左利き肝臓専門医ブログ

2015.06.30更新

太らなくても糖尿病になってしまう話から 睡眠の異常と糖尿病の関連 
慨日リズムが形成される機序 その乱れと食事パターンと肥満の関連
などについて説明してきましたが

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今や糖尿病 肥満・脂質異常症だけでなく 
高血圧やがんも慨日リズムの乱れに関連することが明らかにされています

高血圧の患者さんの約30%は不眠を訴えておられますが
健康な人でも睡眠時間が短くなると高血圧になりやすくなります

睡眠時間が5時間未満の人はそれ以上寝ている人に比べて
1.32倍高血圧になりやすく
狭心症や心臓発作になるリスクは2倍以上高くなります

特に睡眠の質の低下が大きな問題とされています

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夜型生活・夜勤シフトワークなどにより概日リズムに狂いが生じてくると
交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかず
本来は夜間に活動が鎮まる交感神経が夜でも高ぶり
以前ご紹介した危険な早朝高血圧になりやすくなります

またアルドステロン産生の概日リズムの乱れも高血圧発症に関与します
時計遺伝子はアルドステロンを作る酵素の量の日内変動を制御していますが
概日リズムの乱れによりこの制御に異常が生ずると 
アルドステロン産生量が増して高血圧になると考えられています

また概日リズムの乱れは 以前ご紹介した食塩感受性も亢進させるので
高血圧になりやすくなると考えられています

このように概日リズムの乱れは 糖尿病 肥満 脂質異常症 高血圧といった
全身の動脈硬化を亢進させる病気の発症進展に関与することが明らかとなり
ひいては心筋梗塞や脳血管疾患の発症につながるリスクが大きいことから
概日リズムの乱れの制御が非常に重要と見做されています

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睡眠不足を侮ってはいられません


また概日リズムの乱れ 
特に深夜勤務を含むシフト勤務と発がんの関連が報告されています

日本ではシフト勤務で深夜業務をされている方は20%ほどおられるそうですが
シフト勤務による健康リスクとして
*勤務開始後早期に現れる睡眠障害 
*勤務開始後しばらくしてから現れる糖尿病 肥満 
*勤務が長く継続した後に現れる循環器疾患
が認識されていましたが

晩期に現れるリスクとして
男性では前立腺がん 女性では乳がんが注目されています

10年以上にわたり深夜業務を含むシフト勤務をしていると 
シフト勤務をしていない人に比べて
男性の前立腺がん発生リスク 女性の乳がん発生リスクは
それぞれ約3倍高いと報告されました

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上が前立腺がんの発生リスク 下が乳がんの発生リスクです 

この傾向は世界共通で 
デンマークでは20年以上のシフト勤務者の乳がんは労災扱いです

シフト勤務による概日リズムの乱れにより 
・がん細胞増殖抑制作用を有するメラトニンの分泌が低下すること
・前立腺がんや乳がんの発症に関わる性ホルモンの分泌制御が乱れることが 
発がんに関与するのではないかと考えられています


このデータを初めて見たときは驚きました

日本ではまだ認知度は低いようですし 
労災云々のレベルでは検討されていませんが
社会全体で考慮 対処していかなければならない重要な問題だと思われます

シフト勤務を長期間続けられている方は 
がん検診をこまめに受けられることをお勧めします



睡眠障害と糖尿病の関連を契機に
概日リズムの仕組み 現代社会における概日リズムの乱れ 
その乱れと生活習慣病 がんとの関わりについて解説してきましたが

書き手にとっても初めて知ることが多く 
本を数冊読み とても良い勉強になりました

今回ご紹介したことが 
読み手の皆さんの健康管理の参考になれば嬉しいですし
当院での日々の診療にも充分に生かしていきたいと考えています

2015.06.24更新

時計遺伝子が作るヒトの慨日リズムは24.5時間です

地球の自転で生じる1日のリズムは24時間ですから 
放っておくと毎日0.5時間のズレが生じ
最初は地球の朝とヒトの体の朝は同じでも 
やがて地球の朝はヒトの昼という具合に
時差ボケに似たような状態が生まれてきてしまいます

と 以前から言われていましたが 
最新の研究では 24時間10分 が定説になっているようです

しかも興味深いことに 概日リズムが何時間かは人によって個人差があります
遺伝的に規定されていて 24時間10分より長い人もいれば短い人もいる

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ただ上の棒グラフに示されているように
24時間より長い人が75%と圧倒的に多く 
放っておくとズレが生じて夜型になりやすい

それでなくても前回ご紹介したように 
現代の社会環境はヒトをして夜型生活を遅らせやすい環境なわけですから

そうした事態を避けるために ヒトの体は毎朝 慨日リズムをリセットします

リセットを行う部位が 脳の視床下部の視交叉上核で中枢時計と呼ばれます

朝起きて光を浴びると 
光を感じた目の網膜から中枢時計に情報が伝わりリセットされます

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そして中枢時計から全身の細胞に「朝だよ」情報が伝達されるのですが

興味深いのは 
全身の細胞1個1個が 独自の時計遺伝子を有していることです(末梢時計)

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そんなこと イメージされたことはありますか?
 
肝臓や胃の細胞が別々に独自の時計を持ち それに従って活動している
しかもさらに興味深いことに 
臓器別に細胞の慨日リズムの長さが微妙に異なるようです

肝臓の細胞があくびしているとき 胃の細胞は既にしっかり働いているとか(笑)

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そんなマンガのような世界にならないために
末梢の個々の臓器の細胞も 朝に慨日リズムをリセットして 
全身の全ての細胞が同期して同じリズムで働くように調整します

このリセットは中枢時計からの情報伝達にもよりますが
朝食の摂取により 末梢時計のより完全な位相の補正がなされます

つまり

中枢時計は 朝の光 によりリセットされ
末梢時計は 朝食の栄養素 によりリセットされる 
というわけです

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このような2重のリセットシステムにより 
毎朝体全体の概日リズムが調整され
ホルモン分泌 栄養素代謝 自律神経などの生体機能が
滞りなく行われるのです

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逆に朝のリセットによる中枢時計と末梢時計の同期がきちんと行われないと

細胞がうまく働かないので さまざまな生体機能に支障が出てきてしまうこと
が明らかにされています

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ということは 体をきちんと働かせるためには朝食が大事! ということです

次回は朝食をきちんととらないとどうなるか 
不規則な時間に食事をしているとどうなってしまうか
についての詳細をご紹介します


いやー それにしても 
細胞ひとつひとつがマイ時計を持って活動しているなんて 
想像したことすらありませんでした

もちろん医学生時代に習ったこともありません
全く知らない世界でしたから ネタ本を読んでいてとても面白かったです

びっくりしました~(笑)

 

2015.06.17更新

昨日ご紹介した慨日リズム
時計遺伝子と呼ばれる遺伝子の働きにより構成されています
(ちなみにヒトで時計遺伝子が最初に同定されたのは1997年のことです)

これまでに何十種類もの時計遺伝子が同定されましたが
主として働いているのはBmal1 / ClockPeriod / Cryptochrome
という4種類・2組の遺伝子です

まずBmal1 / Clock遺伝子から 
タンパクのBMAL1/CLOCKが翻訳されます

遺伝子からタンパクが作られることを翻訳と言います
以前にご紹介しましたが 覚えておられますか?
(遺伝子は小文字 そこから出来るタンパクは大文字で表記されます)

BMAL1/CLOCKタンパクは転写因子です

転写因子は特定の遺伝子の転写開始部位に結合して
その遺伝子の発現を開始させますが

BMAL1/CLOCKタンパクも
さまざまな遺伝子のE-Box配列に結合して その遺伝子の発現を増強
します

BMAL1/CLOCKが発現増強する代表的な遺伝子が
Period / Cryptochromeですが 
この遺伝子が作るタンパクPER/CRYは核に移行して
Bmal1 / Clockの発現を抑制します

なんだかこんがらがってきましたね(笑)

つまりBmal1 / Clockは 自らの発現を抑制するPER/CRYを作るので 
やがて発現しなくなる
しかしBmal1 / Clockが発現しないと PER/CRYは産生されず減ってくるので 
Bmal1 / Clockの発現抑制は解かれる

すると再びBmal1 / Clockが発現するようになり PER/CRYが産生されてきて
そうすると再びPER/CRYがによりBmal1 / Clockの発現が抑制され 
またPER/CRYは作られなくなり、、、

こうしたサイクルが 終わることなく延々と繰り返されます

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大丈夫ですか? こんがらがっていませんか?(笑)

こうした仕組みをネガテイブフィードバックと呼びますが 
この一連の動きが24時間周期(正確に言うと24時間ちょっと)で
繰り返されるのが慨日リズムの正体です

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Bmal1 / Clockは夜に発現し 
Period / Cryptochromeは昼に発現するイメージです

この発現の繰り返しにより 体内で慨日リズムが形成されていきます

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重要なのはBmal1 / Clockが転写因子で 
種々の遺伝子(標的遺伝子と言います)の発現を増強することです


Bmal1 / Clockの標的遺伝子は数百にも及び 
多くのホルモン 栄養素の代謝酵素 炎症・免疫反応を調節するサイトカインなどの遺伝子発現が 
PER/CRYと同様にBmal1 / Clockにより活性化されます

上述したフィードバックシステムにより
Bmal1 / Clockの発現には概日リズムがありますから
その標的遺伝子の発現にも概日リズムが生まれ 
翻訳されるタンパク分子の機能も概日リズムが生じます


つまり 昼と夜では働くタンパク分子の種類や量が異なる


ヒトの体の内分泌系 代謝系 ⾃律神経系などの働きの慨日リズムは 
こうして出来上がっています

ですから時計遺伝子の発現に異常があったり 
時計遺伝子そのものに異常があったりすると 
ホルモン分泌や代謝調節の概日リズムが崩れて 非生理的な働きを示し
本来働くべき時間に働かなかったり 働かない時間に働いたりするので
その結果として 肥満や糖尿病になってしまう

慨日リズムの異常により病気が生じてくるのは こうした理由によるものです

実際にBmal1脂肪細胞の分化 成熟脂肪細胞の機能に関連していますが
Bmal1欠損マウスでは 
中性脂肪やコレステロールが上昇し インスリンの分泌不全が起こり 
肥満になります
またClock欠損マウスは
過食になり 脂質代謝異常 脂肪肝 インスリン分泌不全 肥満が見られます

ヒトではClock遺伝子多型と肥満の関連が報告され 
3111T/C多型は夜型になりやすく 
体重が増えやすく 食事による減量がされにくいことが明らかにされています


*ヒトの体で24時間周期の概日リズムが形成される機序
*概日リズムが乱れると糖尿病や肥満などの病気が生じてしまう理由
をイメージしていただくことができたでしょうか?

書き手も概日リズムの概念は知っていましたが
その乱れが睡眠障害だけでなく 
糖尿病などの生活習慣病の発症に関わっていることは知りませんでした

ホント ヒトの体の働きは巧妙に調節されているものです


今日の話は少し難しかったかもしれませんが
この基本を理解しておいていただくと 
次回からの話をより面白く読んでいただけると思います

次回はもっと具体的な 
概日リズムと健康の関連についての 興味深いお話をご紹介します

2015.06.16更新

睡眠時間の短縮や質の低下が糖尿病を引き起こすことをご紹介しましたが
そもそもヒトにはどうして 
寝たり起きたりする睡眠リズムがあるのでしょう?

16世紀にガリレオが「それでも地球は動く」と異端訊問でも頑張ったように

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地球は自転していますから 太陽がきらめく昼と 月が輝く夜が交互に訪れる

ヒトは太古の昔から生存するために
そうした抗いようもない自然環境に適応した生き方を身に着けてきました

それがサーカデイアンリズム(概日リズム)です

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朝 明るくなったら目覚めて活動する 
夜 暗くなったら活動をやめて体を休めて寝る

そのリズムを繰り返すことで 
ヒトは自転する地球の上で生きながらえてきたのです

そして ヒトのさまざまな生体反応はこの概日リズムに支配されています

睡眠はもちろん 
ホルモン分泌 血圧や体温の調節 栄養素の代謝などなど、、、

つまり これらの生体反応は昼と夜では働き方が異なる 
ここが大きなポイントです

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しかし現代社会ではこの概日リズムが乱れてきています

その大きな原因のひとつは 照明によって夜が明るくなってきたこと
昔は夜になると暗くなったのでヒトは自然に寝ていましたが 
照明で明るい夜になったので いつまでも寝ない宵っ張りの人達が現れた

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夜眠くなるのはメラトニンという脳内で分泌されるホルモンの影響が大きい
メラトニンは昼間の分泌量が少なく 
夜になると分泌量が増し夜中2時に最高値になる

メラトニンの作用によりヒトは眠くなりますが
夜に光を浴びると脳が昼間と勘違いして 
メラトニンの分泌が抑制されるので眠たくなくなってしまいます

だから夜に明るいのはマズイ!

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もうひとつの大きな原因は 不規則な時間の食事です

冷蔵庫ができて コンビニやファミレスができて 
夜何時でも食事できるようになった
(なぜ食事が関わってくるかは こちらをご覧ください

しかも夜のコンビニは異常に明るい!

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こうした社会環境の変化は 
ヒトの概日リズムを大きく狂わせるようになりました

その乱れが 概日リズムで支配されているホルモン分泌 栄養素の代謝 
自律神経などの乱れ
を誘い さまざまな障害が生まれてきているのです
  
概日リズムの変化はさまざまな病気の発症に関与しています
もちろん糖尿病もそのひとつです


それにしても ここまで書いてきてつらつら思うのは

太古の昔は食糧事情が悪かったので ご先祖様は飢餓に耐えられる体質を作った
しかし今は飽食の時代になり 
その体質があだになり糖尿病が増えてきてしまった
 
塩が貴重だったので ご先祖様は塩分を体内に保持する体質を作った
しかし今は塩が簡単に手に入り外食で沢山の塩分をとるので
高血圧が増えてきてしまった
 
そして今度は 昔と異なり 
夜が明るく いつでも食べられる社会環境になったので
慨日リズムに反した夜更かしや夜食が増えて 
さまざまな健康面での障害が出てきている

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現代人が抱える生活習慣病や健康問題の多くは 
ご先祖様から引き継いだ体質と社会環境の変化のコンフリクト
から生まれてきているようで

そう思うと なんだか複雑な気分です

現代社会は便利になったけれど 
その代償で(?)さまざまな健康上の問題が出てきてしまった

かといって 原始人の生活に戻るわけにはいきませんしね、、、


ちなみに 個人的には暗い夜は嫌いではありません
照明は直接より間接の方が落ち着くし 
明るい青い光より少し暗い暖色系の光が好きです

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やっぱり夜は暗くないと

今宵は部屋の照明を落とし気味にして 
谷崎の陰翳礼讃でもひもときましょうか、、、

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