左利き肝臓専門医ブログ

2017.02.17更新

薬物治療により 血中脂質値をどこまで下げるべきか?

血中脂質をコントロールする目的は
動脈硬化の発症・進展を防ぐことですから


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治療目標値は


*動脈硬化により生じる疾患の有無
*動脈硬化を誘導する疾患の有無

により異なります

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@そうした疾患の影響が全くない 低リスクの方

 *LDL-C 160mg/dl未満
 *TG   150mg/dl未満
 *HDL-C 40mg/dl以上

であるのに対し

狭心症や心筋梗塞にかかったことがある方

 *LDL-C 100mg/dl未満
 *TG   150mg/dl未満
 *HDL-C 40mg/dl以上

糖尿病 脳梗塞 閉塞性動脈硬化症がある方

 *LDL-C 120mg/dl未満
 *TG   150mg/dl未満
 *HDL-C 40mg/dl以上

このように そうした病気のない方に比べて
特に LDL-Cに関して より厳しいコントロールが求められます


sistr12



また 治療目標値は
動脈硬化の危険因子の有無によっても異なります

動脈硬化の危険因子は

*男45歳以上 女55歳以上
高血圧がある
耐糖能異常がある
*狭心症や心筋梗塞の家族歴がある
HDL-C値が40mg/dl未満

の各項目で

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危険因子が全くない場合

 *LDL-C 160mg/dl未満
 *TG   150mg/dl未満
 *HDL-C 40mg/dl以上

であるのに対し


1~2個Yesの場合

 *LDL-C 140mg/dl未満
 *TG   150mg/dl未満
 *HDL-C 40mg/dl以上


3個以上Yesの場合

 *LDL-C 120mg/dl未満
 *TG   150mg/dl未満
 *HDL-C 40mg/dl以上

が 治療目標値になり

やはり 有している危険因子が増えるにつれ
より厳しいLDL-Cのコントロールが求められています

危険因子の数が増えるにつれ
心血管イベントの発症リスクが高まりますから

リスクが多い場合は より厳しいコントロールが求められるのは
致し方ありません

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さて 薬剤を用いた脂質異常症の治療を始めるにあたって
よく患者さんから質問されることは

LDL-C値やTG値がいくつになったら 薬を飲むのをやめられますか?

ということです

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できるだけ薬は飲みたくない
という患者さんのお気持ちはお察ししますが

既に解説したように

薬は 体内で悪玉コレステロールや中性脂肪が作られるのを
抑制しているだけで

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お薬を飲むことで

体質や生活習慣まで改善させるわけではありませんから

残念ながら 
薬を飲むのをやめたら
多くの場合はまた異常値に戻ってしまいます


もちろん
頑張って減量されたり 生活習慣を改善されれば
併用しているお薬の種類を減らしたり 量を減らすことは可能です

ただ 完全にお薬をやめられるケースは
残念ながらとても少ないのが現実です

そうしたことをよく理解していただき
お薬を飲み始めたら 付き合いが長くなることを
ご了解いただきたいと思います 



また 

コレステロールが低い方が
がんや脳出血の死亡率が高いという話を聞いたことがあるので
薬を飲んで下がりすぎても大丈夫なのか?

という心配を 患者さんから聞かれることも たびたびあります

しかし

コレステロールが低い方が がんや脳出血の死亡率が高いという説は
追跡調査における「見かけ上の関係」に過ぎないのです


低コレステロール血症でがんになるのではなく
がん細胞がコレステロールを消費するために
コレステロールが下がっているのです

また
スタチンなど薬剤を用いてコレステロールを下げた場合に
がんが増えたという結果は 報告されていません


脳出血と低コレステロール血症の関連についても
低栄養で血管が脆弱になっていることが原因と考えられ

薬剤でコレステロール値を下げた場合に脳出血が増加するという
明らかな証拠はありません

原因と結果を混同して 早合点するのは危険です

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お薬でLDL-C値を下げることを
過度に心配する必要はありませんので
安心して服用していただきたいし

心配なこと 疑問なことがあれば
いつでも遠慮なく 質問していただきたいと思います



2017.02.16更新

食事療法 運動療法でうまく改善されないときは 薬物治療を開始します


脂質異常症の治療に主に用いられる薬剤は

*スタチン (HMG-CoA還元酵素阻害薬)
*エゼチミブ (小腸コレステロールトランスポーター阻害薬)
*フィブラート

の3種類です


@スタチン (HMG-CoA還元酵素阻害薬)

肝臓でコレステロールが作られる過程の
律速酵素・HMG-CoAの働きを抑え
コレステロールを作れないようにする薬です


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この薬の作用により 肝臓でのコレステロール産生が減ると
胆汁酸やホルモンが作れなくなり困るので

血中に流れているLDL-Cを取り込んで
肝内でコレステロールを得ようとする反応が起こります

その結果

*肝臓のLDL受容体の数が増え
*血中のLDLを多く取り込むようになり 
*血中LDL-C値が低くなる

という仕組みです

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現在わが国では
プラバスタチン シンバスタチン フルバスタチン 
アトルバスタチン ピタバスタチン ロスバスタチン
が使用されています


その効果は強力で
脂質異常症治療薬の中で 最も効果的にLDL-C値を下げる力があり

LDL-C値を約30~40%低下させ
狭心症や心筋梗塞の発症リスクを約20~30%低下させます

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また 肝臓からのVLDL分泌を抑制することにより
TG値を下げる効果もあります



@エゼチミブ (小腸コレステロールトランスポーター阻害剤)

小腸の細胞に存在する
コレステロールに特異的な輸送蛋白NPC1L1の働きを抑制する薬で


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小腸からコレステロール吸収を妨げる
ことで LDL-C値を下げます


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LDL-C値は約20%低下し TGが高いときは17%減少させます

またHDL-C値を増加させる作用もあります


こうした効果は 上記のスタチン併用によりさらに増強します


スタチンの長期投与で 細胞内のコレステロールが減少しますが

その際 ホルモンや胆汁酸の材料であるコレステロールを確保しようと
反応性に小腸でのコレステロール吸収亢進がみられます


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しかし エゼチミブを併用すると
反応性の小腸でのコレステロール吸収亢進が抑制されるため
相乗効果がみられます


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したがって スタチン単独では治療管理目標を達成できない場合
スタチンにより治療前値の50%以上減少しない場合などに
スタチンにエゼチミブを併用する

副作用などでスタチンを使用できない場合に 
エゼチミブを単剤で使用する

といった使い方が推奨されます


但し TG値が300mg/dl以上の患者さんは 投与不適応になります



@フィブラート系薬

LDL-Cよりも 中性脂肪をより効果的に低下させる薬です

食後高脂血症の項で解説したように

核内受容体PPARαに結合することにより
脂肪酸の合成を抑え 分解を促進し

また LPL(リポタンパクリパーゼ)発現を増加させることで


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それらの作用の結果として TG値が低下します


また TG値が低下すると
図に示した TG高値にともなうリスクがなくなり


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結果として
LDL-C値が下がり sd LDLも減少させ
HDL-C値は上がるので

狭心症や心筋梗塞の発症リスクを低下させます

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さらに フィブラート系薬剤のHDL-C増加作用は
スタチンやエゼチミブと比べても高いのが特徴ですから


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TG値が高くHDL値が低い患者さんは 好適応となります



このように
脂質異常症のタイプにより 使用される薬剤は異なり

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病態に応じて
作用機序が異なる復習の薬剤が併用されることもあります

このあたりは 専門医の腕の見せ所ですので
心配な方は 是非ご相談ください



なお スタチン フィブラート系薬では 副作用として
大腿部などの筋肉の痛みを認めることがあります

頻度としてはそれほど多くありませんが
薬の服用を開始してから4か月以内に起こることが多いので
そのような自覚症状がある場合は 主治医にご相談ください



2017.02.15更新

食事療法と並行して運動療法を行うと より効果的です

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以前に解説しましたが 運動には

*体に溜まった脂肪分を減らす有酸素運動

*筋肉量を増やして基礎代謝を上げ 太りにくい体質にする無酸素運動

の2種類がありますが


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脂質異常症の改善に有効なのは 有酸素運動です

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たとえば
定期的に適度な強さのウォーキングなどの有酸素運動を続けると

中性脂肪を減らし
HDL-Cを増やす

効果があり 肥満の予防や解消にも役立ちます


1日の歩数が2000歩未満の人にくらべると 1万歩以上の人は
10%以上もHDL-C値が高いとの報告もあります


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特に HDL-C値を増加させる有効な薬剤はありませんので
低HDL-C血症の場合は 運動療法は特に重要です


運動療法により 脂質異常症が改善する機序に関しては

インスリン感受性を高め 

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  インスリンの作用により  LPL活性が増加するので
 高TG血症の原因となるカイロミクロンやVLDLが効率よく代謝され
 動脈硬化の危険因子のsdLDLが減少する


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*上述したように HDLが増加する

といった 脂質代謝に直接的に影響を及ぼす効果や

*下肢血流量 骨格筋ミトコンドリア密度が増加する
*血管拡張反応が改善する
*自律神経系 血液凝固系が改善する

といった 動脈硬化の進展を抑制する間接的な効果が考えられています


しかし 運動療法単独で効果を求めるのは 現実的には難しい

脂質異常症を改善するには
ジョギングのような息や鼓動が激しくなる運動を
毎日30分 6ヶ月以上継続する必要があるとの説もあります


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これは 言うは易し で 

日々の多忙な生活の中で
30分とはいえ 運動をする時間を見つけ出すのは困難でしょうし

それをずっと継続して行うのは 決して簡単なことではありません

運動療法単独で効果を求めるのは なかなか難しいのが
偽らざるところだと思います


しかし 運動だけでなく 食事も同時に見直せば



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週3回程度の 軽く息がはずむ程度のウォーキングで
脂質異常症が改善するとの報告があります

また 運動療法と食事療法の併用は
それぞれを単独で行うより
著明な減量効果がみられるとの報告もあります


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運動だけではダメだと諦める前に
運動療法と食事療法の併用を  是非試みていただきたいものです



2017.02.14更新

脂質異常症の治療は 食事療法 運動療法 薬剤療法 がありますが

今日は食事療法について説明します


大原則は 料理をするときに

コレステロールが高い
卵(鶏卵魚卵など) 乳製品 肉といった動物性の食材を
植物性の食材に置き換えることです

*肉を 大豆や豆腐などの大豆製品に置き換える


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*バターの代わりに オリーブ油を使う

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といった注意が基本になります


これまでにも度々解説してきましたが
今や脂質は 量でなく質が問われる時代です

*飽和脂肪酸(動物性脂肪)を減らし 
 不飽和脂肪酸(植物性脂肪・魚)を増やす

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*コレステロールを多く含む食品を減らす

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*ハム ベーコン ソーセージなどの加工品は
 飽和脂肪酸 塩分を多く含むので控えめに

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トランス脂肪酸は極力避けるようにする

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といったことが大切です


繰り返しになりますが
大豆などの植物性タンパク質をたっぷりと摂ることも重要です

植物性タンパク質には
コレステロールや中性脂肪を減らす働きがあるので
豆腐 納豆などの大豆食品を毎日の食事にとり入れましょう

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食物繊維を多く含む野菜などを積極的にとることも大切です

食物繊維には

*水に溶けやすい水溶性食物繊維と
*水に溶けにくい不溶性食物繊維があり

水溶性食物繊維は コレステロールや中性脂肪の腸内での吸収を抑制し
不溶性食物繊維には 腸内環境をよくする 便の量をふやして排出を助ける
といった効果があるので コレステロールの排泄を促進します

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現代の日本人は食物繊維を必要量の半分程度しかとっていないので
1日30gの摂取を目標に 積極的に摂ることが大切です

食物繊維が多い食材は
イモ類 根菜類 キノコ類 野菜類 豆類 海藻類などです


ビタミンC Eの摂取も効果的です

これらのビタミンは抗酸化作用があり
LDLの酸化を防ぎ 動脈硬化を予防する働きがあります

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ニンジン カボチャ トマト ピーマンなどの緑黄色野菜
魚では サケ サバにもビタミン類が豊富です

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また ビタミンCとEは一緒にとると より効果的です



以上が食事療法の基本ですが

最後に コレステロール摂取量制限についてコメントします


既に説明しましたように

昔は エネルギー摂取量のうち脂質のしめる割合を
25%・300mg以下に制限しましょう と推奨されていましたが

最近はその考え方が変わりました


何度もご説明したように 脂質摂取の「量から質」への転換で

欧米では 食事中のコレステロール摂取量と血中コレステロール値の間の
明らかな関連を示すエビデンスがないことから

これまで推奨していたコレステロール摂取制限が無くされました

日本動脈硬化学会も2015年に
健常者における 食事中コレステロール摂取量と血中コレステロール値の
相関を示すエビデンスが 十分ではないことから 

コレステロール制限は推奨されていない との見解を出しました

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さらに
高値となった血中LDLを減らすためには
生活習慣 運動 食事など包括的に修正することが大切であり

コレステロール摂取のみを制限しても改善はほとんど期待できない


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特に摂取する脂質に焦点を当てる場合
コレステロールだけではなく
脂肪酸のバランスに留意することが大切である とし

我が国では伝統的な日本食が
アメリカが推奨するDASH食などと同様の食事内容パターンを示しており

伝統的な日本食は抗動脈硬化的であることがすでに示されており
それに加え米国では食されていない海藻類を摂取することと
豆類のなかで特に大豆を摂取することの意義が確認されている

として 日本食を強く推奨しています


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ただ 注意しなければいけないのは
コレステロール摂取制限が無くなったのは
あくまで健常人の食事という点で

脂質異常症の方は
依然としてコレステロールの摂りすぎには充分に注意が必要です


大切なポイントは

*肥満 メタボ 糖尿病 高TG血症の方は
 摂取カロリーを制限する必要がありますが

*高LDL血症の方は カロリーだけでなく
 飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量に注意する必要があること

*動脈硬化を防ぐには 高LDL血症だけでなく
 血圧 血糖値のコントロール
 禁煙や運動など包括的な生活習慣の改善を介した予防が大切である

ということです


特にタバコは HDL-C値を低下させ LDLの酸化を促進し
動脈硬化の直接的な原因となりやすいので

禁煙は大切です

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ただ 禁煙すると太ってしまうことが多く 悩ましい問題です



2017.02.09更新

食後に中性脂肪値の高値が持続する状態の怖さについて解説してきましたが

食後高TG血症の診断は どのように行えばよいのでしょう?


食後高血糖の診断には 経口ブドウ糖負荷試験が行われます

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75gのブドウ糖が入った飲み物を 一気に飲んでいただき
飲む前 飲んだあと1時間 2時間後に採血をします


食後高TG血症の診断にも
似たような 経口脂質負荷試験 が必要でしょうか?

実際に 脂肪を含む食事の経口負荷試験が用いられることもありますが
(生クリームをベースにした200gの食事を食べる場合が多いです)

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実施方法が繁雑で 長時間を要するため 被験者の負担が大きく
さらに標準化された方法や正常値なども確立していないのが現状です

確かに
経口ブドウ糖負荷試験ではジュースを一気飲みすればいいですが
経口脂質負荷試験はクリームの一気食いですから(しかも美味しくない)
ちょっときついかも(笑)


そこで 食後の血中TG値で判断するのが一般的です

血中TG値は 早朝空腹時は150mg/dl以下が基準値ですが

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糖尿病やメタボの方は 120mg/dl前後まで下げないと

食後高TG血症が解消されないとの日本人を対象とする報告があります


そして
食後の血中TG値が 200mg/dl以上なら
明らかに食後高TG血症と診断し 治療介入を要するとされています



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またTG値の代わりに
血中レムナント様リポタンパクコレステロール(RLP-C)
測定されることもあります

RLP-Cは LDLやHDL以外のリポタンパクを測定しており
厳密には食後血中TG値を正確に反映しているとは言えませんが
参考にはなります

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食後血中TG値を正確に反映する
カイロミクロン カイロミクロンレムナントの
双方の構成アポタンパクのApo B-48を計測する試みもなされており


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実際に耐糖能異常症例 冠動脈疾患症例で高値を示すようです


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未だ研究レベルですが
新たな食後高TG血症マーカーとして注目されています



では 食後高TG血症の治療は どうすればよいのでしょう?

基本はやはり 食事療法と運動療法 です


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肥満であれば まず3~5%の減量を目指します

食後TG値の上昇を抑える
EPA/DHAなどのω3系脂肪酸を豊富に含む青魚
脂質の吸収を抑制する食物繊維をたくさん摂るようにします

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また EPA/DHAを原料とした製剤は TG値を低下させる作用があり
実際に高TG血症の治療に用いられています

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それ以外にも

*糖質やアルコールを控える
*間食 とくに甘いものや果物のとり過ぎに注意
*男性の場合は飲酒が主な原因である事が多いので 節酒につとめる

といった注意が必要です


薬物療法ではフィブラート製剤が第一選択になります


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この薬剤は 核内受容体PPARαに結合することにより

脂肪酸からTGの合成を抑え  
LPL発現を増加させTGの分解を促進し

TG値を低下させます


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また 高LDL-C血症の治療に用いられるスタチン製剤の一部には
LDL-C値だけでなくTG値もさげる作用があります

同じく高LDL-C血症の治療に用いられるエゼチミブ
同様の作用があるようです



2017.02.08更新

糖尿病があると 食後高中性脂肪血症が起こりやすくなるので厄介です

食事から得られた中性脂肪(TG)
カイロミクロン カイロミクロンレムナントに多く含まれますが

この両者は 通常 リポタンパクリパーゼ(LPL)により代謝されます


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LPLは インスリンにより遺伝子発現が増強し活性化もされますが

糖尿病でインスリン分泌が低下していると
LPL産生量が少なくなり 活性化もされないので

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その結果
カイロミクロン カイロミクロンレムナントが代謝されず血中に留まり
食後高TG血症になります


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また インスリンの作用が低下していると
小腸での脂質の吸収が促進され カイロミクロンの合成も促進されます


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このように 糖尿病やインスリン抵抗性があると

*カイロミクロンの合成が亢進し
*カイロミクロンの分解が滞る  ので

食後高TG血症が起こりやすくなります


実際に 糖尿病患者さんや メタボリックシンドロームの方では
かなり高頻度に食後高TG血症の存在が認められます



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前回説明したように
食後高TG血症ではsdLDLも増加しますから

その合併により
糖尿病やメタボにおける動脈硬化進展のリスクが増加してしまいます


こうした視点から
糖尿病患者さんにおける脂質異常症について検討すると

糖尿病では 高LDL-C血症より
高TG血症・低HDL血症の頻度が高いこと が明らかにされています

*糖尿病患者さんでは 健康な方と比べて
 TGを多く含むカイロミクロンが5倍以上増加しています

*また 前述したように 食後高TG血症ではHDLが低下しますから
 低HDL血症が高頻度に合併しても不思議ではありません


さて このように 食後高血糖食後高脂血症

インスリン抵抗性等によるインスリン作用の低下を共通の基盤として起き
両者が合併することも多いので

「食後代謝異常」という疾患概念も生まれつつあります


いずれにせよ
食後高脂血症食後高血糖の両方が合わさると 

より血管内皮障害がひどくなり
相乗的に動脈硬化が進展することは明らかですが

どちらがより危険かという検討では

食後高脂血症の方が
血管内皮機能をより大きく低下させるとの報告もあります

食後高脂血症の方が 食後高血糖よりも持続時間が長く
より長時間にわたって悪影響を及ぼすためと考えられています


今日のお話をまとめると

糖尿病の患者さんは

高TG血症や低HDL-C血症がないか注意され

たとえ空腹時のTG値が正常であっても
食後TG値が高くないか注意する必要がありますし

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逆に 空腹時TG値や食後TG値が高い方

空腹時高血糖 食後高血糖がないか
注意される必要があるでしょう


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食後高脂血症と食後高血糖は 腐れ縁コンビなのです


心配な方は 空腹時だけでなく 食後2時間の血糖値 中性脂肪値を
一度測定されてみることをお勧めします



2017.02.07更新

食事の影響を大きく受ける食後中性脂肪値を測定することは
どのような意義があるのでしょう?

さまざまな検討により

空腹時TG値が正常でも
食後TG値が異常高値を示す状態がある 
ことが

明らかにされてきました

通常なら食後数時間で基準値内に戻るはずのTG値が
長時間にわたって高値を持続する状態です

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こうした「食後高脂血症」は 糖尿病やメタボの方に多くみられます

TGはリポタンパクリパーゼ(LPL)という酵素により分解されますが

糖尿病やメタボでは
このLPLの活性が低下しているので 食後高脂血症になりやすい

(このあたりは 次回詳しく説明します)


そして驚いたことに 食後TG値が高いと
心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症リスクが高いことが
明らかにされました

多数の患者さんを対象にした海外の大規模臨床試験で
食後TG値が200 mg/dl以上の群では 200 mg/dl未満の群に比し
冠動脈疾患による死亡率が有意に高いことが示され

日本でも 約11,000人の方を平均15.5年にわたり追跡調査した結果

食後TG値が 84 mg/dl未満群に比し
*84~116mg/dl群では1.67倍
*117~167mg/dl群では 2.0倍
*168mg/dl以上群では 2.86倍
冠動脈疾患の発症リスクが上昇することが明らかにされました


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脂質と冠動脈疾患リスクに関しては これまで説明してきたように
LDL-CやHDL-Cの影響は認識されていましたが

中性脂肪 特に食後TG値との関連は
ほとんど認知されていませんでした

しかし 中性脂肪も侮れない


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特に食後TG値に注意を払わないで
LDL-CやHDL-Cばかりに気をとられていると
足元をすくわれる危険があります

とくに 健診の空腹時採血では
食後高脂血症の状態は見落とされてしまいますから 要注意です!


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あとで解説しますが
スタチンというLDL-C値を下げる薬剤により
冠動脈疾患の発症率は約20~30%も低下させることができますが

逆にいえば最大30%しか低下させることができないということで

残りの70%を減らすためには
食後高TG値にも注意する必要があるのです


たとえLDL-C値が基準値内にあっても
食後TG値が高ければ 冠動脈疾患発症の独立したリスク因子になります

つまり食後TG値の高値は LDL-Cとは無関係な危険因子なのです



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なぜ 食後高脂血症は 冠動脈疾患の発症を誘導するのでしょう?

いくつかの理由が考えられています


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*まず 脂質の高値により炎症反応が惹起され
 それが遷延化し慢性炎症になり 
動脈硬化が進んで
 発症リスクが高まる可能性があります


*また 食後TG値が高値だと HDL-C値が低下するために
 動脈硬化が進展するリスクがあります

HDLは リポタンパク代謝の最終段階で形成されるので

HDLが形成されるには カイロミクロンが分解され 
リポタンパクの代謝が進む必要がありますが

食後TG値高値の状態では
TGを多く含んだカイロミクロン カイロミクロンレムナントが分解されず
回路が回らず HDLの形成に至らないと考えられています


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*さらに たまったカイロミクロンレムナント
 酸化LDLsdLDLと同じくらい
 動脈硬化の発症・進展に悪影響を及ぼします

カイロミクロンレムナントは小粒子なので
容易に血管壁内に侵入でき
酸化変性を受けずにマクロファージに取り込まれ
マクロファージを泡沫化させて動脈硬化誘導します

酸化されなくてもマクロファージを泡沫化できるので たちが悪い


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*またカイロミクロンレムナントが多量にあると sdLDLが増加します

カイロミクロンレムナントのTGが
コレステロールエステル転送タンパク(CETP)の働きでLDLに添加され

TGが豊富なTG rich LDLが形成され
これにリポタンパクリパーゼなどが作用してsdLDLが作られます


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sdLDLは既に解説したように 動脈硬化を進展させますから困ります



では どうして食後高TG値が起こってくるのでしょう?

原因としていちばん考えられるのが 脂質を多く含む食物の過食です

脂質摂取量が過剰になると
食後の血中カイロミクロンやカイロミクロンレムナントが増えて持続します

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厄介なことに TGは脂質以外でも上昇します

たとえば 果物に多く含まれる果糖は
血糖値には影響を及ぼしませんが TGは上昇させやすいので要注意です


さらに厄介なのは
糖尿病や耐糖能障害が 食後高TG値を誘導することですが

糖尿病と食後高TG値の関連は 話し始めると長くなりますので
次回に詳しく解説することにします



2017.02.02更新

健康診断の結果表の脂質の欄には
コレステロール中性脂肪が並んでいます

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コレステロール
善玉とか悪玉とか 肉や揚げ物が良くないとか 動脈硬化を悪くするとか
さまざまな情報がよく知られていますが

中性脂肪(トリグリセライド:TG)は 
コレステロールに比べると 情報量が少ない

医者も 患者さんのTG値がすごく高くても
「前の日に焼肉食べ放題でも行ったのではありませんか?」
程度ですましてしまうこともあったります


でも それではマズイ!

今日から 中性脂肪(TG)の怖さについて説明します


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TGは脂質のなかで いちばん食事の影響を受けやすく
LDL-CやHDL-Cに比べると 食後の変動がとても大きいのが特徴です

LDL-Cの本体は 肝臓で作られるコレステロールなので
食事の影響はあまり受けず その値はほぼ一定で
LDL-Cが変化したHDL-Cも同様です


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しかし TGは食事の影響を強く受けます



ちょっと 食事後のTGの体内動態について復習しますが

食物中のTGは小腸で吸収され 小腸の細胞内で
内部にTGをたくさん含むリポタンパクのカイロミクロンが形成されます

カイロミクロンは体内のさまざまな組織に TGを配って回ります


TGは 脂肪酸とグリセロールから構成されていて

カイロミクロンがたどり着いた臓器に存在する
リポプロテインリパーゼ(LPL)という酵素の働きで
カイロミクロン中のTGが分解され 

構成成分の脂肪酸が組織に配られ

カイロミクロンは徐々にTGの含有量を減らしながら
カイロミクロンレムナントに変化します

ということで 食後には血中で
TGを多く含むカイロミクロンとカイロミクロンレムナントが
増加しています



さて TGへの食事の影響についてダラダラ述べている理由を
これから説明します


健康診断でも通常の受診時でも 
採血は食後でなく
一定時間 絶食したあとの空腹時に行います

健診などでは 前の晩9時以降は食べないようにと注意されるでしょう


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しかし通常の生活で
12時間以上も空腹状態が続くのは 朝起きたときくらいで

健康を気づかって1日3食しっかり規則的に食べている方は
1日のうちで 空腹状態よりも食後状態の方が長いことは事実です

ですから

例外的な長時間絶食後の空腹時採血だけでなく

食後での採血時の値も検討した方が より現実的では?
という意見があります



こうした意見が出てくる背景となったのが 食後高血糖の問題です

既に解説しましたが

空腹時血糖値が基準範囲内にあっても 食後血糖値が高い方は
いずれ本格的な糖尿病になられるリスクが高い
「かくれ糖尿病」の状態で

そうした方は充分に注意して経過観察しないといけませんが

空腹時血糖値が基準範囲内でHbA1cにも異常がない場合は
見逃されてしまう可能性があります

tg6



このような理由から 
空腹時血糖だけでなく 食後血糖の重要性も認識されていますが

同じようなことが 脂質異常症でもあることが明らかにされました


どうして文頭で 食事のTGへの影響をしつこく説明したか
勘が良い方は 話の流れが見えてきましたね?(笑)

この続きは次回 詳しく説明します


ちなみに 

肥満との関係が強いのは
空腹時の中性脂肪値ではなく 食後の中性脂肪値だそうです

ほらね 続きが読みたくなったでしょう?(笑)



2017.02.01更新

血中LDL-C値が高いと動脈硬化が進むことを説明しましたが

そもそも どうして動脈硬化になるのでしょう?


<血管壁が肥厚するメカニズム>

血液が流れる血管は 内側から外側に向けて

*血管内皮細胞
*内膜
*中膜
*外膜

からなる層構造になっています


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このうち動脈硬化に関与するのは 血管内皮細胞内膜です


正常な状態では いちばん内側の血管内皮細胞
血管機能の恒常性を維持するために 重要な役割を担っています

sis52


しかし何らかの原因で 内皮細胞に機能障害や傷害が起こると

内皮細胞上に血球細胞が接着する分子(接着因子)が発現してきて
血管のなかを流れている白血球や血小板が内皮細胞に接着して

内皮細胞の透過性亢進が起こり
炎症細胞の血管壁への浸潤が増加します

さらに 血小板から血小板由来増殖因子が産生され
内膜を構成する平滑筋細胞の増殖が起こり

内膜にこぶ(プラーク)が形成されます


sis53


そうして 血管の壁が厚くなっていきます


こうした過程が徐々に進行していって 動脈硬化になってきます

プラークがさらに大きくなって破れると
そこに血小板などが集まってきて血栓ができ


sis54

この血栓によって血管がつまり 狭心症や心筋梗塞になります



<酸化LDL>

そして 高LDL-C血症そのものが この過程に悪影響を及ぼします

高LDL-C血症は
内皮細胞の機能低下をもたらし 透過性を亢進させ
LDLなどの内膜への蓄積を増加させます


血管内膜には抗酸化物質が存在しないので
LDLは活性酸素によりすぐに酸化されて 酸化LDLになり


sis56


酸化LDL
はマクロファージに取り込まれ
取り込んだマクロファージはその場に集積し 泡沫化を引き起こし
これにより さらに内膜の肥厚・プラーク形成が進みます


sis55


上述したように プラークが破けて炎症が起こると
局所での酸化ストレス状態が亢進し さらに酸化LDLが形成されるという
悪循環が起こってしまいます



<超悪玉コレステロール・sdLDL>

さらに最近では 酸化LDL以外の動脈硬化促進因子として
超悪玉コレステロールsdLDL が注目され

sis57

sdLDL値が高い人ほど
心筋梗塞や狭心症の発症リスクが高いことが示されています


sdLDLは 高中性脂肪血症やメタボリックシンドロームの人で高く
耐糖能異常を有する人では
LDL-Cが正常値でも sdLDLが高い方がいます


sdLDLは 小さいだけに血管内膜に侵入しやすく
酸化され酸化LDLになりやすいので
 

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sis59

動脈硬化の直接的な原因となりやすい とても危険なLDLです

また 通常のLDLと異なりLDL受容体に結合しにくいので
血中や血管壁に滞在する時間が長くなり 
それだけ酸化されやすくなります


sis60

さらに sdLDLが増えるとHDLが減少するので余計に厄介です



<動脈硬化を促進する因子>

また 動脈硬化の促進には LDL以外の因子も関与します

*男性は45歳以上 女性は55歳以上の加齢
*動脈硬化による病気になった家族の存在

高血圧の存在
糖尿病の存在:糖尿病単独でも冠動脈疾患の発症率が2.6倍に増加します
低HDL血症
高尿酸血症


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肥満 :特に内臓脂肪型肥満は 高血圧 高脂血症 糖尿病を併発する
喫煙 :20本で心臓病リスクが50~60%増え 
    HDL低下 LDL酸化変性が促進されます
運動不足
ストレス


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これらのリスク因子の数が増えるほど
心筋梗塞・狭心症の発症リスクはさらに増えます

ですから LDL-C値が高い方は
肥満 高血圧 糖尿病 高尿酸血症などにならないように
充分に注意する必要がありますし

逆に それらを合併している場合は
より厳しいLDL-C値の管理が必要になります


脂質異常症で動脈硬化が進行する過程を イメージしていただけたでしょうか?



2017.01.31更新

どうして脂質異常症になってしまうのでしょう?


いちばんの原因は 生活習慣の乱れです

sis41


*高カロリーな食事
*アルコールのとり過ぎ 喫煙
*不規則な食生活
*運動不足

などにより 脂質異常症になります


こういった生活習慣の乱れが原因で脂質異常症になる方は
年々増加傾向にあり
しかも働き盛りの30歳代以降の男性に多くみられるので要注意です


@高LDL-C血症の原因で多いのは

*動物性脂肪の多い食品(肉類、乳製品など)
*コレステロールを多くふくむ食品(鶏卵 魚卵 レバーなど)
の食べすぎによる 慢性的なカロリー過多です

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脂は量より質とお話ししましたが
それでも やはり過度な摂取は禁物です


@低HDL-C血症の原因で多いのは 

運動不足 肥満 喫煙 などです


sis23

特に喫煙は それ自体が動脈硬化の危険因子ですから要注意ですが
禁煙すると太られてしまう場合が多い

この点が 頭の痛いところです

また 定期的に運動すると HDL-C値を増加させることができます


よく患者さんに
LDL-C値やTG値を下げる薬があるのだから
HDL-C値を増加させる薬もあるでしょう?
と質問されますが

残念ながら そうした薬はありません


sis43

煙草を止めて 地道に運動するしかないのです

しかも運動は
 
*1回20分以上
*週に3~4回を数か月続けて

はじめてHDL-C値の増加がみられます

低HDL-C血症は 意外に難敵なのですよ


@高TG血症の原因

*食べすぎ 飲みすぎ 
*高カロリー食品(甘いものや脂肪分の多い肉類など)のとりすぎによる 
慢性的なカロリー過多がいちばん多い

sis44

とくにアルコールの飲みすぎは 
中性脂肪を増やしやすいので要注意で
中高年のおじさんに高TG血症が多いのもうなずけます

中性脂肪は肉や脂だけでなく 甘いものでも炭水化物でも
なんでも食べ過ぎ飲み過ぎすると 
すぐに増加してしまうので とても厄介です

そして中性脂肪はコレステロールに比べると軽視されがちですが
甘く見ていると大変です

そんな中性脂肪の怖さについては 次回に詳しく説明します



さて 脂質異常症の診断ですが

血液中のLDL-C HDL-C 中性脂肪(TG)が 
それぞれ下記の数値を上回ると 脂質異常症と診断されます

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@高LDL-C血症


*140mg/dl以上
*ただし糖尿病などがある方は 120~139mg/dlで境界域と診断されるます

*LDL-Cを直接測定していない場合は
LDL-C = TC-HDL-TG/5の計算式で求めることができますが
TGが高い場合は信頼できません

@低HDL-C血症

*40mg/dl未満


@高TG血症

*150mg/dl以上


脂質異常症の診断にあたっては 次の指標も参考にされます

*non HDL-C値

総コレステロール値からHDL-C値を引いた値がnon HDL-C値で
通常 LDL-C値よりも少し高い値になります

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上述したようにLDL-C値は
TG値が高いと測定値の信頼性が低いという問題があり

この問題を解消するために
LDL-C値を補助する形で non HDL-C値が新たに使われています


*L/H比

最近 動脈硬化に関連する項目として
L/H比 = LDL-C値÷HDL-C値 も重視されています

LDL-C値が正常であっても
HDL-C値が低いと心筋梗塞を起こす例が多いため

予防には両方のバランスを示すL/H比が参考となるという趣旨です


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L/H比が2.5以上
だと 動脈硬化や血栓のリスクが高いため

心筋梗塞 狭心症 糖尿病 高血圧などの危険因子を3つ以上持つ場合は
1.5以下

ほかの病気がない場合は 2.0以下

を目標とするとされています


L/H比は それほどポピュラーな指標ではありませんが

先日 当院に相談にこられた患者さんは
それほどLDL-C値が高いわけではないのに L/H比を計算されたら高かったので
それが心配になって来院されました

最近は 患者さんたちがネットで色々と勉強されてから来院されるので
勉強不足の医者はドキドキです?(笑



さて 注意しないといけないのは

こうした診断基準は 薬剤による治療を始める基準ではないという点です

薬を飲む必要性があるかどうかは 脂質の値のほかに
糖尿病などの他の動脈硬化のリスクになる因子があるかどうかを
考え合わせて決められます

たとえば 糖尿病や高血圧があると ない場合と比べて
より低い値でも 薬を飲む必要があります

そのあたりが 専門医の腕の見せ所にもなります

心配な方 不安な方は ご相談にいらしてください


 

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