左利き肝臓専門医ブログ

2018.06.29更新

糖尿病治療中の低血糖と
高齢者の糖尿病の特徴について 説明します


<低血糖>

@糖尿病の治療をされている患者さんが心配されるのが 低血糖です

実際に

*70歳以上の高齢者

*進行した慢性腎臓病の患者さん

*スルホニル尿素(SU)という種類の薬を飲まれている方

などでは

厳密な血糖コントロールを行っている場合
低血糖が起こり得ると報告されています

また 食事の量や時間の変化 激しい運動などでも
低血糖は起こり得ます


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@症状

低血糖の代表的な症状としては

*血糖が55mg/dL程度まで下がると
 発汗 ふるえ 動悸 悪心 不安感 熱感 頭痛 などの身体症状

*血糖が50mg/dL程度まで下がると
 眠気 脱力 めまい 疲労感 集中力の低下 不安感 抑うつ 不機嫌
 などの 中枢神経症状 精神症状

*血糖が30mg/dL程度まで下がると
 けいれん 意識消失 手足の麻痺 昏睡 と言った重篤な症状が出現し
 放置すると死に至る場合もあり得ます

一般的には 血糖が70mg/dL未満の場合 低血糖と診断されますが
70mg/dL以上でも 低血糖症状がみられることがあります


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また お年寄りでは
ふるえなどの身体症状が出にくく
中枢神経症状 精神症状だけがみられることがあり
低血糖が見逃されることがあるので 注意が必要です


@対策

低血糖症状が起こったら ブドウ糖などの糖質を経口摂取します
飴でもジュースでも 甘いものなら何でもかまいません

tkt03

経口摂取できなければ すぐに医療機関を受診してください



<高齢者の糖尿病>

高齢者では 低血糖症状がわかりにくい という話をしましたので
高齢者の糖尿病について解説します

@特徴

高齢者の糖尿病では

*認知症 うつ

*日常生活機能の低下 サルコペニア 転倒 骨折 尿失禁 低栄養

*腎機能低下

*重度の低血糖

などを起こしやすいのが特徴で

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なかでも 重度の低血糖は
転倒 骨折 心血管病発症のリスクファクターになります


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また アルツハイマー病が1.5倍 認知症が2.5倍多く
うつ病やうつ傾向にもなりやすい

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うつ病になると
小血管症 大血管症 要介護などになりやすいので 要注意です


@高齢者での血糖コントロール目標

高齢者においても 高血糖は
合併症の細小血管症 大血管症 感染症 死亡などのリスクファクターであり

さらに 高齢者特有の認知機能低下 認知症 うつ病
転倒 サルコペニアなどが増え
感染症や死亡のリスクも増えます

一方で 厳格すぎる血糖管理が原因の低血糖は
上述したように 転倒 死亡のリスクファクターになり
認知症 認知機能の低下とも関連します


ですから 高齢者の糖尿病の血糖コントロールは
高過ぎはもちろん良くありませんが 低すぎも良くない


そこで
患者さんの健康状態によってHbA1Cの目標値を変更すべきで

認知機能が正常で 日常生活動作(ADL)が自立している方
軽度の認知障害・認知症 ADLがやや低下している方は
7.0未満

中等度以上の認知症 ADLの低下 他の機能障害がある方は
8.0未満

また 上記のカテゴリーで
インスリン製剤 SU薬など
重症低血糖を起こし得る薬を使用されている方は
それぞれ 8.0未満(下限値7.0) 8.5未満(下限値7.5)

と設定されています

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低血糖を起こし得る方の場合は 下限値を設けて
過度な低血糖を起こさないようにしようという目論見です


@食事療法 運動療法など

高齢者においても 食事療法は
高血糖 脂質異常症 肥満の是正に有用で

また 運動療法は
血糖コントロール 心血管病の発症抑制
ADL 認知機能の維持に有用です

ですから 高齢者においても 食事・運動療法は推奨されます

 

2018.06.28更新

糖尿病の患者さんは 免疫機能が低下しているので
感染症やがんになりやすい傾向があります


<感染症>

@インフルエンザ 肺炎 肺結核など

糖尿病患者さんでは 細菌と戦う白血球の機能が低下していて

特に血糖コントロールが不良の場合は
肺炎などの感染症が重症化し 遷延しやすい傾向があります

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また 糖尿病患者さんでは 肺炎の患者さんが多く

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インフルエンザでの入院が多いことも 報告されています


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ですから インフルエンザワクチンは 是非 毎年 接種すべきですし
肺炎予防のために 肺炎球菌ワクチンも接種が推奨されています


また 肺結核のリスクも高く
新規の肺結核患者さんの約15%が糖尿病を有していた
HbA1cが高いと 結核発病のリスクが高いことも 報告されています


@糖尿病でしかみられない特殊な感染症

一方 糖尿病でしか見られないような 特殊な感染症もあります

*悪性外耳道炎

*気腫性膀胱炎 気腫性腎盂炎 気腫性胆のう炎

*内臓 軟部組織の膿瘍

*蜂窩織炎 皮下膿瘍

*足の感染症に続発する骨髄炎 壊死性筋膜炎

などです

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これらの特殊な感染症は 糖尿病がないと発症しないことが多く

逆に糖尿病の患者さんに発症すると
重篤化して 命に関わることもありますから 注意が必要です

こうした感染の場合は
入院して厳密な血糖コントロールを行う必要があります



<がん>

@これまでの国内 海外の多くの研究により

糖尿病患者さんでは
結腸がん 肝臓がん 膵臓がん 乳がん 子宮内膜がん 膀胱がん
などのリスク上昇が報告されています

@日本の大規模な検討では

糖尿病でない方に比べ 糖尿病患者さんでは
男性 女性とも約1.2倍 がんになり易い

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特に

*結腸がん(1.4倍)
*肝臓がん(1.97倍)
*膵臓がん(1.85倍)

で その傾向が著明でした

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@では 糖尿病が 本当にがんのリスクファクターか?

それは まだ はっきりとしたことが言えないのが現状です

糖尿病とがんとの間には
慢性炎症などの共通のリスクファクターもありますが

糖尿病の予防が がんの予防にダイレクトにつながるかは 不明な点も多い

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しかし 上述したようなデータがあることも事実ですから
糖尿病の患者さんは 定期的ながんの検査をすることをお勧めしています

 

 

2018.06.27更新

今日は 糖尿病における 脂質異常症 肥満との関連について説明します


<脂質異常症>

@脂質異常症は 糖尿病の大血管症のリスク要因になります

高LDL-C血症は 冠動脈疾患発症の強いリスク要因で
 リスクが22%増加します

低HDL-C血症だと
 白人では 心筋梗塞のリスクが19%増加します

 日本人では
 心筋梗塞は関連しませんが 脳血管疾患のリスクは2倍に増加します

高中性脂肪血症に関しては
 冠動脈疾患増加に関連するという研究と しないという研究があります


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細小血管症のリスク要因にもなります

高中性脂肪血症だと
 腎症進展は2.01倍 網膜症進展は2.3倍に増加し
 血圧 糖代謝とは独立した進展リスク要因とされています

低HDL-C血症だと 腎症の進展リスクが増加し

*高HDL-C血症
だと 細小血管症のリスクを低下させ 腎症の進展を低減します

*またTG/HDL-C比が高値だと 全ての細小血管症の進展リスクが高くなります


このように

HDL-C低値は 大血管症 細小血管症 いずれものリスク要因

LDL-C高値は 大血管症のリスク要因

中性脂肪高値は 細小血管症のリスク要因

となります

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@薬物治療

高LDL-C血症の治療に用いられる
 スタチン系薬は 心血管症の発症を抑制し 生命予後を改善します
 心血管症発症率は21%減少 死亡率も9%減少します

高中性脂肪血症の治療に用いられるフィブラート系薬
 非致死性心血管症の発症を24%抑制します


治療目標値は

*高LDL-C血症は

 糖尿病では 120mg/dL未満

 冠動脈疾患の既往がある方
 細小血管症合併例 血糖コントロール不良例 喫煙者 メタボの方は
 100mg/dL未満にコントロールします

*HDL-Cは40mg/dL以上が目標

*中性脂肪は150mg/dL未満が目標です

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@食事療法

多価不飽和脂肪酸 水溶性食物繊維は LDL-Cを低下させるので
 摂取が推奨されます


@運動療法

有酸素運動 無酸素運動 いずれも
 血圧を下げ LDL-Cを低下させ HDL-Cを上昇させるので 推奨されます

*両者の間で有意差はなく いずれかだけでも有用ですが
 組合せて行うとより効果的です



<肥満>

糖尿病と肥満は 切っても切り離せないほどの腐れ縁です

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@肥満をともなう糖尿病では 減量の意義があります

日本人では 軽度の肥満でも糖代謝異常のリスクが高まります

5%の減量で 糖尿病への移行を58%減少できます

8%の減量で HbA1cは7.3%から6.3%に減少できます

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@薬物療法

*インスリン SU薬は 肥満を助長するリスクがありますから
 肥満の糖尿病の方には まずメトホルミンが治療薬として用いられます

 メトホルミンは 大血管症の予防にも有効です

GLP-1受容体作動薬は 肥満症治療薬となり得ます


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 また SGLT2阻害薬も 減量効果が期待され

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 いずれも メトホルミンとの併用も有効です



2018.06.26更新

糖尿病の合併症の解説を続けてきました

今日は 合併症ではありませんが
糖尿病の病態進展に深く関与する高血圧との関連について説明します


<糖尿病と高血圧がつるむと>

糖尿病の患者さんには 高血圧が多く 

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 逆もまた真なりで 高血圧の患者さんでは 糖尿病が多い

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糖尿病と高血圧は つるんで悪さをすることが多いのです


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@ともに 大血管症のリスク要因になります

*両者が合併すると 発症頻度が増加し 予後が悪化します

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糖尿病では

*10mmHgの血圧上昇により 大血管症死亡率が18%増え

*10mmHgの低下により
 糖尿病関連死が15% 心筋梗塞発生リスクが11%低下します

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@両者の合併は 細小血管症のリスク要因にもなります

*高血圧により 細小血管症の増悪しますが
 特に網膜症の初期の変化に関与していることが重要です

*また 高血圧の是正により 腎症の進展が予防され
 降圧剤のアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬
 アンギオテンシン変換酵素阻害薬
 による治療が有用です


<糖尿病患者さんの高血圧の治療>

@糖尿病そのものが 心血管疾患発症のハイリスクファクターなので
 高血圧の より早期からの治療開始 が必要になります

@治療を開始する値は 糖尿病がない場合に比べて厳しく

*診察室で測定する血圧が130/80 mmHg以上で治療開始し
 130~139 mmHgでは 生活習慣改善を3ヶ月試みて

*140/90 mmHg以上では 直ちに降圧剤の投与を開始します

*家庭で測定する血圧なら 125/75 mmHg以上で治療を開始します

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@降圧剤

*第一選択としては
 アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬 アンギオテンシン変換酵素阻害薬
 が用いられます

 こられの薬は 血圧を下げるだけでなく
 腎臓などの臓器の保護作用や インスリン抵抗性の改善作用などを
 併せ持っているからです

*第二選択として
 カルシウム拮抗薬 または 少量利尿薬の併用 が用いられます

 蛋白尿減少には利尿薬 
 eGFR保持にはカルシウム拮抗薬
 
 の併用が有効とされています

*上記の2種類の併用でうまくいかない場合は 3種類を併用します


こうした治療により
血圧を130/80 mmHg未満に維持することを目標にします


糖尿病患者さんは 心血管疾患を発症しないように
より厳しい血圧管理が求められるわけです

 

2017.10.27更新

当院には 糖尿病の患者さんが たくさん受診されており
基本となる食事療法 運動療法に加えて
飲み薬やインスリンの治療を受けておられる方も多くおられます

治療効果は人それぞれですが

糖尿病のコントロールの指標として 
採血時から2~3か月間前の血糖の動態を表す
HbA1cという血液検査項目が用いられ

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その値の変化に 患者さんも医者も 一喜一憂します(笑)

「あれっ 今回は前回よりA1cが上がっちゃいましたね?」
「あ やっぱりそうでしたか
 油断して食べ過ぎて 体重が増えちゃったのですよ」

「おや 今回はA1cが良いですね!」
「頑張って1日1万歩 歩いたのですよ」
「よかった! 努力の成果が数字に出ましたね!」

こうした悲喜こもごものやりとりが 診察室で交わされますが

HbA1c を どれくらいにコントロールすべきなのでしょう?


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基準値上限は 6.2(%)ですが
糖尿病の患者さんで そこまで改善するのは なかなか難しい

日本糖尿病学会の治療ガイドによると コントロール目標値は

*合併症予防のためには 7.0未満

*血糖正常化を目指す際は 6.0未満 

とされています

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ですから HbA1cが6%代になっていれば まあ良いでしょう 
ということになりますが


そんな甘いことではダメだ! もっと厳しくしないと!


という趣旨の臨床研究論文が
一昨日 Lancet diabetes endocrinology という
世界的に有名な権威ある医学誌のオンライン版で発表されました

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この臨床研究を行ったのは 東大の門脇先生をまとめ役とした
日本全国の81施設の医師・研究者からなるグループです


治療を行っている糖尿病患者さんが
心筋梗塞 脳梗塞などの合併症を起こさないようにするためには
治療中の血糖値 血圧 脂質の管理目標値を どのくらいに設定すべきか?

この疑問点を明らかにする目的で
全国81施設の2542人(男女比 6:4 年齢45~69歳)の患者さんを

*現行指針通りのコントロール目標値になるように治療した 従来群
 (HbA1c<6.9% 血圧<130/80mmHg LDL<120mg/dl)

*より厳しいコントロール目標値まで改善するように治療した 強化群
 (HbA1c<6.2% 血圧<120/75mmHg LDL<80mg/dl)

に分け(1271人ずつ)

2006年以降 平均8.5年間 経過観察を続けて
心筋梗塞や脳卒中などの合併症が起きる割合を比較しました


ちなみに 従来群と強化群の 治療の違いですが

強化群では
*インスリン抵抗性改善薬のピオグリタゾン または インスリン
*血圧降下剤のアンギオテンシン受容体拮抗薬
*LDL降下作用が強力なタイプのスタチン製剤
が それぞれ より高頻度に投与されていました


で 結果ですが

両群とも 治療により HbA1c 血圧 LDLはいずれも低下しましたが

改善の程度は 強化群(赤)の方が 従来群(青)より著明でした

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糖尿病専門医さんによると

この折れ線グラフの左端の 最初の下がり具合が大切で
初期治療でしっかりとHbA1c値を改善させること
心血管系合併症の予防に重要なポイントだそうです


さて 心筋梗塞 脳卒中などの合併症の発症率を見ると

時間経過とともに増えてきますが
赤の強化群の方が 青の従来群よりも 低い傾向を認めます


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さらに 合併症の種類別に検討すると

心筋梗塞 狭心症などの心血管系合併症の発症率は
赤の強化群の方が 青の従来群よりも 低い傾向を認めます

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また 脳梗塞 脳出血などの脳血管系合併症の発症率は
赤の強化群の方が 青の従来群よりも
統計学的に有意に低いことが示されました

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さらに 糖尿病の重大な合併症である 糖尿病性腎症 網膜症の発症率も
強化群では従来群より低く
腎症については 統計学的に有意な差があることが示されました

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このように

治療目標値をより厳しく設定して 的確な治療を行うことで
重篤な合併症の発症を予防できることが 明らかにされたのです


糖尿病専門医さんの解説によりますと

治療目標値を厳しく設定することの効果は
過去に欧米からも報告されていましたが

今回の日本からの発表は
糖尿病や脂質異常症の新たな治療薬の効果も反映されているので
業界ではインパクトが強く

2019年に改訂予定の日本糖尿病学会の治療ガイドに
この厳しさが反映されるのではと推測されているようです


*HbA1cは 6.9 でなく 6.2

*LDLコレステロールは 120 でなく 80

*血圧は 130/80 でなく 120/75


実は書き手は 糖尿病の患者さんのHbA1cが7%を下回ると
たとえ6%の後半でも
患者さんと一緒に喜んでいましたが

これからは 6.2まで下がらないと 患者さんに笑顔を見せないようにします!

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糖尿病の患者さん ご覚悟ください?(笑)


HbA1c 6.2 を目指して 一緒に頑張りましょう!


2017.08.30更新

インスリン分泌低下インスリン抵抗性により
血糖値が高い状態が続くと 細胞がダメージを受けてしまいます

こうした状態を 糖毒性 と呼びます

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糖毒性は 糖尿病のコントロールが悪いときに起こりうる病態で

高血糖自体が

*β細胞のインスリン分泌能力を低下させ

GLUT4の活性を低下させてインスリン抵抗性を誘導し

更なる高血糖を招いて 悪循環を形成してしまいます


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年単位で経過する高血糖状態の持続により惹起され
β細胞の減少・線維化 β細胞内の分泌顆粒の減少を起こし
インスリン分泌低下が起こります


その原因のひとつは β細胞内の酸化ストレスの亢進です

高血糖状態が持続すると 酸化ストレスが誘導されますが

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β細胞には抗酸化物質が少なく 酸化ストレスに脆弱なうえ
活性酸素により損傷を受けたDNAの修復能も低いとされています

また 酸化ストレスは
インスリン遺伝子そのものの発現を低下させたり
β細胞のアポトーシスを誘導することが 明らかにされています



インクレチンGLP-1の低下も 糖毒性に関与します

インクレチンは β細胞上に存在する受容体に結合して
インスリン分泌促進 β細胞のアポトーシス抑制 β細胞増殖促進
などの機能を発揮しますが


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糖尿病ではインクレチンの受容体が発現低下しているうえに
高血糖自体がインクレチン受容体発現を低下させている可能性があります



糖毒性には 小胞体ストレス応答 も関与します

小胞体
細胞内で造られるタンパク質の品質管理を行っている細胞内小器官ですが

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高血糖状態が持続して β細胞でのインスリン合成が増加すると
小胞体でのタンパク質品質管理がインスリン新規産生に追いつかず
未成熟のインスリンが蓄積して 小胞体ストレス応答が生じます


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この小胞体ストレス応答により
β細胞はアポトーシスを起こして死んでしまいます


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小胞体の働きと 小胞体ストレスの病気への関与は
また 稿を改めて解説します 



さらに 高血糖状態が続くと
UDP-GlcNAcという物質が産生されますが

UDP-GlcNAcは タンパク質のセリン残基に結合してグリコシル化し
こうして糖化されたタンパク質はしばしば機能異常を呈し
β細胞の機能不全やインスリン抵抗性を惹起して 悪循環を誘導します



高血糖状態では
血中にIL-1β IL-6  TNFαなどの炎症性サイトカインが増加し
インスリン抵抗性 インスリン分泌低下 β細胞のアポトーシス誘導などに
関与するとされています



このように

糖毒性によりβ細胞の状態が悪化して悪循環が生じるので
糖毒性の解除が重要な治療戦略になります


その観点から注目されているのが
新たな糖尿病治療薬の SGLT-2阻害薬 です

腎臓の糸球体で濾過されたグルコースは 近位尿細管で再吸収されますが
その能動的再吸収にかかわるのがSGLT-2という分子で
SGLT-2により約90%のグルコースが再吸収されます

SGLT-2阻害薬は
このSGLT-2を阻害することにより グルコースの再吸収を抑制し
尿中にグルコースを排泄させて 高血糖を是正する薬です

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インスリン分泌とは全く関係ない機序による血糖降下作用であることから
すみやかに糖毒性を解除できる可能性があり 注目されています

また SGLT-2阻害薬により
インスリン分泌能 インスリン抵抗性の改善が見られ
体重減少 脂質プロファイルの改善 尿酸値の低下も観察されています

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当院でも 
糖毒性の存在が疑われるような患者さんには SGLT-2阻害剤を投与し
良好なコントロールが得られている方がたくさんおられます



2017.08.29更新

糖尿病の発症・進展には
インスリンの分泌低下インスリン抵抗性が関わっています


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では インスリン抵抗性って なんでしょう? なんで起きるのでしょう?


<インスリン抵抗性とは?>

インスリン抵抗性


インスリンが 標的とする肝臓 筋肉 脂肪などの細胞に作用しない状態


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インスリンが分泌されても働かないので
肝臓 筋肉などの細胞にグルコースが取り込まれず
血糖が下がらず

そのため 膵臓のβ細胞はさらに過剰にインスリンを分泌し
高インスリン血症になります

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高インスリン血症では インスリン受容体が減少し
インスリン抵抗性がより一層増悪します


こうした悪循環を経て

やがてβ細胞は疲弊し インスリンを分泌しなくなってしまう

これが 糖尿病が進行した成れの果ての姿です


欧米の白人における2型糖尿病の大部分に強く関与していますが

日本人ではインスリン抵抗性がそれほどひどくない糖尿病もかなり存在し
インスリン分泌が減少しやすいことの方が
病態に関与すると考えられています


<生活習慣病とインスリン抵抗性>

インスリン抵抗性は 糖尿病だけでなく
高血圧 脂質異常症などの生活習慣病の背景に存在すると推察されています

インスリン抵抗性のために高インスリン血症になると

肝臓のVLDL産生増加をきたし 高中性脂肪血症をひきおこし
HDLが低下します

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腎尿細管でのナトリウム再吸収が亢進し 水分貯留を引き起こし
高血圧になります


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さらに 血管内皮細胞を増殖させ 動脈硬化症を発症させます

このように インスリン抵抗性は全身に悪影響を及ぼします


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<インスリン抵抗性が起こる機序>

では インスリン抵抗性は なぜ起こるのでしょう?

それを理解するには
インスリンの作用により 細胞が血中のグルコースを取り込む機序
を知っておく必要があります


インスリンが 細胞膜に存在するインスリン受容体に結合すると
受容体の細胞質部分に結合しているチロシンキナーゼが活性化され
IRS-1という情報伝達分子のチロシンがリン酸化されます

そして IRS-1→PI3キナーゼ→PKB
細胞内で情報を伝達する分子が 次々と連鎖反応でリン酸化され
信号が伝達されます

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情報伝達系のしんがりに位置するPKBが リン酸化されて活性化されると

細胞質に存在している 糖輸送体分子のGLUT4 が 細胞表面へ移動して
GLUT4がグルコースを血中から細胞内へ取り込みます

このようにして インスリンは
グルコースを細胞内に取り込ませるのです


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そして インスリン濃度が低くなると
GLUT4は細胞膜から細胞質に戻っていき
グルコースは細胞内に取り込まれなくなります


ちなみに前回説明したように

運動は こうしたインスリンによる機序とは異なる機序により
GLUT4の細胞膜発現を誘導し 
筋肉細胞内へのグルコース取り込みを増加させます

これが 運動がインスリン抵抗性を改善させる機序のひとつです



さて 本題のインスリン抵抗性が起こる機序ですが

インスリン抵抗性は
肥満による脂肪細胞の肥大 異所性脂肪の存在が関与します

つまり 肥大した脂肪細胞が産生する物質
特に 悪玉アデイポカインとよばれる因子が

インスリン抵抗性を誘導するのです

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その代表選手が 遊離脂肪酸

遊離脂肪酸は肝細胞や骨格筋細胞内に入ると
それぞれのIRS-1分子の適切なリン酸化を阻害してしまいます

そのため 上述した
グルコースを細胞内に取り込むためのGLUT4の細胞膜移動が起きなくなり
インスリンが存在していても 細胞内にグルコースを取り込めなくなります

これが インスリン抵抗性が起こる機序です


また 肥大化した脂肪細胞が分泌するTNF-α
インスリン抵抗性を誘導します

TNF-αは
インスリンによるIRS-1のチロシンリン酸化やPI3-キナーゼの活性化を抑制し
GLUT4を介する細胞内へのグルコース取り込みを抑制し
GLUT4の発現そのものも抑制します


このように 

インスリン抵抗性は
肥満により脂肪細胞が分泌する悪玉因子により誘導されるわけですから

肥満が改善されれば 当然 インスリン抵抗性も改善します


減量の大切さが 理論的に裏付けられるわけです


一方 善玉アディポカインアディポネクチン
インスリン受容体の感受性を向上させますが

脂肪細胞の肥大化により アディポネクチン分泌が低下してしまうので
インスリン抵抗性が進むことになります


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少し長くなりましたが
インスリン抵抗性が起こってくるメカニズムを
ご理解いただけたでしょうか?


<インスリン抵抗性を改善させる薬剤>

インスリン抵抗性を改善するには
食事療法や運動療法による体脂肪や内臓脂肪の減少が最も効果的ですが

インスリン抵抗性を改善する作用がある薬剤もあります

*脂肪細胞の分化などに関わる転写因子のPPAR-γを活性化させる
 糖尿病治療薬のピオグリタゾン(商品名:アクトス)

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血圧降下剤の
*アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
*ACE阻害剤
*長時間作用型Ca拮抗剤

などで

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糖尿病の治療 糖尿病にともなう高血圧の治療に用いられています



2017.08.24更新

前回に引き続き インスリンの作用
特に脂肪組織への作用について説明します


インスリンは 脂肪組織に対して

*血中から脂肪細胞への グルコースの取り込み促進

*脂肪細胞内での グルコースから中性脂肪への合成促進

*脂肪細胞内での 中性脂肪の分解抑制

の3つの作用を行います

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つまり

脂肪細胞内に中性脂肪を貯めやすくするわけで
インスリンが「太るホルモン」と呼ばれる所以です

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このメカニズムを詳しく説明しましょう


<中性脂肪の代謝を仕切る2種類のリパーゼ>

まず 中性脂肪の代謝は
2種類のリパーゼ(LPL・HSL)と呼ばれる酵素によって行われます


@リポタンパク・リパーゼ(LPL)

血管内皮細胞の表面に存在し

カイロミクロンやVLDLに含まれるアポC-IIにより活性化され

血中の中性脂肪を 脂肪酸とグリセロールに分解し
分解で出来た遊離脂肪酸を脂肪細胞内に取り込ませやすくします


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この作用により 血中の中性脂肪は下がり

脂肪細胞に取り込まれた脂肪酸とグリセロールは
中性脂肪に再合成されて 脂肪細胞内で貯蔵されます

この貯蔵された中性脂肪こそが 皮下脂肪や内臓脂肪の正体です


@ホルモン感受性リパーゼ(HSL)

アドレナリン ノルアドレナリンなどのホルモンの作用により
活性化する酵素で

LPLと異なり 脂肪細胞内に存在します

ホルモンで活性化されると
脂肪細胞内の中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセリンに分解し
血中に送り出すので 血中の中性脂肪は上がります

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<インスリンのLPL HSLへの作用>

さて インスリンは

*LPLを活性化し
*HPLを抑制します

つまり
脂肪組織の血管内皮細胞のLPL活性を上昇させるので
脂肪細胞内に中性脂肪を貯めやすくし

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脂肪組織のHPL活性を抑制するので
脂肪細胞内の中性脂肪分解が抑制されます

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インスリンが太るホルモンなのは
こうした脂肪細胞のLPL HSLへの相反した作用により
脂肪細胞内に中性脂肪をためやすくするからです


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また インスリンは

脂肪酸の合成を促進し 分解を抑制し
コレステロールの合成を促進します


このように 血糖値を的確に制御するインスリンも

脂質代謝に関しては
必ずしも優等生とは言えない立場にありますし

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脂肪組織に中性脂肪を蓄えさせて 太らせてしまうホルモン

という一面もあるのです



2017.08.23更新

インスリンは 体内のさまざまな臓器の細胞に働きかけますが

主な作用の対象は

*肝臓

*骨格筋

*脂肪組織 

です


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それぞれに対する インスリンの作用の仕方を見ていきましょう


<肝臓への作用>

肝臓の 糖代謝に関する生理的な働きは

*食後にグルコースを取り込み グリコーゲンとして蓄える


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ちなみに 食後には
肝臓の重量の8 %(大人で100~120 g)までの量のグリコーゲンを
蓄えることができます

*空腹時に 糖新生やグリコーゲン分解により
   グルコースを放出する(糖放出)

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ことです


インスリンは 前者の作用を促進し 後者の作用を抑制します

血中のグルコースを取込み 
血中にグルコースを放出させないことにより
血糖値の維持をはかっているわけです



<骨格筋への作用>

@グルコースの取込み

骨格筋は 肝臓と同様に
食後にグルコースを取り込みグリコーゲンとして蓄えます


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しかし肝臓と異なり
骨格筋中ではグリコーゲンは重量の1~2 %程度しか貯蔵できません

インスリンは このグルコースの取り込みを促進します


食物から吸収されたグルコースは
消化管から肝臓に直結する門脈という特殊な血管を経て
肝臓に取り込まれますが

門脈以外の普通の血管内のグルコースの多くは
肝臓よりも骨格筋に多く取り込まれます

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ですから 骨格筋も血糖値の維持に大きく関与しているわけです


@運動によるグルコースの取込みの増強

ここで 骨格筋ならではのテーマである
運動と血糖の関係について解説します

運動すると
骨格筋内に溜めこまれていたグリコーゲンが分解され
エネルギー源として使われます

こうしてグリコーゲンが消費されると 消費された分を補充するために
骨格筋へのグルコースの取り込みが促進され
インスリン感受性も増強します

つまり 運動はインスリン感受性の増強につながります

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一方 運動すると
骨格筋内ではエネルギーのATPが消費されるので
そのために AMPキナーゼ(AMPK)という酵素が活性化されます

AMPKは 細胞内でATPが減ると活性化される
いわば細胞内エネルギーセンサーのような物質ですが

糖質や脂質の代謝だけでなく
細胞増殖 アポトーシス 酸化ストレスなど
多くの生体反応に関わる重要な酵素です


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で AMPKが活性化されると
GULT4という 血中のグルコースを細胞内に取り込む輸送体分子が
細胞内から細胞表面に移動します

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GULT4とグルコースの取込みに関しては あとで詳しく説明しますが

肝臓の細胞等では
GULT4の細胞表面への移動は
インスリンの作用によって起こりますが

骨格筋では 運動すれば
インスリンがなくても GULT4が細胞表面に移動するので
骨格筋へのグルコースの取り込みが増大します

このように

骨格筋では運動により
インスリン非依存性のグルコース取込みが促進するのです

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糖尿病では 骨格筋でもインスリンの作用が悪くなり
インスリン抵抗性の状態になって
グルコースの取り込みが低下し 血糖値が上昇してしまいますが

運動すればインスリン非依存性にグルコースの取り込みが増えるので
その結果としてインスリン抵抗性が改善されます

糖尿病で運動療法が勧められる理由は まさにここにあります


ちなみに アディポネクチン
運動しなくても AMPキナーゼを活性化して
インスリン抵抗性を改善します

アディポネクチンが善玉アディポカインである 大きな原因のひとつです

ins30


@アミノ酸の取込み

また インスリンは 骨格筋では
血中のグルコースだけでなく アミノ酸の取り込みも促進します

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取込まれたアミノ酸はタンパク質の合成に使われ 筋肉量がアップします

筋トレ後に
プロテインのみならず 少量の糖分を摂取した方が良いのは
インスリンにより 筋肉へのアミノ酸取込みが促進されるからです

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長くなったので 脂肪組織への作用は次回に持ち越します



2017.08.22更新

このブログを書き始めた頃は オムニバス形式で書いていて
今のように ひとつの病気について系統的に説明していなかったので

糖尿病に関する解説は 他の病気のそれのような まとまりがありません

そこで これまでのブログで足りないところを補う意味も込めて
糖尿病の病態の肝である インスリン について解説しようと思います

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<インスリンは血糖値を下げる>

インスリン
膵臓のランゲルハンス島・β細胞でつくられるホルモンで

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体内で唯一 血糖値を下げる働きをしているホルモンです

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ちなみに

血糖値を上げるホルモンは 上表に示したように何種類もあるのに
なぜ下げるホルモンは インスリンだけなのか?

これは 以前もご説明した
飢餓時代を生き抜いたご先祖様の体質によるものと推察されています

飢餓の状況では 血糖値を上げる状況は頻繁にあり
そのためバックアップ的な意味合いも兼ねて
上げるホルモンは何種類もありますが

当時は血糖値を下げないといけない状況は 滅多になかったでしょうから
下げるホルモンはインスリンだけで充分だった のかもしれません


さて

食後に血糖値が上がると β細胞がその状態をすばやくキャッチして
すぐにインスリンを分泌して血糖値を下げます


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糖尿病の患者さんでは このインスリンの

*分泌が悪い
*分泌していても うまく働かない(インスリン抵抗性

のいずれか あるいは両方の状態にあるため

インスリンが血糖値を下げてくれないので さまざまな障害が生じてきます

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<血糖を下げるメカニズム>

では インスリンは どのようにして血糖値を下げているのでしょう?


インスリンが細胞のインスリン受容体に働きかけると

その細胞は インスリンの作用により 糖を取り込むゲートが開いて
血中の糖(グルコース)を取込むようになります





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こうした細胞への糖の取込みは
筋肉 肝臓 脂肪組織 などで起こります


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だから 血糖値が下がる


細胞内に取り込まれたグルコースは

解糖系から ミトコンドリアTCA回路 電子伝達系に供与され
エネルギー(ATP)産生の材料になります

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インスリンが分泌されなかったり 抵抗性で働かないと
細胞がグルコースを取込んでエネルギーを作ることができません

糖尿病の患者さんがだるかったりするのは そのせいです


そもそも ヒトが食事で炭水化物を摂取すると
小腸でグルコースに分解され 大量のグルコースが吸収され
血糖値が上がります

グルコースは
インスリンの作用により細胞内に取り込まれて
エネルギー産生の原料として使われますが

インスリンが働かず細胞内に取り込まれないと
血糖値が高いままで維持されます

この高血糖状態が 細胞に悪さをします

グルコースのアルデヒド基の反応性の高さのため
体内のタンパク質と反応して糖化反応を起こし
細胞にダメージを与えるのです


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だからこそ インスリンにより
血糖値が高くならないように制御されているのです

高血糖状態の怖さについては 稿を改めて説明します



<インスリンは中性脂肪を貯めこむ>

一方で インスリンは

肝臓 筋肉 脂肪組織などに糖を取り込ませて
グリコーゲン 中性脂肪などの
細胞内貯蔵栄養物質の新生を促進します

細胞内にエネルギー源となる物質を備蓄させるわけです

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エネルギー産生に利用されなかった余分なグルコースは
インスリンの作用により

肝臓や骨格筋内で グリコーゲンに変換されて貯蔵されたり
脂肪組織内で 中性脂肪として備蓄されます

インスリンが肥満を招くホルモンと呼ばれる所為です

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<糖新生による血糖値の上昇を抑える>

また 血糖値が低下すると
肝臓内のグリコーゲンはグルコースに分解されて 血中に放出されます

この現象を 糖新生 と呼びますが


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血糖値が上がりインスリンが分泌されると 糖新生が抑制されます


つまり インスリンは
必要以上の糖新生により血糖値が上昇しないよう制御しているのです

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インスリンが さまざまな機序により
血糖値の恒常性維持に関わっていることを
イメージしていただけたでしょうか?

次回は インスリンの作用について もう少し詳しく説明します



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