運動により
骨格筋にPGC-1αという物質が増加すると
筋肉が賢くなって
肥満や糖尿病が改善することを説明してきました

ということは
PGC-1αを増加する薬があれば
それを飲むと
運動しなくても運動したのと
同じ効果が得られるかもしれません

こうした作用を有する薬は
「運動模倣薬」
と呼ばれています

運動嫌いな方 ものぐさな方が
大喜びしそうな薬ですが

世の中にはそうした方ばかりではなく
心臓や骨や関節が悪くて
運動したくてもできない方もおられます

ものぐさな方には
薬に飛びつかず地道に運動されることをお勧めしますが

運動したくてもできない方には
運動模倣薬は夢のような薬です


現在 運動模倣薬の有力な候補と見做されているのが
アディポネクチンに関連する物質

この研究は
東大の糖尿病内科チームにより精力的に行われています

アディポネクチン
脂肪細胞が分泌するホルモン類似物質
アディポカインの代表例で

もともと
*インスリン感受性を改善する
*抗糖尿病効果がある
*脂肪を燃焼させて脂質異常症を改善する
*抗動脈硬化作用がある
*抗炎症性作用がある
といった性質から

アデイポネクチンの多彩な作用


「善玉アディポカイン」と呼ばれている物質です

このアディポネクチンが 前回説明した
骨格筋を賢くするPGC-1αの発現に深く関わっていることが
明らかにされてきました

アディポネクチンは
アディポネクチン受容体R1を介して
前回説明した PGC-1αの発現を誘導し活性化する経路
*細胞内のCa2+増加によるCaMK活性化
*細胞内AMP濃度の増加によるAMPK活性化
を ともに促進して

その結果として
PGC-1αの発現・活性化が促進します


また 細胞内のNAD+/NADH比を増加させ
長寿遺伝子SIRT1を活性化し

その結果として
PGC-1αを脱アセチル化して活性化を促進します

アデイポネクチンによるPGC-1α活性化の機序の解説図

こうした種々の経路により
PGC-1αが量的にも質的にも高まり 

*ミトコンドリアの活性と量の改善
*骨格筋の遅筋化

が生じて 肥満や糖尿病の改善を誘導します

まさに運動により得られる状況が
アディポネクチンにより得られるのです


そこで 東大のグループは
アディポネクチンの受容体を刺激する物質の合成を試み
AdipoRonという物質を作製しました

このAdipoRonをマウスに投与すると
骨格筋では

*ミトコンドリア量が増加する
*インスリン抵抗性が改善する
*筋の持続力低下が改善する
*脂肪酸の燃焼が促進する
*酸化ストレスが減る

といった
アディポネクチンにより得られるのと
同じ効果が認められました

AdipoRonが示すアデイポネクチン類似作用

さらに
実験的な糖尿病マウスにAdipoRonを投与すると

体重は減らないものの
インスリン抵抗性か改善して
寿命が延びることも
明らかにされました

下図・左下の折れ線グラフ(c)の青線は
高脂肪食で糖尿病を誘導したマウスに
AdipoRonを投与すると
投与しない場合と比べて寿命が延びることを
示しています

adipolonによる寿命延長効果

このように
人工的に合成したアディポネクチン受容体の刺激物質

PGC-1αを増加させ
糖尿病や肥満の病態を改善する

まさに「運動模倣薬」として
機能する可能性が示され注目されています

近い将来 運動しなくても
飲めば運動したことと同じ効果が得られる薬が
実用化されるかもしれません

でも その際の
治療薬として薬を飲むことができる対象は

「諸般の事情により 運動ができないヒト」に限られて

ものぐさで運動しないヒトは
対象外になるかもしれません

やはり 大切なのは 地道な努力でしょう!


ということで
サルコペニアの話題から始まり

骨格筋と糖尿病・生活習慣病との関わり
運動で骨格筋が増すことの分子・遺伝子レベルでの意義

などについて説明してきました

筋肉が 単に運動に関わるだけでなく
さまざまな有益な代謝調節作用を有していることを
垣間見ていただくことができたと思います

書き手も色々と勉強して
筋肉に対するイメージが変わりました

頭でっかちにならないように
毎日筋トレしようと思います

読み手の皆さんも 頑張りましょう!
高橋医院