左利き肝臓専門医ブログ

2016.03.30更新

運動により骨格筋にPGC-1αという物質が増加すると
筋肉が賢くなって 肥満や糖尿病が改善することを説明してきました

ということは PGC-1αを増加する薬があれば
それを飲むと 
運動しなくても運動したのと同じ効果が得られるかもしれません

こうした作用を有する薬は「運動模倣薬」と呼ばれています


運動嫌いな方 ものぐさな方が 大喜びしそうな薬ですが
世の中にはそうした方ばかりではなく
心臓や骨や関節が悪くて 運動したくてもできない方もおられます

ものぐさな方には 薬に飛びつかず地道に運動されることをお勧めしますが
運動したくてもできない方には 運動模倣薬は夢のような薬です


現在 運動模倣薬の有力な候補と見做されているのが
アディポネクチンに関連する物質
この研究は東大の糖尿病内科チームにより精力的に行われています


アディポネクチンは 
脂肪細胞が分泌するホルモン類似物質アディポカインの代表例で

もともと
*インスリン感受性を改善する
*抗糖尿病効果がある
*脂肪を燃焼させて脂質異常症を改善する

*抗動脈硬化作用がある
*抗炎症性作用がある
といった性質から 

adiponectingood


「善玉アディポカイン」
と呼ばれている物質です


このアディポネクチンが 前回説明した
骨格筋を賢くするPGC-1αの発現に深く関わっていることが
明らかにされてきました


アディポネクチンは アディポネクチン受容体R1を介して
前回説明した PGC-1αの発現を誘導し活性化する経路
*細胞内のCa2+増加によるCaMK活性化
*細胞内AMP濃度の増加によるAMPK活性化
を ともに促進して 

その結果として PGC-1αの発現・活性化が促進します

また 細胞内のNAD+/NADH比を増加させ 
長寿遺伝子SIRT1を活性化し
その結果として PGC-1αを脱アセチル化して活性化を促進します


adiponectinroots


こうした種々の経路により PGC-1αが量的にも質的にも高まり 
*ミトコンドリアの活性と量の改善
*骨格筋の遅筋化
が生じて 肥満や糖尿病の改善を誘導します

まさに運動により得られる状況が アディポネクチンにより得られるのです


そこで 東大のグループは
アディポネクチンの受容体を刺激する物質の合成を試み

AdipoRonという物質を作製しました

このAdipoRonをマウスに投与すると 骨格筋では

*ミトコンドリア量が増加する
*インスリン抵抗性が改善する
*筋の持続力低下が改善する
*脂肪酸の燃焼が促進する
*酸化ストレスが減る

といった 
アディポネクチンにより得られるのと同じ効果が認められました

adipolon1


さらに 実験的な糖尿病マウスにAdipoRonを投与すると
体重は減らないものの 
インスリン抵抗性か改善して 寿命が延びることも 明らかにされました

下図・左下の折れ線グラフ(c)の青線は
高脂肪食で糖尿病を誘導したマウスにAdipoRonを投与すると
投与しない場合と比べて 寿命が延びることを示しています


adipolon2


このように 人工的に合成したアディポネクチン受容体の刺激物質
PGC-1αを増加させ 糖尿病や肥満の病態を改善する
まさに「運動模倣薬」として機能する可能性が示され注目されています

近い将来 運動しなくても 飲めば運動したことと同じ効果が得られる薬が
実用化されるかもしれません


でも その際の 治療薬として薬を飲むことができる対象は
「諸般の事情により 運動ができないヒト」に限られて
ものぐさで運動しないヒトは 対象外になるかもしれません

やはり 大切なのは 地道な努力でしょう!


ということで サルコペニアの話題から始まり 10回にわたって 
骨格筋と糖尿病・生活習慣病との関わり
運動で骨格筋が増すことの分子・遺伝子レベルでの意義
などについて説明してきました

筋肉が単に運動に関わるだけでなく
さまざまな体に有益な代謝調節作用を有していることを
垣間見ていただくことができたと思います

書き手も色々と勉強して
筋肉に対するイメージが変わりました

頭でっかちにならないように 毎日筋トレしようと思います

読み手の皆さんも 頑張りましょう!



2016.03.29更新

運動により骨格筋内では
*ミトコンドリアが増える
*遅筋が多くなる
といったリモデリングが起きますが

そうした運動によるモデルチェンジに深く関与している重要な分子が

PGC-1α です

この分子は
さまざまな代謝系遺伝子の転写因子の活性を制御する転写補助因子

多くの遺伝子の転写に影響を与え
包括的な反応を発現させるマスターキーと考えられています


ちなみに転写因子は エピジェネテイクスの項でも説明しましたが
遺伝子の転写が行われるDNA配列の
直前に位置するプロモーター部位に結合し
転写を促進する因子で

PGC-1αは その転写因子の働きを増強する転写補助因子です

pgc1toha


で このPGC-1αは 
代謝が活発に行われている臓器
褐色脂肪細胞 肝臓 脳 心臓などに多く発現していますが

骨格筋にも発現していて 運動により発現が増強します
また 寒冷刺激によっても発現増加します


骨格筋を用いて運動を行うと
*短期の運動により
 脂肪酸β酸化関連遺伝子発現が活性化され 脂肪酸が燃焼
*継続的なトレーニングにより
 ミトコンドリアの増加 および 遅筋線維の増加
が誘導されますが

こうした効果の発現には 
全てPGC-1αが関与していると考えられています

そして こうした効果により
エネルギーが消費され 体重減少が見られ
その結果として メタボリックシンドロームが抑制されます 

つまり PGC-1αは 
骨格筋が 運動により 代謝調節機能を発揮できるようになるための
キーポイントとなる分子といえます


<PGC-1αは どのようにして働いているのでしょう?>

PGC-1αが 転写補助因子として活性化する転写因子は 下記の4つで
活性化された転写因子により 多くの遺伝子の発現が活性化されます

pgc1output

@NRF1/2
ミトコンドリア生合成の亢進 
ミトコンドリア呼吸鎖関連遺伝子の発現増加 DNA複製促進

@PPARα δ
脂肪酸β酸化に関わる遺伝子の発現増加

@MEF2
遅筋遺伝子の発現増加
GLUT4遺伝子の発現増加 

@ERRα
脂肪酸β酸化関連遺伝子の発現増加
ミトコンドリア呼吸鎖関連遺伝子の発現増加


また 運動により骨格筋のPGC-1α発現が増加すると
前回説明した 白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化が促進します

この作用は 
前回説明したように マイオカインイリシンの作用によるものですが
PGC-1αイリシンの産生と放出を制御すると考えられています


このように 
*ミトコンドリアの増生 
*骨格筋のリモデリング 
*糖・脂質代謝の制御
といった 体重減少に結びつく重要な働きを有するPGC-1αですが

糖尿病の患者さんでは 骨格筋のPGC-1α発現が少ない
ことが報告されています

もともと糖尿病患者さんでは
*ミトコンドリアの呼吸鎖複合体 代謝関連遺伝子の発現低下 
*ミトコンドリアの機能障害
を認めることが明らかにされていましたが

その原因はPGC-1α発現低下による可能性が示唆されます

運動によるPGC-1α発現増加により ミトコンドリアの異常が是正される
ことが そうした仮説を裏付けています


<どうして運動すると骨格筋でのPGC-1α発現が増加するのでしょう?>

それには以下の経路が 主に関与していると考えられています

@AMPK経路
 AMPKは 細胞内AMP/ATP比の増加で活性化されるセリン/スレオニンキナーゼ
 運動によりATPが消費されるので活性化されます

 AMPKは
 PGC-1αの発現量を増加させるのみならず
 PGC-1αをリン酸化して活性化します

@CaMK経路
 CaMKは Ca2+/カルモジュリン複合体で活性化される
 タンパク質リン酸化酵素で 
 筋収縮にともなう細胞内Ca2+増加により活性化されます

 カルシニューリンは PGC-1αを活性化します

pgc1input



このようにPGC-1αは 
運動による筋肉のリモデリングと それにともなうエネルギー代謝の促進を
統括的に制御する分子で

しかも 糖尿病では骨格筋のPGC-1αの発現低下がみられているため

PGC-1αの発現を増強したり活性化させる薬があれば
運動しなくてもやせることができ 
糖尿病を良くすることが できるのではないか?


というアイデアが生まれてきます

つまり 運動しなくても 薬を飲めば運動と同じ効果が得られる
いわば「運動模倣薬剤」です


そんなこと 実現可能なの?

次回はそのあたりの解説をしますので 楽しみにしていてください?(笑)



 

2016.03.24更新

骨格筋の量を維持すること

加齢にともなうサルコペニア発症の予防だけでなく

サルコペニア肥満を防ぎ 基礎代謝量を高めることにより 
糖尿病などの生活習慣病予防にも重要なことを説明してきましたが

では 骨格筋を減らさないためには 具体的にどうすればよいのでしょう?


その鍵は 下半身の筋肉にあるようです

下半身には 
*大腿四頭筋(太腿の前の部分)
*大殿筋(お尻)
*下腿三頭筋(ふくらはぎ)
*ハムストリングス(太腿の後ろの部分)
といった大きな筋肉が集まっていますが

こうした下半身の筋肉は 
体幹や上半身の筋肉よりも衰えやすいそうです

kahanshinmuscle

ですから 
加齢や肥満により減少していくのは まず下半身の筋肉だそうで

逆にそこを鍛えれば 筋肉の量を減らさずにすみ
サルコペニア肥満や本物のサルコペニアにならずにすむ 

筋肉量の減少や衰えは 40代後半から顕著に進みますから
日常のスポーツ習慣のない方は 40代から気をつけた方がよいとのこと


ということで
「40代からは下半身の筋トレを!」が斯界の常識だとか

筋トレというと 腹筋や腕立て伏せをイメージしがちですが
なるほど 大切なのは下半身の筋力強化なのですね!


具体的な下半身の筋肉を鍛える方法としては
*スクワット
*フロントランジ
*踵上げ
などがあります


<スクワット>

有名なので 読み手の皆さんもご存知かと思いますが

肩幅より少し広めに両足を広げて立ち 
イスに腰掛けるイメージで お尻を後ろにつきだしながら下げ

お尻がイスに着く直前の姿勢で 
数秒間できるだけ我慢して
つらくなったらゆっくりと立つ

sukuwat

膝がつま先より前に出ないように 
背中を真っすぐにして
お尻を後ろにつき出すようにして行うのが ポイントです


<フロントランジ>


片足を 肩幅くらいの距離に前方に踏み出して

背筋を伸ばしたまま 腰をゆっくりと深く下げて
前方に踏み出した足を ゆっくりと膝が直角になるまで曲げ
その姿勢を維持して 数秒間我慢して

次に後方の足を前に踏み出して 同じ動作を繰り返す


frontrange


一歩一歩 腰を落としながら 前に踏み出し歩き続けるイメージで
足を踏み出すときに 
膝がつま先より前に出ないようにするのが ポイントです


<踵上げ>

脚をそろえて立って つま先立ちで両足の踵を上げ 
そのままの状態で しばらく我慢してから 
踵を下げる動作を繰り返す

kakatoage


理想としては
*スクワットを朝夕20回ずつ 
*フロントランジを1日に40歩 
*踵上げを朝夕20回ずつ
毎日行うのが理想ですが 

最低週に2~3回
最初は少ない回数から始めて 
回数をこなせるようになったら徐々に回数を増やしていく


毎日継続してできるように 
日々の生活のなかの空いた時間を上手く利用して行う
のがコツのようです

ちょっとした仕事の合間や 駅のホームで電車を待つ間に
踵上げをしたり

朝起きたあと お昼休みに
スクワットやフロントランジを行う とか


プロのお話によると 
楽なトレーニングでは筋肉量は増えないので

*スクワットでは お尻がイスにつく直前の姿勢
*フロントランジでは 前足を直角に曲げた姿勢
*踵上げでは 踵を上げてつま先立ちしている姿勢
それぞれの姿勢を できるだけ我慢して維持して つらくなったら戻す

動作をゆっくりと行い
できるだけ筋肉に負荷がかかるようにする


そして筋トレした後に30分以内に 
ミルク ヨーグルト ゆで卵などの
タンパク質を含む食物を摂るのが良いそうです

というのも 
筋トレしたあとの約30分間は 成長ホルモンが出ているので
摂取したタンパク質により筋肉ができやすいためです


ということで 書き手も 
診療のあいまにスクワットやフロントランジ
電車を待っているときに踵上げを行うように心掛けていますが

普段運動していない人が急に頑張ると 膝や腰が痛くなったりします

ですから 腰や膝の調子と相談しながら 
それぞれのトレーニングの組合せと回数を決めて
腰や膝の調子が悪いときには 無理をせずにお休みする

継続こそが重要なので 
自分に合ったペースを見つけることが大切だと思います


さらに理想を言えば 

これらの無酸素運動に加えて
1日に20~30分程度の 早歩きの有酸素運動を行うと
(患者さんには 前を歩いている人を追い越すスピードで
 と説明しています) 
なお一層効果的です

無酸素運動で 筋肉の量を増やして 基礎代謝を上げて
有酸素運動で 脂肪を燃やす

yuusansomusanso1


両方合わせてできれば いちばんです


ただ 日頃 患者さんたちには 
偉そうにこうしたことをお話ししていますが
忙しい日々の生活のなかで 全てを理想的に行うのは
なかなか困難と思います

ですから できることを できる機会に 継続して行っていく

繰り返しになりますが 継続して行うことが いちばんのポイントです

いちどだけ頑張って必死になってやって そのときは満足しても 
それが続かなければ 意味がありません

ご自分の生活パターンにあった 継続可能な筋トレ方法を 
試行錯誤しながら見つけて 継続なさってください

頑張りましょう!



2016.03.23更新

骨格筋は これまで説明してきたように 
単に運動するときに働くだけでなく

マイオカインの分泌を介して 糖や脂肪の代謝
に深く関わっていることが
明らかになってきましたが

それにともない 生活習慣病における運動療法の重要性
新たな視点から見直されるようになっています

そもそも 食事療法運動療法を組み合わせると 食事療法単独と比べて
*コレステロールの低下
*インスリン抵抗性の改善
*内臓脂肪量の減少
が より程度が大きく効果的なことが明らかにされていますが


では なぜ 運動すると良いのか?

これまでは「体重が減るから」と単純に考えられてきました


確かに運動によって 脂肪細胞で脂肪分解が促進して体重は減ります

どうして脂肪が分解されるかというと
運動すると 筋肉内でエネルギー(ATP)が消費されて足りなくなるので

ATPを補充するために 
ミトコンドリアで 脂肪やグルコースを材料にATPが産生されます

このように 脂肪がエネルギー源として使われるので体重が減るのです


運動開始直後は いわゆる無酸素運動状態

備蓄されたグリコーゲングルコースに変換されて 
グルコースが原料となり ATPが産生されますが(解糖系)
解糖系はATP産生効率が悪いので 数分しか効果を発揮できません


musanso


運動を継続していくと有酸素運動状態となり

交感神経により分泌されたカテコラミンが脂肪細胞に作用して
脂肪細胞内に備蓄されていた脂肪が分解され 遊離脂肪酸として放出され
それが材料として使われて 酸素存在下で 
ミトコンドリア内でTCA回路電子伝達系によりATPが産生されます
(ミトコンドリアでのエネルギー産生については また詳しく説明します)


yusanso00

こうして脂肪が減って体重が減る



musansoyusamso


しかし最近は 運動の効果は体重減少によるものだけでなく
 
運動によって骨格筋そのものに
*ミトコンドリアの増加
*筋肉の質の変化
*インスリン感受性の増加
*マイオカインの分泌
といったさまざまな変化が起こることで 
全身の代謝が改善されることが重要と考えられています


つまり 
運動を習慣として継続して行っていくと 次のようなことが起こります

骨格筋の質が 速筋から遅筋優位に変化する
 遅筋が増えると既に解説したように 
 糖や脂質の代謝が積極的に行われるようになります

ミトコンドリアの量が増え 機能が亢進する
 ミトコンドリアが活性化されると
 運動時に亢進している脂肪組織での脂肪分解により
 放出された遊離脂肪酸が処理されやすくなり 
 脂質の代謝が盛んになります

糖を骨格筋内に取り込む作用を有するGLUT4 量が増加する
 血糖の骨格筋への取り込み能力が増加して 
 インスリン感受性が改善します

マイオカインの分泌が活発になる
 分泌されたマイオカインの働きにより 
 骨格筋や全身での糖や脂質の代謝が より活発になります


トレーニングの継続が生活習慣病の予防につながることが
より論理的に説明できるようになってきたわけです


筋トレをしたり ウォーキングをしたりしているときに

自分の骨格筋の内部で 
赤い筋肉が増えて ミトコンドリアが増えて 
マイオカインが産生されて
そうした結果 余分な糖や脂肪が消費されている

そんなイメージをしたら 
なんとなく楽しくて より継続できるような気がしませんか?

書き手のような 体を動かすことが少ない理屈っぽい人には 
運動習慣の良い動機付けになると思いますが 
いかがでしょう?(苦笑)



 

2016.03.22更新

骨格筋が分泌するマイオカインは 
さまざまな代謝調節作用を有しています

主な作用と その作用を有するマイオカインを列挙します


<糖代謝への関与>

骨格筋への糖の取り込みを増加させ インスリン抵抗性を改善する
*IL-6 IL-13 FGF21 

@膵臓のβ細胞の増殖促進
*IL-6

@膵臓のβ細胞からのインスリン分泌促進
*Fractalkine(CX3CL1)

@小腸や膵臓でのGLP-1分泌を促進し インスリン分泌を促す
(運動によるGLP-1分泌増加が マイオカインにより説明できる)
*IL-6


myokinemetaboloc

<脂質代謝への関与>

@脂肪組織や骨格筋に存在する脂肪酸のβ酸化を促進し 
 脂肪をエネルギーに変換する
*IL-6 IL-15 BDNF FGF21


<抗炎症作用>

@糖尿病の病態の基礎となる慢性炎症を抑制し 
 インスリン抵抗性改善に寄与する
(運動による抗炎症作用がマイオカインにより説明できる)
*IL-6 CX3CL1
:抗炎症性サイトカインIL-10 IL-1ra sTNFRの産生増強と
 炎症性サイトカインTNFαの産生抑制による


<白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化促進作用>

@脂肪を貯蔵する白色脂肪細胞を 脂肪を燃焼する褐色脂肪細胞へ変換する
*イリシン FGF21


こうした
・インスリン抵抗性の改善 
インスリン分泌の促進 
GLP-1の分泌促進
などは 糖尿病の病態を改善しますし

脂肪が燃やされることは 減量につながります

また 白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞への分化すると
以前に説明したように 
褐色脂肪細胞は 脂肪を燃やして熱産生を盛んに行うので
エネルギー代謝を高めて減量につながります


このように マイオカインには
肥満や糖尿病を改善してくれる作用を有するものが多いので
近年 大きな注目を集めています

そして 繰り返しますが 
これらのマイオカインは
定期的な運動や骨格筋量の増加により 分泌が促進されるので

myokineexercise

運動が糖尿病や肥満の改善に役立つことが 
マイオカインという分子レベルで説明できることになります



ちなみに ここまでの解説で IL-6
さまざまな作用に関わっていることに気がつかれたと思いますが

il6myokine


もともとIL-6は リンパ球が分泌する
抗体を産生するB細胞の分化に関わる因子として発見・同定されましたが

その後の研究により リンパ球以外にも
脂肪細胞や血管内皮細胞などのさまざまな種類の細胞が分泌し
多くの異なる生理活性作用を発揮することが判明している
とても多彩な顔を持った物質です

IL-6の受容体を抑制する抗体は リウマチの治療にも使われています

こうしたIL-6が マイオカインとして骨格筋からも分泌され
さまざまな代謝調節作用を発揮していることは
とても興味深いことだと思います



さて 話を本筋に戻して
マイオカインが肥満や糖代謝を改善するという事実は 
マイオカインを用いた治療の可能性を示唆します

なかでも肥満の治療で注目されているのが 
白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化促進です

しつこくて申し訳ありませんが
褐色脂肪細胞が増えれば 脂肪の量が減りBMIが減りますから

白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に分化させることは
肥満の治療に用いられるのではないかと期待されています


そして 
白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞への分化促進作用を有するマイオカインの
イリシンFGF21が注目を集めています

*イリシン
運動後に増加するマイオカインで 
白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へ分化させ エネルギー消費を増大させますから
肥満や糖尿病の新たな治療薬として期待されています


irisin

しかし こうした現象はマウスでははっきりと確認されていますが
ヒトの体内での 白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞へ分化作用に関しては
現在のところ意見が分かれている模様で 更なる検討が必要なようです


*FGF-21
運動により増加するマイオカインで
糖質や脂質の代謝に影響を及ぼし 
筋肉への糖の取込みを促進させることでインスリン抵抗性を改善し 
体重も減少させるとされています

また 白色脂肪細胞における脂肪分解を抑制し
白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞へ分化を促進する作用があります

fgfwhitebrown

さらに 
白色脂肪細胞からの善玉アディポカインアディポネクチン産生を促進
インスリン抵抗性の改善などの FGF-21のさまざまな代謝への影響は
アディポネクチンに依存していると考えられつつあります

fgfadiponectin

こうしたデータを基に FGF21アナログ・LY2405319を用いた
ヒトの糖尿病患者さんの治療が試みられていますが

fgfanalog

実際に体重減少作用やインスリン抵抗性改善作用が認められているようで
新たな薬として期待されています


興味深いことに FGF-21は 骨格筋が分泌するマイオカインの1種ですが
脂肪細胞からも アデイポカインの1種として分泌され
肝臓からも へパトカインの1種として分泌され
それぞれ 白色脂肪細胞に働きかけます


fgfmuscleliverfat


また 肝臓から産生されるFGF-21 は 
糖質コルチコイドの量を調整したり 脳に働きかけるといった
骨格筋や脂肪細胞から産生されるFGF-21とは異なる作用を有しており

同じ物質なのに 産生される臓器によってなぜ作用が異なるのか
とても不思議です、、、


ちなみに IL-15
白色脂肪細胞からのアディポネクチン産生促進作用があり
褐色脂肪細胞を増加させ
肥満状態でのインスリン抵抗性の改善作用が認められています

il15adipocyte



以上 聞き慣れない因子の名前がたくさんでてきたし
いろいろな作用の話もたくさんでてきて
読み手の頭の中をグチャグチャにしてしまったかと思い恐縮ですが

要するに 今日のお話のポイントは

骨格筋が 
マイオカインというホルモンを分泌しているだけでも驚きなのに


そのマイオカインが 
肥満や糖尿病を改善させる作用を有していて

一部は実際に ヒトの治療に用いられようとしているので

骨格筋が分泌するマイオカインは 将来有望ですよ

ということです


ホントに最近は この領域の進歩が速くて
専門外の書き手はついていくのが大変ですが

当院にたくさん通われている肥満や糖尿病の患者さんにとって
将来 役に立ちそうな可能性が多く とても興味深いです


かなりオタクな話題になり恐縮でした
申し訳ありませんです(苦笑)



 

2016.03.17更新

書き手がまだ医学生だった頃 
心臓からANPというホルモン(尿を出やすくして体液量を調節する作用を持つ)
が産生されていることが明らかになりました

心臓は体に血液を循環させるポンプの働きをする臓器という認識が強く
ホルモンを分泌するなどというアイデアは全くなかったので
このニュースを聞いたときには本当にビックリしました

こんなことを見つけた人は格好いいなあと 思ったものでした


確かにホルモンというと 
内分泌器官と呼ばれる 下垂体 甲状腺 副腎 性腺などの
専門的に分化した特別な臓器からしか分泌されないと思いがちですが

実は内分泌器官以外の臓器からも ホルモンは産生されています

上述の心臓以外にも 肝臓 骨などが 
さまざまな働きを持つホルモンを産生しています


また生活習慣病の病態形成に深く関わる
アディポカインと呼ばれる一連のホルモン群は
脂肪細胞が分泌していることが明らかになり(これも衝撃的でしたが)

インスリン抵抗性をはじめとするさまざまな病態の原因が
脂肪細胞が産生する悪玉アディポカインと善玉アディポカインの
産生バランスの異常であることも 明らかにされています
(このことは 近日中に詳しく説明します)


そして近年 内分泌器官以外のホルモン産生臓器の仲間に
骨格筋が加わったのです!


骨格筋がホルモンを産生しているなんて イメージできますか?

書き手はそのことを知って またしても本当にビックリしましたよ!


前回のブログにも書きましたが
筋肉というと運動! というイメージが強かったので
糖尿病の病態に積極的に関与しているなんて想像できなかったし

えっ 今度はホルモンまで産生しているの?
ゴメン 骨格筋さん 正直言って小馬鹿にしていました

といった感じです(苦笑)


で 骨格筋が産生するホルモンは何種類かありますが
それらを総称してマイオカインと呼んでいます


myokine1

最初のマイオカインは2003年に発見され
現在までに50種類以上ものマイオカインが同定されています

いずれも運動により骨格筋から分泌され 
全身性に多様な作用を発揮します

その代表的な作用は
*筋肉や骨の形成や再生
*抗炎症作用
*糖質や脂質の代謝への関与
*心筋細胞や血管内皮細胞の保護
などです

myokinefunction



また 上述した脂肪細胞が産生するアディポカインと 
密接な関係を保っています

特に栄養素の代謝に関しては
アディポカインとマイオカインが 作用を制御しあうような関係があります

myokineadipokine


なかには 骨格筋と脂肪細胞の両方で産生されるホルモンもあり
アディポ・マイオカインと呼ばれています


さらに 代謝反応における 
筋肉 肝臓 脂肪組織などの間のクロストークが
それぞれが産生するマイオカイン ヘパトカイン アディポカインにより 
形成されています

muscleliveradopose



ですから マイオカインは
複雑な代謝や炎症反応を巧妙に調節する働きを持った
重要なホルモンと言えます


それにしても 脂肪細胞からも骨格筋からも 
同じホルモンが分泌されているなんて
医者が言うのもなんですが 本当にヒトの体は不思議なものです、、、



さて 前回のブログで 糖尿病治療における運動の重要性
減量とは異なる 筋肉独自の働きから
見直すことができることを説明しましたが

それと同じで 健康の維持・促進に及ぼす運動の効果が
このマイオカインによって説明できる可能性があると注目されています


なぜなら 上述したさまざまな生理作用を有するマイオカインは
骨格筋が運動により収縮した際や
定期的な運動を継続した際に産生されることが多く

運動により骨格筋の量が増えれば それだけ多く産生されるからです

myokine exercise

またインスリンや栄養状態の変化により 
産生が誘導されるマイオカインもあります


もちろん 書き手が医学生だった頃には
マイオカインはもちろんのこと 
アディポカインですら その存在は知られていませんでしたから

この流れは 本当に驚きです


そのうちに マイオカインの働きによって 
色々な病気の詳細な病態が解明されるかもしれませんし

マイオカインの働きや体内動態を修飾する 
新しい薬もできてくるかもしれません

このあたりは 結構興味深いと 
書き手はこの領域の新たな進展を 密かに楽しみにしています(笑)


次回は マイオカインが代謝に及ぼす影響について 
少し具体的に説明します



 

2016.03.16更新

骨格筋は ヒトの体で最も盛んにエネルギー代謝を行っている器官で

骨格筋での基礎代謝
の熱消費量は 
全身のそれの約30~40%を占めると言われています

musclekisotaisya

ですから 筋肉量が低下すると
エネルギーが消費されず脂肪になって溜まってしまう
サルコぺニア肥満で説明した通りです

musclekisotaisha2


一方 骨格筋は 
*糖質や脂質の代謝 
*熱産生による体温調節
にも深く関わっています
(この関わり方については 次回に詳しく説明します)


このように骨格筋は 従来から考えられていたように
単に運動で使われるだけではありませんから

筋肉量が減ることは 健康上の大問題になります
 


実際に 継続的な運動により筋肉量を増やすと
*健康状態が改善し 
*疾病の発症リスクが減り 
*寿命が延長する
ことが証明されています

また 大腿部が太いほど死亡率は低下する というデータもあります

筋肉 侮れないでしょう?



骨格筋と病気との関連で 最も注目されているのが糖尿病です

骨格筋と糖尿病との関わりを説明していきましょう


@骨格筋は 血中の糖を筋肉内に取り込み 血糖調節に関わる 

骨格筋には 血液中の糖分を筋肉内に取り込むという 
血糖の調節に関わる重要な働きがありま


少し詳しく説明しますが

血中に存在する糖の細胞内への取り込みには 
GLUT4という糖のトランスポーターが重要な働きをします

血糖値の上昇に対応して分泌されるインスリン
骨格筋の細胞膜表面にあるインスリン受容体に結合すると

細胞内のIRS PI3 キナーゼ Akt などの情報伝達分子が順々に活性化され
この情報が最終的に細胞内のGLUT4 貯蔵庫に伝達され 
GLUT4が細胞膜上に移動して その働きにより糖の取り込みが起こります
(これがインスリンが血糖値を下げる機序のひとつです)

musclegult4

体内の骨格筋の量はとても多いので
骨格筋はこの機序を介して 血糖調節に大きく関わっています

だから 運動不足や無理なダイエットで骨格筋の量が減ると
血糖調節に悪影響を及ぼしてしまいます


@骨格筋は 糖尿病の原因のひとつであるインスリン抵抗性に関わる

糖尿病になると
インスリン受容体から細胞内に情報が伝わる上記の経路の
いくつかの箇所が異常を起こします

すると インスリンは細胞に働きかけているのに
GLUT4が細胞膜上に移動できないので

細胞内への糖の取り込みが低下してしまいます


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この状態をインスリン抵抗性といいます

以前 糖尿病の解説で紹介したことがあるので 
憶えている方もおられるでしょう

血糖上昇に反応してインスリンがきちんと分泌されているのに
糖が細胞内に取り込まれないので 
インスリンが働いていない状態になってしまうのです

前述したように 体内の骨格筋の量はとても多いので 
このインスリン抵抗性にも 骨格筋は深く関わることになります


@糖尿病では 代謝が盛んな骨格筋の量が減少している

糖尿病では 遅筋(赤筋)が減少しています

遅筋では ミトコンドリアでの糖や脂質の代謝が亢進しているので
そうした筋肉が減少してしまうと ますます糖や脂質の代謝が低下して 
病態が進行するリスクがあります


このように 糖尿病と骨格筋の縁は深いのです



そこで 糖尿病治療における運動の重要性が

運動による減量とは異なる視点から 再認識されることになります

*定期的な運動により 骨格筋の量を維持し 増やせれば
 筋肉への糖の取り込み量が増えて 血糖を低下させることができますし

*GLUT4の量は運動によって増える ので

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運動は インスリンによる細胞内への糖の取込み
それにともなう血糖低下に 大きく貢献することになります


運動には インスリンを介さない抗糖尿病効果もあります

*運動時に骨格筋で多量に消費されるエネルギーを補うため 
 脂肪や炭水化物を燃焼させるように酵素活性が増加
 その結果として 糖尿病を悪くするエネルギー過剰状態が改善されるのです

運動によりミトコンドリアの数や機能が増加するために
 エネルギー代謝を増加させることができます
(どうして運動でミトコンドリアが増えるかは 別の機会に解説します)


運動がいろいろな機序で糖尿病の改善に貢献していることを 
ご理解いただけたでしょうか?



また近年は 
骨格筋のなかに存在する脂肪糖尿病の関連も注目されています

通常の状態では骨格筋のなかには脂肪は存在しませんが
運動不足や過食により遊離脂肪酸が過剰状態になり 

内臓脂肪での蓄積が限界を越えると
骨格筋のなかにも 脂肪が溜まるようになってしまいます

こうした脂肪組織以外に溜まった脂肪は 異所性脂肪と呼ばれますが

骨格筋に異所性脂肪が蓄積すると 
糖の取込みが低下し インスリン抵抗性状態となって
糖尿病が誘発されます

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一方 運動により骨格筋内の異所性脂肪には質的変化が起こり
インスリン抵抗性が改善することが明らかにされています

異所性脂肪に関しては また稿を改めて詳しくご紹介します


このように骨格筋は いくつかの機序を介して
インスリン抵抗性を誘導し 糖尿病の発症進展に関与しますが

いずれも運動により改善します


骨格筋が どのようにして糖尿病の病態形成に関わるか
なぜ糖尿病にとって運動療法が大切なのかを

ご理解していただけたかと思います


次回は 骨格筋がホルモンを産生する? という 
さらに意外な骨格筋の横顔をご紹介します


 

2016.03.15更新

骨格筋の量や力が減ってサルコペニアになると
高齢者の生活の質の低下を招いてしまい

中年の方でも 
運動不足により筋肉量が減って脂肪が増えサルコペニア肥満になると
生活習慣病になるリスクが高まることをご紹介してきましたが


おりしも巷では 去年からのラグビーブームで 
筋骨隆々のマッチョ系の人気が高まっているようですが

注目を浴びている骨格筋は 単に運動に関与するだけでなく
 
エネルギー代謝 糖取り込みなどの
さまざまな現象に深く関与していることが 最近明らかになりつつあり 
非常に注目されています

そこで今日は 骨格筋の素顔についてご紹介します


骨格筋は人体で最大の器官で 体重の40%を占めていて

遅筋(赤筋)速筋(白筋)の2種類があります

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遅筋(赤筋)は 遠洋を泳いでいるマグロ・カツオ型
速筋(白筋)は 近海に棲息するヒラメ・タイ型

といった比喩が よく用いられます

マグロやカツオは 赤身で ゆうゆうと遠距離を泳ぐ
タイやヒラメは 白身で 近距離をせわしなく泳ぐ

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そんなイメージをしていただければ 
それぞれの筋肉の性質をうまく理解できると思います


遅筋(赤筋)
収縮速度が遅いが 長い間収縮し続けることができ 
 持久的な運動でも疲労しにくい

*ミオグロビンが多いので 酸素を豊富に有している(だから赤く見えます)
ミトコンドリア密度と活性が高い
*ミトコンドリアで 酸素を使いエネルギー(ATP)を大量に産生する
*ミトコンドリアで 積極的に糖や脂質の代謝が行われる

といった特徴を有しています

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ですから マラソンやスキーの距離競技などの持久的な運動
よく使われます

遅筋(赤筋)が多く含まれるヒトの代表的な骨格筋は 
ふくらはぎのひらめ筋です


速筋(白筋)
*収縮速度が速く 収縮力が強いが 疲れやすい
ミトコンドリア密度や活性が低い
*ミトコンドリアでの 酸素を使ったエネルギー産生能が低い
*糖や脂質の代謝への関与は 細胞質での無酸素的な解糖が中心
といった特徴を有していて

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短距離走のような瞬発的な収縮を要する運動
に向いています

速筋(白筋)が多く含まれるヒトの代表的な骨格筋は 足底筋です


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勘違いしやすいので注意が必要な点は

骨格筋は遅筋(赤筋)と速筋(白筋)のどちらかだけで出来ているのではなく
遅筋(赤筋)と速筋(白筋)の線維の両方が 
ひとつの骨格筋のなかにモザイク状に分布しているということです


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ひらめ筋は遅筋(赤筋)の割合が多く 足底筋は速筋(白筋)の割合が多い

そして 運動トレーニングなどの刺激によって筋線維の組成は変化し
瞬発的なトレーニングをすると速筋に 
持久的なトレーニングをすると遅筋になります


また 
男性では速筋(白筋)の比率が高く 
女性では遅筋(赤筋)の比率が高い

加齢により 
速筋(白筋)は減少しやすく 
遅筋(赤筋)は萎縮しやすくなる

といったことが わかっています


お寿司屋さんで 赤身や白身のネタを見ながら
これにはミトコンドリアがたくさん含まれているのだな とか
これは瞬発力が強いのだな とか

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shiromi

そんなことを ふと思ってみるのも 楽しいかもしれません?(笑)


次回は 骨格筋と病気 特に糖尿病との関わりについて紹介します



 

2016.03.10更新

前回ご紹介したサルコペニアは 歳をとって筋肉が減ってしまう現象ですが

似たような病態が それほど高齢にならなくても生じることが 
最近の研究により明らかになってきました

それが「サルコペニア肥満」です

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たとえば 体重やBMI(肥満の指標値)が同じであっても
*筋肉量はしっかりあって 脂肪が少ないヒト
*脂肪量が多く 筋肉量が減っているヒト
を比べたら

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そりゃ後者の方が塩梅悪いのは イメージできますね?


以前 基礎代謝について説明したときにご紹介したように
筋肉は基礎代謝を盛んに行い エネルギーをたくさん消費しているので

筋肉量の減少により 使われずに余ったエネルギーは 
脂肪に変わって体に溜まってしまう

こうした悪循環のなれの果てが サルコペニア肥満です


<サルコペニア肥満は生活習慣病>

サルコペニア肥満が 
糖尿病をはじめとした生活習慣病に直結すること
容易に想像がつくことと思います

最近は サルコペニア肥満は生活習慣病予備軍 と見做されています

筋肉が減ってくると → 基礎代謝が低下し → 肥満が進行し 
その結果として 
生活習慣病のリスクが高まる


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実際 サルコペニア肥満の方は 
生活習慣病になるリスクが高くなると報告されていて

*高血圧のリスクは女性で2.3倍
*糖尿病のリスクは2.8倍

それぞれリスクが高く


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しかも ただの肥満やメタボリックシンドロームの方と比べても
生活習慣病になるリスクが高い
 のです


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メタボリックシンドロームよりも さらにリスクが高いなんて 
サルコペニア肥満 恐るべしです!


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<サルコペニア肥満の判定基準>


サルコペニア肥満の判定条件は
筋肉率(体重に占める筋肉の割合)が 
 男性で27.3%未満 女性で22.0%未満
 (日本肥満学会が示す健康的な筋肉率の標準は
 男性で31.0~34.9% 女性で26.0~27.9%)
かつ
BMIが25以上

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この判定条件にあてはまる方は 年齢が上がるほど増えてきますが
早い人は40歳代から発症し 
60代でサルコペニア肥満が増え始め
70代以上になると 約3割の方が該当し 通常の肥満より増える傾向があります

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また 女性の方が筋肉量が少なく脂肪量が多いので 
サルコペニア肥満になりやすい


BMIが25以上の肥満の方

*歩幅が短くなった
*歩行速度が遅くなった (0.8m/秒以下)
*駅の階段を登るときに 手すりに手をかけるようになった
*つま先立ちで歩くことができなくなった
*椅子に座った状態から 片足で立ち上がれなくなった
*片足立ちで60秒立ってられない
*片足で立って靴下が履けない

といった徴候がみられる方は 
サルコペニア肥満のリスクが高いので注意が必要です

また
*ダイエットを頑張っているのに 体重が減らない
*肉類を極端に控えている
*体重は変わらないのに ズボンの太腿の部位がゆるく感じる

といった方も サルコペニア肥満のリスクが高い

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<サルコペニア肥満になる原因>

いちばん多いのは 体を動かさないことですが

注意しないといけないのは 
食事制限だけでダイエットを行った場合です

運動療法を加えずに 食事制限だけだと
仮に3キロの減量に成功したとしても 
脂肪が3キロ減ったわけではなく 
半分以上が筋肉の減少によっている可能性があります

そうだとすると まさにサルコペニア肥満です

筋肉量が減って基礎代謝が低下していますから なかなか体重が減らない

うまくいかないのでギブアップして もとのように食べ始めると
サルコペニア肥満になってしまっているので
以前よりさらに脂肪がつきやすくなり 大きくリバウンドしてしまう


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この点は 非常に重要ですので
On goingでダイエットを頑張っておられる方は 
是非とも気をつけていただきたいです


サルコペニア肥満になる細かいメカニズムとしては

加齢や肥満にともなって生じてくる
*酸化ストレス
*慢性炎症

肥満で生じる
*インスリン抵抗性
*炎症性サイトカイン

といった現象や因子が複雑に絡み合い
筋肉量が減少し 代謝動態が生活習慣病のそれに類似してくると考えられます

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<サルコペニア肥満の対策>

食事制限に運動をプラスして筋肉を付けてあげることが
脂肪を消費させることに繋がり 太りにくい体を作れるので
サルコペニア肥満のいちばん有効な対策になります


食事に関しては
脂分の多い食材を控える
*筋肉の材料となる タンパク質やアミノ酸の多い食材を意識して食べる
運動(筋トレ)後30分以内にタンパク質を摂取するようにする
といった注意が大切で


@それに加えて運動です

下半身を鍛えるスクワットなどの筋トレ(無酸素運動
  太ももの前の筋肉(大腿四頭筋) 裏の筋肉(ハムストリングス) 
  お尻の筋肉(大臀筋) 
  などを鍛える
*脂肪を減らすためのウォーキングなど(有酸素運動
を併用して行うことが大切です

ウォーキングだけで筋肉をつけようとすると 
毎日8000歩以上 約60分歩かなければならなくなり 毎日行うのは難しいので

1日10分ほどあればできる
下半身の太ももとふくらはぎの運動が推奨されています


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なぜ 下半身の運動が重要視されているかというと
 

下半身は 体の中でも筋肉量が多い
ので

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定期的に下半身の筋トレを続ければ 
体組成における筋肉の比率が効果的に増えるので 
基礎代謝量も自然に増え 脂肪がつきにくい体質になります

また 下半身の筋肉は 加齢や使わないことにより 特に衰えやすいので

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動かないでいると下半身の筋肉が減り 代わりに脂肪がついてしまい
同じ体重やBMIであっても 
生活習慣病に近づくことになるので要注意で

こうした理由により 下半身の筋トレが重要視されているのです


実際に 当院で新たに糖尿病と診断された方のなかには
体重は増えていないのに 血糖値やHbA1cが上昇していて
不思議に思ってお聞きしてみると
運動量が減っていたことに初めて気がつかれる方が少なくありません


筋肉量の減少 決して侮れません

歳をとって転んだりするリスクが増えるだけでなく
年齢が若くても 筋肉が減ると生活習慣病になりやすくなる

その恐ろしさを イメージしていただけたでしょうか?
 
今日 解説したことに思い当たる節がお有りの方は 是非ご注意ください

最近は筋肉量が測定できる体重計(体組織計)もありますから
いちど ご自分の筋肉量を測定してみてはいかがでしょう?


次回は この侮れない筋肉について 少し視点を変えてご紹介します



 

2016.03.09更新

サルコペニア という言葉を聞いたことがありますか?

最近の医療関係の話題では 耳にすることが多いキーワードです

全身の骨格筋の量 および 筋力の低下が 
進行性に認められ

それにともない身体機能低下がみられるようになる病態

サルコペニア と呼びます 

高齢者が増えてきた今の世の中で とても注目されています

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筋肉の量の減少は25歳頃から始まり
50歳を過ぎると 徐々に顕著になるとされています

60~70歳で5~13% 
80歳を超えると11~50%の方が サルコペニアを患っておられ

特に男性では高年齢ほど高く 
85歳以上では約半数が サルコペニアと診断されています

日本全体では 人口の約8%がサルコペニアで 
患者数に換算すると 約370万人もおられるとのことです


<診断>

サルコペニアの診断は 
*筋肉の量の測定
*筋肉の機能の評価
によって なされます

量の測定は 
*二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法) 
*バイオインピーダンス法(BIA法)
により行われますが これは専門病院での話ですね

機能の評価は 
主に歩行速度の測定により行われます

こちらの方が現実的です

若年男性の平均歩行速度は1.5~1.6m/秒で 
0.8m/秒以下になると 機能低下と判断されます

横断歩道は 1m/秒の歩行速度で渡りきれるように設計されているので 
横断歩道を青信号の間に渡りきれなくなるようなら要注意で
若い方が渡りきったときに 横断歩道の中央に達しているかどうか
で判断できます

また 身体能力のバランス 強さ 持久力なども 評価の対象になります


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まず歩行速度を評価して 
0.8m/秒以下の場合は 筋肉量を測定し
低下が認められれば サルコペニアと診断されます

歩行速度が0.8m/秒より速くても 
握力が男性で26Kg 女性で18Kgを下回る場合は 
サルコペニアと診断されます


もっと簡便な 筋肉量をチェックする方法としては
指輪っかテスト」があります


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ふくらはぎのいちばん太い部分を 

両手の人差し指と親指で輪っかを作り囲んでみて すき間が出来るようなら 
筋肉量が減少している
とみなされ サルコペニアが疑われます


また 筋力の低下を簡便にチェックする方法は「片足立ち上がりテスト」

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椅子に座り両手を前に組んで 片足で立ち上がろうとしたとき
左右どちらかの足での立ち上がりが出来ないと
筋力低下が疑われます


<原因>

サルコペニアになる原因でいちばん多いのが
*加齢による筋肉量の減少 
*筋肉が萎縮することによる筋力低下 です

筋肉の重量は 成人では体重の約40%を占めていますが
40歳から年に0.5%ずつ減少し 65歳以降には減少率が増大し
最終的に80歳までに30~40%の低下がみられます

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加齢にともない 
*筋肉のタンパク合成能が低下し 
*再生能力も落ちますし
*筋肉のタンパクの分解は逆に増加します

こうしたことには 
*活性酸素の産生増加 
*慢性炎症の持続 
といった 加齢でしばしばみられる現象が関与しています

増加した活性酸素は タンパク合成を抑制しますし
慢性炎症で産生される炎症性サイトカインは 
タンパクの分解を促進します


また 筋力の変化は 筋肉量の変化より遅れ
50歳まで維持されますが 
50歳から70歳では10年間に15%ずつ減少します

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<対策>

サルコペニアになると 
歩行や日常生活に支障をきたしてしまい 
生活の質が損なわれることになってしまいますから

筋肉量が落ちないように 筋力が低下しないように
運動と栄養の両面から予防策を講じることが大切になります

運動に関しては
「ややきつい」と感じる程度の筋力強化運動
継続的に実践することが重要ですが

負荷が低い運動でも 
一回の持続時間を短く 回数を多くすれば 効果が得られます

筋肉量を維持する筋トレについては
あとで詳しくご紹介します

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栄養に関しては 
必須アミノ酸 ビタミンDの補充が重要です

特に筋力強化運動を行ったあとに 
必須アミノ酸を多く含むタンパク質を摂ることが
大切とされています


身近に高齢者がおられる方は その方がサルコペニアになっていないか 
充分に注意してあげてください


<高齢でなくても 安心できない>

ところで まだ若い方はここまで読まれて 
サルコペニアなんて自分とは縁遠い 関係のないことだ
と思われているでしょうが

ヒトによっては 若くても安心できないことが 
最近明らかにされてきました

それはサルコペニアと肥満との関係です

次回は 気になるサルコペニア肥満について ご紹介します



 

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