去年11月に起きたパリのテロは 
書き手にとってはかなり衝撃的だったので

お正月休みに
ISやイスラムに関する新書や雑誌を何冊か読みました

そのなかで印象に残ったのは
イスラム過激派が
西洋社会にテロを仕掛けている状況の元凶は
実は西洋にあるのではないか?
という論調でした

Wedgeという雑誌で
京大名誉教授の佐伯啓思さんは
「文明と文化の摩擦」という
とても興味をひく言葉を用い

現在の状況は 
西洋とイスラムの「文明の衝突」ではなく

西洋文明が生み出した「文明」が
グローバル化を試みるさなかで
西洋的な価値観が
各地で個別的な文化や慣行や宗教と
摩擦を起こしているのではないか

まさに「文明と文化の摩擦」が
起こっているのである

と説かれています

雑誌Wedge

ここで佐伯さんが言われる
西洋的価値観とは

*世俗的生活と信仰生活を分離し

*表現の自由を核にした個人的自由を尊重し

*平等な基本的権利 民主的な政治を尊び

*合理的科学的な精神で世界を解析しようと試み

*経済は市場競争原理により発展させるべきであるとする

こうした考え方を普遍的価値観と見做し
それらにより構成される「文明」を実現しようと 
世界に臨むスタンスです

そして この西洋的価値観にとって
イスラム世界は「教化」すべき対象であり
イスラム世界に自らが信じる民主主義や市場競争原理が
導入されるべきだと考える

これこそまさに 西洋文明のグローバリズム ですね

民主主義と資本主義の対立


しかしイスラム世界にとっては 
そうした意識こそが西洋の横暴であり
アラーへの絶対的帰依を説くイスラムの方が正しく
西洋文明の世界こそが堕落したものととらえる

今日のイスラム世界の人々の多くは
そうした状況を理解し踏まえたうえで
西洋との共存を望んでいるけれど

*一方では
 西洋文明の生活に憧憬を持つ人もおり

*他方では
 西洋文明の押し付けにより
 自らの文化の根底を脅かされると
 危機感を持つ人も増えている

そして後者の人たちから
イスラム原理・文化への過度の回帰を志し
西洋文明を敵視して
テロに走るグループが現れてくる

資本主義に反対するイスラム主義者たちのデモ

まさに「文明と文化の摩擦」が起こっているのが 
今の世界である ととらえるわけです

ここで著者は
しかし 西洋文明は既に臨界点に達している
と俯瞰します

*グローバル金融資本主義は経済を不安定にし

*民主政治はポピュリズムにあおられ

*SNSなどにより独り歩きする表現の自由は 
 異質なものへの攻撃や誹謗を生み出している

そんな文明の限界を自覚し
その制御を模索しないことには
「文明と文化の摩擦」の根本的な解決は
望めないだろう

と 筆者は結論します

文化こそが大切にすべきもので
文明は利便性のみを追求した手段に過ぎない

といった考え方には
書き手も若い頃に
とても薫陶を受けたことがありますし

“グローバリズム”には
抵抗感を感じることも少なくないので

この論文で示された
「文明と文化の摩擦」という視点で
今の西洋とイスラムのぎくしゃくした関係を説明する論旨は
なかなか興味深いと思いました


一方で
自らの文化への過度のこだわりや
教条主義への回帰にも 
違和感を持たざるを得ません

キリスト教の宗教改革が資本主義を産み
フランス革命から始まった市民革命が
民主主義や個人主義を産み
その延長線上に
西洋グローバリズムが存在するのなら

イスラムでは
宗教改革や市民革命は起こらなかったのだろうか?
起こっても うまく成就しなかったのだろうか?

そんな疑問が湧いてきます

どうなのでしょう?

イスラム教徒のメッカ巡礼の様子

また
イスラムに感じる
硬直性というか融通のなさこそが

かつてイスラム文化の後塵を拝していた西洋が
度量広くイスラム文化のエッセンスを吸収したようには

イスラム世界が 西洋のグローバリズム攻勢に対して
うまく対処できていない状況の原因かな?

と 最近は考えるようになりました

それにしても 佐伯さんが指摘された
西洋文明の行き詰まり

確かにそうした面はあるのだろうと
書き手も感じますが

では 西洋文明の行き詰まりの制御は
どのようにすればいいのだろう?

とも 思案を巡らせます

最近は「ポスト資本主義社会」とか
「民主主義は正しいのか」
といった文言がタイトルにちりばめられた書籍を
書店で見る機会も増えてきました

既にそれらの数冊は購入して
本棚に寝かせてあるので
そろそろ真剣に読んでみようかな

それにしても うーん、、、、

そんな難しいこと
素面では考えられないなと

ついついお正月休みに
お昼からお酒を飲む口実を作った
やっぱり左利きの書き手なのでした(苦笑)

天遊琳の一升瓶

お正月は やっぱり日本酒!

三重の天遊琳 大好きですが

どこかの雑誌に載って以来
入手困難になってしまいました、、、


高橋医院