左利き肝臓専門医ブログ

2016.09.14更新

過敏性腸症候群薬物治療には

*消化管運動調節薬 (セレキノン ナウゼリン)
*高分子重合体・食物繊維 (ポリフル コロネル)
*プロバイオティクス (ビフィズス菌 乳酸菌製剤など)

などが 主に用いられます

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@消化管運動調節薬

腸の動きを和らげて痛みをとる抗コリン薬ブスコパン トランコロンなど)

消化管平滑筋や消化管オピオイド受容体に作用して
消化管運動を調節し 下痢等を改善するオピオイド作動薬セレキノン

自律神経に作用して大腸のぜん動運動を抑制し
強力な下痢止め効果を示すぜん動抑止薬ロペミン

腸内神経叢のセロトニン受容体を刺激し 消化管の運動を促進して
腹痛 腹満感の改善 排便回数増加 便の性状変化 ガス量減少
などの効果が得られる セロトニン4受容体刺激薬ガスモチン

などがあり 症状に応じて使い分けられます


@高分子重合体
ポリフル・コロネル


便の水分を吸収して便を固めたり
逆に便を膨張させて排泄しやすくしたりするため
下痢にも便秘にも効果が期待できるので 比較的よく用いられます

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@プロバイオティクスは 

腸内細菌叢の解説でも登場しましたが
腸内細菌のバランスを改善することで有益な作用をもたらす
生菌 微生物を含む薬品や食品で

微小炎症を鎮静化する
異常なサイトカインプロファイルを正常化する
といった機序により 有効性があるとされています



また 下痢や便秘に有効性が強い 最近注目されている薬剤があります

@下痢型:セロトニン3受容体拮抗薬イリボー

この薬は
セロトニン(5-HT)という消化管運動を調節する物質の作用を抑えることで
腸の運動異常や痛みを感じやすい状態を改善するもので

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海外では
女性で有意な腹痛 腹部不快感 便通回数 軟便・下痢の改善がみられ

日本では 男性で有意な改善が見られますが
女性でも改善傾向はあるものの 有意ではないとされています

ですから男性での使用が推奨されていますが
検討症例が少ないが故の結果である可能性もあり
今後は女性でも有効となる可能性が高いとされています


@便秘型:粘膜上皮機能変容薬アミティーザ

この薬は 腸液の分泌量を増やし
便の水分含有量を増やして症状を改善させるもので

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1週目から効果が現れ
2か月目以降は有意差をもって症状は改善するとされています



また これらの薬剤で効果が充分に得られないときは
抗うつ薬 抗不安薬を併用すると有効なこともあります



まず 最初の薬を4~8週間使用してみて
改善すれば 継続 もしくは 中止
改善がなければ 別の薬に変更するのが一般的です

1週間ほど服用して 効果がないからと
服用を止めてしまわれる患者さんがよくおられますが

最低でも2~3週間は飲み続けて効果をみてください



過敏性腸症候群の予後は 比較的良好です

加齢により症状は軽快することが多く
自然経過で 1年後には約40%が診断基準を満たさなくなります

しかし 機能性ディスペプシアや逆流性食道炎が合併すると
QOLを低下させてしまうので要注意で
胃と腸の両方をケアすることが 大切です


また 心理的異常が予後不良因子の可能性があります

不安・抑うつがあると過敏性腸症候群の症状が消失しにいので
こうした場合は
心療内科や精神科の先生と協力して治療にあたることになります


前回ご説明したように 食生活・生活習慣を改善し
ストレスの緩和を心掛け

さらに医師によく相談して 必要に応じて症状を改善する薬を服用して

過敏性腸症候群と上手に付き合っていただきたいと思います

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2016.09.13更新

過敏性腸症候群の治療目標は 機能性ディスペプシアと同じで

患者さんの腹部症状の軽減による生活の質・QOLの改善です


機能性ディスペプシアの治療の項でも解説しましたが

治療で重要なことは 医師と患者さんの間の信頼関係の確立です

患者さんのストレスや心理的異常が 症状に大きく影響することから
医師は患者さんの不安を受容し 軽減することが重要で

多くの患者さんが心配されている
がんや重病ではないか? という不安を取り除いてあげることが大切です

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機能性ディスペプシアと同じで
過敏性腸症候群でもプラセボ効果が高く 約40%

つまり医師と患者さんの信頼関係が確立されていれば
たとえ偽薬でも 治療効果が得られますし
治療効果が認められている薬なら その奏効率はさらに高まります

患者さんは ご自分が心配なことを全て医師に相談し
医師は 充分に説明して その心配を解いてあげることが出発点です



そこから始まる過敏性腸症候群の具体的な治療は

*症状を悪化させるストレスや食事などの改善
*強く発現している症状に対する薬物療法
*必要に応じて心理療法
*重症の場合は 心療内科の専門医などへの早期の紹介

といったことが中心になります


@食事療法

患者さんの60%で 食事で腹痛 ガス症状が増悪しますから
患者さんの日々の食事内容を聞いて調節します

下痢型のポイント
*消化の悪いもの(高脂肪食 乳製品など)は控える
*乳糖を含有する食品を控える
*香辛料や脂っこいものなどを避ける
*コーヒーやアルコールを控える
*冷たい飲食物は避ける

便秘型のポイント
*食物繊維を摂取する
*水分を充分に補給する
*乳酸菌を含む発酵食品(ヨーグルトなど)を摂取する
*香辛料など刺激の強いものは控える


@生活習慣の改善

夜食 間食 偏食 睡眠不足 心理社会的ストレスは
症状の悪化につながるので改善しないといけません

自分に合った食事 睡眠 排便のリズムをみつけると
時間や気持ちにゆとりができ ストレスを軽くすることに結びつきます

また 運動や趣味など 楽しくリラックスできる方法をもつことは
過敏性腸症候群の大敵であるストレスの解消に繋がります

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日常生活で気をつけることは

*食事は胃腸にかかる負担を減らすため ゆっくりよくかんで食べる
*暴飲・暴食は避ける
*偏食を避け バランスのとれた食事を心がける
*食事時間を守り 規則正しい食生活をする
*症状(下痢・便秘)により 食事内容に注意する

*アルコールの多飲は避ける
*喫煙も避ける

*運動により 症状増悪の抑制が期待できる


といったことです


薬物治療を開始する前に
こうした食生活・生活習慣の改善により 
症状の改善が得られるかを試みます


次回は 薬物治療について説明します



2016.09.08更新

過敏性腸症候群が どのようにして発症するか

そのメカニズムについて説明する前に
大腸の生理的な運動 について解説します

なにごとも 基本が大切です!(笑) 


過敏性腸症候群による下痢や便秘は
大腸が過剰に運動することが主な原因で引き起こされますが

大腸の最大の働きは
内容物の水分を吸収し 固形状の糞便を形成することです


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1日に9lの水分が腸管に入り
小腸で6~8l 大腸で1~2lの大部分が吸収され

糞便は わずか0.1lの水と
分解されにくい食物繊維などの植物残渣 
細菌 はがれ落ちた粘膜細胞などから出来ています

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食物残渣を便にして排出する大腸の運動には
主にぜん動運動(伝播性収縮)と分節運動(局所性収縮)があります


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大腸に送り込まれた内容物は
ぜん動運動と分節運動により 混和されながら
肛門へ向かって徐々に移送されるわけです

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便意


*食物摂取により惹起される胃結腸反射
 :胃に食物が入ると 腸に情報が伝わり 腸が動き出し便を作る

*直腸での便による排便反射
 :便が直腸に入ると 直腸がそれを察知し 脳に信号を送る

といった一連の反応により 脳で自覚され 排便反応が起こります

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こうした 生理的な大腸の運動に異常が生じると 下痢や便秘になります


腸のぜん動運動が亢進すると 内容物の通過時間が短くなり
水分を充分に吸収できないので 下痢になるわけです

一方 分節運動が強すぎると 大腸が痙攣を起こし
腸管が細くなって糞便の通過障害が起こるので 便秘になるわけです

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さて 過敏性腸症候群はどうして起こるか?

近年では 生物学的要因・身体的要因と 心理社会的要因の
両方の要因の重なりによって起こると考えられています


@生物学的要因・身体的要因としては

消化管運動能の変調
内臓知覚過敏
脳腸相関の異常
*消化管の感染や炎症 腸内環境

があります

これらは機能性ディスペプシアでも説明しましたが

大腸でも上述したぜん動運動や分節運動の変調があり
内臓知覚過敏の状態も存在します

脳腸相関については 後ほど詳しく説明します


@心理社会的要因としては

*周囲の環境やライフ・イベントからのストレス 不安
*幼少期の虐待歴 家族歴
*うつ 不安などの心理社会的障害

があります

心理社会的ストレスにより 消化器症状が発症し
ストレスの自覚時に 症状が増悪するのが一般的です

うつ・不安は 過敏性腸症候群発症のリスク要因となり
逆に機能性胃腸障害であることは うつと不安障害の発症リスクを高めます

過敏性腸症候群が重症化するにつれて 心理的異常の関与度が増し
うつや不安により症状が増悪し 精神的治療で症状が改善したりします

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@食事などの生活習慣の乱れも発症に影響すると考えられます

原因はストレスだけではなく
生活習慣や食生活の乱れにもあると考えられるため
症状に合わせて 食事の内容や生活習慣を改善する必要があります

健康な人と比べ
冷たいものや脂っこいものでお腹を壊しやすい傾向があるようです

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一方 過敏性腸症候群の発症には
腸内細菌の乱れや粘膜炎症も関与しているようです

過敏性腸症候群の患者さんでは
大腸粘膜における免疫細胞数の増加があり 免疫賦活状態にあります

また 腸内細菌叢のプロファイルは 病型でも異なることが報告され
*腸内細菌叢の産物の有機酸と症状の関連
プロバイオティクスによる症状の改善
などが明らかとなり

食物アレルギー グルテンの関与も示唆されています


また 機能性ディスペプシアでは
腸管感染後に発症する場合があることを説明しましたが

過敏性腸症候群も同じで 感染性腸炎後に発症するケースもあり
全体の5~25%を占め 下痢型で多いとされています

感染後過敏性腸症候群の発症危険因子は
ストレス うつ 60歳未満 女性 喫煙 腸炎持続時間が長いことなどで
ベースにうつや不安があることが重要と考えられています

腸管での軽微な炎症持続 免疫異常が病態に関与すると考えられ
炎症とストレスの両方が加わることで
腸管の筋層間神経叢の機能が変化し
この変化が記憶されて あとで過敏性腸症候群を発症してくる

と想定されています



このように
過敏性腸症候群も機能性ディスペプシアと同じで

身体的要因と社会・心理的要因が
複雑に絡み合って発症すると考えられますが

一部の症例では
感染や炎症が原因となって発症する場合もあるようです

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症状が発現する場が 胃か大腸かで 起きてくる症状も異なりますが
機能性ディスペプシアも過敏性腸症候群も
基本的には同じような原因で病態が形成されると考えてよさそうです

そして いずれの場合も
社会的・心理的要因が大きく影響していることが注目されます


次回は 過敏性腸症候群の治療について説明します



2016.09.07更新

過敏性腸症候群 国際診断基準(ROMA Ⅲ)の定義によると

過去3ヵ月間において 1ヵ月に3日以上にわたって
腹痛腹部不快感が繰り返し起こり

*以下の3項目のうち2項目以上を満たすもの
 ・排便によって症状が軽減する
 ・発症時に排便頻度の変化がある
 ・発症時に便形状(外観)の変化がある

という症状が認められる患者さんです


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機能性ディスペプシアの解説でも言及しましたが
過敏性腸症候群も血液検査や画像検査で診断されるものではなく

あくまで患者さんが訴えられる症状をもとに診断されます

そのため 本当に過敏性腸症候群なのか よく吟味しないといけません

つまり
過敏性腸症候群以外の腸の病気の可能性を完全に否定すること
が大切で

まず アラームサインと呼ばれる症状の有無のチェックを行います


アラームサインとは 危険な腸の病気を示唆する症状
12週間以上持続する腹痛と便通異常を訴える患者さんに対しては

*発熱 関節痛 
*粘血便 
*6ヵ月以内の理由が同定できない3Kg以上の体重減少
*異常な身体所見(腹部腫瘤の触知 腹部の波動など)
*直腸診による腫瘤触知 血液の付着

といった器質的疾患を疑う警告症状・徴候がないかどうか

大腸がんなどの大腸の器質的疾患の既往歴 家族歴の有無をよく問診し
(50歳以上での発症では 特に重要)

これらに該当する場合は 大腸内視鏡検査または大腸造影検査を行います

アラームサインがなくても
血液検査 便潜血反応検査を行い 器質的疾患の有無をしっかり評価します


以上の結果を踏まえ 器質的疾患の可能性が完全に除外できれば
そこで初めて機能性腸疾患と特定され
ROMA Ⅲにより過敏性腸症候群と診断されます



過敏性腸症候群の症状で特徴的なのは

平常時の排便回数は健常人と変わらないが 症状発症時には増えることで
症状の発症は ストレスにより惹起されることが多い

症状は 午前は軽度で 午後に増悪することが多く
排便回数の増加などにより 症状は改善します


下部消化管以外の症状を呈することも多く

*心窩部痛 季肋部痛 悪心 嘔吐 食欲不振などの上部消化管症状
*頭痛などの多彩な身体症状
*抑うつ感 不安感といった精神症状
*動悸 発汗過多 四肢冷感のような自律神経症状

が認められる場合も 少なくありません

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機能性ディスペプシアでも説明しましたが
過敏性腸症候群も 心理的要因に大きく影響され

*心理的要因が経過に影響を与え
 発症・増悪・回復遅延との時間的関連がある
*心理的要因が 治療を妨げている
*心理的要因が 健康を阻害する危険因子になっている
*ストレス関連性の生理反応が 症状を誘発 悪化させる

といった事が明らかにされています

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重症度は
腹部症状によりQOLがどの程度 妨げられているか によって評価され

初診時においては
軽症が75% 中等度が20% 重症が5% とされています

重症化するにつれて
ストレス うつ 不安などの影響が強くなる傾向を認めます

機能性ディスペプシアと同じように
うつや不安との関連がとても大きい病気なのです



2016.09.06更新

これまで説明してきた機能性ディスペプシア
胃もたれなどの胃の症状がつらい機能性胃腸障害でしたが

機能性胃腸障害には 腹痛や便通異常などの症状がつらいケースもあり

過敏性腸症候群(IBS) と呼ばれています

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通常の検査では 器質的疾患が認められないにもかかわらず

腹部症状(腹痛 腹部膨満感 腹部不快感など)と
*便通異常(下痢・便秘)が

慢性的に持続する疾患

トイレの問題で学校や会社に行けなくなったり
外出を控えるようになったりするなど
生活の質・QOLを低下させることが大きな問題になります

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日本では 1990年代から注目されるようになってきています

電車の広告などで
過敏性腸症候群の名前を見聞きしたことがある方も多いと思います


日本における過敏性腸症候群の有病率は13.1%
7人に1人認められるという 大変ポピュラーな病気です

女性の患者さんが男性より1.6倍多くて

男性は下痢で悩み 女性は便秘で悩む方が多いとされています

思春期から青年期の若い世代に最も多いのも特徴で

加齢とともに低下し 特に40歳以降で男女とも低下する傾向があります
また加齢により 症状も軽快することが多いようです

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他の機能性胃腸障害の合併も多く
機能性ディスペプシアの合併頻度は健康な人の2倍以上で 約40%
逆流性食道炎の合併頻度は2倍以上で 28~80%

機能性ディスペプシアと同様に うつ・不安の合併率も高く
うつの合併率は約30% パニック障害は15~40% 
身体化障害は25~33%で

うつや不安は 過敏性腸症候群発症のリスク要因でもあります

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また 大腸に慢性的な炎症が生じるクローン病 潰瘍性大腸炎といった
炎症性腸疾患(IBD)の合併率も高いのが特徴で

潰瘍性大腸炎の合併率は健康な人に比べて5.7倍も高く
過敏性腸症候群からIBDへの移行リスクは16.3倍もあるとされています


過敏性腸症候群は 便の形状の違いから

便秘型 硬い便 コロコロ便
下痢型 泥状便 水様便
交替型(または混合型)下痢と便秘が交互に出現する
分類不能型

の4つの型に分類されます

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便の形状は 便の腸の通過時間を反映していて

下痢型は 通過時間が短いので 泥状便 水様便になり

便秘型は 通過時間が長く 水分が吸収されるので 
硬い便 コロコロ便になります

上述したように 下痢型は男性に 便秘型は女性に多くみられます


4つの型の間で移行があり

最初に症状を自覚するときの頻度は
便秘型 下痢型 混合型でほぼ1/3ずつ

経過中に最初の型にずっと留まるのは25%で
75%は他型にいちどは移行しています

また 排便頻度は健常者と変わりません


下痢型

原因不明の下痢が 突発的に起こるのが特徴で

仕事中や通勤電車の中 授業中などにところ構わず不意に起こるため
「ここでお腹が痛くなると困る」という心配がストレスになって
症状がより起こりやすくなります

腸のぜん動運動が必要以上に活発になることで
下痢が起こるとも言われているので
食後すぐに下痢を起こすケースも少なくありません


一方 便秘型

腸のぜん動運動が正常に行れなかったり
S状結腸の痙攣によって便が出にくくなり

便意はあり お腹も痛くなるけれど 便が出ないため 苦痛を感じる
便は硬く ウサギの糞のようにコロコロした状態になります


交代型

数日おきに 下痢と便秘の症状が繰り返されるタイプで

交代の周期は数日程度が多いようですが
下痢・便秘の周期や程度には 個人差があります

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また サブタイプとして ガス型があります

ガスが腸内に溜まりやすく 頻繁にガスが出てしまうタイプで

ガスはおならなので
「ガスが出てしまったらどうしよう」「臭いがしているのでは」
というストレスから
外出に不安を覚えるようになるなど 日常生活に支障をきたします

腸内環境の悪化や 腸の働きが活発過ぎることが
ガス発生の原因だと考えられます


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今日の説明を読まれて

あー私も、、、 と思われている方は 少なくないと思います


次回は過敏性腸症候群の診断について説明します



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