お正月に読んだ本や記事には 
こんな興味深いものもありました

ドイツ在住の川口マーン恵美さんは
「ヨーロッパから民主主義が消える」という著書で
(著者のヨーロッパ紀行文はよく読みますが 
 硬派本は初めてで面白かった!)

ヨーロッパから民主主義が消える の文庫本の表紙

これだけの数の難民が
ヨーロッパに押し寄せている現状と
フランスなどで吹き荒れているテロの嵐を 
結び付けて説明する考え方として

ヨーロッパ論壇で大きな影響力を持つ
スロベニアの哲学者
スラヴォイ・ジジェクさんの論を紹介しています

ジジェクさんは 
以下のようなことを語られています
ちょっと長いけれど引用します

現在EUを危機に陥れている難民問題の原因は 
西洋のグローバリズムで

難民を排出する破綻国家を助け 
難民が出なくするようにするためには
西側資本が 
それらの国家の破綻を導いた原因である
搾取をやめれば済む

第一次大戦後に
ヨーロッパが勝手に中東の国々の国境を設定したうえに
金科玉条の民主主義の教えを垂らそうとしたが失敗し

その一方で 
一部の指導層と結託して経済的利益は吸い上げ
その過程で国内の経済的格差をつくりあげ
結果として破綻に至ったアラブの国々
(アフリカの国々も同様)

そのアラブやアフリカの国々から
今や難民が
ヨーロッパにせきを切って押し寄せているのは
ヨーロッパ列強国の
身から出た錆としか言いようがない

スラヴォイ・ジジェク

なるほどねえ、、、

西洋の自分勝手ともいえるグローバリズムが 
テロの原因になっている

という論調は 
前回ご紹介した「文明と文化の摩擦」と似ていますが

経済の視点から 
破綻国家の国内の経済的格差に注目し
それを難民やテロが生じる土壌の要因のひとつと
考えているのが面白い

経済的格差とテロの関連は 
別の雑誌のコラムでも論じられていました

貧富の差を喚起する標識

フランスの代表的なイスラム研究者のロワさんは

テロに大きな影響を与えるのは
社会に対する不満分子の数と 
その時代における過激思想の盛り上がりで
現在は 
社会への不満解消の道具にイスラムがうまく利用されている
と指摘されているそうです

また 去年の今頃 日本でも大人気だった
「21世紀の資本」のピケティさんは

ISはイスラム教から生まれたものではなく
中東の国々における経済格差の大きさから生じている

グローバリズムによりアラブの国々に
格差という普遍的な経済問題がより顕著にもたらされたため
底辺の方に位置する人々が 
その不満を解消するためにテロを引き起こしやすい

テロというと
イスラム原理主義やその過激思想に原因を求めがちだが
時代や宗教を越えどの社会にも内在する
普遍的問題である経済的格差に
もっと注目すべきだ
と指摘されているとか

ピケテイ

このように多方面から指摘されている
経済的格差の問題

ヨーロッパの国々の移民家庭で
生まれ育った若者が
移民に対する社会的差別や経済的格差の現実にあえぎ
やがてイスラム過激思想に感化され
テロを起こしてしまうという

「ホームグロウンテロリスト」の形成にも
関与する問題かもしれません

うーん こんなことは考えたこともありませんでした

そういえば ヨーロッパ各国で
難民の増加に呼応して活発化している右翼政党の運動の底辺にも
こうした経済格差問題が影響しているようです

つい最近まで読売新聞パリ支局長をされていた
三井美奈さんが書かれた
「イスラム化するヨーロッパ」という本には

ホームグロウンテロリストが輩出する背景の
詳しい取材内容が書かれていて
とても興味深く読みましたが

イスラム化するヨーロッパ の文庫本の表紙

そのなかで
フランスで躍進著しい
反移民政策を訴える「国民戦線」の支持者は
失業者や年金生活者が多い
と記されていました

また いつか見たテレビ番組のインタビューで
ドイツの一般市民が 
メルケルさんの移民優遇政策を評価して
「彼女は 同じような配慮を
 経済格差に悩むドイツ国民にも向けるべきだ」
と語っていたことも思い出しました

メルケルさん
大晦日に移民を含む人達が
集団で婦女暴行した問題もあって
自らの移民政策への逆風が吹いて大変なようですね

うーん やはり“先立つもの”は
宗教や思想を越えるのでしょうか

そしてグローバル金融資本主義は
多方面に悪影響を及ぼしているのかな


でも だったら どうすればいいの?

またしてもお昼からお酒を飲みながら
考える書き手なのでした

オチが前回と同じで恐縮ですが
でも飲んだお酒は違います(苦笑)

神亀の一升瓶

埼玉の神亀の純米

これ 無ろ過の生酒だから
コクがあって美味しいのですよ!


高橋医院