今日の疑問は 
なぜ 起きたままでいられるか?

そんなことも 
考えたこと ありませんよね?(笑)

ヒトの体には
脳を刺激して 覚醒させて 起こしておくシステム
が存在します

今日はその解説をします


<上行性脳幹網様体賦活系>

脳の脳幹部・網様体には 
覚醒状態を維持する中枢があり

ここから大脳に
上行性の刺激を送り活性化して 
覚醒状態を作り出します

同時に 睡眠に関わるシステムを抑制します

この系を 
上行性脳幹網様体賦活系 と
呼びます

上行性脳幹網様体賦活系により覚醒状態になることを示す図

上行性脳幹網様体賦活系は 
大きくふたつのパーツに分類されます

@モノアミン投射系

*青斑核から発する
 ノルアドレナリン作動性神経

*背側縫線核から発する
 セロトニン作動性神経

*腹側中脳中心灰白質から発する
 ドーパミン作動性神経

*傍小脳脚核 前青斑核野から発する
 グルタミン作動性神経

からなり

(下図の緑の矢印経路)

モノアミン投射系の脳内投射経路を示す図


モノアミン系の神経伝達物質
大脳皮質に広範囲に直接投射して 
覚醒させます

モノアミン系神経伝達物の代謝図

この系は 
作用時間が遅く持続的なのが
特徴です


@アセチルコリン投射系

脳幹部の橋の
外背側被蓋核 脚橋被蓋核に存在する
アセチルコリン作動性神経

下図中央右側の 
赤い上向きの矢印で示すように
視床に多く投射して 
視床を介して脳全体を覚醒させます

アセチルコリン投射系の脳内投射経路を示す図

この系が  モノアミン系と異なるのは
レム睡眠中も活発に活動していることで
(モノアミン系は活動していない)

レム睡眠を作っている中枢
と見做されています

アセチルコリン投射系がレム睡眠を作っている中枢であることを示す図


<ヒスタミン作動性神経>

視床下部後部の結節乳頭核には 
ヒスタミン作動性神経があり

脳幹部から大脳に向けて
上行してくる賦活系に働きかけ
その活性を増強します

ヒスタミン作動性神経の脳内投射経路を示す

花粉症の治療などに用いられる
抗ヒスタミン剤を服用すると眠くなるのは
このヒスタミン作動系神経の作用が弱められ
大脳の覚醒効果が弱くなるからです
 

大脳皮質は 
このようにして賦活化され 
覚醒状態が作り出されますが

近年 
覚醒状態を維持する重要な物質・オレキシン 
が見出されてから
この領域の景色がかなり変わりました


<オレキシン>

オレキシンは 
日本人の桜井博士 柳沢博士らにより
オーファン受容体の未知のリガンドの
検索過程で見出された物質で

視床下部外側野から分泌されます

オレキシンの分子構造図

視床下部外側野は
摂食中枢であり 
当初は摂食に関係すると考えられたので
ギリシア語の食欲・オレキシスから 
オレキシンと命名されましたが

その後の研究により

覚醒状態を活性化し 
維持・安定化させている重要な物質 

であることが判明しました

オレキシンが覚醒状態を活性化し 維持・安定化させている重要な物質であることを示す図

@覚醒状態を活性化する機序

オレキシンの受容体は
上行性脳幹網様体賦活系の
青斑核 縫線核などに強く発現しており

オレキシンの受容体の脳内における発現部位を示す図

下図のピンクの矢印で示すオレキシン

緑の矢印で示す
上述したモノアミン系等の覚醒系神経核に
広く投射して

それらの活動を安定化させ 
大脳の覚醒状態を維持・安定化させています

脳内でのオレキシンの投射部位を示す図

@大脳の覚醒維持以外の作用

*交感神経の活性化

*ストレスホルモンの分泌

*意識の清明化

といった 
覚醒状態に関わる機能を有しています


@オレキシンはモノアミン投射系をバックアップする

興味深いのは
オレキシンの分泌は
オレキシンが活性化するモノアミン投射系から
抑制を受けることです

(下図の右側に並んだモノアミン系からの 
 破線で示される抑制)

オレキシンの分泌がモノアミン投射系から抑制を受けることを示す図

こうした抑制性の反応は 
ネガティブ・フィードバックと呼ばれ
多くの場合は 
起こった反応を収束させる働きを示します

ですから
モノアミン系による
オレキシンの抑制性システムにより
覚醒の誘導・維持が困難になると
思われるかもしれませんが

そうではないのですよ!

何らかの理由で 
モノアミン系の働きが低下して
覚醒誘導が弱まると

同時にモノアミン系による
オレキシン分泌の抑制も弱まりますから

オレキシン分泌が復活して 
その働きによってモノアミン系も復活する

つまり
モノアミン系の低下時に 
覚醒誘導を維持できる仕組み 
になっているわけで

いわば 
事故が起こったときの
バックアップシステムのようなものです

うーん 上手くできていますね!(笑)


オレキシンは 
既に臨床応用もされていて

オレキシン受容体を阻害する物質が 
新たな作用機序の睡眠薬として開発され
現在 睡眠薬の第2位のシェアを誇っています

これについては 
またあとで詳しく説明します


<睡眠誘導 覚醒維持に関わる物質のまとめ>

ということで

前回は 
睡眠を誘導するメカニズム

今回は 
覚醒を維持するメカニズム

について それぞれ説明しましたが

各システムの実行部隊となっているのは

*PG アデノシン GABA セロトニン 
 などの抑制性物質

*モノアミン アセチルコリン ヒスタミン 
 などの刺激性物質 で

脳内の抑制性物質 刺激性物質についてまとめた図




睡眠と覚醒のスイッチをするのが 
オレキシン

オレキシンをはじめとする脳内の睡眠 覚醒に関わる物質をまとめた図




という見取り図を 
イメージしていただくことができたでしょうか?

次回は 睡眠と覚醒のスイッチについて 
もう少し詳しく説明します


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