脂質異常症シリーズの最後に

これまでの話とは少し趣が異なる
脂肪毒性異所性脂肪蓄積 の
話題を提供します


過剰に増えた脂肪は 細胞にとって毒だ

というセオリーがあり

脂肪毒性・Lipotoxixity と呼ばれています

Lipotoxixityと書かれたカード

<脂肪毒性って なんだ?>

健康障害を伴う肥満状態においては

細胞内や血液中の 
過剰な中性脂肪・遊離脂肪酸

さまざまな細胞の機能異常や 
臓器障害を引き起こす

という考え方で

中性脂肪とそこから分離した遊離脂肪酸
過食や運動不足で体重が増え 
脂肪が増えると
皮下脂肪組織の貯蔵能力を超えてしまい

血中に容易にあふれ出て 
過剰な遊離脂肪酸となり


異所性脂肪について説明した図

脂肪組織以外の組織に蓄積して
細胞障害や細胞死を誘導してしまいます

こうした脂肪組織以外に蓄積して
悪さをする脂肪を
異所性脂肪と呼びます
(次回詳しく説明します)


<脂肪毒性が引き起こす障害>

膵臓のβ細胞の 
 インスリン分泌低下・β細胞量の減少

骨格筋・心筋細胞の 
 インスリン抵抗性出現

肝臓での
 インスリン抵抗性出現 肝細胞障害(脂肪性肝炎)

脂肪組織での 
 インスリン抵抗性出現 慢性炎症の出現
 炎症性サイトカイン分泌増加

血管の拡張反応の低下

中枢神経系での
 インスリン・レプチン抵抗性

といった 
臓器 細胞レベルの機能障害が起こってきます


脂肪毒性が筋肉 膵臓など全身の臓器に及ぼす悪影響をまとめた図

インスリン抵抗性
脂肪毒性で誘導される代表的な現象であることが
おわかりいただけたかと思います

インスリン抵抗性について説明した図

<脂肪毒性がおこるメカニズム>

こうした脂肪毒性が発揮される機序として

*細胞内に蓄積した脂質が 
 細胞機能を直接障害する

*臓器内での脂肪蓄積により誘導された
 慢性炎症が寄与する

といった考え方があります


@脂質の直接毒性

遊離脂肪酸や
脂肪酸から誘導されるセラミドなどが

細胞内で 
iNOS NFκB JNK IKKβ PKCといった
炎症反応やインスリンシグナル伝達に関わる分子に
働きかけたり

酸化ストレスを誘導して

細胞障害やインスリン抵抗性が生じる
と推測されています

脂肪毒性の病態についてまとめた図

また
脂肪組織はアディポカインという
ホルモンのような物質を産生して

そのなかの悪玉アディポカインと呼ばれるものは
インスリン抵抗性の誘導などに関わることを 
以前に説明しましたが

脂肪組織から漏れ出てくる遊離脂肪酸などの
脂質分子の一部は

さまざまな細胞の機能に悪影響を及ぼす
悪玉アディポカインの仲間と見做す考え方もあり

脂肪組織が誘導する悪影響についてまとめた図

ラードなどに多く含まれる
パルミチン酸やステアリン酸といった
長鎖飽和脂肪酸
ストレス応答や炎症性反応を惹起するため
まさに悪玉アディポカインと見做されています

長鎖飽和脂肪酸が誘導する悪影響についてまとめた図

@慢性炎症
 
肥満により脂肪組織で誘導される
慢性炎症は 
脂質分解を促進し 
遊離脂肪酸の血中への放出を増加させる 
と考えられています 

遊離脂肪酸の一部が細胞機能を障害する

などというアイデアは
書き手が医学生だった頃は 
聞いたこともありませんでした

ホント 医学は日進月歩で
勉強していないと 
あっという間に取り残されてしまいます(苦笑)


<脂肪毒性とインスリン抵抗性>

最後に 
脂肪毒性とインスリン抵抗性の関わりを
もう少し詳しく解説します


インスリン抵抗性とは
インスリンは分泌されていても
その標的臓器で作用が発揮できない状況のことで

要するに インスリンがうまく働けない

どうしてうまく働けないかというと

インスリンが働くには 
標的細胞の表面にある受容体に結合し
受容体から種々の分子を介して
細胞内にシグナルが伝達され核に到達し
インスリン作用を発揮するのに必要な分子の
遺伝子が発現される

というプロセスが必要ですが

この過程が
上述した脂肪毒性にともなう
*脂質の直接毒性
*慢性炎症
により障害されます

@遊離脂肪酸の影響

このプロセスに関わる
さまざまな分子の機能を修飾して
インスリンのシグナルが
うまく伝わらないようにしたり

脂肪毒性により誘導されるインスリン抵抗性の分子機序の解説図

炎症やストレス応答を惹起する分子を
活性化させたり

脂肪毒性により誘導される炎症の分子機序の解説図

することで 
インスリン抵抗性や慢性炎症を引き起こすのです

@慢性炎症の影響

糖尿病患者さんの膵臓内には
慢性炎症が見られますが

慢性炎症で誘導される
M1マクロファージという 
炎症を増悪する細胞が
インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の
機能障害をもたらすことが
明らかにされています

慢性炎症がM1マクロファージを誘導してインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能障害をもたらすことの説明図

このように

慢性炎症という病態が色々なところに絡んで
病態をさらに悪い方向へと
進展させてしまいます

慢性炎症が誘導するさまざまな悪影響をまとめた図

炎症は ケガや感染を起こしたときに
それを修復させるために起こってくる
一過性の反応ですが

なぜか一過性に収束せず 
慢性的に炎症が遷延することがあり
それがさまざまな病気の病態形成に関わることが
明らかにされつつあります

脂肪毒性やインスリン抵抗性にも
慢性炎症が深く関与しているようですが

この興味深い慢性炎症については 
いずれ稿を改めて解説します
高橋医院