左利き肝臓専門医ブログ

2015.11.27更新

ピロリ菌が ヒトの胃のなかに持続的に住みつづけることができる
特異な細菌であることを説明しましたが

では ピロリ菌が持続感染していると 胃はどうなってしまうのでしょう?

ピロリ菌が感染した胃では ほぼ100%の確率で ピロリ感染胃炎が生じます
この段階では自覚症状もなく さほど大きな問題ではありませんが
やがて萎縮性胃炎胃・十二指腸潰瘍を引き起こし 
その一部が胃がんに進行する可能性が大きいことが問題です

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ピロリ菌が産生するアンモニアは 胃の粘膜を直接傷つける作用がありますし
アンモニア以外にも 胃粘膜に有害な活性酸素毒素も作りだし
それらが胃粘膜に慢性的な炎症反応を起こさせるので
がんが発生してくる母地となるリスクが大きいのです

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またCagA VacAといったピロリ菌が産生 分泌するタンパク質が
胃の上皮細胞を破壊したり 細胞の異常な増殖を促進することが
がんの発生に関与していると考えられています

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萎縮性胃炎とピロリ菌の関連については
*ピロリ感染者の80%以上が 萎縮性胃炎を起こしている
*萎縮性胃炎の大半が ピロリ菌感染により生じる
*ピロリ菌の除菌治療により 萎縮性胃炎の約50%が改善する
ことが明らかにされています

また 胃・十二指腸潰瘍とピロリ菌の関連については
*胃・十二指腸潰瘍の約90%はピロリ菌に感染している
*ピロリ陽性だと 潰瘍の治療後再発率は60%以上
*除菌治療により 再発率は10%程度に著しく低下する
ことが明らかになりました

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これまで 胃・十二指腸潰瘍は
ストレス 喫煙 消炎鎮痛剤服用と 深い因果関係があると考えられてきました

しかし上に記したように
胃・十二指腸潰瘍の患者さんの90%は ピロリ菌に感染しており
ピロリ菌非感染者の患者さんの80%は 消炎鎮痛剤を服用していることが示され
ピロリ菌非感染者や消炎鎮痛剤を服用していない人に
胃潰瘍が起こることは稀で1%もおらず 
ピロリ菌がいなければ ストレスがあっても潰瘍にはならないことが示されたのです

これは従来の潰瘍発症に関する常識を覆すものでした


一方 胃がんとピロリ菌の関連については
*日本人の胃がんの95%以上は ピロリ菌感染によるものである
ピロリ菌感染者は非感染者より 20〜30倍も胃がんになる確率が⾼い
ピロリ菌感染者約3%は10年後に胃がんが発生する
ことが 明らかになっています

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日本では以前より胃がんで亡くなる方は毎年約5万人と非常に多いのですが
このように胃がんとピロリ菌感染の深い関連が明らかになり
胃がんは感染症であるという概念が示されました

したがって 胃がんを減らすには 
ピロリ感染胃炎 萎縮性胃炎 潰瘍の段階でピロリ菌を除菌すれば良い 
という方針が立てられました

こうした背景により 2013年2月から 
胃炎に対するピロリ菌除菌治療が 健康保険で行えるようになりました

除菌治療に関しては 次回詳しく説明します


さて 興味深いことに ピロリ菌は
胃炎や潰瘍以外の胃の病気や 胃と関係ない病気にも関連することが
明らかにされています

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たとえば 胃MALTリンパ腫という悪性度の低いリンパ腫がありますが
*この病気はピロリ菌による慢性胃炎が母地となり発生する
*90%はピロリ菌が陽性
*除菌治療で60~80%が改善し 予後は良好
なことが報告されています

また 特発性血小板減少性紫斑病という 
血小板という血液を固まらせる働きを持つ細胞が減少する病気がありますが
*特発性血小板減少性紫斑病の60%でピロリ菌が陽性
*除菌治療で40~60%が改善し 予後は良好
であることが示され 
現在では血液の病気である特発性血小板減少性紫斑病の第一選択の治療は
ピロリ菌の除菌治療なのです   

さらに 動脈硬化 蕁麻疹 糖尿病 シェーグレン症候群などでも
その病態形成とピロリ菌感染との関連が疑われています                                

ピロリ菌とヒトの病気との関連は なかなか奥が深いようです

 

 

2015.11.26更新

健診などで「ピロリ菌に感染しています」と指摘されて 
来院される患者さんは少なくありません

マスコミなどでもピロリのことはよく話題になりますので
名前を聞いたことがある方も多いでしょうが
いったいピロリ菌ってナニ? 
と思われている方が たくさんおられるのではないでしょうか?

そこで ピロリ菌の解説シリーズをします


ピロリ菌は 正式名称を ヘリコバクター・ピロリ と言います

ヘリコ は らせん という意味
バクター は バクテリア つまり細菌 という意味
ピロリ は 胃の幽門部(出口に近い部分) の名前

つまり 胃に住みつく らせん形をした細菌 ということです

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ピロリ菌は 1983年に
オーストラリアのウォレンとマーシャルによって発見されました
彼等はこの功績により 2005年にノーベル賞を受賞しています

胃の中には胃酸がありますから強い酸性で 
細菌が生存するには過酷な状況ですから 
胃に住みつく細菌がいるなんて全く想像されていませんでした

しかし ヒトや一部のサルの胃の中には ピロリ菌が生息していました


ピロリ菌は どのようにして強い酸性の状況で生きていけるかというと
自らが有するウレアーゼという酵素により  
胃粘膜の尿素を分解してアンモニアを発生させ
アンモニアのアルカリ性が胃酸を中和して胃酸から身を守るので 
胃の中で生息できるのです

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日本では約3500万人がピロリ菌に感染しているとされますが
感染率は年齢によって異なります

*10代 20代では10%以下
*30代では15~20%
*50歳以上では 50%
*65歳以上では70%以上

このように 年をとるにしたがって感染率が増加していきます

この理由は 年をとるとピロリ菌に感染しやすくなるからではありません

ピロリ菌は経口感染し(口から菌が体内に侵入する)
その感染時期は 幼小児期と考えられています

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離乳食が開始される生後4~8か月の時期に
ピロリ菌が陽性の保護者が'離乳食を噛んで子供に与えるときに
感染する可能性が高い

幼少児期は胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分なので
感染したピロリ菌を排除することができず 
持続感染が成立してしまうと考えられています

そして ひとたび持続感染が成立すると 自然に消滅することは稀で 
ピロリ菌はずっと胃の中に住み続けます

また 大人になって感染すると 
急性胃粘膜病変を起こすことはあり得ますが
一過性感染で終わり 持続感染はしないと考えられています


これは B型肝炎ウイルスと同じです

B型肝炎ウイルスに感染しておられるお母さんから生まれた赤ん坊が
生まれてくるときにお母さんの血液からB型肝炎ウイルスに感染し
幼少時の免疫能が未熟なために持続感染してしまうのと
同じ機序と思われます

ちなみにB型肝炎ウイルスも
大人になって感染すると 急性肝炎を起こすことはありますが
一過性感染で終わり 持続感染はしません
幼少時に感染したときにだけ 持続感染するのです


話が少し脇道にそれてしまいましたが
このようにピロリ菌に感染するのは幼少時と考えられるので
感染を規定する因子は 生まれたときの衛生環境と推定されます

昔は衛生環境が劣悪だったので 高年齢層での感染率が高く
衛生環境が整備されたことにより 若い世代では減少している
と考えられています

それを示唆するデータとして
開発途上国では10代の感染率が80%を越える国もあるという報告があります

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ですから 日本人では上のグラフに示すように
茶色の線のように 昔は若い人でも陽性率が高かったですが
年代が経過するにしたがい オレンジや緑の線のように 
若い人の感染率は減り 高齢者のみで高い感染率を示すようになっています


ピロリ菌とは どのような細菌なのか?
どうしてヒトの胃のなかに持続的に感染しているのか?
日本人におけるピロリ菌の感染動態はどうなのか?

そうしたことをご理解いただけたでしょうか?

次回は ピロリ菌がどんな悪さをしているか説明します



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