近松門左衛門の名作といえば 
なんといっても 曽根崎心中

曽根崎心中のポスター

ナマの文楽で見たい 見たい と思いつつ
いまだに実現できていません

だって 
すぐにチケットが完売になってしまうのだもの(苦笑)

大阪一の醤油問屋の若き手代で 
不条理な借金の返済に窮する徳兵衛
徳兵衛を愛しているのに 
他の男に水揚げされそうな遊女のお初

徳兵衛は25歳 
お初は21歳

ともに世をはかなんだ愛し合うふたりが 
曽根崎の天神の森で心中を果す

このリアル心中事件を見聞きした近松は
わずか1か月で 
彼にとって初めての世話物を書き上げ
(世話物は 
 その時代の人々日々の出来事を題材にしたジャンルの浄瑠璃)

竹本義太夫率いる竹本座での公演は大当たり!

以後 名作として 
何度も繰り返し上演されたそうです

曽根崎心中は 
歌舞伎や映画にもなっているので
ご覧になった方も多いと思いますが

書き手は ホント 文楽で見たい!

文楽の曽根崎心中の一場面

で 最近 
近松の人となりを紹介している面白い本を読みました

小野幸恵さんがかかれた
週刊誌記者 近松門左衛門

週刊誌記者 近松門左衛門 の表紙

近松は 
世話物浄瑠璃の作者として有名ですが
実際に文楽で世話物を書き始めたのは
50歳を過ぎてからで

それ以降 新聞の三面記事や
今で言うなら 
怪しげな週刊誌で取り上げられるような事件を
実際に自分で取材に行き 
自分の眼 感性で事件を把握し

早い筆で 
あっという間に世話物浄瑠璃を書き上げて
盟友 竹本義太夫に供給していたそうです

近松門左衛門

心中事件の一報を聞き 
早駕籠で現場に駆けつけ
遺体に掛けられた菰からのぞく 
女性の白い足を見て

衝撃を受けた近松が
仕事場に取って返して
一気に書き上げたのが

名作 心中・天の網島 だったとか

うーん まさに 事件記者 
という感じですね!

近松が 
そんな風にして世話物を書いていたなんて
全く知りませんでした

ビックリです

それにしても 
どうして近松は
下卑た心中事件などに 
強い興味を持ったのでしょう?

また 心中だけでなく

前回ご紹介した女殺し油地獄のような
姦通 横領 強盗 殺人などなどの
いわば俗の極みのような事件にも 
大いに興味を持って
作品に仕上げていったそうで

何が彼を そうさせたのか 

とても興味があります

著者の小野さんは

武士の子供として生まれながら 
生活のために刀を捨て
生きていくために
世俗に埋没せざるを得なかった状況

そして 
教養ある公家の人々に奉公するうちに
身に付けた深い教養

捨て去り難い武家のプライドと 
深い教養の合間に燻ぶり続けた
近松の 
ある種のエキセントリックな情念が

曽根崎の心中事件を契機にして 
堰を切ったようにあふれだしたのでは?

と 推察されています

晩年の近松門左衛門

そして 
人間の本質を克明に描くことで
俗を俗に終わらせず 
文学の高みにまで昇華させ

彼が題材として取り上げた 
リアル事件の俗が持つ普遍性ゆえに
日本人独特の感性に強く訴えかけ
名作として大人気を博し
後世まで残り続けたのであろう

と 考えられます

近松は 芸について

芸というものは 
実と虚との皮膜の間にあるもの也
虚にして虚にあらず 
実にして実にあらず
この間に慰みがあったもの也

と語っていたそうです

文楽の曽根崎心中で 足を触る場面

なるほどねえ

近松が 
東洋のシェイクスピアと称される理由は
そんなところにもあるのかもしれません

それにしても 
そんな近松の世話物を産んだ大阪
濃いですね!

大阪の国立文楽劇場の外観

やっぱり 
曽根崎心中を見るのは
大阪の国立文楽劇場じゃないと
ダメでしょうか?
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