左利き肝臓専門医ブログ

2018.11.29更新

ゲノム編集の解説を始めたところ
タイミングよくというか ビックリするようなニュースが飛び込んできました

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中国の研究者が
これから詳しく紹介する新たなゲノム編集の技術を受精卵に施し
母胎に戻して双子の女の子を出産させたというのです

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斯界は喧々諤々の様相を呈していますが
この件についてはあとで詳しく説明することにして
もう少し基礎的な解説を続けます


さて 遺伝子導入は着実な成果を得られましたが
いかんせん効率が悪いし 成果を得るのに長い年月を要する

もっと速く もっと効率的に! がモットーの現代社会は
新たな遺伝子改変技術を求めます

そして さまざまな試みが成されてきました


<遺伝子ノックアウトマウス・KOマウス>

マウスの受精卵が発育した胚性幹細胞の特定の遺伝子を壊し
そうした遺伝子を持ったマウスを誕生させます

特定の遺伝子を壊したマウスに
どのような変化や現象が起きるか観察できるので
壊された遺伝子が発揮する機能がダイレクトにわかります


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但し この技術はES細胞(胚性幹細胞)がないとできなません

ES細胞は
受精卵から発生が始まったごく初期の一時期しか獲れない細胞で
得るには習熟した技術が必要とされます

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このようにノックアウトマウスの作製には
熟練の技術と何か月にもわたる時間が必要とされ

またマウス・ラットでしか出来ず ヒトに応用することは出来ません

<ゲノム編集の幕開け>

KOマウスの欠点を克服するためにゲノム編集の研究が始まりました

改変したい遺伝子のDNAを何らかの方法で直接切断して
その遺伝子の機能を失わせたり
そこに別のDNA配列を挿入して新たな機能を発現させよう

とする試みです


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第1世代のZFNは1996年に開発され
第2世代のターレン(TALEN)は2010年に開発されました

どちらも
特定の塩基に結合するタンパク質 がガイド役を果たします


@ZFN

まず ガイド役となる
編集したいDNAに結合するタンパク質(ジンクフィンガー:ZFN)を
設計して作成します

ジンクフィンガーは
ミネラルの亜鉛について説明したときに紹介しましたね

ZFNは 結合手を用いて3つの塩基をセットで認識します

このZFNに
遺伝子を切ることが出来る制限酵素(FoKIヌクレアーゼ)を連結させ
ZENが認識した遺伝子部位を切断します

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@TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nucleases)

ガイド役は タンパク質のTALエフェクター TALリピート
ハサミ役は FokⅠヌクレアーゼ 

です

ガイド役のTALエフェクターは

*酵素(TALEN
*転写因子(TALE-TF
*その他の機能性ドメイン

との標的配列特異的な融合により 目的とする標的配列に結合します

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これらの融合タンパク質は 染色体の標的配列を特異的に認識・結合し

*ノックアウト(遺伝子を欠損させる)

*ノックイン(遺伝子を外から組込む)

といった 遺伝子編集を実現させます

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3つの塩基を認識するジンクフィンガー(ZFNs)と異なり
TALエフェクタードメインは 1塩基を認識するため
どのような配列でも標的とすることが可能であり

標的としていないDNA配列を誤って切断するリスクも少なくてすみます


このように 2010年代の始めまでは
ZFNやTALENを用いたゲノム編集が行われていました

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これらは 従来の遺伝子導入とは異なる特定の遺伝子に特異的な技術ですが
作製に時間や費用がかかるのが難点でした

そして いよいよ次の主役 CRISPR/Cas が登場してきます

 

2018.11.28更新

生物の設計図は 遺伝子・DNA にあります

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DNAからどのようにして生物の体が作られるかというと

*細胞の核の中に存在するDNAが設計図となり

*DNAからRNAに情報がうつされて(転写

mRNAを鋳型にしてタンパク質が作られて(翻訳

*タンパク質がさまざまな分子を作り

*さまざまな分子が集まって臓器が作られ

こうしてヒトの体ができてきます


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その大元の設計図であるDNAに改変を加える技術が

開発され続けてきました

ヌクレアーゼ 制限酵素 リガーゼといった
DNAを切ったり貼ったりする物質や技術の発見により


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DNAを人為的に変化させる「遺伝子工学」という研究分野が
急速に発展しました

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<遺伝子導入>

最初に試みられたのが 遺伝子組み換え=遺伝子導入 です

生物の遺伝子に外から別の遺伝子を組み込むことで
生物の性質を変化させる技術で

1970年代から始まりました

この技術を使えば
動物の遺伝子に植物の遺伝子を組み込むことも技術的に可能で
種を超えた遺伝子導入ができるようになったのです

たとえば 大腸菌の遺伝子にヒトの遺伝子を入れ込むこともできます


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遺伝子組み換えに使われる道具は

*遺伝子を切るハサミ と 

*切断された遺伝子をつなぐ糊 です

ハサミは 制限酵素
特定のDNAの塩基配列部位を切断することができます

糊は DNAリガーゼ
遺伝子の断片どうしをつなぎ合わせることができます

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そして重要なのが
導入したい遺伝子を細胞内に入れこむ ベクターと呼ばれる運び屋です

ベクターには
細菌 ウイルス ファージ プラスミドなどの種類があり

それらに導入したい遺伝子を入れ込んでから細胞に感染させて
遺伝子導入を試みます


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動物では 顕微鏡下で卵に直接的に遺伝子注入することもできます


<遺伝子導入の効率>

遺伝子導入の効率は 残念ながらそれほど高いものではありません

制限酵素は
DNAの特定の種類の塩基を認識しますが
遺伝子のどの場所にある塩基かは認識できません

つまり
目的とする塩基が存在する部位はどこでも切断してしまうので
遺伝子のどこが切れてどこに挿入されるかわからないのです

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このように 特定の部位を切るハサミの役割を果たす酵素がなく
運ばれた遺伝子がランダムにDNAに割り込んでしまう仕組みなので

成功率は0.01〜0.001%程度にすぎず
偶然や運に頼ったまさにランダムな技術でした


そして 目的の遺伝子とは異なる遺伝子が壊れてしまうリスクも
常につきまとっていました

このように 基本的には偶然に頼った技術だったので
何万回もやって 初めて上手くいったものを拾い上げられる程度の確率で
成果を得るには長い時間と手間を要しました


<遺伝子組み換え製品の効用>

それでも 遺伝子導入技術の開発により着実な成果が得られました

大腸菌へのヒト遺伝子の導入により
大腸菌にヒトのインスリンを大量に作らせて得られた
遺伝子組み換え型インスリン
糖尿病の患者さんたちに臨床的に使えるようになりました

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現在では インスリン以外にもさまざまなホルモンなどが
この技術を用いて効率よく大量に安価に製造できるようになりました

そして ホルモンなどが足りないために起こる病気の治療などに
大腸菌の遺伝子組み換えで製造されたものが 実際に薬として使用され
とても大きな効果を発揮しています


また
*除草剤に抵抗性があるイネ
*害虫に抵抗性があるトウモロコシ
といった 遺伝子組み換え食品が収穫できるようになりました

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しかし 繰り返しになりますが
成功する確率は0.01〜0.001%程度で
成果を得るには 長い時間と手間を要したのです

 

2018.11.27更新

マッチョな牛

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マグロのように大きな鯛

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そんな牛や鯛 美味しいのかな?

書き手は正直言って そう思ってしまいますが
将来 そうした牛や鯛が食卓を賑わすことになるかもしれません


読み手の皆さんはゲノム編集」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?

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今世紀最大の科学的発見で
ここ数年以内にノーベル賞を獲ることが確実視されている

遺伝子を容易に自由に改変する技術です

マッチョな牛もマグロのような鯛も この技術によって生み出されます

そんなホットな話題の「ゲノム編集」について解説します


<ゲノム編集とは?>

特定の遺伝子を特異的に破壊したり
そこにレポーター遺伝子のノックイン等を行う
新しい遺伝子編集・改変技術です

特定の遺伝子を 狙い撃ちして 操作できるのが最大の特徴で

*簡単に 短時間で出来る

*人を含めた あらゆる種の遺伝子に対して出来る

*成功率が非常に高い

といった利点を有しています

これまでには存在しなかった破格な技術で
人間の設計図である遺伝子を
容易に書き換えてしまうことが出来る


しかし 使い方を誤ると大変なことになってしまうリスクがあります

ヒト受精卵に対してゲノム編集を行うと
改変された遺伝情報が次世代に伝わってしまい 大変危険である

それ故に
科学者だけでなく 生命倫理の研究者 一般社会の人も含めた
使い方に関する社会的なコンセンサスづくりが必要とされています

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しかし なぜこの技術が それほどびっくりするような代物なのか?
ピンとこない方が多いと思います

そこで 遺伝子変異 という現象が
一般的にはどのようにして起こるかを説明をします


<農作物や家畜の品種改良と遺伝子の変化>

生物の世界では 偶然に生じる遺伝子の変化が
長い年月のなかで少しずつ積み重ねられてきました

具体的には

*DNAを構成する塩基のひとつが入れ替わる(点突然変異

*DNAの一部がなくなってしまう(欠失

といった現象です

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植物や家畜などで遺伝子変異が起こると その形質(外観や機能)が変化する

そのことに気がついた人類が
交配を重ねて農作物や家畜の品種改良を行ってきたのです

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たとえば
牛のホルスタインは もともと自然界には存在しませんでしたが
長い年月をかけた交配により 理想的な乳牛を得ることができたました

ただ この結果を得るには 数百年という年月がかかりました


遺伝子変異は
基本的には自然に突然変異が起こって生じますが

遺伝子の突然変異が 有効な品種改良を起こすことに気付いた科学者たちは
人為的に遺伝子変異を起こす方法を考え始めました

そして
放射線や化学物質を用いた人為的な突然変異誘導が行われてきました



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さらに 遺伝子工学の進歩にともない
遺伝子そのものに直接手を加えて 人為的に遺伝子変異を起こそうとする
遺伝子組換えという試みが開始されました


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話を続けます

 

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