左利き肝臓専門医ブログ

2016.10.27更新

男への性分化をイニシエーションするY染色体
X染色体や他の常染色体と比べても
大きさが小さく 染色体上にある遺伝子数も少ないことを説明しましたが

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なぜY染色体は そんなに小さいのでしょう?


数億年前 Y染色体は1400個以上の遺伝子が存在する 大きなものでしたが
それが今や
遺伝子が数十個程度しか存在しない  小さなものになってしまったのです

Y染色体は 時間をかけて 徐々に小さくなってきていて
このままいくと 将来的にはY染色体は消滅するのではないか?

という考え方もあります

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Y染色体がなくなるということは この世から男がいなくなっちゃうの?

はたして どうなのでしょう?



そもそも どうしてY染色体は 小さくなってきているのでしょう?

それには Y染色体が1個しかないことが 大きく影響しています

X染色体は2個あるので DNAになんらかの変異や異常が起こると
もう1個のX染色体によりリカバーされることを説明しましたが

しかし Y染色体は1個しかないので リカバーが起きません


一般に DNAに変異や異常が起こると
それは体にとって有害なDNAになるので
変化を起こしたDNAは取り除かれてしまいます

この 変化が生じたDNAが切れてなくなる反応を「欠失」と呼びますが
その際に 近傍にある正常な遺伝子も失われることがあり
徐々に遺伝子数が減り 染色体は短くなっていきます

もちろん 性分化を決定するSRY遺伝子などの重要な遺伝子は
優先的に残される仕組みができていますが
そうでないDNAや遺伝子は 染色体から削られてしまうのです

mf62


DNAの変異は 日常的に起こっていることですから
変異して有害になったDNAの蓄積と その排除である欠失も
現在進行形で行われています

だから Y染色体は数億年の時間をかけて小さくなってきて
その傾向はこれからも持続していくと考えられるので

やがてY染色体は消滅してしまうのではないか と危惧されているわけです



ただし 近年の研究によると
Y染色体は なんとかしぶとく踏みとどまっているようです

この2500万年間ほどの間には Y染色体の遺伝子の消失は起きていないそうで
大きさも小さくなってはいない

現在Y染色体上に残された遺伝子は
生体の働きにとってとても大事な遺伝子なので 選択的に残されたもので
これ以上Y染色体が短くなることはないのではないか
という推測もあります


2500万年 なかなかイメージできませんが(笑)


一方で 今から1000万年後には Y染色体は消失してしまう
という仮説を提出している研究者もいるようです

このあたりは タイムスパンがとても長いので 
リアルのイメージできませんが

まあとりあえず 書き手が生きている間は
この世からY染色体がなくなったり
男がいなくなったりすることはなさそうです(笑)



ちなみに 性染色体がXXで Y染色体を持たないにも関わらず
男である方が ごく稀に存在するそうで

そうした方は 
男性化へのイニシエーションを行うY染色体上のSRY遺伝子が
X染色体に移っている(転座といいます)のだそうです

ですから Y染色体は存在しなくても SRY遺伝子は働くので
男性への性分化の舵が切られるようです


また マウスを用いた実験でも
性染色体がXXの雌になるはずのマウスの受精卵に
SRY遺伝子を遺伝子導入すると ちゃんと雄マウスになるそうですし

奄美大島と徳之島にいるトゲネズミには
なんと200万年以上前からY染色体がありませんが 
不思議なことに雄がいるそうです

これは 本来Y染色体上にあるはずのヒトのSRY遺伝子のような
男性へ性分化させる遺伝子が X染色体に転座したたためではないか
と推測されていますが 詳細はわかっていないようです


こうしたいくつかの事象を眺めてみると
たとえ将来 Y染色体が消失してしまっても 男は生き残るかもしれない?

弱い弱いと言われてきた男の子も 意外に粘り強いのかもしれないし

それに 
世の中は 男も女もいるから面白いのであって

そのあたりは ちゃんと神様も考えておられるでしょう?(笑)



2016.10.26更新

Y染色体がないと男になれない という話をしましたが

雌雄同体状態から男に分化するとき
具体的にどのようなことが起こっているのでしょう?


胎児は 妊娠7週目までは その体内に

*女性生殖器の原器であるミュラー管と
*男性生殖器の原器であるウオルフ管

の両方を有しています

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まさに 未分化の生殖器原器を有した 雌雄同体の状態


しかし Y染色体があると
妊娠8週目に 生殖器が男性になるように舵が切られます

Y染色体の端っこに存在するSRYという遺伝子が働き始めるのです

mf3

SRY遺伝子はSRYタンパク質を作りますが
このSRYタンパク質は転写因子
男性化を引き起こすさまざまな遺伝子に結合して活性化し

その結果 多くの男性化誘導タンパク質が作られるようになり
それらの協調作用により精巣が作られ
精巣から男性ホルモン(テストステロンが分泌されるようになる

男性ホルモンは
男性生殖器の原器のウオルフ管に作用して 男性生殖器が作られ始めますが

一方で精巣は
女性生殖器の原器のミュラー管を退化させる
抗ミュラー管ホルモンも分泌するので
女性生殖器は 体内から消えてなくなります

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こうして 雌雄同体状態から男への分化の道筋ができるのです


もし Y染色体がなければ
12週頃に 未分化性腺は自動的に卵巣になり
ミュラー管から卵管や子宮ができてきます

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何度もしつこくて申し訳ありませんが

女は存在 男は現象 なのです



ちなみに 男性へ性分化のイニシエーションは
このようにY染色体上に存在するSRY遺伝子によってなされますが

Y染色体・SRY遺伝子以外にも 性分化決定に関わる因子があります

常染色体に存在する

*11番染色体のM33
*13番染色体のFGF9
*1番染色体のWNT4

などで

性決定にはいくつかのステップがあり 
各ステップにおいて さまざまな遺伝子が働き
複数の遺伝子が相互に協力して性分化が起こると考えられています


また 精巣から分泌される男性ホルモンが
胎児期に大量に分泌されることも 性分化には重要です

大量分泌された男性ホルモンは
生殖器以外の臓器や細胞にも働きかけて 男らしさを形成していきます

有名なのは 脳の形成への男性ホルモンの影響で
男性ホルモンの作用がある場合(男)と ない場合(女)では
脳の状態が微妙に異なってくると言われていますが

このあたりは不確実なデータも多いので 今回はご紹介しません



さて最後に 
性染色体の数の異常により起こる 性分化の異常についてご紹介します

精子と卵子から受精卵が作られるときのちょっとした手違いで
性染色体の数が増えて3個になったり 減って1個になることがあります 


増える場合を クラインフェルター症候群と呼び

性染色体は1個多いXXY(染色体総数は47本)で
Y染色体を持っているので 身体的な特徴は男性になります


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しかし 精子の数が少ないため不妊になりやすく
乳房が女性のように発達することもあります

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減る場合は ターナー症候群と呼ばれ

性染色体はXを1本しか持っておらず(染色体総数は45本)
身体的な特徴は女性を示します

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しかし卵巣が発育不全になるので
第二次性徴は起こらず 生理も起こりません

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また Y染色体を有していても 女性外性器を有する場合もあり
アンドロゲン不応症と呼ばれています

Y染色体は正常で 男性ホルモンのアンドロゲンも通常に分泌されますが

アンドロゲン受容体に異常があるので アンドロゲンが機能せず
そのために男性外性器が形成されず 女性外性器になってしまいます

しかし Y染色体の働きで
男への性分化のイニシエーションは普通に起こっているので
卵巣や子宮は作られません

また 男性ホルモンの一部が女性ホルモンに変換されるので
思春期には女性の体形になります

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なんとも不可思議な状況ですが

ちなみに 異常を起こすアンドロゲン受容体の遺伝子は
X染色体上に存在しています


性の分化 性染色体の世界は 奥が深いです


で 最近 社会的認知度がとても高まっている 性同一症候群ですが
上記の性染色体異常などの方が 性同一症候群になりやすいという傾向は
全くないようです

こちらも 奥が深いです



2016.10.25更新

女性はX染色体を2個持ち 
男性はX染色体を1個 Y染色体を1個持っている

この差は 実はとても大きいのです


というのも 

前回説明したように X染色体上には
生命活動に必須な遺伝子が数多く存在しています

もし X染色体上のそうした重要な遺伝子に変異が生じて働かなくなったら
重大な病気が生じてしまいます


<女性の賢さ>

しかし 女性はX染色体を 父親由来 母親由来 の計2個持っています

ですから どちらかのX染色体にに異常があっても
他方がリカバーして 
病気の発症を防ぐことができます


えっ? わかったようで わからないぞ 
と 戸惑われている方も多いでしょうから もう少し詳しく説明します


繰り返しますが
女性は 父親由来 母親由来の 2個のX染色体を持っています


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しかし 2個のX染色体のうちの片方は
発生初期にランダムに不活化され その遺伝子は働かなくなります

この現象は 2個のX染色体から過剰な量の遺伝子が発現して
余計なダブリが生じてしまうのを抑制するために生ずると考えられています

生体にとっては 必要な遺伝子が無いのは困りますが 
必要以上にあっても かえって困るのです


ポイントは

母親由来 父親由来 の2個のX染色体
上の図の ピンクのX と ブルーのX のどちらが不活性化されるかは
細胞によってランダムに起こることで

つまり 女性の体の中には

*母親由来のX染色体が不活化されている細胞 と
*父親由来のX染色体が不活化されている細胞 が

同数ずつ存在しているわけです


こうした現象により 
女性では X染色体に存在する遺伝子の働きが担保されるのです


どういうことかというと

父親由来 母親由来の2個のX染色体の どちらかに遺伝子異常があっても
異常がない方のX染色体の遺伝子が正常に働くいている細胞が
女性の体には 半数存在しているので

個体としては
X染色体遺伝子の異常により生ずる病気の発症が 防御できるのです

女性の賢さです


<男性の弱さ>

しかし 男性はX染色体を1個しか持っていません

ですから そのX染色体の遺伝子に異常があったら
女性のようにリカバーすることができず 病気を発症してしまいます

つまり男性は X染色体の遺伝子の異常による病気になりやすい


こうした病気は 伴性劣性遺伝病と呼ばれ
筋ジストロフィー 無γグロブリン血症 血友病 色覚異常などがあり

いずれも男性が発症し 女性は発症しません

男の弱さです


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<女性の哀しさ>

しかし 男子が伴性劣性遺伝病を発症するのは

お父さんが伴性劣性遺伝病でない場合は
お母さんがX染色体の遺伝子異常を有していることによります

このように 遺伝子異常があるX染色体を1個有している女性
保因者と言いますが

お父さんが健常で お母さんが保因者だと
生まれてくる女子は発症せず(50%は保因者になりますが)
一方 生まれてくる男子の50%は発症してしまいます

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また
女性が保因者ではなくても パートナーが伴性劣性遺伝病の患者さんだと

生まれてくる男子は正常でも 

女子は保因者となり
孫以下の代で病気を発症させてしまうリスクがあります

どういうことかというと

お母さんは健常なので 2個のX染色体はいずれも異常ありませんが
お父さんが患者さんだと お父さんのX染色体は異常があります

すると 生まれてくる子供は
男子は 母親の正常なX染色体を受継ぐので健常ですが

女子は 父親の異常なX染色体と 母親の正常なX染色体を受継ぐので
上記に説明したように リカバーにより病気は発症しませんが

受継いだ父親の異常なX染色体の保因者となって 次の世代に伝えてしまう

つまり その保因者のお母さんから生まれた女の子が
成長して結婚して子供を作るとき
上記で説明したような状況になるのです

男の子の孫が 発症するリスクがある

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女性は 自らが伴性劣性遺伝病を発症することはありませんが
X染色体上にある原因遺伝子の保因者 キャリアとなり
子孫にリスクを継いでしまう

女性の哀しさです



近親相姦がマズいのは こうした理由によるもので

ヨーロッパの王室では 近親相姦が繰り返された結果

ハプスブルグ家では 知的障害をもった子供が数多く生まれ

ロマノフ王朝では 血友病に苦しむ跡取りが多く
その悩みをラスプーチンなどにつけこまれ
結果としてロシア革命が達成される原因のひとつにもなりました


ということで 

男(Y染色体)は 単純に弱いだけだけれど 
女(X染色体)は 賢いけれど 執拗で 哀しいのです、、、

ちょっと 短絡かつ煽情的な表現でしたでしょうか?(苦笑)



2016.10.20更新

同じ性染色体でも X染色体とY染色体はずいぶん違います


まず 大きさですが
ヒトのX染色体は Y染色体に比べてとても大きい

X染色体は
全染色体のなかでも最大の7番染色体に次ぐ大きさですが

Y染色体はとても小さく
X染色体の1/3ほどの大きさしかありません


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染色体に存在するDNAの総塩基数
X染色体が1億6300万に対し 
Y染色体は5100万と1/3以下しかなく

タンパク質を作る遺伝子の数
X染色体は1098個と 全遺伝子の5%程度もあるのに対し
Y染色体は わずか78個しかありません

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しかもY染色体上には 有効な遺伝子が存在しない領域が多く存在し
遺伝子密度は他の染色体に比べて圧倒的に少ない


既に説明しましたように
Y染色体は男性になるのに必須な染色体ですが
そのわりには 大きさも遺伝子数も とても貧弱です

Y染色体は 確かに性の決定には重要ですが

女性はY染色体を有していなくても なんの不都合もなく生きていけるので
Y染色体には 個体の生命活動に必須な遺伝子は存在しないと言えます

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一方 X染色体には 生きていく上でとても大切な遺伝子が存在しています

筆頭は 免疫機能に関連する因子群の遺伝子
主だった免疫に関する遺伝子は ほとんどがX染色体上にあります

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それ以外にも
血液を固まらせる因子 筋肉を丈夫にする因子の遺伝子
知的発達や自閉症に関連する因子の遺伝子
色覚に関連する遺伝子なども 存在しています


一方 Y染色体上には
精巣を作るSRYという遺伝子 これが性決定に最重要な働きを示しますが

他には 精子を作るDAZという遺伝子
身長を決めるY成長遺伝子(男性が女性より背が高いのはこの遺伝子のため)
歯のエナメル質を作る遺伝子
などがあるだけです


このように 大きさも 遺伝子の数も 遺伝子の働きの重要性も
X染色体はY染色体のそれらを上回ります

どうもY染色体は分が悪いですね

男の分が悪いのは どこぞの家庭のようです?(笑)



実際に X染色体を2本持つ女性は
男性よりも倍の適応能力がある可能性があるとされています

小児医療が発達していなかった昔は 女児より男児の死亡率がずっと高く
男性よりも女性の平均寿命が長いのは
女性がX染色体を2個持つためとも言われています


一方で X染色体を2個持つ女性が不利な面もあります

それは 女性は男性より 自己免疫疾患が多く発症することです

自己免疫疾患とは 関節リウマチや慢性甲状腺炎のような
自分の成分に対して免疫反応が生じて 病気になってしまうもので
男性に比べて女性の方が 発症率が高い病気が多い

autoimmune

この原因のひとつとして

例えば母親由来のX染色体を受継いだ免疫担当細胞が
父親由来のX染色体を使っている自分の他の細胞を
自分の細胞ではない(非自己細胞)と認識する事により

その細胞を攻撃してしまうことで 自己免疫反応が起こる現象が
想定されています

こうした現象は マイクロキメリズム と呼ばれていますが
実際に多くの自己免疫疾患において
マイクロキメリズムの存在が認められています


性染色体が関与する病気は 他にもありますが
長くなってきたので 次回に続きとします

 

2016.10.19更新

男を男たらしめるのは 性染色体のY染色体 というお話をしましたが

性染色体ってなに? という方も多いと思いますので 詳しく説明します


染色体は 遺伝子検査の解説で説明したように
DNAがとぐろを巻いて 折り重なって形成されているものです


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ヒトの細胞の核のなかには
22対の常染色体と 2本の性染色体があります

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性染色体には X染色体と Y染色体があり


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女性は X染色体を2個持ち
男性は X染色体を1個 Y染色体を1個 持っています

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では どうして女性と男性は 持っている性染色体が異なるのでしょう?

お父さんの精子とお母さんの卵子が結合して受精卵ができ
受精卵が分裂を繰り返して 胎児が発生してきて ヒトになりますが

受精卵の核には
精子がもつ22対の常染色体 卵子がもつ22対の常染色体が存在しますが

性染色体は
卵子から X染色体を1本受継ぎ
精子から X染色体かY染色体のどちらかを受継ぎます

精子からX染色体を受継ぐと 性染色体の組合せはXXとなり
その受精卵は女の子になります

精子からY染色体を受継ぐと 組合せはXYになり
受精卵は男の子になります

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前回 説明したように 
Y染色体があると 男性になり
Y染色体がなければ 女性になるからです



少し話が本筋から脱線しますが

ミトコンドリア・イブの話をしたときに
ミトコンドリアのDNAは お母さんからしか受継がれないので
ミトコンドリアDNAを解析していけば 女系のルーツにたどりつける
と 紹介しました

一方 Y染色体は男にしか存在しないので
ミトコンドリアDNAとは逆に
Y染色体の遺伝子を解析すれば 男系のルーツにたどりつくことができます

Y染色体は分裂するときに染色体の交差が起こらないので
変化せずに伝わり 保存状態も良いので さらに好都合です

実際にそうした解析がなされ 女性と同様に
男性のルーツも 6万年前にアフリカに存在していたことが示されました

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さらに話が脱線して恐縮ですが

現在の日本人の男性が持つY染色体の遺伝子タイプは
ユーラシア大陸には存在していません

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どういうことかというと

人類の祖先がアフリカからヨーロッパを経て
ユーラシア大陸を東に向かって 日本にたどりついたとされていますが

どうも日本人男性の祖先は
ヨーロッパやユーラシア大陸では 争いに負けて排除されてしまったようで
だから日本人のY染色体遺伝子タイプは 彼の地にはない


つまり 争いに負けて はるかかなたの日本にまで落ち延びてきて
ようやく安住の地を見つけたのが 日本人男性のルーツのようで

こんな話を聞くと 日本男児 なんとなく哀しくなりますね(苦笑)


ちなみに 現在の日本人女性のミトコンドリアDNAは
今もユーラシア大陸に残っているそうです


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うーん 頭が上がらない理由は そういうこと?(再苦笑)



脱線ついでに もうひとつ

世界でいちばん広い地域に残っている=世界最強のY染色体遺伝子は
チンギス・カーンのものだそうです

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ホント?(笑)


脱線しすぎたので X染色体 Y染色体の詳しい解説は 次回にします



2016.10.18更新

ガラスの天井を打ち破る女性が増えてきた話題を紹介しましたが
書き手は政治や経済は専門ではないので

男と女の違いを 生物学的に解説しましょう


今日のタイトルの

女は存在 男は現象

という文言は 
免疫学の権威で 自作の新作能も作られた多田富雄先生が
なにかの座談会で述べられた名言です

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でも どういう意味なのでしょう?

文化的 社会的な観点からも
とても奥が深い含蓄のある言葉のようにも思えますが

実はこの言葉

ヒトの発生における性の決定現象についての 趣のある表現です

書き手は多田先生のことは 免疫学の教科書や
名著「免疫の意味論」をはじめとする数々の著作を読ませていただき
とても尊敬していますが

それにしても うまい表現をされたものだと 感心しています


男と女は どのようにして誕生してくるのでしょう?

精子と卵子が結合して受精卵を作り
お母さんの子宮のなかの胎盤の上で 受精卵が分裂を繰り返して
徐々に胎児の体ができあがってきます

こうしたプロセスの途中で
胎児は 男の子になるか 女の子になるか が決定されます

その時期は 妊娠してから8週目頃とされています

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つまり 受精卵が作られて7週目までは
胎児は男の子になるか女の子になるか決められていない
いわば雌雄同体のような状況で 発育しているのです


では 妊娠8週目で いったいどんなイベントが起こるのでしょう?

実はこの時期に 性染色体のY染色体が働き始めるのです

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Y染色体 

聞いたことがあると思います


性染色体については 次回詳しく説明しますが

Y染色体は男性になる受精卵にしか存在しておらず
女性になる受精卵には Y染色体は存在しません

そして Y染色体上に存在する遺伝子の働きにより
精巣が作られるようになり

やがて精巣から男性ホルモンが分泌されるようになり
男性の生殖器が作られるようになります

こうして 胎児の性が 男に決定される


つまり Y染色体がなければ 男にならない

Y染色体が存在しなければ
胎児は妊娠11週目くらいから 自動的に女性生殖器が作られ始めます

多田先生が 女は存在 と表現されたのは こうした理由によるものです

ね なかなかウイットに富んだ表現でしょう(笑)


性分化のベース・元型として存在しているのは女性で
Y染色体というインパクトがなければ 男性は分化してこないのです


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なるほど 女が存在 である理由はわかりましたが

では どうして 男は現象 なのでしょう?


メルケルさんや メイさんや ヒラリーさんや 小池さんをはじめとした
多くの女性たちに

あなたも 男は現象だと思われますか? と聞いてみたいものです(笑)


読み手の “存在”の皆さん “現象”の皆さんは 
この文言 どのように思われますか?

書き手は さすが多田先生 けだし名言 と思っていますが
それ以上のコメントは 敢えて避けます(笑)



2016.10.04更新

ブログネタは up to date でないと!
そうでなくても 新しもの好きの江戸っ子だから!


というわけで 当初の予定では 今日は便秘の解説をする予定でしたが

大隅先生が今年のノーベル医学・生理学賞を受賞されたニュースを聞いて

急遽 オートファジーネタに! (なんて節操がない!:苦笑)

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オートファジーについては いずれシリーズで詳しく説明しますが

思い切り端的に言うと

細胞のなかで
不要になった細胞内小器官やタンパク質を分解する仕組みのことです



もともとは 細胞が飢餓状態 栄養が供給されない状態になったときに
その細胞を顕微鏡で観察すると
細胞のなかに 見慣れない構造物があった

それを発見したのが オートファジー研究の途端だったと聞いています


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その 膜で囲まれた見慣れない構造物は オートファゴソームと名付けられ
その中には ミトコンドリアなどの細胞内小器官が
取り込まれていることがわかりました

そして
タンパク質分解酵素のリソソームが オートファゴソームにくっついて
オートリソソームを形成して

その中で 細胞内小器官やタンパク質などの細胞内成分が
分解されていることがわかりました


この現象は 最初は 細胞が飢餓状態になったときに
自らの細胞内成分やタンパク質を分解してアミノ酸を得て
それを再利用して飢餓に対応する生理現象と考えられていました


autophagynobel3

 

 

確かにオートファジーの本質はそうなのですが

最近は 飢餓状態への対応だけでなく
さまざまな生理現象にも関わっていることが わかってきました

antophagunovel4

 

たとえば 受精卵から胎児が育ってくる発生現象の過程で
不必要となった構造物やタンパク質が オートファジーによって分解されます

また 体内に侵入してきた細菌やウイルスを排除する免疫反応にも
オートファジーが深く関与すると考えられています


一方 生理現象だけでなく 病気の形成にも関与することがわかってきています

パーキンソン病などの難治性神経変性疾患
神経細胞の中にゴミが溜まることが発症に関与すると考えられていますが

そうした不要な細胞内のゴミを分解するのが まさにオートファジーで
パーキンソン病などでは オートファジーに不具合があるのではないかと
推察されています


もっと身近では 肥満や生活習慣病の原因となる 脂肪酸や糖が

脂肪組織やグリコーゲンなどの体内の貯蔵庫から
分解されて血中に放出される過程にも
オートファジーが関与すると考えられています


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ですから 飢餓状態での適応反応として見出された
あまり馴染みのない ぴんとこないオートファジーという現象は

実は さまざまな神経変性疾患や生活習慣病にも関与する
とても身近なものなのです



大隅先生は27年前に 酵母を用いた研究でオートファジー現象を発見され
上述したような この分野での研究発展の基礎を築かれました

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書き手としては オートファジーと同様に
細胞内の不要なタンパク質を分解するプロテアソーム系の研究の方が
(こちらも日本人の田中啓二先生が大きな貢献をされています)
先に受賞されるのかなと思っていたので ちょっと意外でした


もうひとつ意外だったことは

オートファジーが受賞対象になる場合は 大隅先生だけでなく

大隅先生の研究室で ヒトにおけるオートファジー現象を解析され
その分子機構を詳細に明らかにされた
共同研究者の先生も一緒に受賞されるのでは?と予想されていたのに

受賞者は 大隅先生おひとりだったことです

ノーベルコミティからの電話インタビューで
大隅先生ご自身も 単独受賞に驚かれていたようでした

医学・生理学賞の単独受賞は 久し振りなのではないでしょうか? 



新しい現象を見出すことこそが大事である という評価なのでしょう

基礎科学の世界の厳しさも ちょっと感じました



蛇足ですが 書き手が若い頃に数年間留学していたのが
ノーベル賞を選考する スウエーデンのカロリンスカ研究所でして

留学の最後の年にはボスの計らいで 授賞式にも参加させていただきました

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貸衣装屋さんで燕尾服を借りたりして 馬子にも衣装で大変でしたよ(苦笑)


大隅先生 おめでとうございます!
そして 長年のご精進 おつかれさまでした

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これを機会に この分野の研究がますます発展して
身近な生活習慣病の治療にまで その成果が及ぶことを期待したいと思います

オートファジーの詳細については また稿を改めて解説します

 

 

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