生活習慣 不適切な睡眠習慣の改善では
症状が改善しないときは
睡眠薬による薬物治療を行います

日中の活動に支障をきたす不眠が
週3回以上 3か月間以上続いている場合は
薬物治療の適応になります


現在 主に使われている睡眠薬は
ベンゾジアゼピン系 
または 
非ベンゾジアゼピン系 
と呼ばれる種類の薬です


<睡眠薬の作用機序>

いずれも 
神経伝達物質のGABAの
受容体の機能を増強します

前に説明したように
GABAは 
脳全体に最も広く分布する
抑制性の神経伝達物質
覚醒系システムをブロックします

ですから これらの薬により 
睡眠が誘導されるわけです

睡眠薬はGABAの受容体の機能を増強することを示す図


@抗不安作用の有無

ベンゾジアゼピン系と
非ベンゾジアゼピン系の違いは

睡眠を導入する作用以外に
抗不安作用 や 筋肉を弛緩させる作用 を
有しているかどうかです


GABA受容体は 
ω1 ω2 の2種類があり

ω1は 催眠作用

ω2は 抗不安作用 筋肉弛緩作用

に関わります

2種類のGABA受容体を示す図


ベンゾジアゼピン系の薬は
ω1 ω2の両方に作用するので
催眠作用に加えて 抗不安作用があり

ベンゾジアゼピン系 非ベンゾジアゼピン系の2種類のGABA受容体への作用が異なるので 抗不安作用が異なることを示した図

非ベンゾジアゼピン系の薬は
主にω1に作用して ω2への作用は少ないので
抗不安作用はありません

睡眠薬の分類 抗不安作用の有無を示す図


<ベンゾジアゼピン系>

睡眠導入作用が
非ベンゾジアゼピン系に比べ強く
抗不安作用もあるので

患者さんには「よく効く薬」として好評です

ベンゾジアゼピン系の効果の強さを示す図

但し その強力さが故に 
患者さんはこの薬を使用すると
他の睡眠薬では 
効果に満足できなくなってしまう傾向があります

また 
抗不安作用が強い薬(デパス ハルシオンなど)は
弱い薬(レンドルミン リスミーなど)に比べると
休薬しにくくなるという欠点があります

さらに 
長期にわたり服用し続けると
耐性現象と呼ばれる 
効果が次第に減弱する状態が誘導されます

睡眠薬の依存症に苦しむ人

また 身体的にも精神的にも
薬に依存する状態が生じるリスクがあります

薬がないと眠れないし 不安になります

さらに
休薬するとすぐに
以前よりひどい不眠や不安を感じるようになり
こうした状態を 
離脱症状といいます


高齢者では 
筋弛緩作用により
転んだり骨折したりするリスクもあります

長期にわたり高用量を持続服用していると
こうしたリスクは さらに高まりますから 
注意する必要があります

睡眠薬の種類別の依存性の強さを示す表


<非ベンゾジアゼピン系>

抗不安作用がないので
身体依存性は 
ベンゾジアゼピン系に比べると生じにくく

アモバン マイスリーなどは
軽度の不眠症のファーストチョイスとして
使用される頻度が高い薬です

しかし 1年以上服用し続けていると 
身体依存が起こる可能性があります


<作用時間による分類 使い方の差異>

ベンゾジアゼピン系 
非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は
作用持続時間により

*超短時間 半減期1~6時間

*短時間 6~10時間

*中時間 21~36時間

*長時間 65~85時間

に分類され

作用時間による分類を示す表

入眠困難型の不眠症には 
超短時間型 短時間型

中途覚醒・早朝覚醒型には
それより作用時間が長いタイプが用いられます

作用時間別の睡眠薬の使い方を示す図


<治療の実際>

服用後 15~30分以内には床につくことが大切で
効果を実感するまでには 
1~2週間の持続服用が必要です


また アルコールと併用すると
ふらつき もの忘れ 奇異な行動などが起こりやすいので 
禁忌です

睡眠薬とアルコールの併用の危険性を勧告するポスター

睡眠薬治療のゴールは 
徐々に減量して 
いずれは中止することです

服用効果が認められて1か月後くらいから 
少しずつ減量します
1/4量ずつを 2~4週間かけて 
ゆっくりと時間をかけて減らしていきます

睡眠薬の減らし方を説明する図

但し ゴールは休薬ですが
適切な用量で
日中のQOL(生活の質)の改善が達成されている場合は
絶対に中止する必要はないと言われる専門家もおられます


高橋医院