ヒトの体が老化するメカニズムを
明らかにするうえで

重要な情報を与えてくれるのが 
細胞の老化に関する研究です

体を構成する細胞ひとつひとつが 
どのように老化するのか?

細胞の老化が全身の老化を誘導することを示した図


<細胞の老化が身体の老化の原因である?>

体全体の老化 = 個体老化は
細胞の老化 = 細胞老化の積み重ね 
とも言えます

というのも

*生体内で 
 老化細胞が検出されていること

*細胞老化で見られる現象が 
 個体老化でもみられること

*個体老化に関わる遺伝子が 
 細胞老化にも関わること

など 個体老化と細胞老化の間に
共通点があることが明らかにされ

細胞と個体 両方の研究の統合が進んでいて

最近では 
個体老化の原因は細胞老化ではないかと 
考えられています


<細胞は限られた回数しか分裂・増殖できない>
 
細胞老化の研究で
明らかになった有名な現象が
ヘイフリックの成長限界です

ヘイフリックの成長限界説を解説した図

動物の体を構成する細胞は 
限られた回数しか
分裂・増殖することができない

という事実で

生体から細胞を分離して 
試験管やシャーレの中で培養するときに
一定数の分裂しかできないことから 
明らかにされました


細胞は限られた回数しか分裂・増殖することができないことを示すグラフ

その限界は 
細胞が由来する組織 生物の種類によって異なり

また 細胞自身が分裂回数を
モニターしている可能性も考えられています


限界まで分裂した細胞は 
老化細胞と呼ばれます

老化細胞では増殖が抑制されており
増殖を促す処理を施しても 
再度増殖が始まることはありません

どうして老化細胞は増殖しないのか?


<老化細胞は細胞周期が停止している>

そのメカニズムには 
細胞周期が関連します

細胞周期とは 
細胞が分裂・増殖するプロセスで

通常 

G1期
→ S期(DNA複製)
→ G2期
→ M期(細胞分裂)

という4つのステージにより

ひとつの細胞が 
ふたつに分裂・増殖します


細胞周期の解説図




老化細胞では 
この細胞周期がG1期で停止して
G0期という静止状態にあるのです

老化細胞の細胞周期が停止していることを示す図

細胞周期は
CDK/サイクリン複合体という物質の作用により
次の期に進行しますが

老化細胞では
通常では存在しないp21 p16Ink4という
CDK抑制因子(CKI)が発現し

それにより
CDKの活性が低下しているので
細胞周期が前に進まず 
細胞が分裂・増殖することが出来ないのです

細胞周期の制御機構を示す図

<老化細胞の細胞周期が停止する理由>

では どうして老化細胞では 
p21 p16Ink4が発現してくるのでしょう?

そこにはテロメアの短縮が関わっています

既に説明したように 
細胞分裂を繰り返すと 
テロメアが短小化しますが

そのために起こる染色体の構造変化が 
DNAがダメージされたとして認識され

細胞がDNA傷害を受けた際に 
その傷害から守るための反応である
DNA 損傷応答(DDR)が生じます

このDDRにより 
p21 p16Ink4の活性化 発現が
誘導されるのです

DNA 損傷応答(DDR)を示す図

またp21 p16Ink4は 
細胞寿命を迎えていなくても

細胞が
酸化ストレス 放射線 
がん遺伝子の異常活性化
といったストレスを受けたとき 
発現が誘導されます

実際に
細胞はある程度の強さのストレスを受けると 
分裂を停止して老化細胞になる
ことが明らかにされています

ストレスが弱ければ 
細胞はストレスに対する反応系により対処できますが
ストレスが強くて反応系の処理能力を超えれば
細胞は老化して増殖を停止してしまいます


このように 細胞は

DNA傷害を認知したり

ストレスにより生じた細胞内傷害を感知すると

傷害を修復するために 
いったん細胞周期を止めて増殖を止めます

細胞の老化は 
細胞のこうしたストレス対応反応により生じているのです

DNAの異常が蓄積されると 
やがて細胞はがん化しますが

細胞老化は 
がんの増殖を抑制しているという
防御的な側面もあるのです

細胞老化 

なかなか奥深くて侮れません
高橋医院