左利き肝臓専門医ブログ

2018.04.24更新

最近 当院には

「麻疹(はしか)の予防接種はできますか?」

という問い合わせが 大人の方から何件かきています

沖縄で麻疹が流行していることが ニュースで報じられていますし
先日は 厚労省からワクチン接種の勧めが呼びかけられました

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そこで 急遽 麻疹(はしか)について 解説します


<麻疹とは?>

麻疹は 麻疹ウイルスによって引き起こされる 急性の全身感染症

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感染経路は 空気感染 飛沫感染 接触感染

ヒトからヒトへ感染が伝播し
その感染力は 他のウイルスに比べ非常に強いのが特徴です

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麻疹に対する免疫を持っていない人が感染すると ほぼ100%発症します

麻疹は感染力が強く 空気感染もするので
インフルエンザなどと異なり 手洗い マスクのみで予防はできません

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ちなみに書き手は 亡き父が小児科医をしていたので
小さいときに 麻疹のお子さんの患者さんが来院された際に
診察室に連れていかれ 強制的に感染させられた記憶があります

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まさに 空気感染で 感染させられたわけですね(笑)


<流行>

毎年春から初夏にかけて流行が見られ

発症する患者さんは 0~1歳が中心ですが
最近は 20歳以上の成人例の割合も増加しています

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かつては 小児のうちに麻疹に感染し 自然に免疫を獲得するのが通常でしたが

後述する麻疹ワクチンの接種率の上昇で
自然に感染する人は 少なくなってきています

このように 麻疹そのものが減っているので

ワクチンを1回接種しても
その後の感染者との接触による免疫強化(ブースター効果)が得られず
時間経過とともに免疫が徐々に弱まって来ている人がいるため
成人での発症が増加している可能性があります


平成27年3月 世界保健機関西太平洋地域事務局により
日本は 麻疹の排除状態にあることが認定されました

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しかし その後も
海外からの輸入例を発端として 集団発生事例は起こっています

東南アジアなどからの帰国者や訪日客が持ち込む例が
相次いでいるのです


2018年の動向としては
海外から訪れた人が感染源となって
麻疹にかかる人が  沖縄を中心に急増しています

台湾からの旅行者が感染源で
訪日前にタイを旅行しており そこで感染したとみらます

4月20日時点で
沖縄県内でこの旅行者と接触のあった人 その家族 同僚など
患者数は計67人に上り 沖縄に行った名古屋市の男性も麻疹と診断されました

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そのため 人の行き来が増える連休に感染が広がる恐れがあり
専門家は適切なワクチン接種を勧めている状況です


<症状 臨床経過>

@潜伏期

感染すると 約10~12日の潜伏期を経て
発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が出現します

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@カタル期

2~3日熱が続いた後
39℃以上の高熱 倦怠感 咳 鼻水 くしゃみ 咽頭痛 結膜充血
などが出現し  2~4日間続きます

この時期は 最も感染力が強いので 要注意です

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カタル期の後半 発疹出現の1~2日前には 口の中の奥歯の対面の粘膜に
隆起した1mmほどの白色斑点(コプリック斑)がみられるのが特徴です

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@発疹期

カタル期の発熱が1℃ほど下降したあと
半日ほどして再び39℃以上の高熱が出現する 二峰性の発熱がみられます

それと同時期に 特有の発疹が出現します

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発疹は 耳後部 頸部 前額部から始まり
翌日には 顔面 体幹上腕 2日後には 四肢末端に及びます

初めは鮮紅色で扁平 徐々に隆起して 融合して不整形な斑丘疹になりますが
一部には健常な皮膚も残ります

発疹が全身に広がるまで 39~40℃の高熱が3~4日間続き
症状はカタル期もよりも ひどくなります

やがて発疹は 次第に暗赤色となり 出現順序に従って退色します


@回復期

発疹出現後 3~4日すると解熱し 全身状態も改善してきます

発疹は退色しますが しばらく色素沈着が残ります



@合併症 予後

肺炎 中耳炎を合併しやすく
患者1,000人に1人の割合で 脳炎が発症すると言われています

死亡する割合も 先進国であっても1,000人に1人と言われていますので

はしかは 命の危険も伴う 意外に侮れない疾患と言えます

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その他の合併症としては
10万人に1人程度と頻度は高くないものの
麻疹ウイルスに感染後 特に学童期に
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という中枢神経疾患を発症することもあります


@麻疹を疑うポイント

麻疹の患者さんとの接触の有無 が重要で

*症状が出現する10~12日前に 麻疹患者さんとの接触があったか?

*人が多く集まる場所にいかなかったか?

*麻疹が流行している国に行かなかったか?


初期のカタル期でみられる 普通の風邪と似たような症状があり
上記の条件にあてはまる方は
麻疹の感染を疑い 早目に医療機関に連絡してください


<治療>

残念ながら 麻疹に特異的な治療法はありません

発熱などの症状を和らげる治療が中心になります

また 感染から回復期までの1か月間は 免疫機能低下を招くので
細菌の二次感染に注意が必要です


最大の防御策は 平時のワクチン接種です

ワクチンについては 次回 詳しく説明します



2018.04.06更新

胃食道逆流症のシリーズの最終回です

生活習慣の改善を頑張っても PPI治療などの薬物治療を試みても
どうしてもうまく効果が上がらない患者さん 再発を繰り返す患者さんには
手術療法という選択肢が残されています


<腹腔鏡手術>

欧米では日本に比べて積極的に手術が行われており
最近は腹腔鏡を使った手術が増え その有用性が報告されています

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主たるものは Nissen手術と呼ばれる
腹腔鏡下で行われる酸逆流防止手術の噴門形成術

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食道から胃へ食物が一方通行し 逆流が生じないようにするために
食道裂孔ヘルニアを修復し 下部食道括約筋(LES)の機能強化を行います


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PPI抵抗性の患者さんでは 健常人に比べ
食道裂孔の穴の大きさが 3倍ほどにも拡大していることが多いそうで

その裂孔を通って 横隔膜の上部に移動している
胃食道接合部(胃の噴門部)を腹部に引き戻してから
緩んだ裂孔を縫って縮めます

ついで 腹部食道に胃の上部(穹窿部)を巻き付けて
下部食道括約筋(LES)の補強を行います

この巻き付け方を

*全周性に行うNissen法

*あまり強く締め付けず270度ほどに留める亜周性のToupet法

のふたつが 代表的な手術法です

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より高度な酸逆流防止効果は Nissen法が秀でていますが

術後早期にみられる嚥下障害や腹部膨満を回避するには
Toupet法が適しています


また 5年以上の長期成績においても
両者の治療効果の差は認められていません

いずれの手術も
開腹せずに腹腔鏡下で行うため患者さんへの負担が少なく
約2時間で終了する安全性の高いものです

PPIを用いた維持治療との比較では
少なくとも術後1年間の観察において

*自覚症状の改善 睡眠障害や呼吸器症状の改善
*24時間食道pHモニタリングにおける酸 胆汁の逆流の改善

などが PPI治療より有用との報告もあります


この手術の適応となるのは

*PPIを用いた初期治療に抵抗性を示す症例

*長期的なPPI維持療法を要するびらん性の症例

です



長期維持療法を必要とする症例に
薬物治療を継続するか 手術を選択するかは
判断が難しい面もあります

*長期にわたる服薬の煩わしさを 患者さんがどう感じられているか?

*新たなPPIのC-CABの長期服用の安全性の検証

*治療にかかる個人的 社会的な経済コストは どちらが安価か?

これらの点について
PPIの長期投与と外科治療の比較を行うことが重要です

こうした点を検討した外国の多くの研究では
PPIの長期必要例における外科手術の適応が支持されていますが

一方で 一部の研究では外科手術の積極的な適応に疑問が呈されています

現在日本では 欧米ほど手術療法は盛んではありませんが
本邦でも更なるデータの積み重ねにより
新たなガイドラインの作成が待たれるところです



<経口的内視鏡的治療>

2003年頃から 胃食道逆流症に対する内視鏡的治療が
欧米を中心に盛んに行われるようになっています

特に
食道裂孔ヘルニア孔の大きさが3cm程度でそれほど大きく拡大しておらず
胃の横隔膜上への滑脱が重度でない症例では
より侵襲の少ない内視鏡的治療が適応となると考えられます

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内視鏡的治療の手法は 10種類以上ありますが

*胃の噴門部にひだを形成する手法

*下部食道括約筋(LES)の筋層を変性させる手法

*LES領域に異物を挿入する手法

などが代表的で

それぞれ 一定の治療効果を認めているものの
長期にわたる治療効果の維持に関しては 未だ明らかになされていません

今後のさらなる検討が望まれ 期待されています

 

2018.04.05更新

胃食道逆流症の治療は

胸やけなどの自覚症状を改善させるための 初期治療

引き続き 寛解状態を維持させるための 維持治療

の ふたつのフェーズがあります


<初期治療>

前回 解説したPPIを  8週間連続して投与して
自覚症状の完全消失を目指します

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<維持治療>

食道粘膜の傷害が軽度な場合は
生活習慣の改善を継続して行えば 薬の継続は不要なことが多いです

しかし 粘膜傷害が高度の場合は
薬をやめると 食道狭窄や バレット食道につながるリスクがあるので
症状が改善しても 薬を続けて維持療法を行うのが望ましい

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特に重症のびらん性の場合は

維持療法をしないと ほぼ確実に再発すると報告されています


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<オンデマンド療法>

最近 注目されている 維持治療の新たな方法です

初期治療により症状が消失した後に
患者さん自身の判断で 症状が出そうな時点 実際に出た時点で服用を開始し
良くなったら薬を中止する

という 治療の方法です

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前回 解説したC-CABは 速やかに効果が現れるので(数時間で症状改善)
オンデマンド療法に適しています


オンデマンド療法の対象となるのは

*軽度のびらん性

*初期治療に反応する非びらん性

の症例です


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<PPI抵抗性胃食道逆流症>

さて 胃食道逆流症の治療で臨床的に問題となるのは
PPI治療に抵抗性を示す症例の治療です

PPIを8週間服用しても

*食道粘膜障害が治癒しない

*逆流症状が十分に改善しない

のいずれかがある場合で

胃食道逆流症全体の30%程度が PPI抵抗性といわれています


原因として考えられているのが

*PPI代謝酵素の遺伝子多型

*不確かな服薬状況 薬剤投与のタイミング 薬物相互作用

*酸以外物質の逆流 胆汁の逆流

*食道の過敏性亢進

*心因性要因が絡む 内臓知覚過敏の関与

などで

約半数は逆流と関係しますが
その20%が酸の逆流 80%が非酸の逆流によると報告されています

こうした症例には 消化管運動賦活薬 外科手術も考慮されます


また 残りの半数は 機能性胸やけ
こうした症例には 抗不安薬や抗うつ剤の投与も考慮されます


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最近は 機能性胸やけは
以前に解説した機能性デイスペプシアとの関連も示唆されているからです

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<治療の注意点 今後の問題点>

最後に 胃食道逆流症の治療の注意点 今後の問題点を解説します

まず

@この病気は 症状が改善しても再発しやすいので
 日頃から 生活習慣や食事に気をつけることが大切で
 薬物治療を自己判断でやめないことも重要です


維持療法での薬の長期服用の安全性については
PPIが使用されるようになってから20年以上経過しますが
長期投与による副作用・有害事象はほとんどないため
維持療法の安全性は高いと考えられています


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@一方 腸内細菌叢の健康に及ぼす影響が明らかにされてきた近年は

長期にわたり胃酸分泌抑制薬を使用し続けると
胃液の殺菌作用の減弱により 腸内細菌叢の変化をきたす可能性があり
それにより さまざまな障害が生じ得る可能性が指摘されています


そうした視点から
胃酸分泌抑制薬は最小限度の容量での使用が望ましく
維持療法も必要な症例に限って行うべきとの意見も みられるようになりました

また 非常に治療効果が高いP-CABを
維持療法の第一選択薬として用いるべきか 現在 検討されています


書き手の個人的な意見としては

適切な初期治療でしっかりと自覚症状の改善が得られたら
維持療法はオンデマンドにして
個々の患者さんの自覚症状の状況を見ながら
薬物治療方針を検討していくべきと考えています


治療後の定期的な検査については

PPIを8W服用後に 原則的には内視鏡検査を行い
食道粘膜の傷害の改善の程度を評価し

軽症では その後の定期的な内視鏡検査は不要で

重症では 狭窄やバレット食道の早期発見のために
1~2年ごとに内視鏡検査を行うべきと推奨されています


また 治療反応性が悪い症例 治療中に自覚症状が増悪する症例では
すみやかな内視鏡検査が勧められています



2018.04.04更新

今日は 胃食道逆流症の治療で使われる薬について解説します


<酸分泌抑制薬>

胃食道逆流症は 食道への病的な酸逆流によって起こる病気です

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ですから 胃酸の分泌を抑制する薬が 治療の第一選択薬になります


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びらん性胃食道逆流症の重症度は
食道内の酸暴露時間 pH(酸の強さ)に相関するので

より強力で持続的な酸分泌抑制作用を有する薬剤
より早期の症状消失 高い治癒率をもたらします


酸分泌抑制薬には

*ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)

*プロトンポンプ阻害薬(PPI)

の2種類があります

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胃の分泌腺にある壁細胞には
ヒスタミンが結合すると胃酸が分泌されるH2受容体があり

H2RAは ヒスタミンがH2受容体に結合するのを妨げることにより
胃酸の分泌を抑えます

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H2RAは 最初に開発された酸分泌抑制薬ですから
胃食道逆流症にも 第1選択薬として使われてきましたが

やがて より強い酸分泌抑制作用を有する
第2世代の酸分泌抑制薬として PPIが登場してきました



胃の分泌腺にある壁細胞には
胃酸を分泌するプロトンポンプという部分があり
PPIは プロトンポンプの働きを妨げ 胃酸の分泌を抑えるのです


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そして 胃食道逆流症に対する治療効果は
PPIがH2RAを上回ることが明らかになりました

PPIの方が より高い治癒率 早期の症状寛解効果を示し
12週投与での治癒率は プラセボ 28% H2RA 52% PPI 84%
症状の寛解率は H2RA 48% PPI 77%
でした

PPIは 自覚症状がある時だけでなく
再発を繰り返す場合は 再発防止のために服用し続けることもあります

但し 重症例では PPIをもってしても 軽症例に比し治癒しにくい


さて 
PPIは肝臓で代謝されたものが 薬として機能を発揮するので
効果発現までに数日を要します

さらに 肝臓でPPIを代謝する酵素はCYP2C19
これには遺伝子多型が存在し

代謝活性が高いhom EM 中等度のhet EM 低いPMに分かれます

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PMの遺伝子多型を有する患者さんでは
PPIの治癒率が有意に低いので 注意が必要です

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また PPI投与で胸やけは改善しても 逆流感が残存することがあり
そうした場合には
消化管運動賦活薬などを併用すると効果があることがあります

食後でなく 食前15~30分前の服用が最も効果的です



さて 2015年に新しいタイプ(カリウムイオン拮抗型)のPPIである
P-CAB・ボノブラサン(商品名:タケキャブ)が使用できるようになりました

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P-CABは
カリウムイオンがプロトンポンプに結合して
胃酸を分泌させるのを抑制することで
従来のPPIより明らかに強力な酸分泌抑制作用を有しています

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また 肝臓で代謝されて初めて効果を発揮する従来型のPPIと異なり
すぐに作用が発現するので 症状の緩和にもより有効です

従来のPPIに抵抗性を有する症例への効果が期待されています

書き手も 非常に切れ味の良い薬という印象を持っていて
当院でもP-CABを用いた治療をされている方が たくさんおられます

現在 どのような患者さんにP-CABを第1選択薬として投与すべきか
P-CABを用いた長期の維持療法の有効性と安全性について
検討されています



酸分泌抑制薬に併用され 効果の上乗せを期待される薬には
以下のようなものがあります


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<粘膜保護薬>

食道粘膜を覆って 逆流してきた胃液から食道を守り
炎症の改善を助ける薬ですが
効果のある時間が短いため 胃酸分泌抑制薬と一緒に使われます

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<制酸薬>

胃で分泌された胃酸や 食道に逆流してきた胃酸を中和して
食道粘膜が傷害される程度を軽くし
症状を速やかに和らげる働きがあります

粘膜保護材と同様 効果のある時間が短いため
胃酸分泌抑制薬と一緒に使われます


<消化管運動賦活薬>

噴門の逆流を防ぎ 食道の蠕動運動を増強することで
食道粘膜の逆流胃酸による傷害を防ぎます

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症状改善のために使われますが あくまで補助的な役割で
単独の有用性のエビデンスはありません

前述したように
特に非びらん性のPPI抵抗例に投与すると
PPIとの併用で効果が得られることがあります



2018.04.03更新

胃食道逆流症の薬物治療の詳細について 説明していきます

今日は タイプ別の治療方針の解説です


<びらん性胃食道逆流症の治療方針>

十分な酸分泌抑制が出来れば ほとんどの場合 治癒します


@軽症の場合は

プロトンポンプ阻害剤(PPI)を用いた初期治療で ほぼ治癒に至ります

*症状も1.5日で完全消失して 速やかな改善効果が見られます

*長期にわたる維持療法は オンデマンド治療を行います
 (オンデマンド治療については あとで説明します)


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@重症の場合は

*PPIでは治癒しにくい治療抵抗例が 3~4割存在します

*新しいタイプのPPIのボノブラサン(タケキャブ)
 従来のPPIに比べ治療効果が優れており 抵抗例の治療に効果を示しています

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*長期維持治療は PPIを用いた維持療法を行います

*タケキャブを用いた維持療法の有用性は 今後の検討課題になっています



<非びらん性胃食道逆流症の治療方針>

前回 ご説明したように

非びらん性では 症状発現に酸逆流以外の要因も関与するため
薬剤で十分な酸分泌抑制を行っても 治癒に至るとは限りません

特に 酸以外の逆流による胸やけ  や 逆流が関与しない機能性胸やけ 
PPI治療では難渋することが少なくありません

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PPIによる症状消失率は
プラセボより35% ヒスタミン受容体抑制剤(H2RA)より20%高く
PPIが第一選択薬になります


しかし PPIの奏功率は
非びらん性ではびらん性に比べ 20%低いと報告されています

治療抵抗例にPPIを増量しても 効果はかんばしくなく
現在 そうした症例へのタケキャブの効果が検討されています


また 抵抗例でのPPI治療の併用薬として

*消化管運動改善薬  ガスモチンなどの 胃の運動をよくする薬

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六君子湯  胃の運動をよくする漢方薬

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アコファイド  機能性デイスペプシアで使われる薬

抗うつ薬

などの薬が試みられています

こうした薬は
非びらん性胃食道逆流症の症状発現に関与するとされる
胃酸の逆流以外の要因の改善効果がありますから
併用により治療効果の上乗せが期待されます

実際に 当院の患者さんでも ガスモチンの併用などは好評を得ています


次回は 使われる薬について詳しく解説します


2018.03.29更新

胃食道逆流症の治療は まず生活習慣の改善を試みます

既に説明したように 生活習慣の変化により 
この病気や症状が現れてきますので
その改善が 治療の第一歩になります

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<食習慣の改善>

@酸の逆流を引き起こす食習慣を改善する

*胃酸分泌を増やし LES圧を低下させる
 煙草 チョコ 炭酸飲料 アルコール カフェイン
 脂の多いもの 甘いもの 刺激の強いもの 酸味の強いもの 
 消化の悪いもの などを控える

*食道での酸暴露時間を延長させる
 煙草 アルコール チョコ 脂肪食 などを控える

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@食べ過ぎ 早食いは やめましょう

*食べ過ぎると 胃に圧力がかかるので  
 逆流をまねくLES弛緩が起こってしまいます

*早食いだと 空気も一緒に飲み込んでしまうので
 ゲップが出やすくなります

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@食べ過ぎ 夜遅くの食事 を控える

*食後すぐに横にならない

*寝る前の2~3時間は食べない

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<寝る姿勢に気をつけることも大切です>

@寝るときに上半身や頭を高くして 胃内容物が逆流しないようにする

@右側を下にして寝ると 胃内容物が逆流しやすいので 
 左側を下にして寝る

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特に症状を悪化させるのは 煙草 アルコール 右臥位と報告されていますので
注意が必要です

寝るときの姿勢は 意外にバカにならない重要なポイントなので
気をつけてください


<肥満 姿勢を改善する>

@腹圧が上がらないように 肥満を改善する

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@背筋を伸ばした姿勢を心掛ける

*前かがみの姿勢はダメ

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@お腹をしめつけない

*しめつけるタイプのベルトや下着などは避ける

*重いものを持たない

@適度な運動を心掛ける


こうした生活習慣の改善は
これから解説する 酸分泌抑制薬の治療と並行して行うと より有効的です

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生活習慣の改善で 思うような効果が得られない場合は 薬物治療を行います

<治療の目標1: 症状のコントロールによる生活の質・QOLの改善>

@週に1回以上の症状発現は QOLに悪影響を与えます

*夜間の酸の逆流は 睡眠障害 非心臓性胸痛の誘発原因となるので
 コントロールが必要です

*夜間の胸やけは 最も大きなQOL低下の要因となります

こうした症状は薬物治療により改善でき QOL改善につながりますから
症状の完全消失が 治療目標になります


特に
プロトンポンプ抑制剤(PPI)というタイプの酸分泌抑制薬は
ヒスタミン2受容体抑制剤(H2RA)というタイプの酸分泌抑制薬や
胃運動機能改善薬より
有意にQOL改善効果があることが明らかにされています

PPI H2RAなどの薬については 次回 詳しく説明します


<治療の目標2: 寛解の維持 合併症の予防>

初期治療で 症状の改善ができたら
次は 長期にわたる維持的な薬物治療により
粘膜傷害を治癒させ 長期間にわたり寛解を維持することが目標になります

PPIにより80~90% H2RAにより40~70%の患者さんで
目標を達成することが可能になります

また 貧血 出血 食道狭窄 バレット食道 食道腺癌といった合併症の予防も
維持治療の目標になります


薬物治療の詳細については 次回以降 詳しく説明します



2018.03.28更新

胃食道逆流症の患者さんは
胸やけなどの自覚症状に悩まれて医療機関を受診され
なんらかの治療を受けられることが多いですが

治療せずに放置したら どうなるのでしょう?


軽度の場合は 5~10年でほとんど変化がないか 自然軽快する場合が多い
と報告されています

しかし 重症化すると症状も悪化して QOLが著しく低下します

ですから 自覚症状が気になる場合は 早目に医療機関を受診され
的確な診断 適切な治療を受けられることをお勧めします



また 放置すると 合併症が発症するリスクがあります

代表的な合併症としては
食道からの出血 食道狭窄 バレット食道などで
欧米での報告はとても多いのですが 日本人の頻度は不明です



ここで バレット食道 について説明します

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というのも 

健康診断や人間ドッグで内視鏡検査を受けられ
たまたまバレット食道が見つかることがあるからです

バレット食道は それほどポピュラーな病気ではないので
消化器専門医でないと知識がないこともあり
指摘された患者さんが きちんとした説明を受けられず
心配になる場合が少なくないからです


バレット食道とは
食道粘膜表面の扁平上皮が変質し
胃粘膜に似た円柱上皮に置き換えられてしまう状態で

食道に バレット粘膜(胃から連続性に伸びる円柱上皮)が存在しています

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胃の内容物の逆流が繰り返されることで起こると考えられていて
胃酸 胆汁の食道への逆流が 発生に関与します

胃食道逆流によって食道に生じた炎症が修復される際に
胃と食道の境目なので
扁平上皮でなく円柱上皮が出てきてしまうようです

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バレット食道を予防するためには
逆流性食道炎をきちんと治療することが大切です

胃食道逆流症の 胸やけの期間 重症度 頻度が
バレット食道発症のリスク要因になり
20年以上にわたる強度の胸やけは 発症率を43倍も高めます



バレット食道は バレット粘膜の長さなどにより

LSBE 全周性に3cm以上  頻度は1%以下(平均0.4%)

SSBE 3cm未満か 非全周性  頻度は17.9%

の ふたつのタイプに分類されます


食道炎患者の20%でバレット食道となり
そのうち1%に食道腺癌が起こり得る と報告されています


食道腺癌は 稀な食道癌です

食道癌の多くは扁平上皮癌なので 腺癌は稀です

欧米では バレット食道が腺癌につながる危険性があると考えられており
特に白人男性に多いとされています

発癌率は
LSBEでは年間0.4%で 欧米では報告数が増加傾向にあり
5cmを超えると0.6%との報告もあります

SSBEでは0.4%より低いと考えられています

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このように

異型上皮を有する症例などの
一部のバレット食道症例が発癌リスクを有するのであって

バレット食道全体が発癌母地になるわけではありません

また 東洋人の食道腺癌は少なく
日本人では 今のところ
バレット食道と食道腺癌の関係は はっきりしていません


ですから
バレット食道と指摘されても 過度に心配する必要はありませんし
内視鏡による経過観察の必要性は 現時点では不明です

ただ 患者さんは不安でしょうから
年1回~数年に1回の内視鏡検査で経過観察するのが良いかもしれません

 

2018.03.27更新

酸などの逆流刺激により 食道粘膜内で形成された慢性炎症により
胃食道逆流症の病態が形成されていること

を説明しました

慢性炎症が生じる最初のきっかけは
酸刺激によって 粘膜細胞内の角化細胞で
炎症を惹起する作用を有するIL-8が産生されることですが


この重要な現象に関わっているのが PAR2 という分子です

PAR2は 消化管上皮 呼吸器上皮細胞に発現している受容体ですが

*トリプシンなどのセリンプロテアーゼで活性化され

*食道粘膜の角化細胞でPAR2が活性化されると IL-8が産生される

ことが 明らかになりました


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そして

*胃食道逆流症の患者さんの食道では
 PAR2発現が増強し その発現量はIL-8量と正の相関がある

*胃酸でpHが低下した状態では PAR2発現が増強する

という 興味深い現象も報告されています


ですから

*PPI治療などで酸が減ると PAR2発現 IL-8産生が減少して
 粘膜内の慢性炎症が改善するか?

*PAR2活性化を抑制する薬を開発すれば
 PPI治療抵抗性症例に対する治療が功を奏するようになるか?

という とても重要な臨床的な課題が 現在 検討されています



また PAR2の活性化は
知覚過敏に関わる痛みの発生にも影響を及ぼしています

ここで登場してくるのが TRPV1 という分子です


TRPV1

痛み刺激を増強する 神経に存在する侵害受容体で
substance Pなどの痛み関連物質の放出を増強し
痛み反応に関与する分子で

PAR2により活性化され
炎症によっても 容易に活性化されます

炎症が起こると局所が痛くなるのは この分子が関与しています

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興味深いことに

TRPV1は 

*酸感受性で

*食道粘膜内の神経細胞に発現し
 痛みの原因となる神経の炎症に関与する

ことが示され

さらに
胃食道逆流症の食道粘膜で TRPV1の発現増強がみられることが
明らかにされました


こうした事実から

酸暴露により誘導された PAR2 TRVP1の活性化経路により
食道の知覚神経が刺激されて
痛みや胸やけが起こってくるのではないかと 推察されています


また

TRVP1は 酸が関与しない慢性炎症でも活性化されますから

酸逆流が関与する胃食道逆流症だけでなく
非酸物質の逆流が関与するとされる非びらん性胃食道逆流症や
酸逆流の関与が少ない機能性胸やけなど

全てのタイプの胃食道逆流症の発症に関与している可能性があります


ということで TRPV1は

PPI抵抗例でみられる 食道や中枢性の知覚過敏が
食道粘膜の慢性炎症により生ずる機序の鍵となる分子として注目され

治療の標的分子の重要な候補で
TRPV1の活性化を抑制するアンタゴニストによる治療も試みられています 


少しオタクな話になって恐縮でしたが

*食道粘膜の慢性炎症を形成するPAR2
*それにともなう知覚過敏に関わるTRVP1

などを抑制する薬剤の開発や新たな治療が
特に酸分泌抑制薬に抵抗性を示すタイプの胃食道逆流症の
治療戦略として注目されていて 今後の研究の展開が楽しみです


慢性的な炎症
は これまでにも

*脂肪組織における慢性炎症と肥満の関係
*視床下部における慢性炎症と食欲制御の関係

などの解説で登場してきましたが

なかなか興味深い現象で

どうして 慢性炎症が生じてしまうのか?
どうやったら そのカスケードを制御できるのか?

そうした疑問に対する回答が
さまざまな慢性的な病気の新たな治療法の開発につながる
とても興味深い現象です

慢性炎症については いずれまた詳しく解説したいと思います 

 

2018.03.22更新

胃食道逆流症の病態で 最近 注目されているのが

食道粘膜の慢性炎症 と 知覚過敏 です


特に 
内視鏡検査では食道にびらんが認められない 非びらん性胃食道逆流症
自覚症状が起こる原因として

食道粘膜で生じている顕微鏡レベルの微細な炎症が  注目されています


胃食道逆流症の食道粘膜で 顕微鏡下で観察される組織学的変化は

*粘膜の底にある基底細胞の過形成を認める
*粘膜内の上皮細胞間の隙間が広がる
*好中球 リンパ球 マクロファージなどの細胞浸潤を認める

といった所見ですが

こうした変化が 酸の暴露により生じることが 動物実験で明らかにされました


従来の粘膜炎症の捉え方は

*酸などが粘膜表面を傷つけ その傷害が表面から深部に進み 
 その過程で 細胞間のバリアーが破壊される

*それを修復するために 好中球やリンパ球が集まってくる

*集まってきた好中球やリンパ球が
 サイトカイン ケモカインといった炎症誘導物質を産生し
 粘膜の炎症が起こる

というストーリーでした

つまり 酸が食道粘膜を破壊することが根本的な原因で 
その結果として 食道粘膜内に炎症が生じる


しかし 新たな検討により

食道粘膜が過剰量の胃酸 ペプシン トリプシンに暴露されると
従来の考え方とは異なる機序により
慢性的な粘膜炎症が生じることが明らかになってきました

*食道粘膜は酸などに暴露されると
 まず粘膜内で食道上皮内の細胞から IL-8が産生される

*ついで IL-6 MIPなどの
 炎症性サイトカイン ケモカイン産生が誘導される

*それらの作用で 粘膜内に好中球やリンパ球が呼び寄せられ
 浸潤した炎症性細胞が 粘膜内でさらにIL-8などを産生するので
 細胞浸潤をともなう炎症が 段階的かつ慢性的に進行していく

そうした現象が起こっていることが 判明したのです

そして 胸やけ症状の強さは
粘膜内への好中球やリンパ球の密度と相関することも
明らかにされました

食道粘膜内で起きている炎症は 結果ではなく 原因なのです


さらに興味深いことに

*酸の刺激で 粘膜内で最初に大量にIL-8を産生する細胞は
 粘膜の角化細胞(ケラチノサイト)であることが明らかにされ

*その作用で粘膜内に浸潤してきた好中球やリンパ球が
 粘膜内でIL-8やIL-6などを産生し

*さらにそれに続いて 粘膜内の線維芽細胞 上皮細胞などが
 炎症性サイトカイン ケモカインを産生する

こうしたカスケードが存在することも判明しました


粘膜内でのIL-8の量は
炎症の強さと相関し PPI治療により減少することも報告されています

そして こうした現象は
目でみえるびらんが形成される前から生じていることが明らかにされました


つまり

胃食道逆流症で生じている粘膜傷害の根本的な原因は
酸への暴露により 粘膜内で誘導された慢性炎症である

という病態のとらえ方が トレンドになっています


さらに興味深いことがわかってきていますが
話が長くなりそうなので 次回に続けます

 

 

2018.03.21更新

どうして 胃食道逆流症が起こるのでしょう?

今日は その病態生理について解説します


<胃酸の逆流の存在が 根源的な原因>

胃食道逆流症は 食道に胃酸が逆流することにより起こります

gerd60

逆流してきた胃酸のために 食道扁平上皮層が消化され
食道粘膜に炎症が起こり びらんや潰瘍に至ります

また 胃酸だけでなく
逆流してきた胃液に含まれるタンパク分解酵素ペプシンも
食道粘膜障害に関与します


健常人では
食道内で1日のうちにpH4未満の酸性である時間(酸暴露時間)は
4% 1時間以内ですが

びらん性胃食道逆流症の患者さんでは
酸暴露時間が健常者より有意に延長しており
食道炎の重症度は酸暴露時間の長さに相関することが
明らかにされています


<どうして胃酸の逆流が起こるか?>

まず 胃酸の分泌が増えすぎるという現象があります

それには 既にご説明したように
*食生活の欧米化や 生活習慣の変化
*ピロリ菌感染率の低下
などが関与します

gerd30


また 下部食道括約筋(LES)の機能低下も 胃酸逆流の大きな原因です

胃から食道への逆流を防ぐ物理的な仕組みが働かなくなるわけですが
特に問題になるのが
嚥下とは関係しない 突然の一過性LES弛緩(TLESR)です

暴飲暴食 高脂肪食でLESの一時的弛緩が起こりやすくなり

胃の動きが悪く 胃内に食物がいつまでも残る人でも
胃の中の圧力が高まり 胃液が上に押し上げられるので
逆流が起こりやすくなります

また 重症者では もともとLES圧が低く
TLESR以外のときにも 胃酸の逆流が生じます

gerd61


一方 食道そのものの運動障害も 胃酸暴露の原因となります

逆流した胃酸が停滞して 胃に戻っていかないのです

食道から胃への酸排出は 嚥下による食道の蠕動運動により行われますが
びらん性胃食道逆流症患者さんでは
軽度例の25% 重症例の48%に 蠕動障害がみられます


さらに 肥満 便秘 妊娠 衣服による締め付け 腰の曲がりといった
腹圧が高まる状態も胃酸の逆流に深く関与します

gerd16


<食道裂孔ヘルニア>

食道裂孔は 横隔膜を食道が貫いている部分ですが
通常は 横隔膜食道靭帯というバンドで閉められているので
食道と胃の接合部が横隔膜を超えることはありません

しかし 何らかの原因で
胃の上部が横隔膜の裂孔を越えて上がっている状態が生じることがあり
こうした病態を 食道裂孔ヘルニアと呼びます

食道裂孔ヘルニアではLES圧低下が生じ
酸逆流の増加 食道からの酸排出遅延をきたし
食道内の酸暴露時間を延長させてしまいます

実際に
びらん性胃食道逆流症では 食道裂孔ヘルニア合併が多く
裂孔ヘルニアの存在は 胃食道逆流症発症の危険因子とされています

gerd62


食道裂孔ヘルニアが起こる原因としては

*加齢による前かがみの姿勢による腹圧の増加
*加齢による食道の周囲の筋肉の働きの低下
*肥満による腹圧の増加

などがあり

肥満の人は 食道裂孔ヘルニアになりやすく
肥満と胃食道逆流症をつなぐ要因のひとつと考えられています



<胃酸以外の逆流も原因になり得る>

前回ご紹介した 食道インピーダンス・pHモニタリング検査により
胃酸以外の物質の食道への逆流が
胃食道逆流症の自覚症状発現に関わることが明らかになりました

特に 非びらん性タイプの一部のように
酸分泌抑制薬治療で酸分泌を抑制しても 症状が改善しない場合は
酸以外の逆流が関与する可能性が大きいと推察されます

 

 

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