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ダイエットに関する情報


糖質ダイエット中に
脂肪酸から変換されて増えてくるケトン体
糖質が足りないときには 
脳や心臓でエネルギー源として利用されます

これまで説明してきたように
従来の医学では悪者扱いされていたケトン体は

そんなにワルモノではないのではないか? と
最近は見直されつつあります

というのも 
ケトン体は
エネルギー源として利用されるだけでなく

ケトン体自身が
さまざまな作用を有していることが
明らかになってきたからです

今日は 最近注目されている
そんなケトン体の新たな側面について
紹介します

医学雑誌のケトン体特集号の表紙

まず ケトン体について簡単に復習しますが

ケトン体は 
糖質が不足したとき 
肝臓で脂肪酸から変換されます

ケトン体には

*アセト酢酸

*βヒドロキシ酪酸

*アセトン

の3種類があり 

アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸が
エネルギー源になります

脂肪酸から3種類のケトン体ができる過程を示した図

アセト酢酸は 
アセトンに自然分解しますが

βヒドロキシ酪酸は自然分解せず 
血中を流れる最も量の多いケトン体です

糖質が足りないとき 
肝臓で作られたケトン体は
血中に出て脳 心臓 筋肉などに至り
それぞれの細胞内で
エネルギー産生の材料になります

このように 
ケトン体は効率の良いエネルギー源ですが

それ以外にも
体に有益な作用を有することが 
明らかになってきています

ケトン体の有益な作用を示した図

@シグナル伝達物質として働く

βヒドロキシ酪酸は 
シグナル伝達物質として働きます

短鎖脂肪酸が結合する
Gタンパク共役型受容体に結合して
この受容体を発現している細胞に 
シグナルを伝達するのです

HCAR2(GPR109A)という
脂肪細胞に多く発現している受容体に結合すると
脂肪の分解を抑制して 
その結果 血液中の脂質量が減ります

またHCAR2は
マクロファージなどの
炎症に関与する免疫細胞にも発現しており
βヒドロキシ酪酸が結合すると 
炎症が抑制されます

HCAR2(GPR109A)を介したさまざまな作用をまとめた図

一方 FFAR3(GPR41)という
交感神経節の神経細胞に発現している受容体は
中鎖脂肪酸が結合すると 
代謝を活性化しますが

FFAR3(GPR41)を介したさまざまな作用をまとめた図

βヒドロキシ酪酸が結合すると
交感神経活性化を抑制し 
結果として代謝を抑制します

GPR41のエネルギー調節機構をまとめた図




さらにβヒドロキシ酪酸(下図のBHB)は

インフラマソームという
体内のコレステロール結晶や尿酸の刺激により
炎症を惹起して慢性炎症に関与する
タンパク質複合体の主要成分であるNLRP3という物質を
抑制して炎症を抑えます

βヒドロキシ酪酸の抗炎症作用を説明する図

このように
βヒドロキシ酪酸は
シグナル伝達物質として働き
代謝や炎症を抑制します


@遺伝子発現のエピジェネテイック制御に関与する

遺伝子の発現調節には
DNAと結合したヒストンの
アセチル化・脱アセチル化が関与し
こうした調節をエピジェネテイック制御と呼ぶことを
説明しましたが

βヒドロキシ酪酸
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)活性を阻害し
遺伝子の転写調節に関与することが
明らかにされました

またβヒドロキシ酪酸が
エネルギー源として利用される反応過程で
ヒストンアセチル化酵素の原料が産生されるので

βヒドロキシ酪酸が存在すると
ヒストンがアセチル化される傾向が強くなります

βヒドロキシ酪酸のエピジェネテイクス制御を説明する図

こうなると 
遺伝子発現が効率よく行われるようになりますが

特に 老化を防ぎ 抗酸化作用を示す
転写因子のFoxo3a Mt2などが
高率に発現されるようになります

つまり 
βヒドロキシ酪酸には 
エピジェネテイック制御を介し
体にとって害になる酸化ストレスを防ぎ
老化を防ぐ作用
があるわけです


@心臓や血管の保護に貢献している?

このような ケトン体が有する

*シグナル伝達物質として 
 代謝や炎症を抑制する

*エピジェネテイック制御により 
 酸化ストレスを防ぐ

といった作用は
心臓や血管の保護に貢献していると
推測されています

腎臓での糖の再吸収を抑制することで
血糖値を調節する
SGLT2阻害薬という 
新しいタイプの糖尿病の薬を投与すると
体内でケトン体が増えてきます

SGLT2阻害薬のより体内でケトン体が増えることを説明する図

そして興味深いことに
SGLT2阻害薬を投与すると
血糖降下作用だけでは説明できないほどの
高い心・血管保護作用が認められることが
明らかになり

この予想以上の心・血管保護作用は
増えたケトン体によるのではないか?
と推測されているのです

確かに 狭心症や心筋梗塞の発症には
脂質異常 炎症 酸化ストレスなどが
大きく関与していますが

上述したように
ケトン体には
それらを抑制する作用がありますから
そうした仮説は
意外に的外れではないかもしれません


@てんかん アルツハイマー病にも有効?

ケトン体には
神経保護作用があることが明らかにされています

薬剤抵抗性のてんかんの患者さんに
体内でケトン体を増加させる
高脂質・低炭水化物組成のケトン食を食べてもらうと
てんかんが改善します

ケトン食が効果を示す疾患についてまとめた表

またケトン食は
アルツハイマー病・パーキンソン病にも有用
との報告があります

ケトン食の効果発現機序を解説する図


ということで 
長々とケトン体の健康に良い側面を
解説してきましたが

既に説明した 
中鎖脂肪酸 胆汁酸などと同様に

代謝産物のケトン体が
シグナル伝達物質として働くことなどにより
さまざまな生理作用を発揮することは 

とても興味深く
代謝を見る視点の変化を痛感します

以前にも述べましたが
書き手が医学生や研修医だった頃は
ケトン体は怖いアシドーシスを起こすワルモノ
というイメージしかなかったわけで

それが 
炎症や酸化ストレスを抑制するなんて
驚き以外の何物でもありません

糖質ダイエットについて勉強したおかげで
ケトン体の新たな側面について知ることができて
ラッキーでした

やっぱり いくつになっても
勉強は大切ですね(笑)
高橋医院