中央区・内科・高橋医院の
健康のための栄養学に関する情報


前回 ご説明したように

胆汁酸の役割は
脂質の吸収を助けることと 
ずっと考えられてきましたが

最近は 
いくつかの受容体に結合し 
ホルモンのような働きをして

脂質代謝 糖質代謝 肥満等に影響を及ぼしている
ことが明らかにされ

胆汁酸の新たな顔が注目されています

新しもの好きのミーハーな書き手としては
是非ここで紹介しないと!(苦笑)

<胆汁酸は さまざまな受容体のリガンドである>

胆汁酸は 
さまざまな種類の核内受容体 細胞膜受容体
リガンドとして結合することが明らかになり

それらの受容体の活性化を介して
さまざまな生理活性作用を
発揮することが注目されています

また 胆汁酸の種類により
各種の受容体への親和性が異なることも
明らかにされています

胆汁酸の受容体の一覧表
特に 糖尿病 脂質異常症 肥満との関連で
注目されているのが

*核内受容体 FXR

*Gタンパク質共役受容体 TGR5

のリガンドとしての胆汁酸の働きです

<核内受容体FXRのリガンドとしての作用>

胆汁酸は
核内受容体のFXRに結合して 
種々の遺伝子の発現を制御し
細胞内で複数のシグナル伝達経路を作働させ
様々な細胞応答を惹起します

FXRは 
肝臓 小腸で高発現していて 
腎臓 副腎などにも発現しています

@脂質代謝への影響

中性脂肪の合成抑制 異化促進作用により 
 血中の中性脂肪値を低下させ

脂肪酸のβ酸化を亢進させて
 脂肪量を減らします

これらの作用により
中性脂肪値が改善するとともに 
肥満も改善します

@糖代謝への影響

*肝臓 筋肉 脂肪組織での
 インスリン抵抗性の改善

*肝臓での
 グリコーゲン合成促進 分解抑制

これらの作用により 糖代謝の改善が見られます

胆汁酸の脂質代謝 糖代謝への作用を示した図




@FGF19を介したエネルギー代謝への影響

FGF19は 
FXRにより発現が増強されるホルモン様タンパクです

胆汁酸は
FXR-FGF19の経路を介して

体重増加 炎症 などの抑制

*肝臓での 
 糖新生の抑制 脂肪酸β酸化の亢進

白色脂肪細胞の熱産生増強と 
 褐色脂肪細胞化の促進

といった作用を発揮して 
エネルギー代謝を改善
脂肪肝の改善効果も期待されています

胆汁酸のFGF19を介して発現される作用をまとめた図

<Gタンパク質共役受容体TGR5のリガンドとしての作用>

TGR5は 
肝臓や小腸だけでなく 
さまざまな組織で発現が認められ

胆汁酸がリガンドとして結合すると
さまざまな遺伝子の発現を亢進させて 
色々な作用を発揮します

@甲状腺ホルモンの活性化

甲状腺ホルモンの
活性化酵素の発現が誘導され
局所での熱産生を亢進させ 
エネルギー代謝を高めます

@エネルギー消費関連遺伝子の発現亢進

既にご紹介した

*エネルギー代謝を亢進するPGC-1α
*脱共役により熱産生を亢進するUCP-1

といった遺伝子の発現を増強させて
エネルギーを消費させるとともに

白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化も促進します

@脂質代謝への影響

中性脂肪を低下させるので

動物実験では 
脂肪肝の改善 肝内線維化の抑制が観察され
脂肪性肝炎の治療効果が期待されています

@糖代謝への影響

胆汁酸が 
腸管L細胞に存在するTGR5に結合すると
インクレチン:GLP-1の分泌が亢進します

インクレチンについては 
既にご説明しましたが

GLP-1製剤は 
糖尿病治療薬として 現在 多用されていますから
胆汁酸のTGR5結合を介した糖尿病改善効果が期待されています

@抗炎症作用

TGR5は
炎症を起こすサイトカインの産生を制御して
炎症を抑制する ので
動脈硬化への治療効果が期待されています

胆汁酸のTGR5 FXRを介して発現される作用をまとめた図

胆汁酸のTGR5を介して発現される作用をまとめた図

<FXR TGR5リガンド作用を持つ胆汁酸アナログによる治療>

このように 
胆汁酸FXR TGR5のリガンドとして機能し
脂質代謝 糖代謝 エネルギー代謝に
影響を及ぼすため

胆汁酸のTGR5 FXRを介して発現される作用をまとめた図2

FXR TGR5へのリガンド作用を有した
胆汁酸アナログによる
肥満 糖尿病 脂肪性肝炎(NASH)動脈硬化などの
病態改善効果が期待されています

胆汁酸の肥満 糖尿病への効果の期待が示された図

FXRアゴニスト TGR5アゴニストをまとめた図

実際に 胆汁酸に構造が似ている誘導体で

FXRを活性化するINT-747(オペチコール酸)という物質は
NASHの治療薬として有望視されていますし

オペチコール酸の構造図

やはり胆汁酸の合成誘導体で
TGR5を活性化するINT-777
GLP-1分泌促進作用により 
血糖値が改善すると報告されています

INT-777の作用をまとめた図


一方 
腸管内で機能が低下した古い胆汁酸を吸着して
新たな胆汁酸の合成を促す胆汁酸吸着レジン治療
肥満 糖尿病 脂質異常症などの治療に試みられ
良好な成績が得られつつあります

胆汁酸吸着レジン治療の概要を示す図



書き手が肝臓の勉強を始めたころは
胆汁酸は 
脂質の吸収を助ける単なる消化液
というイメージでしたが

今や 
多くの遺伝子の発現調節作用を有する
核内受容体やGタンパク質共役受容体といった
特殊な受容体のリガンドとして機能して
 
肥満 糖尿病 脂肪性肝炎の
病態改善に関わることが判明し

さらに胆汁酸の誘導体が
それらの疾患の治療薬として
注目されているのです

こんな展開になるなんて 
びっくりポンです!

こうした進展が見られた背景として
核内受容体 Gタンパク質共役受容体などの
基礎的な細胞分子生物学の解明が
進んだことがあります

そして 最近では
胆汁酸のような代謝産物が 
生理活性物質としての顔を持つ現象
色々な代謝産物に見られることが明らかにされ 
注目されています

例えば 腸内細菌叢の解説で登場しましたが
短鎖脂肪酸は 
その受容体のGPR41・GPR43に結合して
エネルギー消費を促進したり
インクレチンの分泌を促進したりします

短鎖脂肪酸のGPR41を介した作用をまとめた図

短鎖脂肪酸のGPR43を介した作用をまとめた図

代謝産物がリガンドとして機能し
自らの産生に関わる代謝系や 
他の代謝系に影響を及ぼす

代謝を見る視点が 大きく変わろうとしています

さらに  生体内には
リガンドが同定されていないオーファン受容体
まだまだたくさんありますから

今後も さまざまな代謝産物が 
未知の受容体のリガンドとして機能して
予想外の作用を発揮していることが
明らかになるかもしれません


代謝産物がリガンドとして機能する
というアイデアは
とても面白くて魅力的です

ましてや 
代謝産物が代謝に影響を与えるなんて
ヒトの体の制御機構は奥が深い!

この分野は 
最近どんどん興味ある研究が行われていますので
いずれ稿を改めて 
詳しく解説したいと思いますが

それにしても
書き手は 初めて胆汁酸のこの話題を読んだとき
とても興奮してしまいました(笑)
高橋医院