糖尿病の発症・進展には
インスリンの分泌低下インスリン抵抗性が関わっています

インスリンの分泌低下 インスリン抵抗性について説明した図

では インスリン抵抗性って 
なんでしょう? 

なんで起きるのでしょう?


<インスリン抵抗性とは?>

インスリン抵抗性は

インスリンが 
標的とする肝臓 筋肉 脂肪などの細胞で
作用しない状態

インスリン抵抗性の動態を解説した図

インスリンが分泌されても働かないので
肝臓 筋肉などの細胞に
グルコースが取り込まれず
血糖が下がらず

そのため 
膵臓のβ細胞は
さらに過剰にインスリンを分泌し
高インスリン血症になります

インスリン抵抗性により高インスリン血症になることを示す図

高インスリン血症では 
インスリン受容体が減少し
インスリン抵抗性がより一層増悪します

こうした悪循環を経て

やがてβ細胞は疲弊し 
インスリンを分泌しなくなってしまう

これが 糖尿病が進行した成れの果ての姿です


欧米の白人における2型糖尿病の大部分に
強く関与していますが

日本人では
インスリン抵抗性がそれほどひどくない糖尿病も
かなり存在し
インスリン分泌が減少しやすいことの方が
病態に関与すると考えられています


<生活習慣病とインスリン抵抗性>

インスリン抵抗性は 
糖尿病だけでなく
高血圧 脂質異常症などの
生活習慣病の背景に存在すると推察されています

インスリン抵抗性のために
高インスリン血症になると

肝臓では
VLDL産生増加をきたし 
高中性脂肪血症をひきおこし
HDLが低下します

高インスリン血症により中性脂肪が上がりHDL-Cが下がることを示した図

腎尿細管では
ナトリウム再吸収が亢進し 
水分貯留を引き起こし
高血圧になります

高インスリン血症により腎尿細管でのナトリウム再吸収が亢進し高血圧になることを示した図

さらに 
血管内皮細胞を増殖させ 
動脈硬化症を発症させます

このように 
インスリン抵抗性は
全身に悪影響を及ぼします


インスリン抵抗性により動脈硬化が進むことを示す図


<インスリン抵抗性が起こる機序>

では インスリン抵抗性は 
なぜ起こるのでしょう?

それを理解するには
インスリンの作用により 
細胞が血中のグルコースを取り込む機序
を知っておく必要があります

インスリンが 
細胞膜に存在するインスリン受容体に結合すると
受容体の細胞質部分に結合している
チロシンキナーゼが活性化され
IRS-1という情報伝達分子の
チロシンがリン酸化されます

そして 
IRS-1→PI3キナーゼ→PKB
細胞内で情報を伝達する分子が 
次々と連鎖反応でリン酸化され
信号が伝達されます

インスリンがインスリン受容体に結合すると糖輸送体分子のGLUT4が細胞表面へ移動して糖が取り込まれる仕組みを示す図 

情報伝達系のしんがりに位置するPKBが 
リン酸化されて活性化されると

細胞質に存在している 
糖輸送体分子のGLUT4 が 
細胞表面へ移動して

GLUT4が
グルコースを血中から細胞内へ取り込みます

このようにして インスリンは
グルコースを細胞内に取り込ませるのです


インスリンによりグルコースが細胞内に取り込まれる過程を示した図

そして 
インスリン濃度が低くなると
GLUT4は細胞膜から細胞質に戻っていき
グルコースは細胞内に取り込まれなくなります


ちなみに前回説明したように

運動は 
インスリンによる機序とは
異なる機序により
GLUT4の細胞膜発現を誘導し 
筋肉細胞内へのグルコース取り込みを
増加させます

これが 
運動がインスリン抵抗性を改善させる機序の
ひとつで ユニークな点です


さて 
本題のインスリン抵抗性が起こる機序ですが

インスリン抵抗性には
肥満による
*脂肪細胞の肥大 
*異所性脂肪の存在が
関与します

つまり 
肥大した脂肪細胞が産生する物質
特に悪玉アデイポカインとよばれる因子が
インスリン抵抗性を誘導するのです

悪玉アデイポカインがインスリン抵抗性を誘導することを示す図

その代表選手が 遊離脂肪酸

遊離脂肪酸は
肝細胞や骨格筋細胞内に入ると
それぞれのIRS-1分子の適切なリン酸化を
阻害してしまいます

そのため 上述した
グルコースを細胞内に取り込むための
GLUT4の細胞膜移動が起きなくなり
インスリンが存在していても 
細胞内にグルコースを取り込めなくなります

これが インスリン抵抗性が起こる機序です

また 
肥大化した脂肪細胞が分泌するTNF-α
インスリン抵抗性を誘導します

TNF-αは
インスリンによるIRS-1のチロシンリン酸化や
PI3-キナーゼの活性化を抑制し
GLUT4を介する
細胞内へのグルコース取り込みを抑制し
GLUT4の発現そのものも抑制します

このように

インスリン抵抗性は
肥満により脂肪細胞が分泌する
悪玉因子により誘導されるわけですから

肥満が改善されれば 
当然 インスリン抵抗性も改善します

減量の大切さが 
理論的に裏付けられるわけです

一方 
善玉アディポカインアディポネクチン
インスリン受容体の感受性を向上させますが

脂肪細胞の肥大化により 
アディポネクチン分泌が低下してしまうので
インスリン抵抗性が進むことになります

脂肪細胞の肥大化によりアディポネクチン分泌が低下するとインスリン抵抗性が進むことを示す図

少し長くなりましたが
インスリン抵抗性が起こってくるメカニズムを
ご理解いただけたでしょうか?


<インスリン抵抗性を改善させる薬剤>

インスリン抵抗性を改善するには
食事療法や運動療法による
体脂肪や内臓脂肪の減少が最も効果的ですが

インスリン抵抗性を改善する作用がある薬剤も
あります

@糖尿病治療薬の
 ピオグリタゾン(商品名:アクトス)

ピオグリタゾンは
脂肪細胞の分化などに関わる転写因子の
PPAR-γを活性化させ

脂肪細胞を小型化させて
インスリン抵抗性を改善します


ピオグリタゾンの作用機序を解説する図

@血圧降下剤

*アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
*ACE阻害剤
*長時間作用型Ca拮抗剤

などは
インスリン抵抗性の改善により
糖尿病の発症リスクを低下させます


降圧剤の種類による糖尿病発症抑制作用をまとめた表

これらの降圧剤は
糖尿病の治療 
糖尿病にともなう高血圧の治療に
用いられています
高橋医院