いよいよ 
酸素を利用してエネルギーを産生する
ミトコンドリアの
酸化的リン酸化反応の説明を始めます

<酸化的リン酸化反応は
 TCA回路 電子伝達系のふたつのパートから成る>

この反応は
前半・後半のふたつのパートからなります

前半部は TCA回路 と呼ばれ

解糖系で出来たピルビン酸を材料とした 
連続した循環反応が生じて
電子運搬体であるNADHが産生されます

そして 
そのNADHが材料となり
後半部の電子伝達系の連続反応が起こって

最終的に 
エネルギー分子のATPが産生されます

<酸化的リン酸化反応の前半部・TCA回路>

今日は 前半部のTCA回路の説明をします

@TCA回路は循環反応系である

前回ご説明した解糖系で産生されたピルビン酸は

ミトコンドリアに入り
そのマトリックスと呼ばれる内部空間で

ミトコンドリアの内部構造

ピルビン酸脱水素酵素複合体の働きにより
二酸化炭素(CO2)が除去されて 
アセチル基となり

これに補酵素のCoAが結合して
アセチルCoAという化合物に
変換されます

糖質からアセチルCoAができる過程の図示

これが
酸化的リン酸化反応の第1ステップです

アセチルCoAは 
TCA回路の循環反応系に入ります

TCA回路は
10種類の反応の連鎖からなる 
循環型のサークル反応で

まず アセチルCoAのアセチル基が
オキサロ酢酸に取り込まれてクエン酸になります

ついで

クエン酸→cisアコニット酸→イソクエン酸→αケトグルタル酸
→スクシニルCoA→コハク酸→フマル酸→リンゴ酸→オキサロ酢酸

と 連続した酵素反応が生じて

最後に オキサロ酢酸がクエン酸に変換されて

回路が1周して振出しに戻り 
再び同じ回路の反応が繰り返されます

TCA回路の詳細の図示

それぞれの反応は
イソクエン酸脱水素酵素 
αケトグルタル酸脱水素酵素などの
特異的な酵素が媒介します

@反応の過程で電子伝達体のNADHが産生される

そして TCA回路が1周する過程で

電子伝達体NADHが3分子産生されて

それらが
次の 電子伝達系 に 
材料として送り込まれます

具体的には
*イソクエン酸→αケトグルタル酸
*αケトグルタル酸→スクシニルCoA
*リンゴ酸→オキサロ酢酸
の各反応過程で
NADHが産生されます


TCA回路でNADHができる過程を示す図

@炭酸ガスも放出される

また 
クエン酸が持つアセチル基の炭素が2個
*イソクエン酸→αケトグルタル酸
*αケトグルタル酸→スクシニルCoA
の過程で除去され 
二酸化炭素(CO2)として放出されます

つまり 
クエン酸~イソクエン酸の炭素数は6個だったのが

イソクエン酸→αケトグルタル酸の反応で
二酸化炭素ができるので
αケトグルタル酸の炭素数は5個になり

αケトグルタル酸→スクシニルCoAの反応で
二酸化炭素ができるので
スクシニルCoAの炭素数は4個になります

以後 オキサロ酢酸までずっと炭素数は4個で

オキサロ酢酸に
炭素を2個含むアセチルCoAのアセチル基が加わり
炭素数6個のクエン酸になり 
再び回路が回るわけです


TCA回路における炭素数の変化を示す図

このように
炭素を6個持つアセチルCoAのアセチル基が
連続した酵素反応で修飾されてゆき

その過程で
2分子の二酸化炭素が放出され
化合物の炭素数が減り4個となり

同時にNADHが3分子産生され

最後に再び
アセチルCoAのアセチル基が加わり
振りだしに戻る

これが TCA回路です

ねっ 何が何だか 
よくわからないでしょう?(苦笑)


書き手は医学生の頃 
生化学は好きな科目でしたが
このTCA回路は苦手でした

ところが 糖尿病専門医さんは
医学生の頃
上記のTCA回路の反応中間物を 
教科書を見ずに 
全部スラスラと順番に言えたそうです!

えっ!!

世の中には 
奇特な方がおられるものです?(笑)

でも 
栄養素からエネルギーができるプロセスで
どうして電子がどうのこうの 
という話になるわけ?

と 首をひねられている方が多いと思います

そこで次回は 
そうした疑問を整理します

3大栄養素がアセチルCoAを経てTCA回路で代謝されるプロセスを示す図


最後にもうひとつ

これまで説明してきたように
 
TCA回路は
エネルギーを産生する酸化的リン酸化反応の
前半部として機能しますが

もうひとつ重要な働きがあります

@TCA回路は
 三大栄養素の代謝をリンクさせる回路である

それは 
三大栄養素と呼ばれる 糖質 脂質 アミノ酸

それぞれの分解と生合成が
この循環型サークル反応を経て行われることで

TCA回路は 
いわば三大栄養素の代謝をリンクさせる回路
でもあるのです

この点については 
また稿を改めて説明します
高橋医院