能をナマでご覧になったことがない
読み手の方もおられるでしょうから

能舞台 お囃子 地謡 について解説します

正面の観客席から舞台を見ると
四隅に目付柱と呼ばれる柱が経つ 
正方形の空間・舞台があります

能舞台の全景

舞台の上には 
茅葺の屋根がかぶさり

舞台の奥には
楽器演奏を担当する囃子方が座る後座があり

その背面には
鏡板と呼ばれる 
1本の大きな老松が描かれている塀がおかれ

舞台の右端には 
地謡方が座る地謡座があります

能舞台の見取り図

まだ誰もいない開演前の舞台は

何も飾り気のない 
とてもシンプルな空間で

鏡板の老松が 
やたらに目立ちます

鏡板に描かれた老松

舞台の左側奥には 
橋掛りと呼ばれる廊下のような通路があり
(写真の橋掛りを進んだ先に舞台があります)

橋掛り

能役者は 
左端の揚幕と呼ばれる 
色のついた幕がかかる
鏡の間(控室)と舞台を隔てる
出入り口から登場して

揚幕

橋掛りを静々と  
舞台に進んでいきます

橋掛りを静々と進む能役者

能の基本となるコンセプトは

観る者に「本質」を感じてもらうために
いかに余分なものを
削ぎ落として表現するか

ということですから
まさに 
そのコンセプトに似合った
シンプルな舞台空間

お芝居やオペラやバレエの
大掛かりで派手な舞台装置を見慣れていると

このシンプルで飾り気のない
能舞台を見ただけで
なんとなく違和感を覚えるというか
荘厳な未知の世界に入っていく
期待感があります

やがて 
舞台奥右手の切戸口と呼ばれる引き戸のついた
腰をかがめないと
出入りができないような低い出入り口から

狭い切戸口

地謡方が入ってこられ 
地謡座に整列して正座され

地謡座に整列して正座する地謡方

揚幕からは
楽器を手にした囃子方が入ってこられ
後座の位置につかれ

後列に座る楽器を手にした囃子方

役者が登場するのを待ちます

能役者は シテワキ

この呼び名を聞かれたことがある方も
多いと思います


シテは主役

シテの立ち姿

能面をかけて
(面はつけるのではなくて かける 
 武田さんの講義をご参照ください)
物語のメインストーリーを語り 舞います


ワキは  
シテの語りや舞を誘導する
バイプレーヤー

舞台の隅に立つワキ

(舞台右端に立つ 
 僧侶の姿をした役者さんがワキ)

最初に登場して
物語の背景を語り
シテが登場してくると 
質問するような形式で 
シテに語らせ始めます

シテが演ずるのは 
神 鬼 亡霊  など

多くはこの世に未練をもっていて 
その思いを語り演じ舞います

ワキは旅の途中の僧侶が多い
現実の世界から 
シテが演ずる幽玄の世界を導きだします

そして 
囃子方地謡方
シテが演ずる幽玄の世界を盛り上げます

書き手が初めて能を観たとき 
いちばん印象に残ったのが

囃子方の 太鼓と小鼓

囃子方は
大鼓 小鼓 能管 太鼓からなりますが

横一列に並ぶ囃子方

なかでも大鼓と小鼓は

イヨーッ ハアー といった 
意外なほど大きな掛け声とともに
バシッ と切れ味のよい音が響いて

本当にとても印象的でした

特に 鼓をたたく音の響きが凄い

鼓をたたく人

そこに 
空間を引き裂くような鋭い笛の音色が加わると
より一層 
引き締まった雰囲気が醸し出されます

そして 囃子方が奏でる調べに 
厚みを増していくような地謡

野太い男性の声の 
ちょっとしわがれたような響きなのですが

何人もの声が重なっていくと 
妙に迫力があるのですよ

役者がいなくても 
囃子方と地謡方が奏でる世界が広がるだけで
舞台の上の空気が張りつめていくような感じがします

これは 
テレビを観ていては感じることができない
ナマで舞台を観ないと味わえない雰囲気です

繰り返しになりますが
書き手は初めてナマで能を観たとき

囃子と謡が 
とてもとても印象に残りました

役者さんの演技や舞よりも 
よほどインパクトが強かった

今でも時々 あの 
イヨーッ ハアー ピシッ という響きや
日本語なのに 
気をつけて聞かないと日本語と認識できないような
独特の節回しの地謡を

ナマで聞きたくなってしまうのですよ(笑)
高橋医院