中央区・内科・高橋医院の
食事と健康に関する情報


これまで説明してきたように
生物の食欲は 
生命維持のために起こってくるもので

体内の栄養・エネルギーレベルにより規定され
視床下部・脳幹で制御されます

これを 
恒常性(ホメオスタシス)
メタボリックハンガー調節系
と呼びます

<人は快楽を得るための食欲を有する>

しかし 
ヒトは他の生物と異なり
恒常性調節系とは別の
食欲調節系を有しています

栄養・エネルギーレベルでなく 
食の快楽・欲求により規定され
本能的な恒常性調節系を凌駕してしまう調節系

それが 
報酬系(快楽性)
ヘドニック調節系です

恒常性・メタボリックハンガー調節系の説明図

この独特の調節系を理解するために
まず脳内で快感を得る 
報酬系 というシステムについて説明します


<報酬系とは?>

報酬系の説明図

報酬系は快楽中枢と呼ばれ

何かをしたいという欲求刺激の増加により 
ポジティブな情動が生起され
その行動が維持され 
さらに増加していく現象を司ります

ある行動を行うことにより 
欲求が満たされると
ヒトの脳内には 
快楽が発生します

この 
行動により快楽が発生する現象は
報酬を得る と表現されます

だから 報酬系

そして この快楽により
ヒトはもっと 
その行動をしたいと欲するようになります

こうなると 
快楽を求める欲求は 
意志の力を超えてしまいます

報酬を得る行動は 
意志の力では止められなくなってしまう

そして依存性が生じてきます

ある行動をすると報酬が得られることが続くと
ヒトはもう 
その行動をすることでは
快楽を得ることが 
できなくなってしまいます

飽きてしまうのです

そこで 快楽を得るために
もっと激しい行動をするようになる

これが依存性の発生です

依存性の発生の説明図


快楽を得るための報酬系の活動 
そして依存性の発生は
薬物依存などで起こりますが 

食欲でも起こるのです

報酬系の活動により
恒常性調節を超え 
体内の栄養・エネルギー状態を無視して
ひとえに快楽を得るために
もっと食べたいと思うようになってしまう

そして 
食べて快楽を得ることに依存性が生じて
さらにもっとたくさんのものを食べるように
エスカレートしてしまう

恐ろしいことです


<報酬系が作動するメカニズム>

この報酬系は

中脳・腹側被蓋野 と

大脳基底核の側坐核 

が司ります

腹側被蓋野・側坐核の所在地を示す図

簡単に説明すると

中脳・腹側被蓋野ドパミンという脳内神経伝達物質が合成され

それが側坐核に投射され 
側坐核がドパミンを放出することで
報酬系の活動が起こってきます

ドパミンが放出される図

このシステムの詳細は 
次回説明します

@報酬系調節系は
 恒常性調節系により調節されている

報酬系の基点となる 腹側被蓋野には

恒常性調節系を司る
視床下部の弓状核・外側野・室傍核などから
POMC AgPY オレキシン 
MCH CART
などのニューロンが投射され

恒常性調節系が 
報酬系調節系の制御に関わっているのが
興味深い点です

恒常性調節系による報酬系調節系の制御の解説図

食欲が 
恒常性と報酬系の二本立ての調節系で
制御されているのは
ヒトに特有の現象ですが

より本能的でプリミティブな
恒常性調節系が

ある意味で本能を凌駕している
報酬系調節系を
どうして制御しているのでしょう?

食欲の制御を
報酬系調節系だけに任せていては
危ないからではないでしょうか?

上述したように 
報酬系では行動に飽きが生じます

この飽きを克服する形で 
さらなる食の欲求が起こり
依存性が発生しますが

報酬系に不具合が生じて 
依存性が発生せず
さらに食べたいという欲求が生じず 
食べることに飽きてしまったら
生命活動を維持できなくなります

そこで 
そんなリスクを有する報酬系を
独り歩きさせないように

恒常性調節系が報酬系調節系に働きかける
そんなシステムが
出来たのではないでしょうか?

ヒト特有の
報酬系調節系というシステムは

他の生物も共有する
本能的な恒常性調節系からすると
理解不能で

ときに 
本能の恒常性調節系を無視した
過食行動をとらせる厄介なもので

だからこそ 
報酬系調節系を独り歩きさせてはいけないと
ヒトのなかに潜む生物学的な本能が
恒常性調節系に報酬系調節
系を監視させている?

恒常性調節系と報酬系調節系の関係

そんな具合に深読みすると 
意外に面白いかも?(笑)
高橋医院