位との
関連により 説明できます


drm01


レム睡眠中には 前回説明した大脳辺縁系の
記憶(海馬)や情動的反応(扁桃体)に関した部分が
激しく活動しています

slp36

だから夢には 不安・恐怖・心配などに関連する感情的なストーリーが多い

逆に 理性的な判断をする前頭葉(背外側前頭前野)は抑制されているので
論理的におかしい内容の夢を見ても おかしいと判断できない


また 夢を “見る” 理由は
目から情報が伝達される一次視覚野は 抑制されているけれど
意味やイメージを認識する二次視覚野は 活動しているからです


つまり
レム睡眠中に起こっている 脳の強い活動性反応で生じるイメージ が 

夢の正体というわけです


slp35




夢のストーリーの素材になるのは 
脳に貯蔵されている記憶された情報で
過去の体験から得られた情報が合成されたものが 夢なのです

特に 過去数日以内の体験であることが多いとされています

で そうした過去の情報がストーリーとして合成される際に
脳の色々な領域がバラバラに興奮しているため
奇妙な矛盾した内容・ストーリーになるのでは? と推測されています

drm02


では ヒトが夢を見ることには どんな意義があるのか?


昔の人たちは 夢をポジティブにとらえました

古代の人たちは
何らかの暗示 未来を予見するもの 超自然的なもの
神や悪魔からのメッセージ と考えていました

プラトン
ヒトの奥に潜む 荒々しく野性的で無法な要求 ととらえ

フロイト
夢は意識下にある 潜在的で抑圧された欲求が現れたもの
夢を見ることで満たされない欲求が解放され 精神の平衡が保たれると考え
名著の夢判断を著しました

drm03

フロイトといえば
医学生の頃 精神医学に興味を持っていた書き手は
かなり真剣にフロイトを勉強したことがあったので 懐かしいです

もっとも 夢の解釈はユングの方が面白いと思うようになり
結局は日和見して内科を専門にして 精神科からは逃げてしまったので
ちょっとほろ苦い思い出ですが(苦笑)


さて 閑話休題で

では 現代の脳科学者たちは 夢をどのように見ているかというと

DNAの二重らせん構造の発見者のクリック
夢は不要な情報 記憶を消去するための現象で 忘れるために夢を見る と
ロマンティストたちががっかりするようなことを語りました

そして 多くの脳科学者たちは
夢は 脳がレム睡眠中に自らのメインテナンス活動する過程で起こる
ある種の幻覚やノイズに過ぎず
ヒトは その幻想のなかで疑似体験しているに過ぎない
といったとらえ方をしているようです


つまり 神経科学的には 夢には何の役割もない

drm04



ロマンティストの読み手の皆さんには申し訳ありませんが
正直言って書き手も ノイズ説に賛成です

まあ もともと書き手は ロマンティストではありませんから?(苦笑)


うーん なんとも夢がない夢の話になってしまい 申し訳ありませんが

でも 現代の神経科学者たちからその意義を否定されている夢にも
重要な働きを示すことがあるようです

それは 思いつき アイデア を生むことです!

drm05



ミシンの機械で 針の穴に糸を通すアイデアや
化合物のベンゼン環の環状構造は
それぞれ発見者が夢を見ているときに思いついたそうです

また日本初のノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は
夢の中で中間子理論のヒントを得たそうです

夢を見ている間は 理性的な判断が抑制されているが故に
常識にとらわれない発想が得られるのでは?

と推測されています

drm06

夢 やはり 捨てたものではないのかも?(笑)

 

2017.11.07更新

これまで 睡眠と覚醒のメカニズムについて説明してきましたが

では ヒトは 何のために眠るのでしょう?


これまでに言われてきたのは

脳を休ませるため 体を休ませるため 

といった説明でした

しかし 最近になって 
脳は睡眠中に単純に休んでいるだけなのか?
という疑問が呈されるようになっています


ヒトは睡眠をとらないと

*成長ホルモンが分泌されず 成長や組織の修復に障害が出る

*免疫力が低下して 感染症にかかりやすくなる

*エネルギー代謝の恒常性が維持できなくなり
 生活習慣病になりやすくなる

といった弊害が生じてきますが

sleep11


身体だけでなく 意識・精神活動や精神状態にも悪影響が及んできます

例えば 
注意力や冷静な判断力が低下したり
意欲や認知機能が低下して うつ病やアルツハイマーになりやすくなります

ですから 睡眠は脳を休ませているだけではなく

脳内で なんらかの積極的 能動的な生理的現象が
起こっているのではないか?

眠らないと そうした現象が起こらないので
その結果として
上述したような意識・精神活動や精神状態への悪影響が生じるのでは?

という考え方です

実際に
睡眠がうまくとれないと 大脳の情報処理能力に悪い影響が出ますし
睡眠により 日中に使われて機能低下した脳の機能がリセットされます

高度に発達した大脳をもつ人間にとっては
睡眠の適否が質の高い生活を左右します

そして そのようなコンセプトに基づいた研究から
睡眠の意義に関するいくつもの新たな知見が得られてきました


端的に言うと

脳は睡眠中に単に活動を停止して休んでいるだけでなく
能動的に 自らの構造の整備と機能の修復を行っているのです

この点については 先日「勉強したら寝ろ?」という話題で紹介しました

その復習になりますが

たとえば 読み手の皆さんは
試験前に一夜漬けの勉強をしたことはありませんか?

その場合
そのまま徹夜するより 知識を仕込んだあとに一定時間寝る方が
多分 テストの成績は良くなります

というのも 睡眠は記憶力を高め 学習した内容を定着させるのです

sleep07


睡眠は 知識の記憶だけでなく
運動の記憶も高めることが明らかにされています

つまり睡眠は 日中に得た情報の整理 記憶の定着を行っているのです

sleep12


必要な情報は 整理・分類して記憶し
不必要な情報は 消去します

日中の覚醒中に脳に入ってくる情報量は膨大ですから
睡眠中に適切な取捨選択をしないと
容量オーバーでパンクしてしまいます

こうした現象には
脳の神経細胞どうしの間で形成される
シナプスという情報伝達装置の整理整頓が関わっています

日中の過多な情報により 脳内では過剰にシナプスが形成されますが
睡眠の間に 増えすぎた不要なシナプスを削り 整理して
ネットワークを最適化しているのです

sleep13


実際 シナプスの強さが睡眠の深さに相関することが明らかにされています



一方 脳は睡眠中に 自らの洗浄も行っているようです

脳は全身で産生されるエネルギーの25%をも使っていて
代謝が活発なので 老廃物もたくさん出てきます

体内の他の臓器では
老廃物の排泄・洗浄はリンパ管系により行われますが
隔離された臓器である脳には リンパがありません


では 脳はどうやって
たくさん出てくる老廃物を処理しているかというと

睡眠中に 細胞間に脳脊髄液を流して そこに老廃物を排泄させ
脳脊髄液にリンパ液の役目をさせ 除去しているのです

脳は 睡眠中にクリーニングされているのですね

こうして 睡眠中にメインテナンス クリーニングされた脳は
目覚めとともにリフレッシュして 新たな1日の活動の準備ができるわけです

sleep08


逆に 睡眠を充分にとらないと
脳のメインテナンス クリーニングがなされていないために
翌日の知的活動にさまざまな悪影響が出てきてしまう

なるほどです~

これらの脳のメインテナンス クリーニングは
主に脳が完全に休んでいるノンレム睡眠の間に行われていると考えられますが
レム睡眠も一部関与しているようです


睡眠の重要性を 認識していただけたでしょうか?

脳は 寝ている間にも 地道で重要な活動を行っているのですね!

2017.11.03更新

睡眠に関する解説を続けていますが ちょうどタイミングよく

睡眠と脳の研究の最前線

についてリポートした ドキュメンタリー番組を見ました


眠っている間は 脳も休んでいるから 睡眠は大切なのだ

そんなイメージがありますが

実は脳は 睡眠週に休んでいるのではなく
寝ている間に さまざまな とても大切な働きをしているそうです


sleep01



@記憶の保持に関わる

たとえば 赤ちゃんに ぬいぐるみの一定の動作を見せて

そのあとに 昼寝させるグループと 昼寝させないグループに分けます

sleep02



その後 同じぬいぐるみを見せると

昼寝をしなかった赤ちゃんは ぬいぐるみに対して何の反応も見せませんが

昼寝をした赤ちゃんは ぬいぐるみを見たとたんに
昼寝前に見せられた一定の動作を 自ら行うのだそうです

昼寝をした子は 昼寝前にみたことを 記憶として保持しているのです

そして その記憶の保持に貢献しているのが 睡眠 


大人でも 一定の動作を行ったのちに 
寝たグループと寝ないグループでは

寝たグループの方が 効率よく同じ動作をできるようになるそうで


勉強したら その日のうちにすぐに寝ること
そうすれば 寝ている間に勉強したことが 記憶として脳に定着する

sleep03


うーん 試験前に一夜漬けするときは 
徹夜しないで寝た方が
翌日のテストで好成績がとれるのかもしれません?(笑)



@睡眠不足は 脳の機能障害を招く

良し悪しの感情をともなう記憶 
すなわち 直観は
人の日常生活における論理的思考や意思決定に大きな影響を与え

この作業は 脳の前頭前野・腹内側部で行われますが

睡眠が不足していると この部位が働くなるため
直観にともなう意思決定ができず 判断力が低下してしまうそうです



sleep04


同じような状況は 脳血管障害の患者さんでも認められるとのこと

つまり 睡眠不足は 一時的に脳が損傷した状態を誘導するのだそうで

たとえば たった2時間 睡眠時間が減るだけで
脳の機能に変化が生じて 判断力の低下などが起こり得るとのこと



@睡眠は 食欲制御にも関連する

睡眠時間が過度に不足すると(5時間ほど)
食欲が増え 間食の量が増え 特に夕食後の間食が多くなります

また 

エネルギーが充分に補給されると食欲を抑制するレプチン
睡眠不足により低下し

逆に 空腹時に食欲を感じさせ 食べると食欲を低下させるグレリン
睡眠不足により増加するので


sleep05


結果として 睡眠不足の人は 太る!

sleep06




@夢についても 新たな知見があります

人は 夢を見ている間に 
脳の中で 昼間に起きた出来事の意味を評価している


というのです

睡眠中に 海馬に蓄えられたその日1日の出来事の記憶が
大脳新皮質に送りだされて 他の記憶と関連付けられる

夢を見ている間に 新皮質はフル回転して複数の記憶を関連付け
その結果として 海馬に新たな記憶の維持の有用性の有無を指示する


つまり その日の昼間に得た情報が
この先も利用できる情報か 重要かどうか判断して
覚えておくか 忘れてしまうか を決定する

日々 脳にインプットされる膨大な量の情報を 篩にかけている

ということですね 

sleep07

そして 夢の内容は
睡眠中に脳が処理していることを反映しているそうです

同じような内容の夢を見ることが多いのは
そうした処理が関係しているのかな?


@睡眠は 脳内の老廃物の排除にも関与している

アルツハイマー病は
アミロイドβという物質が脳内に蓄積することで生じますが

睡眠中には 脳内の血管を介して 脳脊髄液が脳内の老廃物を除去している

sleep08



睡眠の質の低下 睡眠時間の減少による このシステムの機能低下により
脳内の老廃物除去が上手くいかず
アルツハイマー病のようにアミロイドβ蓄積が生じる可能性がある


sleep09

つまり 睡眠の質の低下 睡眠時間の減少が
アルツハイマーのリスク因子になり得るかもしれない と

なるほどです



さて これらの現象の結果として言えることは

睡眠中の脳内の活動が 起きているときの脳の活動を補助している

ということで

いやー 睡眠 侮れませんね


睡眠の質や時間が悪くなると 糖尿病になりやすいことを
以前ご紹介しましたが

睡眠が さまざまな人の生活や病気に及ぼすポジティブな影響は
奥が深そうです

寝る子は育つ と言われますが
大人になっても 睡眠は大切なようです


夜更かしして わけの解らないブログを書いていないで
ちゃんと寝ないと 脳内アミロイドが掃除されずに
アルツハイマーになっちゃうかも?(笑)

 

2017.11.02更新

前回 覚醒を誘導する中枢・投射系について説明しましたが

睡眠を促進する側には 睡眠中枢があります

slgb01

それは
視床下部前部・視索前野(VLPO)に存在する GABA作動性ニューロン

slgb02

前回ご紹介した モノアミン系 アセチルコリン系の覚醒誘導システム
強力に抑制します

slgb03a


また ノンレム睡眠の開始に先行して活動を開始し
ノンレムの期間中 覚醒系神経核を抑制して睡眠を安定化させます



さて この睡眠中枢は 覚醒系神経核により抑制されます

つまり 覚醒系と睡眠系の間には 相互抑制関係が存在していて
睡眠と覚醒の交代現象が
安定かつ効率的に行われているのです

slgb04


ホント ヒトの体って 上手くできていますよね!(笑)



では 覚醒と睡眠の交代 切り替えが どのように行われているのか?


その前に もう一度整理しておきますが

*覚醒状態では 全ての覚醒性投射系が機能し 大脳皮質を賦活化している

*ノンレム睡眠では 全ての覚醒性投射系が低下して 皮質は賦活化されない

*レム睡眠では モノアミン系投射系の活動は
 ノンレム睡眠のときよりさらに低下していますが
 アセチルコリン系はしっかりと活動していて 皮質が賦活化されています


で 繰り返しになりますが 覚醒と睡眠は互いに抑制しあっています

*睡眠のGABA系は 覚醒のモノアミン・アセチルコリン系を抑制する

*覚醒のモノアミン・アセチルコリン系は 睡眠のGABA系を抑制する


slgb05



つまり 睡眠と覚醒がシーソーのような状態になっていて
どちらかが優勢になると スイッチが切り替ります


slgb06



このスイッチの切り替えを規定しているのが

前回ご説明した 体内時計と睡眠負債です


slgb07



さて このシーソーは 通常は睡眠に傾く傾向がありますが

覚醒が必要なときにはオレキシンが働いて
覚醒を維持・安定化させます


slgb08


つまり 覚醒が必要な状況になると オレキシンが分泌されるわけで

具体的には

*体内時計の影響により 朝になると分泌が増す

slgb08a

*ストレスがかかると 覚醒して対処するために分泌が増す
・視床下部から分泌されるストレスホルモンCRHが分泌を高める

*空腹時には 覚醒して食べないといけないから分泌が増す
血中グルコース濃度が低下すると 分泌する
・食欲を抑制するレプチンは 分泌を抑制する
・食欲を活性化するグレリンは 分泌を促進する


slgb08b

*危険に対する不安や恐怖などの情動があると 分泌が増す


このように 脳が覚醒していないと困る状況では
オレキシンが分泌されて覚醒が維持されるわけです

再度 ヒトの体は 上手くできています!


ところで この睡眠と覚醒のスイッチ切り替えは
ホンモノのスイッチのように パチンと即座に切り替わるわけではなく

ゆっくりと時間をかけて行われます

例えば 明け方に睡眠から覚醒に切り替わる際は
コルチゾールという
睡眠中は分泌が抑制されているホルモンが分泌され始め


slgb08c

*エネルギー代謝の亢進
*体温 血糖値の増加
*血圧 脈拍数 呼吸数の増加

を引き起こして 体を覚醒モードにして
時間をかけて睡眠から覚醒への移行を促します


このように 睡眠と覚醒はシーソーのような状態にあり


slgb09



*睡眠システム


*覚醒システム

*オレキシンシステム

が 三位一体となって
外界の状況に応じて そのバランスを巧みに調節しているわけです

slgb10


何度も繰り返しになって ホントに恐縮ですが
ホント ヒトの体は 上手くできています!

 

2017.11.01更新

今日の疑問は なぜ 起きたままでいられるか?

そんなことも 考えたこと ありませんよね?(笑)


ヒトの体には
脳を刺激して 覚醒させて 起こしておくシステムが存在します

今日は その解説をします


<上行性脳幹網様体賦活系>

脳の脳幹部・網様体には 覚醒状態を維持する中枢があり

ここから大脳に上行性の刺激を送り活性化して 覚醒状態を作り出します

また 逆に 睡眠に関わるシステムを抑制します


この系を 上行性脳幹網様体賦活系 と呼びます

ksm01


上行性脳幹網様体賦活系は 大きくふたつのパーツに分類されます


@モノアミン投射系

*青斑核から発するノルアドレナリン作動性神経

*背側縫線核から発するセロトニン作動性神経

*腹側中脳中心灰白質から発するドーパミン作動性神経

*傍小脳脚核 前青斑核野から発するグルタミン作動性神経

からなり

(下図の緑の矢印経路)

ksm02a


モノアミン系
の神経伝達物質

大脳皮質に広範囲に直接投射して 覚醒させます

ksm03

この系は 作用時間が遅く 持続的なのが特徴です


@アセチルコリン投射系

脳幹部の橋の外背側被蓋核 脚橋被蓋核に存在する
アセチルコリン作動性神経

下図中央右側の 赤い上向きの矢印で示すように
視床に多く投射して 視床を介して脳全体を覚醒させます



ksm04


この系が  モノアミン系と異なるのは
レム睡眠中も活発に活動していることで(モノアミン系は活動していない)

レム睡眠を作っている中枢と見做されています

ksm05



<ヒスタミン作動性神経>

視床下部後部の結節乳頭核には ヒスタミン作動性神経があり

脳幹部から大脳に向けて上行してくる賦活系に働きかけ
その活性を増強します

ksm06

花粉症の治療などに用いられる抗ヒスタミン剤を服用すると眠くなるのは
このヒスタミン作動系神経の作用が弱められ
大脳の覚醒効果が弱くなるからです



大脳皮質は このようにして賦活化され 覚醒状態が作り出されますが

近年 覚醒状態を維持する重要な物質・オレキシン が見出されてから
この領域の景色が かなり変わりました


<オレキシン>

オレキシンは 日本人の桜井博士 柳沢博士らにより
オルファン受容体の未知のリガンドの検索過程で見出された物質で

視床下部外側野から分泌されます

ork00


視床下部外側野は摂食中枢であり 当初は摂食に関係すると考えられたので
ギリシア語の食欲・オレキシスから オレキシンと命名されましたが

その後の研究により

覚醒状態を活性化し 維持・安定化させている重要な物質 

であることが判明しました

ork01


オレキシンの受容体は
上行性脳幹網様体賦活系の青斑核 縫線核などに強く発現しており


ork00a



下図のピンクの矢印で示すオレキシン

緑の矢印で示す上述したモノアミン系等の覚醒系神経核に広く投射して
それらの活動を安定化させ 大脳の覚醒状態を維持・安定化させています


ksm02


それ以外にも

*交感神経の活性化
*ストレスホルモンの分泌
*意識の清明化

といった 覚醒状態に関わる機能を有しています


興味深いのは

オレキシンの分泌は
オレキシンが活性化するモノアミン投射系から抑制を受けることです

(下図の右側に並んだモノアミン系からの 破線で示される抑制)


ork01b


こうした抑制性の反応は ネガティブ・フィードバックと呼ばれ
多くの場合は 起こった反応を収束させる働きを示します

ですから
モノアミン系によるオレキシンの抑制性システムにより
覚醒の誘導・維持が困難になると思われるかもしれませんが

そうではないのですよ!


何らかの理由で モノアミン系の働きが低下して覚醒誘導が弱まると
同時にモノアミン系によるオレキシン分泌の抑制も弱まりますから

オレキシン分泌が復活して その働きによってモノアミン系も復活する

つまり
モノアミン系の低下時に 覚醒誘導を維持できる仕組み になっているわけで

いわば 事故が起こったときのバックアップシステムのようなものです

うーん 上手くできていますね!(笑)


オレキシンは 既に臨床応用もされていて
オレキシン受容体を阻害する物質が 新たな作用機序の睡眠薬として開発され
現在 睡眠薬の第2位のシェアを誇っています

これについては またあとで詳しく説明します



ということで

前回は 睡眠を誘導するメカニズム
今回は 覚醒を維持するメカニズム

について それぞれ説明しましたが

各システムの実行部隊となっているのは

*PG アデノシン GABA セロトニン などの抑制性物質

*モノアミン アセチルコリン ヒスタミン などの刺激性物質 で



ksm07


睡眠と覚醒のスイッチをするのが オレキシン

ork04

 


という見取り図を イメージしていただくことができたでしょうか?


次回は 睡眠と覚醒のスイッチについて もう少し詳しく説明します



2017.10.31更新

ヒトはなぜ 夜になると眠くなるのでしょう?

そんな理由 考えたこと ありませんよね?(笑)


眠くなる現象には 

*体内時計

*恒常性維持機構(ホメオスタシス)

のふたつのメカニズムが関与していると考えられています


whysl00



@体内時計

ちょうど 今年のノーベル賞の”お題”となった サーカディアンリズム

whysl01




既に説明しましたが 簡単に復習すると

体内に 昼間は覚醒して 夜になると睡眠をとる
という日内リズムが存在し

ヒトはそのリズムにしたがって 24時間周期で睡眠と覚醒を繰り返します


ここで重要な働きをするのが 睡眠をうながすメラトニン

朝 太陽の光を浴びると メラトニン分泌が減少して 覚醒しますが
夕方になると メラトニン分泌が増え 眠たくなってくる

だから 夜の決まった時間 起床後14~16時間たつと眠くなる


whysl02



@恒常性維持機構

もうひとつのメカニズムの恒常性維持機構は
睡眠負債 という呼び方もされます

負債? なんだそりゃ? と思われるでしょうが
思い切り簡単に言うと 疲れたから眠くなる ということです


whysl03



昼間 ずっと覚醒して仕事をしていると
脳が疲れて 睡眠物質という眠気を誘う物質が溜まってくる

whysl04


そうすると 脳を休ませるために ヒトは眠たくなり睡眠をとる


この 体内時計と睡眠負債のふたつの因子により ヒトは眠くなります



睡眠負債 睡眠物質 というコンセプトは 馴染みがないでしょうから
もう少し詳しく説明します

要するに 覚醒が長時間続くと 蓄積疲労により眠くなるということですが

蓄積疲労の本態を 睡眠物質という新たな概念に求めたのは
次のような動物実験の結果に依っています

長時間眠らないで覚醒させていた犬の 脳の周囲から採取した液を
他の犬の脳の周囲に注射したら その犬は寝てしまったのです!

注射された犬が寝るのを見たとき 研究者は興奮したことでしょうね!


その後 睡眠物質の候補が いくつか同定されてきました

代表的なのが プロスタグランジンD2・アデノシン系です

whysl05


プロスタグランジンD2は 脳を包むクモ膜で作られ
前脳基底核に働きかけてアデノシンを放出させる
(下図の左側・前脳基底部)

アデノシン
視床下部の睡眠中枢に働きかけ
視索前野・VLPOに存在するGABA作動性ニューロンを刺激して
(下図の中央・視索前野)

分泌されたGABA
覚醒中枢から大脳皮質に放射され 皮質を覚醒する
ヒスタミン系 モノアミン系 アセチルコリン系の働きを 
抑制する
(下図の右側・後部視床下部)

その結果 覚醒状態が抑制され 眠くなるという筋書きです



whysl06


ちなみに

*カフェイン
は アデノシンの受容体結合を邪魔するので 覚醒作用があり

*アルコールは GABAと同様の働きをするので 飲むと眠くなります


whysl07


アデノシンは
覚醒中にさまざまな細胞で作られる エネルギー分子ATP
分解されて出来ますが

whysl08

覚醒時間が長ければ長いほど 脳内濃度が高まっていき
逆に睡眠中には 次第に減少していきます



このように

睡眠物質の蓄積による睡眠負債により 眠気が誘導される という説

なかなか説得力があるように感じますが

最近は 睡眠物質説に疑問が投げかけられています


というのも 最新の研究により

睡眠時に脳は均一に休んでいるわけではなく
昼間の覚醒時に酷使された局所が
選択的により深く休むことがわかりましたが
(この現象を ローカル・スリープと呼びます)

脳全体に及ぶ睡眠物質の蓄積説では この現象が説明できない


ということで

睡眠負債・恒常性維持機構の実態は

単に睡眠物質の蓄積という受動的な現象ではなく

*日中の活動で余分に増殖した神経シナプス
*脳の機能を低下させてしまう代謝老廃物

などのメインテナンス 不要なものの除去 などを目的とした

もっと能動的で 合目的的な活動ではないか?
と考えられつつあるようです

このあたりについては 稿を改めて解説します



2017.10.26更新

ノンレム睡眠 レム睡眠 の違いについて もう少し続けます


ノンレム睡眠は 脳が完全に休んだ状態です

slp31


脳全体の血流量が低下し
脳のエネルギー消費量や ニューロンの活動は 1日のうちで最低レベルです


しかし 興味深いことに

脳全体の活動が一様に低下するのではなく

起きているときに酷使される左側頭葉(言語中枢)や左前頭葉の活動が
特に低下しています


一方で 睡眠中枢と呼ばれる視索前野の活動は認められます

slp32


このことから
 
睡眠という行動は 脳が積極的に作り出している と推測されます


体の方はというと
体温が下がり エネルギー消費も少なくなります

また 交感神経の活動低下 副交感神経の活動上昇が見られ
夜間の血圧低下や 血糖コントロール改善が生じています

slp33


さらに 

いちばん最初の徐波睡眠のときに 成長ホルモンが分泌され
骨や筋肉の発達や 体内のさまざまな反応が促されます


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ノンレム睡眠の大切さが よくわかります



ちなみに 
この徐波睡眠は 熟眠感が得られる質の高い睡眠で
これがしっかり確保されることが非常に重要です

そして 起きている時間が長いと
質の良い睡眠を得るため 徐波睡眠の時間が長くなります


さて こうした現象はわかりましたが
ノンレム睡眠は 具体的に何をしているのか?


最近は ノンレム睡眠で脳が休息しているときに
脳の中のニューロンの維持や つながりの再構築が行われて
記憶の整理や統合がされているのではないか
推測されています

この点については あとでまた詳しく説明します



さて もう一方のレム睡眠ですが

ノンレム睡眠では 脳が完全に休息状態に入っているのと対照的に

レム睡眠では
脳は 覚醒時と同じか それ以上に活発に活動しています


slp35


特に 脳幹部の橋の被蓋という部位にある
アセチルコリンを産生するコリン作動性ニューロンが存在する部位

記憶や情動をつかさどる 大脳辺縁系の海馬 扁桃体

などが強く活性化されています

slp36

これが レム睡眠の大きな特徴です


体の方は

自律神経の活動が非常に盛んで
交感系も副交感系も 両方とも活動していて
脈拍や呼吸が乱れています

slp37


また 大脳から筋肉への運動指令が脊髄レベルで遮断されているので
体は全く動くことができません

ノンレム睡眠のときは 寝返りをうったりしますが
レム睡眠では 寝返りすらありません


夢を見るのも レム睡眠の大きな特徴です


slp38


上述したように
記憶(海馬)や情動的反応(扁桃体)に関する辺縁系が活動しているので
不安・恐怖・心配などが入った感情的なストーリーの内容の夢を見ることが多い

また 理性的な判断をする前頭葉(背外側前頭前野)は抑制されているので
変わった 論理的におかしい内容の夢を見ても
おかしいと判断できません


一方 やはり上述したように 筋肉は全く動きませんから
変な夢を見て驚いても 体は反応できず金縛り状態になります


slp39


書き手は 幸か不幸か金縛りを経験したことはありませんが
読み手の皆さんには
経験されたことがある方もおられるのではないでしょうか?


では レム睡眠は 何をしているのか?

レム睡眠の時間が足りないと 次の睡眠で補おうとする機構が存在するので
レム睡眠が なんらかの重要な役割を果たしていると推測されますが

海馬が活動していることから
記憶した事柄を分別・整理しているのではないか と推測されています


slp40


また 前回お話ししたように
胎児期や幼少期におけるレム睡眠は 大脳の発育や脳の神経回路の作成に
関与しているのではないかとも 推測されています


このように ノンレム睡眠とレム睡眠は 全く質的に異なります

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こうした異なる性質の睡眠が
なぜセットになって ひと晩のうちに何回も繰り返されるのか?

睡眠は ホント 不思議です

 

2017.10.25更新

ヒトはなぜ眠るのか? といったストレートな問いに入る前に

ヒトはどのようにして寝ているか 説明しましょう


タイムリーに 今年のノーベル賞ネタになった サーカディアン・リズム

slp11


日内時計・サーカディアン・リズムの解説でも紹介したように
ヒトの睡眠には パターンがあります

そのパターンを構成するのが レム睡眠 ノンレム睡眠です

slp13

 


レム睡眠
は 夢を見る睡眠として有名ですので
この名前を聞いたことがある方も おられることでしょう

レム睡眠をしているときに
よく観察すると ヒトは眼球が盛んに左右に動いています

slp14


だから Rapid Eye Movement
頭文字をとって REM・レム睡眠と呼ばれるようになりました



さて
ベッドに入って 電気を消して 寝はじめると
まずノンレム睡眠が始まります


slp15

 


ノンレム睡眠は
眠りの深さによって Stage1から4の4段階に分かれます


slp16

 


最初は Stage1の浅い眠りで
時間経過とともに徐々にStage2 3 4へと 深い眠りに入っていきます

Stage3 4は 徐波睡眠と呼ばれる とても深い眠りです


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入眠から90~120分経過すると
最初のレム睡眠が再び出現してきます

比較的短時間のレム睡眠が終わると 再びノンレム睡眠になります

slp18

この
ノンレム睡眠のStage1からレム睡眠の終わりまでが ひとつの周期で
一晩寝ている間に この周期が4~5回繰り返されます


slp19

 

 

一晩の睡眠の前半は 
ノンレム睡眠が多く 特に深い眠りの徐波睡眠の比率が高いのが特徴です


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一方 後半
ノンレム睡眠 特に徐波睡眠が減り レム睡眠が増加してきます


明け方になると レム睡眠がさらに増加して やがて目覚めを迎えます


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睡眠全体では
ノンレム睡眠が80% レム睡眠が20%を占めますが
その時間分布は異なるのです

ヒトは こんなふうにして 寝ています


レム睡眠とノンレム睡眠は
同じ睡眠でも 質的に全く異なります


ノンレム睡眠は まさに睡眠そのもの

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レム睡眠は 睡眠と覚醒の中間のような状態です

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赤ん坊がお母さんのお腹の中にいるときは レム睡眠で寝ています
そして 産まれてすぐに ノンレム睡眠が始まります

幼児期から成長期にかけては レム睡眠が優勢ですが
歳を重ねていくにつれ
レム睡眠の比率は減り ノンレム睡眠が増えてきます

こうしたことから

レム睡眠は
大脳の発達を促し 脳の神経回路の作成にも関わるのでは?
と推測されています


一方 ノンレム睡眠は大脳の発達とともに出現してきて
脳の発育が盛んな幼児期には長く 高齢になると短くなることから
脳の機能に関係しているのでは?と推測されます

slp24



また レム睡眠のときに ヒトは夢を見ます

明け方 たっぷりと夢を見て そのまま目覚める経験をされた方は
少なくないと思います

slp25


でも ノンレム睡眠のときは夢を見ません
ノンレム睡眠では ひたすら寝ることに一生懸命なのです


どうして こんな質的に異なる2種類の睡眠が
コンビを形成しているのでしょう?


slp26

次回 詳しく説明します




2017.10.24更新

ライオンは1日に18時間も寝るのに キリンは3時間しか寝ないそうです

しかも 立ったまま寝る

どうして?

slp01


どうしてついでで

ヒトは どうして眠るのか?

slp02


そりゃ 眠くなるからですよ(笑)

じゃあ どうして眠くなるの?


今日からの新シリーズで 睡眠  について解説しようと思います

ヒトは 大まかに言って 
生涯の1/3もの時間 眠っているのですから
睡眠という行為は とても大切で意義のあることです


slp03



でも どうしてヒトは 眠るのか?

そんな根源的な問いに対する答えは 
実は 未だ はっきりとしていないのですよ!


slp02a



そう言えば書き手も 医学生時代に
睡眠についてまとまって勉強したことはありませんでした

だから 今回 色々と勉強しましたよ


もともとは
当院に来られる患者さんで 不眠を訴える方が少なくないので
不眠症について勉強し始めたのですが

不眠症は 眠れなくて辛い

でも どうしてヒトは寝なければいけないの?

と疑問に思ったら
睡眠の基礎について 勉強する羽目になりました(笑)


たとえば 肝臓の病気の病態は
肝臓の働きの基礎がわかっていないと 
きちんと理解することはできません

不眠症も同じで
睡眠の基礎がわかっていないと理解できないかも?

slp04

ということで 勉強したことはすぐにブログでウンチクしたくなる
ご存知のように 書き手はそんな厄介な性格の持ち主ですので
しばらくお付き合いください(苦笑)



さて 文頭のQuestionに戻りますが

どうしてライオンは長く寝るのに キリンは少ししか寝ないか?


この問いの答えに

哺乳類にとって 睡眠とは何か 覚醒とは何か?

という 大きな疑問の解答が潜んでいます


アフリカの雄大なサバンナの景色を 思い浮かべてください

slp05

肉食動物のライオンは キリンを狩りして食べちゃう
草食動物のキリンは ライオンに食べられちゃう

だから キリンは 食べられないようにするために
いつも周囲に注意を払っていないといけません

のんびり寝ていたりしたら すぐにライオンに食べられちゃう
だから 短い時間しか寝ない

一方 ライオンは
獲物の狩りをするのに 瞬発的に莫大なエネルギーを使うので
狩り以外の時間は ゆっくりと体を休めていないといけない
だから 長い時間寝る



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うーん 立場が強い動物は 弱い動物より 長く寝る!

これって 我が家における
お昼寝・三昧の日々のネコさまsと
いつも寝不足の下僕 の関係と 同じ?(笑)


つまらないジョークはスルーしていただき(苦笑)


このお話のポイントは 

それでもキリンは寝る ということ!

危険をおかしてまで なぜ寝るのか?


イルカはずっと水の中を泳ぎ回っていますが 寝ているのでしょうか?

イルカが どこかで体を横たえて寝ている姿は想像できませんが
そんなイルカも しっかり寝ています

しかも 泳ぎながら


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どうやってそんな器用なことをしているかというと
脳の右半分と左半分を 交互に寝かせながら泳いでいるのです


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左の脳が眠っているときは 右目を閉じ
右の脳が眠っているときは 左目を閉じているそうで

寝ながらウインクしているわけではありません?(笑)


キリンは 食べられる危険があるのに 寝る

イルカは 泳ぎながら 脳を半分ずつ休ませて寝ている


こうした事実からわかることは

哺乳類にとって 睡眠は欠くことが出来ない大切な作業であること

そして 睡眠には 脳が関係していそうなこと


では 狩りもしない 水中を泳いでもいない ヒトにとっては
睡眠って なんなのでしょう?

どうして ヒトは 寝るの?


slp09

つかみはOK?(笑)

 

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