左利き肝臓専門医ブログ

2015.04.27更新

「個人向け遺伝子検査」を理解するための基礎的事柄を解説してきましたが
あらためて巷に出回っている検査キットを俯瞰してみると 
実に多種多様なものがあります

太りやすさ 前回紹介したアルコールの強さといった
体質に関するものがいちばん多く
糖尿病などの生活習慣病関連のものもよく見られます

 1061


さまざまな検査キットが対象としている疾患は
合わせると300種類以上もあるそうで
2013年の経済産業省の報告によれば 
実に700社以上の企業や機関が関連しており
まさに一大マーケットとなりつつあるようです

某経済誌にでていましたが 日本ではかなりの業界大手も参画しています

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で 個人向け遺伝子検査の管轄官庁は 
厚生労働省でなく経済産業省なのですね 


それが意味するところは?
(笑)


さて 今まで解説してきたように
それらの多くが疾患関連SNPの解析を行っていますが
得られた結果をどのように解釈 評価すべきかは とても重要なポイントです

まず勘違いしないように注意すべきことは

疾患関連SNPが意味することは
その病気の人のグループでは健康人のグループと比べて 
その遺伝子の特定のSNPタイプの出現頻度が高いということで

そのSNPタイプの人は 必ずその病気になるわけではない
そのSNPタイプではない人は 絶対にその病気にならないわけでもありません

つまり疾患関連SNPが陽性であるということは
ある病気になるリスク因子とは言えますが 
決定因子ではないということです

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また 多くの病気は
遺伝因子と環境因子が関与する多因子疾患であることを説明しましたが
関与する遺伝因子も環境因子も1種類だけでなく複数存在するのです

ひとつの病気に複数の疾患関連SNPがあることがほとんどなので 
そのうちのひとつのSNPの結果だけで評価するのは難しい

複数ある疾患特異的な疾患関連SNPのうち
いくつかが陽性の人は ひとつだけが陽性の人に比べると 
病気になる確率が何倍も高くなることが報告されています

こうした事実を鑑みて 
結果を過大評価したり過小評価することがないように注意する
必要があります


また 同じ肥満に関する検査でも
会社によって選ぶ遺伝子の種類が異なっていたり
同じ遺伝子でも会社によって判定に用いる学術論文が異なったりします

学会が責任をもって作成したガイドラインのような指標があって
それに準拠して検査や判定を行っているわけではないので

極端な話 
同じSNPの解析をしていても
会社によって結果が異なることもあり得るかもしれません

2013年11月には 
アメリカの医療検査などを監督する権威あるお役所の食品医薬品局(FDA)が
「遺伝子検査の結果が間違っていた場合や 
 
利用者が検査結果を適切に理解しなかった場合に
 深刻な問題が生じる懸念がある」
との警告を この業界に発したこともあります

このコメントでも言及されているように 
利用者の適切な理解も問われているのです

さらに日本では 
先の経済産業省のレポート遺伝子検査業者を選ぶ際のチェックリストとして
・判定の科学的根拠について説明している
・判定は同じ遺伝子の特徴を有している人の一般的傾向であることを示している
・ホームページなどで説明資料と同意書を得ることが出来る
・検査結果に基づく商品販売などの有償の二次的サービスの有無を明示している
・二次的サービスは拒否でき サービスの科学的根拠も明記してある
・事業が準拠しているガイドラインの名前が明示されている
・遺伝子の検査をする機関名が明示されている
・検査の前後でのカウンセリングなど相談に乗る仕組みがある
といったことが示されています

やはり 厚労省が監督する類のものでは まだなくて 
経産省が健全なビジネスとして育成していこうとする範疇のものなのでしょう


では わざわざ高いお金を払って 
個人向け遺伝子検査などしても意味がないのでしょうか?

書き手は 全く意味がないことはないと考えます

特に肥満や生活習慣病に関する検査で陽性になった場合は
将来 太ったり病気になるリスクがあるとご自分で認識されることで
生活習慣を見直したり改善するきっかけや動機づけにしていただければ 
有意義だと思います

逆に ある検査で陰性になったからといって安心してしまい
調べていない他のリスクが隠れているかもしれないのに 
乱れた生活習慣の日々を過すことで 
本当に病気になったり太ってしま
という逆のパターンもあり得るので注意が必要です


最後に 決して安い検査ではありませんから コストに見合うかどうかは、、、

その判断は あなた次第です!(笑)

1065

2015.04.24更新

1塩基の違いであるSNPは遺伝子多型のなかで最も数多く認められ 
500~1000塩基対に1ヶ所
ヒトのゲノム上には300~1000万ヵ所 
遺伝子上には100万ヶ所ものSNPが存在しています

これだけの数のSNPが認められるので 
病気の発症や進展に関係すると推測されるわけです

SNPは個々人それぞれの遺伝子的個性・体質が異なる原因になります

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なぜかというと

先回ご説明したように 
遺伝子の塩基配列はmRNAを介してタンパク質を作りますが 
あるタンパク質を作る遺伝子の塩基配列にSNPが存在すると
作られるタンパク質の機能や量に変化が生じる可能性があるからです

つまりSNPによる遺伝子的個性・体質の違いは 
作られるタンパク質の質的・量的変化となって表れてくる

特にあるタンパク質を作る遺伝子のなかで
・その遺伝子の発現を制御するプロモーター領域
・タンパク質そのものを作る翻訳領域
にSNPが存在すると 
作られるタンパク質の量や機能が変化する可能性が大きいのです

一方で そのような部位以外のDNAに存在するSNPは 
ヒトの遺伝子的個性・体質には 
影響を及ぼさない可能性が高いと考えられます


SNPがタンパク質の機能に影響を与える有名な例が 
アルコール代謝酵素のSNPと酵素活性の関連です

アルコールはADHという酵素で アセトアルデヒドに分解され 
アセトアルデヒドはALDH2という酵素で 酢酸に分解されます

ADH

アルデヒドは ドキドキしたり気持ち悪くなったり顔が赤くなったりする 
酔いに伴うそんな症状の原因物質ですから

アルデヒドを分解するALDH2の酵素活性が強いと 
お酒に強いし 二日酔いにもならない
酵素活性が弱いと アルデヒドが蓄積するのでお酒に弱い

このALDH2を作る遺伝子にSNPがあり 
504番目のアミノ酸を作る塩基配列がAAAの場合GAAの場合があります
最初の塩基がAかGかの違いによるSNPです

AAAだと翻訳されるアミノ酸がリジンとなり 酵素活性が弱くなる
GAAだと翻訳アミノ酸がグルタミンとなり 酵素活性が強くなる

ヒトは父親のDNAから1本鎖 母親のDNAから1本鎖を譲り受け
自分の2本鎖DNAを作りますから
両方の親がGだと SNPはGGタイプ
両方の親がAだと SNPはAAタイプ
片親がA 片親がGだと SNPはAGタイプ
この3タイプのSNPになります

GGタイプのSNPだと 最も酵素活性が高く 生まれつき最もお酒に強い

AGタイプのSNPだと 酵素活性はGGタイプの1/16で 
生まれつきあまりお酒に強くない

AAタイプのSNPだと 酵素活性がないので 
生まれつきお酒が全く飲めない

興味深いことに このSNPタイプの発現頻度には人種差があり
白人は99%がGGタイプでお酒に強いのですが
日本人はGGタイプが50%強 AGタイプが40%弱で 
下戸のAAタイプが5%ほどいます

ですから日本人と白人が同じペースでお酒を飲んだら 
えらいことになる(笑)

ここで見られたSNPタイプの発現頻度の人種差は 
他の多くのSNPでも認められることが多く
人種による体質の違いの多くが
SNPタイプの差異に起因することが明らかにされています

 1042


SNPが体質に影響を及ぼすイメージ
を感じていただけましたか?

このALDH2のSNPタイプが 
アルコール感受性の個人向け遺伝子検査キットで解析されているものです


では SNPはヒトの病気の発症や進展に実際に関わっているのでしょうか?

重要な機能を持つタンパク質の遺伝子の塩基配列にSNPが存在する場合
ある病気にかかっている人と健康な人のSNPを解析・比較して

病気の人と健康な人の間で 
SNPタイプの出現頻度が統計学的な有意差を持って異なっていた場合は

そのSNPは病気と関連があると見做されます

こうしたSNPを疾患関連SNPと呼びます

ヒトの体のさまざまな機能に関わる種々のタンパク質のSNPについて
それが疾患関連SNPであるか否かが検討され 
さまざまな病気で色々な種類の疾患関連SNPが同定されています

以前のブログで 日本人がなぜ糖尿病になりやすいかをご紹介しましたが
そのときに出てきたβ3アドレナリン受容体 UCP-1のSNPと機能との関連も 
こうした研究により同定されました

さらに最近は遺伝子検査の技術の進歩により 
DNAチップという手のひらサイズの大きさのマイクロチップを用いて
ヒトのDNAに存在しているほとんどのSNPを
一度に全て網羅的に解析
できるようになりました

ですから ある病気にかかっている人と健康な人のDNAを 
それぞれを数千人単位で解析することにより
その病気に特異的な疾患関連SNPを 
全て一度に同定することが可能になったのです

 1043

 

こうした研究はGWAS解析(Genome Wide Association Study)と呼ばれ
過去10年あまりの間にさまざまな病気で多くの検討がなされ
それぞれの病気に特異的な疾患関連SNPの存在が明らかにされました

明らかにされた疾患関連SNPが 作られるタンパク質の質的量的異常に関連し
そのタンパク質の異常が疾患の発症進展に関与することが
明らかになった場合もあります

一方 疾患関連SNPはタンパク質の質的量的異常に結びつかないこともあり
そのような場合は 疾患関連SNPの病態への関与は不明で 
単なるバイオマーカーに過ぎなくなります

このように ある病気に特異的な疾患関連SNPの同定は 
その病気の病態解明の大きな手掛かりになる可能性があります

GWAS研究は 多くの病気でまさに現在進行形で行われており
その成果が病気の病態解明や新たな治療方法開発に貢献することが
期待されています


ということで 巷で評判となっている個人向け遺伝子検査
このような研究で得られた 
さまざまな疾患関連SNPの解析を行っているのです

*SNPとは何か?
*SNPが存在することは 生体にどういう影響を与えているのか?
*SNPは疾患の発症進展にどのように関わるのか?

そうしたことが おぼろげにでもイメージしていただけたら幸いです

次回はこのトピックの最後として
「個人向け遺伝子検査でわかること わからないこと」
を解説したいと思います



 

2015.04.23更新

まえふりがさんざん長くなってしまったSNP
正式名称は Single Nuculeotide Polymorphism
その頭文字をとってSNP

日本語に訳すと 一塩基多型 スニップ と発音します
これこそが 話題の「個人向け遺伝子検査」で解析されていることです


前回説明したように
ヒトの遺伝情報は DNAの塩基配列によって担われています

DNAの塩基配列の99.9%は万人に共通ですが

残りの0.1%は個人によって異なります
この違いこそが 個人が有する遺伝子的な個性になります


snp


わかりやすく例えると体質ですね


では 遺伝子的な個性・体質 の正体は何か?

0.1%の非共通の塩基配列のなかには さまざまな違いがありますが
それらの全ての違いが意味を持つわけではありません

ある集団 日本人なら日本人 アメリカ人ならアメリカ人の集団において
ある特定の塩基配列の違いが1%以上の頻度で出現しているとき
それを「遺伝子多型」と呼んで 意味がある違い と見なします

出現頻度が1%以下の違いは
変異(ミューテーション)とか まれなバリエーションと呼ばれ
意味のない違いとして無視されます


意味がある違い 意味がない違い という言い方は
わかりにくいかもしれませんが

あまりに稀なものは評価の対象にならないけれど
一定以上の頻度のものは評価の対象になる
そんなニュアンスでご理解ください


そして意味のある違いである「遺伝子多型」が存在する結果

遺伝子から作られるタンパク質に変化がみられ

それがひとりひとりの姿かたちや能力などの違いとして
目に見える形として表われてくるのです

これがまさに遺伝子的な個性・体質の正体です


遺伝子多型には DNAの塩基がどのように変化するかにより
何種類かのタイプがあります

*置換:ある塩基が別の種類の塩基に置き換わるタイプ
*欠失:1から数十の塩基が失われるタイプ
*挿入:1から数十の塩基が入れ込まれるタイプ
*繰り返し配列
 :いくつかの塩基からなる配列を1単位とする配列が繰り返されるタイプ


takei


繰り返し配列は
・STRP:short tandem repeat polymorphism
:2~4個の塩基からなる配列が数回から数十回繰り返されるで
 マイクロサテライト多型と呼ばれます
・VNTR:variable number of tandem repeat
:数個~数十個の塩基からなる配列が繰り返される
の2種類あって それぞれの繰り返し回数が個人によって異なります

こうしたさまざまな種類の遺伝子多型のなかで
出現頻度が高く 病気の発症進展に関与する可能性が高いとされるのが
*上記のマイクロサテライト多型 と
*ひとつの塩基が他の種類の塩基に置換されたタイプ  で

そして ひとつの塩基が他の種類の塩基に置換されたタイプこそがSNPです


snp


DNAや遺伝子の塩基配列の たったひとつの塩基の種類が異なるだけ
このたった一塩基の違いが とても大きな意味を持つのです

ふーっ やっとSNPまでたどり着きましたが
前回はちょっと盛りだくさんすぎましたし
今回も聞き馴染みのない単語のオンパレードで
皆さんお腹がいっぱいになられたでしょうから
SNPの解説は次回にしましょう

今日のメッセージは

遺伝子的な個性・体質は さまざまなタイプの遺伝子多型により規定され
遺伝子多型の代表選手で個人向け遺伝子検査で解析されているのがSNP
*それにより姿かたちや能力などの違いといった目に見える形
 
として個性や体質が表われてくる

ということです

ここまで頑張ってお付き合いいただいて ありがとうございました(笑)




2015.04.22更新


遺伝子の世界
には興味があるけれど 
ゲノムとかDNAとか 
馴染みのない単語がたくさん出てくるのでどうもよくわからない

そんな方は多いと思いますが 
ここだけの話 医学生でも似たようなものですからご安心ください(笑)

そこでSNP(一塩基多型)の解説をする前に 
ヒトの遺伝情報の最も基礎的なところを押さえておきましょう

題して ネコでもわかる遺伝子のお話

 10211022


<核のなかにある染色体・ゲノムがヒトの遺伝情報です>

ヒトの体は約60兆個の細胞が寄り集まって 
脳や心臓や肺や肝臓などの臓器を作っていますが
それぞれの細胞のなかには「核」という 最も大切な細胞内小器官があります

 1023


なぜ核が大切かというと 
そこにはヒトの遺伝情報・生命の設計図があるからです

それが「染色体」

お父さんから23本 お母さんから23本 
それぞれからもらった計46本の染色体があります
(22対の常染色体と オスメスを決定する1対の性染色体)

1024 

この染色体にある全ての遺伝情報を「ゲノム」と呼びます


<染色体はDNAの二重らせん構造でできています>

では 染色体は何で出来ているのでしょう?

染色体には 二重らせん構造の長いひものような「DNA」が 
ぎっしりと折り重なって詰め込まれています
このDNAこそが ヒトの遺伝情報の正体です

DNAリン酸と糖からできた鎖の基本構造の上に
アデニン シトシン グアニン チミンという
4種類の塩基が結合してできています

アデニン(A)とチミン(T)シトシン(C)とグアニン(G)が対になることで
父親が有するDNAの1本鎖と母親が有するDNAの1本鎖が結合して
二重らせん構造をつくります

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<細胞が分裂するときにDNAが複製されて 遺伝情報が伝わります>

細胞が分裂して核も分裂するときに
このDNAの二重らせん構造が外れ 
それぞれの鎖を鋳型として別の鎖が合成され
新たな二重らせん構造を作ることにより 
DNAに書き込まれた遺伝情報は 分裂した新たな核に伝えられ 
新たな細胞ができます

この過程を複製と呼びます 
こうやってヒトの体はできてきます


<DNAのなかの「遺伝子」がタンパク質を作ります>

さてDNAは約30億対の塩基配列からできていますが
ヒトの遺伝情報は 
DNAを構成する4種類の塩基の並ぶ順番(塩基配列)によって担われています

ヒトの体はタンパク質でできていますが 
DNA上の決まった塩基配列により 
どのような種類のタンパク質が作られるか決まっている
のです

DNAの全ての塩基がタンパク質を作っているわけではなく 
タンパク質を作るのは全DNAのわずか2%にすぎません

そのタンパク質を作る塩基配列「遺伝子」と呼びます

 1026


DNA上には約3万種類の遺伝子が存在
しており
一方 遺伝子以外のDNAは
遺伝子の発現調節やその他の生体機能に関わっています


遺伝子の発現は さまざまな因子により巧妙に調節されています

この遺伝子発現の調節の仕組みはとても巧妙で 
転写調節因子というタンパク質により規定されています

遺伝子とタンパク どちらがイニシアティブがあるの? という
何気に生命の本質を突く命題にも関わってきますが 
その話は別の機会のお楽しみに(笑)


さて ここまでが前半戦です

ゲノム染色体DNA遺伝子の違い や 複製の概念を 
ご理解いただけましたか?



では後半戦 

遺伝子はどのようにしてタンパク質を作るのでしょう?


<セントラルドグマ>

この世界にはセントラルドグマという
宗教における根本教義のような「掟」があります

DNAの二重らせん構造を発見したクリックが提唱した概念で

遺伝情報は 
遺伝子から メッセンジャーRNA(mRNA)に転写され 
mRNAからタンパク質に翻訳される
 

というものです

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<遺伝情報はDNAからRNAに伝わります : 転写>

遺伝子の情報
は 核のなかでRNAポリメレースⅡという酵素の働きで
mRNAに移しとられます
このDNA・遺伝子からmRNAへの情報の移転を転写と呼びます

DNAもRNAも塩基配列で出来ているので 
上述したDNAの複製に似たような仕組みで
1本のDNA鎖から1本のRNA鎖が出来上がるのをイメージしてください


<RNAからタンパク質が作られます : 翻訳>

さて 遺伝情報を託されたmRNAは 核から細胞質に出て
そこでリポゾームという細胞内小器官に結合します

リポゾームはmRNAからタンパク質を作る工場です

リボゾームのなかで 
tRNAという別の種類のRNAが運んできたアミノ酸がmRNAに結合しますが

mRNAの3つずつの塩基配列(コドン)
により 
結合するアミノ酸の種類が決定されます

 1028

 



DNA・遺伝子からmRNAに転写された塩基配列に従って 
アミノ酸が数珠つながりとなり それがタンパク質になります

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この核酸(mRNA)からタンパク質が作られる過程では 
核酸から分子へと 質が違うものが作られるので翻訳と言います


<転写と翻訳>

転写とか翻訳とか
 
馴染みがない言葉が次々にでてきて閉口されるかと思いますが

遺伝情報が DNAからRNAという同質のものの間で受け渡されるのが 転写
転写された遺伝情報が RNAからアミノ酸という異質のものになるのが 翻訳
といったイメージを持ってください


<遺伝情報で作られたタンパク質の働きにより ヒトの体は機能します>

こうしてDNA・遺伝子の4種類の塩基の配列で表されていた遺伝情報
RNAを仲介役として 
アミノ酸の数珠つながりであるタンパク質に変換されるわけです

このように 
核酸(DNA・RNA)の遺伝情報がタンパク質として表現されるのが
生命科学のいちばん象徴的な出来事です

ヒトの体のあらゆる機能は
こうして作られたさまざまなタンパク質の働きに担われています


<遺伝情報に変化があるとタンパク質の機能が変わり 
 病気や体質変化が起こります>

出来上がったタンパク質の性状や機能を
「遺伝子の表現型・表現形質
と呼びます

次回以降で詳しく説明しますが
DNAの塩基配列に変化があると 
出来上がってくるタンパク質の質的・量的な変化が生じてきます

こうしたタンパク質の変化を
「遺伝子変化によりタンパクの表現型・形質が変わる」と言い
それが体質や病気につながっていきます



<まとめ>

私達の体の遺伝情報の伝達は このような仕組みで出来上がっています

学生の頃 初めて分子生物学の講義でこの仕組みについて学んだとき
あまりの精巧さとシンプルさに ちょっと感動したのを覚えています

ホント うまくできているものです


さて 今日は内容が盛りだくさんでしたが 
・遺伝子とは何か 
・遺伝子からどうやってタンパク質が作られ 
遺伝情報がどのようにして形質として表現されるか 
を理解していただけましたか?

ここを押さえておかないと これから先の話題となる 
遺伝子多型やSNPと病気との関わりを 
理解して楽しんでいただくことができませんので

特に文系の方にはちょっとうんざりな話題だったかもしれませんが
お許しください

さて 次回はやっと遺伝子多型・SNPの解説です


<おまけ>

ちなみに DNAの長さは およそ「2m」もあります

それがどうやって直径10μmの核のなかに折り畳まれるのか?

ここにも驚くべき巧妙な技があるのですが 
このお話はエピジェネテイクスという 
最近の超トレンドな遺伝子ネタで詳しく説明しますので 乞うご期待!

さっきちょっとコメントした 
遺伝子とタンパク どちらがイニシアティブがあるの?
という 何気に奥が深い疑問にも関連します(笑)
 

2015.04.17更新

個人向け遺伝子検査のお話 もう少しイントロダクションを続けます 

糖尿病 高血圧 脂質異常症などの生活習慣病には共通点があります

もちろん内臓脂肪の蓄積による肥満が共通して関与することは
言うまでもありませんが
これらの病気は発症進展に多くの要素が関与する多因子疾患です

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世の中の病気を 遺伝か環境か? いう視点から見ると 
3つのグループに大別されます

@まず遺伝因子だけで発症が規定されてしまう病気
遺伝子疾患と呼ばれるもので 染色体やひとつの遺伝子の異常だけで
病気になってしまいます
筋ジストロフィー 種々の代謝異常症 血友病 ダウン症などがその代表例です

@一方 遺伝は全く関係せず 環境の影響だけで発症する病気もあります
食中毒 高山病 大気汚染により生じる病気 ウイルス感染症
などがその代表例です

@しかし病気のほとんどは 
発症に遺伝因子と環境因子の両方が関与する多因子疾患です

生活習慣病をはじめとする慢性疾患は まさに典型的な多因子疾患なのです

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「病気A」にかかりやすい遺伝因子を有する人
「病気A」が発症しやすくなるような環境因子のもとで生活していると
その人は「病気A」を発病してしまう

生活習慣病の発症進展に関与する環境因子
多くの患者さんが日夜格闘されている 
脂分や糖分が多いカロリー過多の食事 肥満 塩分のとりすぎ 
喫煙 過度の飲酒 睡眠不足 ストレス 運動不足などです

当院の生活習慣病の解説パンフレットでは
「遺伝要因は改善できませんが 生活習慣は改善できます」
と しつこく(笑)コメントしてあります

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たとえ病気になりやすい遺伝因子を有していても 
環境因子の改善を心掛ければ発病しなくて済むのです

両親が糖尿病で遺伝因子バッチリの書き手も 
日々の生活で環境因子の改善を一応心掛けているので 
未だ発症せずに済んでいます(苦笑) 


では 多因子疾患の発症にかかわる遺伝因子とは何か?

個人向け遺伝子検査の多くは まさにそこを解析しており
それこそが遺伝子多型でありSNP(一塩基変異)です 

次回は この遺伝子多型やSNPを理解するために必要な
遺伝子の基礎知識について解説します

 

2015.04.16更新

最近 いろいろなところでよく見聞きするのが 個人向け遺伝子検査

新しいモノ大好きな書き手にも 最近e-mailで広告が送られてきて
いったい何なの?と ついつい下衆心をくすぐられてしまいます(苦笑)

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(あ これはたまたま見かけた広告で なんの利益相反もありませんから:笑)

このキーワードで検索してみると 
検索結果には 遺伝子検査ダイエット診断とか遺伝子検査で自分発見!とか
まさに見る者の心をくすぐる魅力的なキャッチコピーが並んでいます

その多くがダイエット 病気 美容などに関連したものですが
才能を掘り起こす遺伝子テストといった
教育パパやママの親心を刺激するものもあります


遺伝子 診断といったキーワードには 妙な魅力がありますよね?

よく解らないけれど なんとなく凄そう!
最先端の生命科学に触れられる気がする
気がついていない隠された自分を発見できるなんて面白そう
しかもダイエットとか美容とか 気になる身近な問題が解決できるかも?

「あなたの知らない世界」は 
得体のしれない魅力にあふれているのですよ(笑)  

さらにこの世界を魅力的に見せているのが DTCという文言
Direct to consumer 個人向け あなただけのもの!
 
世の人々はパーソナライズという言葉にも弱いですからね(笑)


ということで 下衆心がくすぐられたのを良い機会に 
個人向け遺伝子検査について調べてみました

多くのものは 
・ネットで簡単に申し込めて
・自宅に送られてきた検査キットに 
 自分の唾液や頬っぺたの内側の粘膜をこすって入れて 送り返すだけ

 972

あ もちろん お代金は振込まないといけませんよ!(笑)
ちなみにお値段は数千円から5万円くらいのようです

しばらくすると「あなたの知らない自分」の結果が送られてくる

肥満やダイエット 美肌や肌の老化 メタボになるリスク 免疫機能 
男性の脱毛症 骨粗鬆症のなりやすさ
アルコールに対する強さ 歯周病のなりやすさ

そうした気になることがらや病気に関して 
自分がどれくらいなりやすいかがわかる
さらに 子供の才能もわかったりする?

いったい どうしてそんなことがわかるのでしょう?

それは あなたが送ったサンプルを前にした
ユリ・ゲラーも細木なんとかさんもびっくりの万能超能力者が 
渾身の超常能力を込めて手かざしたり呪文を唱えたりして

ええい! と叫んだあとに

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こんなんでました! とレポート用紙に解答を書き込むからです

 974

ウソウソ うそですよ!(笑)

イマドキ大流行の個人向け遺伝子検査では遺伝子多型の解析が行われています

遺伝子多型ってなんだ?
興味を持たれた方は続きをお楽しみに!

2015.04.13更新

腸内細菌叢シリーズの最後に 治療への応用をご紹介します

糖尿病や肥満に特異的な腸内細菌叢の乱れを是正する治療法は
未だ開発されていませんが

腸内細菌叢の非特異的な調整を目指した治療は既に行われています

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プロバイオティクス
とは 
腸内細菌叢を改善する つまり有害な腸内細菌の増殖を抑えバランスを整えることで
ヒトの体に良い影響をもたらす生きた微生物 微生物代謝物を含む添加物です

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ラクトバチルス

腸内の糖鎖を代謝して乳酸を産生させ 
乳酸は他の細菌により短鎖脂肪酸に変換されます
また脂肪細胞の成熟化を促し体脂肪量を減少させ 
インスリン感受性も上昇させます

ビフィズス菌
糖質を代謝して 乳酸や短鎖脂肪酸の酢酸を産生させます


それ以外にも プロバイオティクスによる肥満抑制には
・腸管での脂質吸収の抑制
・脂肪組織での脂肪分解の促進
・脂肪組織への脂肪酸の移行の抑制
・交感神経活性化による脂肪分解の促進
といった ヒトの脂質代謝に直接働きかける作用も関わると報告されています

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こうしたプロバイオティクスの投与による糖尿病や肥満の治療が
試みられつつありますが
注意すべきは 
プロバイオティクスの抗肥満効果は高脂肪食摂取下では機能しないことです
つまり 食事内容に気をつけないといくらプロバイオティクスをとってもダメ ということです


プレバイオティクスと呼ばれる物質も注目されています

これはプロバイオティクスの働きを助ける難消化性の食品成分
胃では消化されず腸内でプロバイオティクスのエサになります 

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ビフィズス菌などの善玉菌だけを増やし 
腸内細菌叢の乱れを整え 
短鎖脂肪酸
GLP-1などの有益な物質を増加させます

これらの機能により体脂肪が減少すると言われています

食物繊維のイヌリンオリゴ糖フルクトオリゴサッカライド ガラクトオリゴサッカライドなど)が代表的なもので
プロバイオティクスと一緒にとると効果的とされています


一方 疾患特異的に悪さをする腸内細菌はわからないけれど
腸管細菌叢そのものを 健康な人のそれと取り換えてしまおうという治療法が
糞便微生物相移植治療(Fetal Microbiota Transplantation : FMT)です

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健常人の腸内細菌叢を内視鏡により患者さんの腸に移植するもので
難治性のクロストイジウム・デイフィシル感染症過敏性腸症候群での有用性が報告されています

しかし腸内細菌叢全てをざっくり移植するため非特異的で 
安全性等も含めまだまだ詰めるべき点は多く
前回ご紹介したような 
肥満のドナーから腸内細菌叢を移植されたレシピエントが肥満してしまう
といった副作用報告もあります

いずれにせよ 10年後にこの分野の研究がどこまで発展し
どのような臨床応用が試みられているかとても楽しみです

2015.04.10更新

腸内細菌叢の「乱れ」 がさまざまな病気の発症に関与している
と考えられています

「乱れ」 とはどんなことかというと
・構成する細菌の種類が減る
・正常状態では多い細菌が減り 逆に少ない細菌が増える
といった現象です

特に短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌の減少が注目されています

では腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生が減少すると 
どうしてマズいのでしょう?

前にお話ししたように 
短鎖脂肪酸は腸内細菌による食物繊維の発酵により産生されますが
以下に示す機序により 代謝を促進し 脂肪の蓄積を抑制しています

短鎖脂肪酸がその機能を発揮するときは まずその受容体に結合します
受容体は2種類あって

受容体:GPR41
脂肪組織 腸管 交感神経系に発現しており
交感神経系に発現しているGPR41に結合すると交感神経系が活性化され 
心拍数や体温を上げてエネルギー消費量を増やします

受容体:GPR43
脂肪組織 腸管に発現しており
腸管のL細胞に発現するGPR43に結合すると 
インスリン分泌を刺激するGLP-1(インクレチン)の分泌を促進
インクレチンは糖尿病治療のトピックになっている物質です)
インスリン感受性を増強して 体内のエネルギー消費量を増やします

また 脂肪組織に発現するGPR43に結合すると
エネルギー消費を増やすレプチンの脂肪細胞からの産生が増加するとともに
脂肪細胞でのインスリンシグナルが抑制され 
糖や脂肪酸の取り込みによる脂肪細胞の肥大が抑制されます
内臓脂肪白色脂肪細胞の話を思い出してください)

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短鎖脂肪酸はこうした代謝促進 肥満抑制といった重要な働きをしているので
生活習慣病にとっては 
腸内細菌が短鎖脂肪酸をたくさん産生してくれた方が好都合ですが
逆に減少すると 
エネルギー消費量を減らし脂肪蓄積の促進をもたらしてしまうので 
生活習慣病のリスクになります

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こうした有益な働きを有する短鎖脂肪酸を増やそうと 
頑張って食物繊維を摂取しても 
食物繊維から短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が少ない腸内環境では 
その努力は無駄になってしまうのです 

腸内細菌叢の「乱れ」が侮れないことが 少しイメージできたでしょうか?

では 具体的な病気との関連をみてみましょう

<肥満と腸内細菌叢の乱れ>

最初に太った姉とやせた妹の腸内細菌を移植されたマウスの実験を紹介しましたが
肥満の人の腸内細菌叢は非肥満の人と比べると大きく異なり 
エネルギー吸収効率を上昇させる細菌が占める割合が多い

また 肥満の人の腸内細菌叢の多様性の低さも明らかにされています
太ったウンコは多様性が低いので 多様性の高いやせたウンコで置き換えることで 
太ったウンコの悪影響は消失したのです

さらに高脂肪食がこうした腸内細菌叢の乱れ 偏りを誘導する可能性が指摘されています

最初のマウスの実験で示されたように 
高脂肪食を与えるとやせた人の腸内細菌叢の肥満を抑制する効果が消失してしまいます

つまり腸内細菌叢と肥満の関わりは 
食事内容にも大きく影響される 規定されている可能性がある
のです

また減量によりこの乱れが是正されるというデータもあります

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肥満の人の腸内細菌叢に関しては こんな興味深い事例も報告されています

クロストイジウム感染症という難治性反復性の感染症には
正常な人の腸内細菌叢を糞便移植により移植する治療が非常によく効きますが
自分の娘(肥満者)から糞便移植を受けた女性が 感染症は良くなったものの
治療前は痩せていたのに移植後に徐々に体重し始め 
移植1年半後には病的肥満になってしまったのです 

肥満の人の腸内細菌叢 まさに恐るべしです

さらに以前に肥満に対する外科手術のことを紹介しましたが
マウスの実験では 胃を縮小させる肥満手術を受けると
腸内細菌叢がやせ形のそれに近くなる
と報告されています


<糖尿病と腸内細菌叢の乱れ>
糖尿病患者さんの腸内細菌叢では 
悪玉菌の増加 短鎖脂肪酸(特に酪酸を産生する細菌の減少もみられます

酪酸の減少により 腸管上皮のバリア機構が破綻して
腸管内にあるLPSという炎症惹起性物質が血中に移行
脂肪組織や膵臓で持続的な微小炎症が起こり 
この慢性炎症がインスリン抵抗性を誘導する可能性が考えられています

慢性炎症が糖尿病を起こさせるというアイデアは なかなか興味深いもので
またの機会に詳しくご紹介したいと思います

 924

で この減少は糖尿病を発症する以前から存在しています
それによりエネルギー吸収効率が上昇し 
肥満や耐糖能異常が誘導されるのでは?と推測されています

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さらに 食事や治療によって腸内細菌叢が変化を起こすことも報告されており

糖尿病を引き起こすような動物性脂肪 飽和脂肪酸の多い食事は 
上述した短鎖脂肪酸(酪酸)を産生する細菌を減少させる

糖尿病治療薬のビグアナイドは 
腸内細菌叢の乱れを是正すること
が明らかにされています


<その他の病気と腸内細菌叢の乱れ>
肥満や糖尿病といった代謝に関連する病気のみならず
うつ病などの精神疾患と腸内細菌叢の乱れの関連が明らかにされています

これは脳腸相関という脳と腸管の相互作用を 
腸内細菌叢の乱れが修飾しているためと考えられています

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このように 
さまざまな病気における腸内細菌叢の乱れが明らかにされていますが
具体的にどのような腸内細菌がどのような悪さをしているかは
未だ明らかにされていません

原因になりそうな現象は把握されつつあるものの 
それを治療に結びつけるまでには至っていないのが現状です

2015.04.08更新

人の腸内には膨大な量と種類の細菌が存在していますが
オギャーとお母さんから生まれてきたばかりの赤ん坊の腸内には
細菌は全く存在していません

いわば腸内無菌状態で 人は生まれてくるのです

お母さんの産道を通っている間に 腸は初めてさまざまな細菌に暴露され
その後も色々な細菌が侵入してきて 徐々に腸内細菌叢が形成されていきます

まず生後3~4日で 
体に良い影響を及ぼす善玉菌とされる 
ラクトバチルス(乳酸桿菌) ビフィズス菌が増えてきます

 a


その後の腸内細菌叢の形成は
・衛生環境 
・食事内容 
・抗生物質の使用 
などにより影響されます

抗生物質の腸内細菌叢形成への関与については前回ご紹介しました

中高年になると 善玉菌のビフィズス菌が減ってきて 
有害物質を産生する悪玉菌ウェルシュ菌が増えてきます
いわば 腸内細菌叢の老化現象ですね


ところで 善玉菌と悪玉菌 は何が違うのでしょう?

既にご紹介したように
腸内細菌は 人が食べて胃などで消化されたあとに腸に流れてくる消化物を食べています

人それぞれに食べ物の好みがあるように 
腸内細菌も細菌の種類ごとに好みが決まっていて
特定の菌は特定の消化された成分を食べる
そしてある細菌の排泄物が 他の細菌に食べられるという連鎖が形成されます

この過程で腸内細菌が作る物質の一部が腸から吸収されて 
人の健康状態に影響を与えます

良い影響を与える成分を作る菌は 善玉菌
悪い影響を与える成分を作る菌は 悪玉菌

善玉菌は腸内細菌叢の20~30%を占め 
病原菌の増殖を防いで整腸作用や吸収力を高めたり 
免疫活性を増強したり
します

ビフィズス菌乳酸桿菌がその代表ですが
下痢のときに処方するお薬の一部はこれらの善玉菌の成分です

一方 悪玉菌は全体の10%ほどで
アンモニア アミン フェノールといった有害物質を産生して
タンパク質を腐敗させたり
します

大腸菌 ウエルシュ菌などがその代表で 
前述したようにウエルシュ菌は加齢により増えてきます

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残りの60~70%は日和見菌

善玉菌が多いときはおとなしくしていて 
悪玉菌が増えてくると同調して悪さを始めます
バクテロイドスがその代表です

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うーん 日和見が多いのは 
人の世界も腸内細菌の世界も似たようなものでしょうか?(笑)

2015.04.07更新

腸内細菌叢はいったい何をしているのでしょう?

 a

腸内細菌叢は 以下の3点でヒトの健康管理に貢献しています

<食物からのエネルギー摂取>
人は腸内細菌の力を借りて食物からエネルギーを得ています

その代表例が食物繊維の消化です

人は食物繊維を消化する酵素を持っていませんが 
腸内細菌は食物繊維を嫌気的発酵により分解して
短鎖脂肪酸(酢酸 酪酸 プロピオン酸)を産生します

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短鎖脂肪酸は脂質や糖質の合成に利用されエネルギー源
になりますが
食欲を抑制するホルモンの分泌 脂質代謝の制御 抗炎症作用
といった重要な働きもあります

こうした重要な物質の産生に 腸内細菌叢は深く関わっています

<免疫機能の発達と機能の維持>
無菌的環境で育った腸内細菌がいないマウスでは
獲得免疫系で働くさまざまなT細胞(Th1細胞 Th17細胞 制御性T細胞)が減少しており
それらの細胞の分化や機能維持に腸内細菌叢は貢献しています

<感染防御>
乳酸菌が病原菌の増殖を抑制したり 上記のように獲得免疫系を分化させたり
腸管上皮細胞の物理的防御能を増強したりすることで 
腸内細菌叢は感染防御に関わっています

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このように人の健康管理に貢献している腸内細菌叢の形成は
環境により大きく影響されます

いちばん大きな影響を与えるのは食事内容です

人が食べる食事の消化物が腸内細菌のエサですから
食べる野菜の種類 食物繊維の量などにより 
腸内細菌叢の様子はかなり異なってきます

たとえば 高脂肪・低繊維食を食べている人はそうでない人に比べ 
Ⅰ型エンテロタイプに属する菌種が増え
低脂肪・高繊維食に変えると 
Ⅱ型エンテロタイプに属する菌種が増えてきます

このような菌種の増減が肥満や糖尿病発症に関与すると推測されています

また アルコール摂取量 運動量 睡眠時間なども影響を及ぼします


興味深いのが抗生物質

ヒトでは 生後1年以内に抗生物質を服用していると
炎症性腸疾患の発症率が上がる

マウスでは 若い頃に抗生物質を投与されると成長してから肥満になりやすい ことが報告されていて

こうした事実から 抗生物質が腸内細菌叢の乱れを誘導し
腸の病気や肥満が惹起される可能性
が示唆されています

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ところで 
最初に紹介した痩せた姉・太った妹のウンコを移植したマウスの実験で
痩せたマウスのウンコが太ったマウスのウンコに打ち勝ったわけは

痩せたマウスの腸内には色々な種類の細菌が存在しているのに対して
(特にバクテロイドスという菌の仲間が重要と推測されています)
太ったマウスの腸内には限られた種類の細菌しか存在していなかったためでした

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つまり 腸内細菌叢は多様な細菌から構成されている方が良いようで
抗生物質や抗菌剤の多用により必要以上に腸内細菌を殺してしまうのは 
細菌のレパートリーを減らしてしまい 良くないのかもしれません

抗生物質を服用したことがあるアメリカ人の腸内細菌の種類は
服用したことがないアマゾンの原住民の2/3しかないとの報告もあります
つまりアメリカ人の腸内細菌叢の多様性はアマゾン原住民に比べて低いわけです

あまりに清潔という環境は 
腸内細菌叢の形成にとっては良くないのかもしれません

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