中央区・内科・高橋医院の
食事と健康に関する情報


食欲の恒常性調節系には 
消化管ホルモンも影響を及ぼします

消化管ホルモンの仲間には
胃 小腸 大腸などの消化管で 
食物の刺激などで分泌される
さまざまな種類の 
多彩な機能を発揮するホルモンが含まれています

消化管ホルモンの種類を列記した図

機能性胃腸障害シリーズで 
腸脳相関をご紹介しましたが
腸脳相関は 
食欲の制御にも関わっています


<消化管ホルモンは孤束核に届き食欲を調節する>

脳幹にある孤束核には
腹部内臓などからの情報が届き 
それを視床下部に伝達することで
食欲の恒常性調節系に情報を提供します

孤束核に届く情報には

*消化管からの迷走神経による情報

*脳神経からの味覚情報

*胃の伸展刺激情報

*肝臓のグルコースセンサーからの代謝情報

などがありますが

消化管から分泌される消化管ホルモンも
大きな情報源になります


各種消化管ホルモンの脳での食欲制御に及ぼす影響をまとめた図


消化管から孤束核に達する迷走神経には
消化管ホルモン受容体が存在し 
その刺激を孤束核に伝えます


では 
食欲に影響する代表的な消化管ホルモンを
ご紹介します


<グレリン>

胃で分泌され 
空腹時に多く分泌され 
食後に分泌は低下します

グレリンの作用をまとめた図

消化管ホルモンのなかで 
唯一 食欲促進作用を有していて

健康な人にグレリンを静脈注射すると 
食物摂取量が30%も増加します

グレリンが唯一食欲促進作用を有することを示す図

孤束核から弓状核に情報が伝わり

食欲促進系のNPY/AgRPニューロンの活性化
抑制系のPOMC/CARTニューロンの抑制により
食欲が促進されます

また 報酬系調節系も活性化されます

消化管ホルモンによる報酬系調節系の制御を示した図

一方 
食欲抑制作用を有するレプチン
食欲抑制性消化管ホルモン(CCK GLP-1など)
と拮抗します

特に 早食いをすると
早期からCCK GLP-1などの分泌が起こりますが

その時点では 
まだグレリンの分泌低下が起こっていないので
CCK GLP-1の食欲抑制効果が
グレリンにより打ち消されてしまい
過食につながります

CCK GLP-1の食欲抑制効果がグレリンにより打ち消されてしまい 過食につながることを示した図

早食いはやめましょう 
の理論的裏付けです

興味深いことに
グレリンの食後の分泌低下は
肥満なヒトでは認められず
病的な肥満の病態に関与している可能性が
示唆されています


<コレシストキニン(CCK)>

十二指腸内に 
アミノ酸 脂肪酸が流れ込むことによって
十二指腸 小腸上部からの分泌が促進され

胆嚢を収縮させ 
胆汁排出を促進する

膵臓に作用して 
消化酵素の分泌を促進する

といった作用により 
タンパク質や脂質の消化を手助けします


コレシストキニンの作用をまとめた図

約30年前 
食欲抑制作用が報告された 
初めての消化管ホルモンで

レプチンとの相乗的な食欲抑制作用も
認められます

コレシストキニンの説明図


GLP-1>

小腸における
グルコース 食物繊維 ω3系脂肪酸などの存在が刺激になり
小腸や大腸 
特に直腸でL細胞により分泌されます

糖尿病治療薬の項で解説したように

*インスリン分泌促進

*β細胞増殖促進

*グルカゴン分泌抑制

といった作用を有する新たな糖尿病治療薬として
現在 臨床の場で多用されていますが

GLP-1の作用をまとめた図


高濃度のGLP-1は食欲抑制作用を有し 
その効果が注目されています

GLP-1の作用をまとめた図その2

GLP-1の受容体は 
視床下部や孤束核にも発現していて

食欲促進ニューロンの
NPY/AgRPニューロンを抑制し

食欲抑制ニューロンの
POMC/CARTニューロンを活性化します

GLP-1の食欲抑制作用については 
またあとで詳しく解説します


<PYY>

小腸や大腸 
特に直腸でGLP-1を産生するL細胞から分泌されます

食後に分泌が増加し 逆に空腹時には分泌は低下するホルモンで
胃の運動 膵液の分泌を抑制します

弓状核での
食欲促進系の
NPY/AgRPニューロンの抑制

抑制系の
POMC/CARTニューロンの活性化

により食欲が抑制されます

食欲抑制効果は 
GLP-1との協調作用も認められています

PYYの説明図

肥満したヒトでは
空腹時 食後の
PYY分泌が低下しているとの報告があり
肥満の病態への関与が示唆されています

また 
体脂肪が減少するとPYYの分泌が増加することから
PYYを肥満したヒトへの食欲抑制薬として
用いる試みもなされています


最後に 興味深い情報をひとつご紹介します

肥満の治療に 
胃を縮小させる外科手術が行われることを
紹介しましたが

なんと
その手術の2日後に 
血中のGLP-1とPYYが上昇してきて 
数か月持続します

この食欲抑制性の消化管ホルモンの増加が
手術後の体重減少に関与すると考えられていて

しかも上昇しているGLP-1とPYYの効果が
相乗的に見られるため
より強力に食欲を低下させます

こうした
手術前には予見されていなかった事実は
食欲制御における消化管ホルモンの重要性を
改めて示唆するものと考えられています


消化管ホルモンと食欲制御との
少し複雑な関係を 
イメージしていただけたでしょうか?

各種消化管ホルモンの脳での食欲制御に及ぼす影響をまとめた図




あとで詳しく解説しますが 
今日ご紹介した消化管ホルモンは
食欲をコントロールする薬剤の有力な候補として 
注目されています


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