左利き肝臓専門医ブログ

2015.10.19更新

秋の紅葉の話題をご紹介したときに
紅葉後の落葉は自己犠牲をともなう切ないものお話ししましたが

緑の葉が赤や黄色に色付いて やがてハラハラと落ちていく現象は
生物学的には「アポトーシス」と呼ばれます 

ヒトのような多細胞生物を構成する細胞の死に方には何種類かあり
そのうちのひとつが このアポトーシスです

アポトーシスは 簡単に言うと細胞が自殺する死に方です

細胞が存在する環境に変化が生じ 
多細胞生物にとって その細胞が存在しない方が良い状況になったとき
細胞は自らが有するカスパーゼをはじめとする酵素群の働きでDNAを切断し 
自殺してしまうのです

apo1


冬眠状態に入るために水分を節約しようとする樹木にとって
水分をたくさん消費してしまう葉は 困った存在です

だから葉は そうした状況を理解して 
アポトーシスを起こして死んで 落葉していく

もちろん 葉っぱが空気を読むのに長けているわけではありませんし
情緒的に落葉していくわけではありません(笑)

アポトーシスはプログラムされた細胞死と呼ばれ
特定の状況になるとDNA切断に至る酵素反応の引き金が挽かれます
ですから 遺伝的にプログラムされた死 なのです

ヒトでは 発生過程で不要になった余分な細胞や
癌化した細胞や内部に異常を起こした細胞の除去が 
アポトーシスによってなされます

もともとヒトには指と指の間に魚のような水かきの細胞がありますが
発生過程でアポトーシスにより取り除かれるのが良い例です

オタマジャクシがカエルになるときにシッポがなくなるのも
シッポの細胞がアポトーシスを起こすからです

apo1

また ウイルスに感染した細胞の一部は アポトーシスによって除去されます


アポトーシスが生命科学の分野で注目され始めたのは 
書き手が留学していた1990年代のはじめで 
当時ラボでもこの話題で大変盛り上がり
その後数年間は さまざまな分野で
アポトーシスに関する研究が大流行したのを憶えています



さて このアポトーシスが「立つ鳥あとを濁さず」的な死に方だとすると
それと対照的なのが「ネクローシス」という細胞の死に方です

ネクローシスは端的に言うと 病気のときの細胞の死に方で
栄養不足 毒物 外傷などの外的環境要因により誘導されます

アポトーシスを起こした細胞は 自ら小さくなって死んで
マクロファージなどの貪食細胞に取り込まれて処理されるのに対し

ネクローシスを起こした細胞は 
細胞内の成分を周りにまき散らしながら死んでいきます

nec1

だから アポトーシスで死んだ細胞は炎症を起こさず処理されますが

ネクローシスで死んだ細胞のあとには 
巻き散らかされた細胞内成分が原因となり 炎症が起こってしまう

nec2


死んだあとに炎症が残るか残らないか 
これがアポトーシスとネクローシスのいちばんの大きな差異になります

なんらかの原因により 
局所で細胞のネクローシスが持続的に起こる状態になると
その場で炎症が慢性的に生じるようになり

こうした慢性炎症が 動脈硬化や生活習慣病の原因になると考えられています

ですから慢性炎症が生じる機序の解明が 大きな研究課題として認識され 
フロントラインで研究が進められています


このように 細胞の死に方には アポトーシスとネクローシスという
とても好対照なふたつのパターンが認められます

自らがいなくなった後に 周囲にどのような影響を及ぼすか?

アポトーシスとネクローシスのこの差異に気がついたとき 
とても驚いたのを覚えています

なんだか 細胞死という単に生物学的な現象を超えた 
示唆的なものがあるようにも感じられて 
アポトーシスやネクローシスについて考えるとき 
いつも妙に気になります(笑)

 

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