抗生物質が発見されたことにより
人類にとっての脅威だった多くの細菌感染症を
治療することができるようになりましたが

一方で 
抗生物質を使うことで
困った問題も出てきました

<体内の常在細菌叢が乱される>

まず 抗生物質により 
体内の常在細菌叢が乱されることが問題です

抗生物質は
病原性を示していない細菌にも
作用する可能性があるため

多量に使用すると
体内の常在菌にも作用して
減少させてしまう場合があります

常在菌は 
体内で健康維持に関わるさまざまな働きをしているので
抗生物質により常在菌が減少すると
そうした機能が失われてしまう可能性があります

さまざまな常在菌

また 常在菌の減少により
それまでは常在菌により抑制されていた
他の細菌や真菌(カビ)などが
爆発的に繁殖して病原性を示す場合もでてきます

最近注目されている腸内細菌叢のバランスが
抗生物質により乱れ
さまざまな病気の病態に影響を及ぼすリスクも
指摘されています

抗生剤が腸内細菌叢のバランスを乱すリスクを説明した図


<薬剤耐性菌の出現>

抗生物質の使用で
いちばん問題になってくるのが

抗生物質が効かない
「薬剤耐性菌」が
出現し増殖してくることです

薬剤耐性菌の出現を示す図

薬剤耐性菌とは
抗生物質の働きに抵抗性を示す性質を
持つようになった細菌で

多くの場合は
抗生物質を分解したり
化学的に修飾する酵素を作り出して

それによって抗生物質を不活性化することで
その作用から逃れます

つまり 抗生物質が効かなくなってしまう

例えば
一般的なペニシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSAを除くもの)は
ペニシリナーゼやβラクタマーゼを産生するようになり

それらはペニシリンを分解するので
ペニシリンに対する薬剤耐性を
示すようになります

βラクタマーゼ産生によるペニシリン耐性の獲得を説明する図


@細菌が薬剤耐性を獲得する機序としては

*他の病原体が有する耐性が
 何らかの形で細菌に取り込まれる場合

*細菌が独自に耐性を獲得する場合

があります


他の病原体が有する耐性が
何らかの形で細菌に取り込まれる場合は

耐性を担う薬剤耐性遺伝子
プラスミドという遺伝子のキャリアーのような物質により
他の細菌に運ばれ

プラスミドが細菌の細胞質に存在し
この遺伝子が作るタンパク質が
抗生物質の働きを阻害します



このように
ある細菌が獲得した薬剤耐性が
同種または異種の細菌に伝達されることは
細菌の世界では
かなり頻繁に見られる現象のようです


一方 
細菌が独自に薬剤耐性を獲得する場合は

ある薬剤に感受性があった細菌が
遺伝子の突然変異などを起こして
薬剤耐性を獲得するに至ります

そして 耐性は
薬剤耐性遺伝子によって担われ遺伝します

このような遺伝子の突然変異は
世の中で常に一定の確率で起こっており
薬剤が存在しなくても起こり得ることです 

しかし 多くの場合
遺伝子変異を起こして薬剤耐性を得た細菌は
遺伝子変異を起こしていない細菌より弱いので
放っておけば自然に淘汰されて
世の中から消えてなくなります

ですから
たとえ薬剤耐性菌が出現しても
何もしなければそれが増殖することもないし
恐れる必要もありません

しかし
本来は弱くて増殖しないはずの薬剤耐性菌が
増えてきてしまい

ヒトの健康にとって大きな問題を生じさせることが
起こり得ます

そうした困った状況は
抗生物質の乱用により起こってしまうのです

次回は
なぜ抗生物質を使いすぎると
薬剤耐性菌が幅を利かすようになるのか
詳しく説明します


高橋医院