左利き肝臓専門医ブログ

2017.08.03更新

老化シリーズの最後に 少し夢のある話題を提供しましょう


ビタミンB3の一種であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)
サーチュイン遺伝子を活性化して 抗老化作用を示し
加齢により生ずるさまざまな病気の改善にも貢献する可能性を紹介しましたが

NMN以外にも 抗老化作用を示す物質が注目されています


@メトホルミン

メトホルミンは糖尿病の治療薬
当院に通院されている糖尿病の患者さんの多くが服用されている薬です

これまでにも 酸化ストレスの減少作用などが報告されていましたが
近年 その抗老化作用が注目されています


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メトホルミンを投与したマウスはそうでないマウスに比べ

*寿命が5%延びること
*摂取カロリーが減り コレステロール値が下がること
*腎臓病やがんの発症が減少すること

が報告され

約78,000人の糖尿病患者さんと
同数の健常人を対象とした大規模研究では

メトホルミン治療を受けている糖尿病患者さんは長生きすることが示され

メトホルミンを投与された70歳代の糖尿病患者さんは
糖尿病でない人に比べ
死亡率が15%減少していることが明らかにされました


メトホルミンにより
ミトコンドリアATP回路が抑制され ATPが産生されなくなると
AMPKという細胞内エネルギーセンサーが活性化され

このAMPKが 後述するmTORC1を抑制することで
老化が抑制されると考えられています


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@ラパマイシン

ラパマイシンは
微生物が産生するマクロライド化合物で 免疫抑制作用を有していますが

mTORC1という
細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼの作用を阻害します


mTORC1
インスリンなどの成長因子 栄養・エネルギー状態 酸化還元状態といった
細胞内外の環境情報を統合し
状況に応じた細胞の分裂 生存などの調節に中心的な役割を果たします

インスリンやアミノ酸が豊富に存在すると mTORC1は活性化され

リボソームにおけるmRNA翻訳を促進し
タンパク質合成を増加させるとともに
オートファジーを阻害して タンパク質の分解を抑制します

これらのmTORC1の作用は 老化を促進することが明らかになっています

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また
mTORC1が変異を起こして活性が低下すると長寿になることが報告され

サーチュイン非依存性のさまざまなメカニズムにより老化が抑制され
長寿になると考えられています

そこでmTORC1の働きを阻害するラパマイシンが
抗老化薬として注目され

マウスでは ラパマイシン投与による寿命延長効果が認められています


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このように メトホルミンも ラパマイシン
老化を促進する細胞内情報伝達系のmTORC1の抑制により
アンチエイジング作用を発揮すると考えられています


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@アデイポネクチン

内臓脂肪細胞が分泌する善玉アデイポカインのアデイポネクチン
その抗老化作用が注目されており

やはり AMPK活性化によるmTORC1抑制が その作用に関与しています


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@DHEA

男性ホルモンの1種のDHEAも
寿命を延長させるホルモンとして注目されています

DHEAはアメリカではサプリとして使われていますが
長期使用により 前立腺がん 卵巣がんが発症するリスクがあります


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ちなみに DHEAは
納豆に含まれるイソフラボンが原料で
鰯に多く含まれるセレンにより分泌が増え

運動やストレスの解消によっても分泌が増加するとされています



@老化細胞除去によるアンチエイジング

最後に 全く新たな視点による 抗老化治療を紹介します

体内での老化細胞の蓄積が
慢性炎症を誘導し 生体の老化を促進することを説明しましたが

この老化細胞を体内から取り除く治療が開発されています


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マウスの実験では
老化細胞を除去したマウスは 除去しなかった同世代のマウスに比べて

腎臓機能の向上 心機能の強化 がん発病の遅れ 白内障の減少などがみられ
さらに寿命も25~35%も延長した
と報告されました


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そして ヒトでも老化細胞を体内から取り除くことができるように
老化細胞を選択的に除去できる化合物が探求されているそうです



これまで解説してきたように
老化が起こる機序については かなり詳細に明らかにされてきましたから

そうした知見をもとに 夢物語ではないアンチエイジング治療が
ヒトに応用される日も遠くないかもしれません

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それまで頑張って 健康に長生きしましょう!(笑)



2017.08.02更新

サーチュイン遺伝子・タンパク
老化抑制をはじめとした さまざまな有意義な作用を
有することがわかりましたが

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その主たる作用である脱アセチル化には NADが必要とされます 


NADは ミトコンドリア電子伝達系のところで解説したように

エネルギー源となるブドウ糖・脂肪酸などの栄養素が
電子伝達系でエネルギー・ATPに変換される過程で

電子伝達に関わる水素原子を受け取る電子供与体ですが

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一方で 補酵素としても働きます

サーチュインがタンパク質を脱アセチル化するときに
反応基質として消費されるのです

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上図に示されるように

サーチュインにくっついているNADが
タンパク質から外れたアセチル基の受け取り手になり 反応が進みます

したがって

サーチュインの脱アセチル化活性は
NADが少ないと保てませんし 充分にあると高まります

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NADによるタンパク質脱アセチル化の効用は

抗酸化酵素群の遺伝子発現を高める

炎症性タンパク質の遺伝子発現を抑える

といったことで 酸化ストレスを防ぎ 慢性炎症を抑制し
その結果として老化反応が抑制されます


こうしたことから

NADを増やす薬 合成系を活性化する薬が
長寿薬の候補として注目されています


NADの合成系は デノボ系サルベージ系のふたつがあり

デノボ系
 アミノ酸のトリプトファンからNADを作る新規合成経路で

サルベージ系
 NADの代謝産物を材料にNADを再合成する いわば廃物利用系で
 デノボ系より反応段階が少なく 手間をかけずに簡単にNADを作れます


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サルベージ系では 上図の右側に示されるように

酵素・NAMPTの働きにより
NADの代謝産物として生じるニコチンアミド(NAM)
NADの前駆体のニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)に変換され

酵素・NMNATの働きにより NMNがNADに変換されます


NMNは ビタミンB3の一種ですが

近年 サーチュイン遺伝子の活性化を介して  老化抑制作用を示すこと
が明らかにされました


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マウスにNMNを投与すると

*インスリン抵抗性の改善
*炎症反応の抑制
*抗酸化酵素の遺伝子発現亢進

が見られたのです

また 脂肪酸の燃焼を亢進させて代謝を活発化させ 体重が減ること
骨格筋でのエネルギー代謝の促進
なども明らかにされました

さらに 糖尿病 アルツハイマー 心不全などの疾患にも
効果があると報告されています


そして 興味深いことに

歳をとったマウスではこうした効果が見られますが
若いマウスでは効果が見られません

これは
老化するとNADが減少しNMNを体内でつくる能力も減少しているためで

高齢者へのNMNの投与が
抗老化作用やさまざまな病気の治療に効果があるのではないかと
期待され 臨床治験も始められています

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ちなみに

サーチュインの働きを高めるNADを増やすには
もっとシンプルな方法があります

それが カロリー制限です

カロリー制限したサルは長生きする
というセンセーショナルな実験結果が話題を呼びましたが

この現象の原因のひとつが

カロリー制限によるNADの増加によるサーチュイン活性化

だったわけです

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2017.08.01更新

ヒトでは7種類あるサーチュイン遺伝子
それぞれどのような働きをしているか 見ていきましょう

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@SIRT1

SIRT1が脱アセチル化する標的タンパクは

*がん化抑制と細胞老化に関わるp53タンパク
*糖代謝・脂質代謝を制御する転写因子PGC-1
*熱ストレス 寒冷刺激に関与に関わるHSP

などがあり

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その機能は

テロメア領域のヒストンの脱アセチル化の制御
*糖新生 コレステロール・脂肪酸の代謝調節
*骨格筋での脂肪酸酸化制御
*インスリン分泌促進
*脳の神経細胞に作用し 記憶に関与
*細胞分化の抑制
*ストレス抵抗性 アポトーシスの制御
日内リズム形成
アデイポネクチン分泌

など 多岐にわたります

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@SIRT2

酵母で最初に発見された長寿遺伝子で 細胞周期の進行を抑制します

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@SIRT3

ミトコンドリアでのケトン体合成に関与します

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@SIRT4

インスリン分泌を抑制します


@SIRT5

肝でのアンモニア分解回路の酵素の活性化し 尿素回路を調節します


@SIRT6

DNA損傷の除去修復 テロメアのクロマチン構造の安定化作用があり
シワなどの皮膚の老化 背中が曲がるなど 見た目の老化と深く関係します

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@SIRT7

細胞のエネルギー供給の調節RNAポリメレースIの転写を抑制します

 

このように サーチュイン遺伝子は さまざまな働きをしていますが

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その多くは 栄養素の代謝や細胞のエネルギー供給にも関わっています

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このことからも
栄養の代謝が老化に深く関連していることがわかると思います


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