今年はインフルエンザワクチンの
供給量が不足して

当院でも一時期 
ワクチンの在庫がなくなり
患者さんからの接種のご要望に
応えられなかった期間がありました

インフルエンザワクチンのキット

この場を借りて 
お断りせざるを得なかった患者さんたちに
お詫び申し上げます

この騒動もひと段落しましたので 
ちょっと回顧します


そもそも 
なぜ今年はワクチンの供給量が
少なかったかというと

最初に計画したワクチン生産が 
予定通りに進まなかったからです

以前にもご説明しましたように
3年前から インフルエンザワクチンには
2種類のA型 2種類のB型 合計4種類のタイプ(株)
インフルエンザウイルスが含まれています

毎年春頃に 
厚労省と国立感染研究所が中心となり

昨年度までのインフルエンザウイルスの
流行状況を顧みて

今年はどのタイプの
インフルエンザウイルスが流行しそうか予測し
ワクチンに用いる
A型 B型それぞれ2種類の株を決定します

A型は H1N1型(AH1) H3N2型(AH3)

B型は 山形系統 ビクトリア系統

から選ばれます

ワクチンに含まれている4種類のウイルス株

ワクチンは 
これらの株を鶏の卵に接種して 
その中で増殖させ

増殖したウイルスを化学処理して
毒性のない安全なワクチンが製造されます

ワクチンの製造過程を示す図

ワクチンに含まれているウイルスは 
接種されても体内では増殖せず
その抗原性だけが維持されます

そして そのウイルス抗原に対して 
体内で免疫反応が起こり
約2週間で抗体ができるので
インフルエンザに罹りにくくなるというわけです


さて ここ数年 
AH3型に用いられる香港株
卵の中で増殖している間に
ウイルスの抗原性が変異してしまう現象が起こり 
問題となっていました

ワクチンを接種して 
ヒトの体内で抗体を作らせたい抗原が
ワクチンの製造過程で変化してしまったら 
効果が減ってしまいます

そこで この問題を解決しようと
今年は香港株の代わりに
卵で増える過程で抗原変化を起こしにくい
埼玉株が用いられました

そうすることで
少しでもワクチンの有効率を
高めようという目論見です


ところが 初めて用いたこの埼玉株が 
卵のなかで増えにくかったのですよ!

予想に反して 
収率が30%も低下してしまったため
急遽 埼玉株から
従来の香港株に変更してワクチンを作り直したため
製造の出足が遅れ 
供給量が減ってしまったという次第です


さて ここで心配されるのが 
上述した香港株の抗原変異です

実際に 昨年度は
A型ではAH1型よりAH3型が主に流行しましたが
ワクチンにはAH3型香港株が用いられていたためか
海外からは 
ワクチンの予防効果の有効性の低下が報告されました

AH3型に対する有効性は
アメリカでは34% 
ヨーロッパでは17% 
オーストラリアでは10%でした

一方 日本では 
6歳未満を対象にした検討では 有効性は38%でした

また オーストラリアからは
AH3型は高齢者で重症化しやすい 
という報告がなされているので
AH3型に対するワクチン有効性の低下は 
余計に心配になります

ちなみに 
AH1型への有効性は65%で 
AH3型に比べると高率でした


ということで
今年は AH1型 AH3型 
どちらが主に流行するかが問題となります

AH1型なら 
高いワクチン有効性が期待できますし

AH3型だと 
有効性が低下してしまうリスクがある

過去の流行状況の分析からは
AH1型とAH3型は 
1年ごとに交代して流行する傾向があり

一昨年は 下のグラフの青で示される AH1型

一昨年はAH1型が流行したことを示すグラフ

昨年は オレンジ色で示される AH3型 
が主に流行しました

昨年はAH3型が流行したことを示すグラフ

この傾向からすると 
今年はAH1型の流行が予測され
そうするとワクチン有効性の心配は 
杞憂に終わるかもしれません

12/22の都からの報告によると

現在 流行しているのは 
下図の赤で示される AH1型 が中心で
AH3型の頻度は少ないようなので 
ひと安心というところでしょうか?

今年はAH1型が流行していることを示すグラフ

今後 もしAH3型の流行が増えてくるようならば
たとえワクチンを接種していても安心せず
日常生活での感染予防対策を 
より一層心掛けるようにする必要があります

AH1型とAH3型の最新の流行状況は 
逐次報告していきます


さて こ
のところ続いた寒さと乾燥の影響か
遂に都内でも インフルが流行し始め

12/21に 流行注意報が発令されてしまいました!

この時期の注意報発令は
年末からお正月にかけて流行のピークを迎えた
2014年シーズン(グラフの水色)以来で
昨年や一昨年に比べると かなり早い

今年は流行が速いことを示すグラフ

こうした天候が続くと 
さらに流行が拡大するリスクがありますので
充分に予防に心掛けてください!

また 今年の特徴は
通常はA型の流行が終わる
2月くらいから流行り始める B型 が
既に散見されることです
(ふたつ上の棒グラフの水色)

当院でも 
既にB型と診断された患者さんが数名おられました

B型は A型に比べると
発熱は比較的軽度なので 疑いにくく
下痢や嘔吐などの症状が見られるのが特徴です

A型 B型の症状の違いを比較した図

そのような症状がある方は 
インフルエンザも疑ってください!
高橋医院